幸せな一日


そしてロイは、とある広大な丘に到着した。

「……着いた!」

「ここなのか?」

「うん!ロイ兄ちゃんも来て!」

「わ わかったよ……」


トゥーンに急かされて、ロイは竜化を解き人間の姿に戻った。

胸元に光る紺碧の玉のペンダントは、マスターハンドがロイの為に作ったもの。

これにはロイの氷竜の力全てが封じられており、これのおかげでロイは自由自在に姿を変えることが出来るのだ。


「こっち!」

走って先を急ぐネス達の後を、ロイも必死に追いかける。


小高い丘を登ると、そこには目を疑うような光景が広がっていた。


辺り一面に広がる花壇、そしてそこに咲く色とりどりの花。

そして目の前には共に暮らす仲間達の姿。

「ロイーーー!!」

「おせーぞ!」

ロイの姿を見るなり、飛んだり跳ねたりと大騒ぎだ。


「こ……これは……?」


いまいち状況を飲み込めないロイの足元に駆け寄るのは、ピカチュウの弟ピチュー。

「あのね、ロイにーちゃんなんだかきょう、げんきなかったでしょ?
だからね、なんでかな~ってずっとかんがえてたの!
そしたらね、さっきネスとトゥーンがおもいだしたの!『今日がロイ兄ちゃんの誕生日』だって!」

「それですぐロイ兄ちゃん探したけど、もう出かけちゃった後だったんだよね」

「そしたらね、マルスにーちゃんがおべんとうつくっててね、ロイにーちゃんとどこかにピクニックいこうっておもってたんだって」

「えっと、マルス兄ちゃんとアイク兄ちゃんその他数名はロイ兄ちゃんの誕生日覚えてたからさ。誕生日祝いにピクニックしようと思ってたんだって。そしたらせっかくだしみんなを集めて盛大にやろう、ってことになったんだよ」

「そんでみんなは必死に準備して先回りして、おいら達がロイ兄ちゃんを連れてきたってわけ!」

ピチューの言葉を補足するようにネスとトゥーンがそう説明すると、二人は

「大成功だねー」

「ねー」

と、顔を合わせニコニコした。


「で でもここは……?」

この世界に来て随分経つが、こんな綺麗な花畑は見たことがない。

「ここはね、私達がこの世界に来たばかりの頃に、私とゼルダとプリンで作った花畑なの」

そう答えたのはピーチだった。


友愛、信頼、共同を誓うために、彼女達が長い時間と労力をかけて作り上げた花壇、愛情を込めて咲かせた花々。

誰に見せるために作った訳でもなく、趣味で始めたものだったが、こうして誰かの役に立てることが出来てピーチ達も嬉しかった。


「ロイ、こっちにおいで」


ふと、マルスに連れられてやって来たのは、青や白のバラが咲き乱れるバラ園。


「……バラの花?」

「きれーーっ!」

ナナもその凄さに目を輝かせる。

バラの花は育てるのが難しいと聞くが、このバラ園は見事に美しい花を咲かせていた。


マルスはその中の赤いバラを一つちぎり、それをロイに手渡した。

「6月1日の誕生花なんだ。花言葉は『情熱』、『我が心君のみが知る』」


「……誕生花は固定されてなくて、本によって色々異なるんだけど……
でも、深紅のバラは君にピッタリだと思って……」

そう答えたのはルイージ。
様々な知識に長けているルイージは当然のように誕生花にも詳しく、誕生花や花言葉をマルスに教えたのだった。

ルイージの後ろで、ゼルダも嬉しそうに微笑む。

「ちょうど咲かせることができてよかったです!」

「……情熱の赤……」

まさに自分の為にあるかのような花だ。
ロイは何だか恥ずかしくなった。


「……突然だったから大したプレゼントも用意できないし、豪華に祝ってあげることなんかできないけど……」

「でもみんな、祝う気持ちだけでも伝えたいって、こうして集まってくれたんだよ」

「……ってか、誕生日忘れててごめんな……」


ロイはふるふると首を横に振る。

やがて、ロイの持つバラの花びらに涙がこぼれ落ちた。


「……みんな……ありがとう……」


ロイの中に、何だか熱い気持ちが込み上げてくる。

「誕生日だって気づいてもらえなかったくらいで落ち込んで……みんな心配させて……俺……バカみたいだ……」

「……そんなことないよ。
誕生日は自分にとって最も大切な日だからね」

「そうそう、マルスの言う通りだよ!」


「……しかし、ロイの故郷の者達まで何の連絡もないとは……」


「…………」

アイクの言葉に、ロイは少し寂しそうに俯く。



その時……


「ロイごめーん!」

バカに甲高い声で、こっちに向かってくる大きな右手​──『マスターハンド』が見えた。


「マスター?どうしたの……?」

「君に届いた荷物、渡すのすっかり忘れてた!」

「へ?」


そう言ってマスターが渡したのは、一辺100cmはあろうかという大きな段ボール箱。

中には手紙や小包が沢山入っている。


「3日くらい前から届いてたんだけどね、どうせなら当日まとめて渡した方がいいだろうって思って溜めてたんだ。
でも渡すの忘れちゃって……」

「アホーーーーーッ!!」

マスターにみんなからのツッコミ(という名の攻撃)が入る。

「痛い痛い!ごめんってば!」


その後ろで、ロイは自分に届いたプレゼントを一つ一つ見ていた。

故郷のフェレだけではなく、大陸中のあちこちで出会った仲間達からの、心温まる贈り物。


やがてロイは呆れたように笑うと、恥ずかしそうに頭をかいた。

「……たく……マスターってばホントバカなんだから……」

「……ロイ……」

「ふふっ……あはははっ」


ロイが笑ったのを見て、ピチューは嬉しそうにぴょんぴょん跳び跳ねる。


「ロイにーちゃんがわらったー!」

「ああ、いつものロイだな」


ロイに続くように、周りの皆にも笑顔が広がる。


「ったく、マスターのせいでロイ落ち込んでたんだからな」

「……すいません……」


「よーし!今日は盛り上がるぞー!」

「ワッハハハハ!俺様が自慢の歌を聴かせてやるぜえぇ!」

「ボクもー!」

「げっ……ワリオ!?カービィ!?」

「やめろ花が枯れる!」

「それよりお弁当食べましょ!」

「わーい!」



美しい花々に囲まれ、良き香りが辺りに広がる。

良き仲間達に囲まれ、笑顔が広がる。


俺、ここに来て良かった……

みんなと出会えて良かった……



ロイは今、とても幸せだった。

今までに無いくらい、幸せだった。
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