SHORT

思い出の本


「あの、ルイージさん……すみません」

「……リュカ? どうしたの……?」

「えっと……ちょっと聞きたいことがあって……
ルイージさん、『あらしのよるに』っていう本……知ってますか?」

「『あらしのよるに』……?
……知ってるよ。ヤギのメイと狼のガブの話だよね……?」

「そう! それです!
僕にとって思い出の本で、シリーズは全部読んだと思ったんですけど……そうじゃなかったらしくて」

「……どこまで読んだの?」

「確か、『ふぶきのあした』だったと思います。
森を目指して歩いてた2匹が、吹雪の中で行方不明になって……」

「……それだったら、あと一話ある。
『まんげつのよるに』っていう続きが……」

「! やっぱりあるんですか!?」

「うん。 聞きたい……?」

「はい!」



ーーーーーーーーーーー



「……それで、2人が満月を見るところで物語は終わるんだ」

「そうだったんだ……
良かったぁ、ハッピーエンドで!
僕が読んだので終わりだと思ってたから、安心しちゃいました!」

「……そういえばさっき、リュカにとって思い出の本だって言ってたよね……」

「あ……はい。
小さい頃、兄のクラウスと一緒に読んだんです。
何回も、ボロボロになるまで……」

「……そっか、リュカも双子の弟だったね……僕と同じ」

「はい。たまに、クラウスがガブ、僕がメイになりきって遊んだりして……
凄く楽しかったから……」

「そっか……
……ちょっと待ってて」

「?」

「……確かこの辺に……
……あ、あった……

……はい、これ……
シリーズの全作品がまとめられた本だよ」

「わあぁ!懐かしい……!
しかも新品みたいに凄くキレイ!」

「……本は大体、傷も汚れも付かないようにキレイに扱ってあるから……
……それ、リュカにあげる」

「えぇ!? で でも……」

「いいんだ。本はただ置いとくだけじゃ意味がない……
リュカみたいに……作品を愛してくれる人の手元にあった方が……本も嬉しいと思うから」

「あ……ありがとうございます!
僕、ずっと大事にしますから!」

「うん」

「……はぁ~……でも良かった」

「?」

「ルイージさん、無口で少し近寄りがたいから……なかなか聞く勇気が出なくって。
話しかけるな、って怒られたらどうしよう……って」

「怒ったりはしないよ……
……っていうかリュカ、まだ僕にそんなイメージ持ってたの……?
みんなは『親しみやすくなった』、って言ってくれるのに」

「あう……すみません……」

「今だって、リュカと本の話が出来て……
凄く嬉しいんだよ?」

「ほ 本当ですか?」

「ここには本を好きな人が少ないから……あんまり凝った話が出来ないんだ。
だからリュカに本の相談をされて嬉しかった。
……『あらしのよるに』は、僕も好きな作品だからね」

「そ そうなんですか……」

「うん。だから、本のことなら気兼ねなく話してくれていいんだからね?」

「は はい!ありがとうございます!」

「……またいつか、一緒に本の話しようね」

「はい!楽しみにしてます!」
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