チーム戦


それは、ファイター達がこの屋敷にやって来たばかりの頃のこと……

まだお互いの名前すらも完全に覚えておらず、文化の違いに戸惑っていた頃のことだった。


「……こっちには何があるのかな……」


……ある日、屋敷内を探索していたロイは、後の師であり友となる、ある人物と出会った。


それは廊下での、ほんの一瞬の出来事だった。


「……なるほど、こっちには大浴場もあるのか……設備は完璧だな……
…………ん?」


……ふと、ロイは前から誰かが歩いてくるのに気づいた。

雰囲気からして、普通のファイターとはどこか違う。


その人物とすれ違った瞬間、ロイは不思議な感覚にとらわれた。


「(……何だろう、あの人が通っただけで空気が変わるような……
それに、凄く気品が漂ってる……ただ者じゃない……)」


思わずロイは後ろを振り返った。

すると向こうも立ち止まり、マントをなびかせて振り返る。

「あ……」

何故かロイは顔が赤くなった。

蒼髪の青年はそんなロイに優しく微笑みかけると、そのまま去っていった。


「…………」

ロイは暫くその場を動けなかった。

近付くことすら躊躇わせるような高貴な雰囲気を漂わせ、それでいて見る者を惹き付ける……

彼は一体、誰なのだろう……





再び彼を見る機会はすぐに訪れた。

それは乱闘施設の試験的実戦のために、あるファイターが二人、戦場で戦うことになった時だった。


乱闘部屋に設置されたモニターの前に、ファイター達が何人も群がっている。

気になったロイも、その輪の中に入り込んだ。


「……何してるんですか?」

「ああ、乱闘の実戦だってさ」

「乱闘……?実戦……?」

「ほら、見てみろよ!」

「……あ……」


モニターに映っていたのは、青い服にヘルメットを被った筋肉質の男性と……
……いつか見かけた、蒼髪の青年。


その青年は立ち振る舞いも戦い方も、見事なものだった。

蝶のように舞い蜂のように刺す……まさしくそんな言葉がピッタリ似合う動きだった。


「す……すごい……」

ロイはその青年の戦い方に惹き込まれた。

無駄がなく鮮やかな戦いに、憧れすら覚えた。


「あ、あの……
あそこで戦ってる人は、誰なんですか?」

ロイは近くにいたマリオに訊いてみた。


「ん? ああ……
あのマッチョの方がキャプテン・ファルコン。
で、あの若い剣士は確か、マルス……って言ってたかな」

「マルス……さん……」

「全然知らない国の出身だから……詳しいことはよく知らないけどな。
でも、あの強さは本物だ。
普段はおとなしそうなイメージなんだけどなぁ」

「……そうなんですか……」


そうしているうちに、模擬実戦はマルスの勝利に終わった。


「(……凄い……
俺も……あんな風になりたい……)」


その一戦を見てから、マルスはロイの憧れの存在になった。








そして数日後……


他の仲間達と慣れ親しむため、乱闘の面白さを知るため、ファイター達はマスターの提案で、みんなでペアを組んで乱闘をしよう……ということになった。


「ガノンドロフはくだらねーから参加しないってよ」

「ごめんなさい、ナナが参加したくないって言うから僕たちもパスです!」

ガノンドロフ、アイスクライマーが参加を辞退する旨をマスターに伝えると、それに続くように……

「ルイージとプリンもやりたくないってさ」

「……あ、あとドクターマリオさんも研究で乱闘どころじゃないって」

追加で3人のファイターが辞退した。


「そっかぁー……せっかくだから参加してほしかったけど、無理は言えないもんなぁ」

戦いが苦手、嫌い、興味無い人でも楽しんでもらえるように工夫しなきゃダメかなぁ、とマスターはブツブツ呟く。


「……てことは、5組辞退で残り20人、ペアを組んだら10組……
あ、ちょうどピッタリだね☆」

「組分けは我々に決めさせてもらおう」


誰とペアになるかはマスターとクレイジーに委ねられた。

もっとも、この時はまだお互いをよく知らなかったため、誰と組むことになっても良かったのだが……



「じゃあ4組目はマリオとフォックス!」 

「よろしくな」

「ああ!」

マスターに指名され、次々とペアが決まっていく。

「(俺は誰とペアになるのかな……)」


ロイはドキドキしながら、自分の名前が呼ばれるのを待っていた。


「それじゃあ第8組目は~~……
マルスとロイ! 頑張ってね☆」

「!」

思わずロイはマルスのいる方を振り向いた。

それに気づいたマルスが、ロイと視線を合わせて笑いかける。

「……よろしくね」


「……最後はピカチュウとリンク!
それじゃあこれから一日猶予をあげるから、パートナーと親交を深めるなり作戦を立てるなりしてね☆」



発表があってから、ロイはどうにも落ち着かなくなってしまった。


「(あわわ……もう緊張してきた……)」


初めての乱闘に加え憧れのマルスと一緒だなんて、前日からドキドキが止まらない。

ひたすら深呼吸をして気持ちを落ち着けていた時……
ロイは急に後ろから話しかけられた。


「……ロイ君」

「うひゃい!?」

思わず飛び上がって変な声が出てしまった。

振り返ると、そこにいたのはあのマルスだった。


「マ……マルス……さん!?」

せっかく少しは落ち着いた心臓がまた跳ね上がってしまった。

「チーム一緒だね。明日は頑張ろうね」

「は……はい!
あ……あの……俺は未熟なのでマルスさんの足を引っ張ってしまうかもしれませんが……」

「大丈夫、一生懸命やればいいよ」


そう微笑むマルスの姿は、ロイにはとても眩しく見えた。


「……それにしても、その出で立ち……その剣……
どうも君はただの剣士ではないようだけど?」

「え……あ、はい、エレブ大陸の……リキア地方から来ました。
父はその中で一部の領地を有する領主です。
フェレ侯爵の息子だと言えば、大陸の者なら皆わかるのですが……」

「そうか……貴族の生まれか……
残念だけど僕はその大陸は知らない。
随分遠く離れた地から来たんだね」


ロイが貴族の息子だと聞いてもマルスは動じない。

やはり彼も、ただの剣士ではない……とロイは確信した。


「……けれどその剣にはめ込まれたそれは……『ファイアーエムブレム』……だよね?」

「! どうしてそれを……」

「ファイアーエムブレムと呼ばれるものは一つじゃない……幾つも存在する。
姿形は違えど、それぞれの世界で大切に守られてきた秘宝だ。
……僕の世界では、ファイアーエムブレムは紋章の盾と呼ばれた覇者の証だった……」

「あの……あなたは一体……」 

「……僕はアカネイア大陸に位置する……アリティア王国の王子。
まだ建国されて100年ほどしか経ってない、歴史の浅い国だけど……」

それを聞いて、ロイは冷や汗が垂れてくるのを感じた。


「お……王子……王族……!?」

「うん」

「あ……あわわ……
こ こんな田舎生まれの田舎育ちの田舎貴族の俺なんかが……王族の方とチーム戦だなんて……そんな……世界が違いすぎて……はわわわ……」

「この世界では王族とか貴族とか、そんなの関係ないよ。
だからそんな固くならないで、普通に接してくれて構わないからね。
僕もその方が嬉しいから……」

「は は はい!」


とはいえ、やはりどうしても緊張してしまう。

マルスが王子だと聞いてから、ドキドキは更に大きくなってしまった。
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