波乱万丈

NO SIDE

栂芽とがめヒスイ。プロファイターを輩出している栂芽の一族の一員にして、栂芽の現当主。
象牙色の髪と翡翠色の瞳を持つ端正な顔立ちと、勝利の未来をなぞるような戦略を称え「雷導の軍師」と呼ばれている。

微笑みを崩さずにそこに佇むヒスイ。彼の目の前には、自分へ憎しみを向ける2人の少年。1人は生き別れとなった弟であり、本来なら「栂芽ヒイロ」となる筈だった少年馬酔木あせびヒイロ。もう1人はヒイロを護るように右手を前に出してヒスイを威嚇する少年・春秋ひととせギンジだ。

「2人共、そんなに睨まないでくれ。俺にだって感情はあるんだよ?」

「栂芽の現当主様が何の用だよ。お忙しい中御苦労なこった!」

「君は確かヒイロの友人の…春秋ギンジ君、だよね?俺の弟と仲良くしてくれてありがとう」

「1ミリも思ってねぇ癖に、白々しいんだよッ」

「……何の用だよ、クソ兄貴」

「…帰ろう、ヒイロ。やっとあの家を変えられたんだ。もうお前達が傷つくことなんてない。だから―」

「巫山戯んな。クソ下水の家なんかに帰るつもりはねぇよ」

親の仇を見るように睨むヒイロ。端から見たら異様な光景であり、この光景を見た者は誰も「兄弟の再会」だとは思えないだろう。

「……弟が辛い目に遭っていたのに、俺は何も出来なかった。人知れず助けても、何時の間にか親に知られてもっと酷い目に遭わされた。本当に、本当に……無力な自分が嫌で嫌で仕方なかった」

「………………」

「だから俺は、死に物狂いであの家を変えた。誰もが皆好きなデッキを使っていい、誰もそれを咎めることや扱き下ろすことなんて一切無いように作り変えた。勿論、お前達を虐げて踏み躙っていた塵共は、逆恨みすらも出来ない程に叩き潰した。だから家に帰ろう。もう悲しまなくても、苦しまなくてもいい。苦痛や悲しみなんて一切ない、お前達にとっての幸せだけが詰まった家だ」

「だからッ、何度も言わせんなッ!あんなクソ下水の家には戻らねぇんだよ!!」

「あの頃よりも随分大きくなったなぁ……帰ったらヒイロの好きな食べ物を沢山作ってもらおう。勿論もう1人の弟が好きな食べ物も作ってもらうから安心してくれ。家族一緒に食事をするのは何時ぶりだろう…この上ない幸福に満たされる」

「テメーと飯なんざ食わねぇよ!!」

「ずっと一緒にいよう。どんなに忙しくてもお前達のそばにいる。孤独の痛みを埋める愛を、離れ離れだった時間を、周囲の目なぞ気にならない位の幸せを、惜しみなく途切れることなく与えてやれる」

「お、おい、アンタ何言って……」

「あ…兄、貴?」

「帰ろうヒイロ。もう離さない、二度と離すものか。何れ永劫の別れが来るその日まで……俺達だけの家族でいよう」


「「ッ!!!」」


背中が粟立ち、顔色は青白く変化する。頭の天辺から爪先まで血の代わりに冷水を注がれたような寒気が2人を襲う。
恍惚と、嬉々として、まるで親から褒められたい子供のように話すヒスイ。透き通る翡翠色の瞳は狂気に濁り、弟達きょうだいへの歪んだ「愛」が泥のように瞳の奥底から溢れ出ていく。
それを異星人を見るような視線を送るギンジと苦虫を噛み潰したような顔で睨むヒイロ。

徐にヒイロへ歩み寄るヒスイ。狂おしい程に、渇望するように、弟へ手を伸ばす。一歩、また一歩とゆっくりと歩みを進める。その気になれば逃げられる筈のヒイロとギンジの足は、重りを着けられた罪人のように動けなかった。
もう少しでヒイロに届きそうな程の接近を許してしまう。ヒスイは嬉しそうに「やっと取り戻せるんだ……俺の、かけがえの無いの肉親が」と呟いた。それを聞いたギンジは、渾身の力でヒスイの手をはたき落とそうと手を振り上げる。

「薄汚ぇ手でヒイロに触んじゃねぇッ!!」

「やめろギンジッ!!」

ヒイロは悲痛な声を上げる。もしギンジがヒスイに手を上げれば、無事では済まされない。人気の無い場所とはいえ、何時人が来るか分からない状況。ここで最悪なのは、ギンジがヒスイに暴力を振るったように見えてしまうことだ。

プロファイターのヒスイと一般人のギンジ。知名度やメディアのイメージを以て、世間や周囲がどちらの言い分を信じるかなんて馬鹿でも分かる。だからこそ止めなくてはいけない。
自分の生い立ちのせいで、親友のこれからの人生を後ろ暗いモノにしたくない。その一心で声を荒げた。


「そこまででございます」


その刹那、凛とした声が張り詰めた空気を震わせる。
3人の視線の先にいたのはリリア―スパーコナの一員にして、身分を隠して現世に降り立った神・ワニゾーの御使いである。


「「リリアさん!!」」

「おや、君は……誰、だったかな?」

「お初に御目に掛かります、栂芽ヒスイ様。私はリリア・ヴェラ・ソルシエール、スパーコナの新米社員でございます」

自己紹介後にヒスイへ仰々しく会釈をするリリア。それを見た彼は先程の恍惚の笑みから貼り付けたような笑みを向けながら「はじめまして。」と挨拶を交わす。それを見たリリアも又、営業スマイルで「よろしくお願いします」と返事した。我に返ったギンジは振り下ろそうとしていた右腕を下げる。それを見たヒイロは安堵の溜め息を吐いた。


「ところで馬酔木様と春秋様。どうやらメルティクルーシブルの運営から緊急アナウンスがあるそうですよ?今直ぐ控え室にお戻りになって、待機して下さいとのことです」

「えっ、マジで!?」

「ヒイロ!運営からのアナウンスとか、聞き逃すにはいかねえぞ!」

「そうだなギンジ!ありがとうございます、リリアさん!」

「あざます!」

「お役に立てて光栄でございます」

「そんでもって二度と来んなクソ兄貴!!」

「ぼっちで泥舟に乗ってろよタコ野郎!!」

「春秋様、もしや泥舟は「かちかち山」のオマージュでございますか??」

尤もらしい理由を述べてその場を去る2人。ヒスイへの罵倒も忘れずにだ。2人の背中を見た後、リリアはヒスイの方へ顔を向ける。


「貴方様の思い通りにはさせませんよ、■■■■?」

「ッ!!?」

目を見開くヒスイ。この女―藍白色の瞳を持つリリア魔女の名を持つ女は、自分の中にある深淵を、秘密を…何処まで見通しているのだと。
暫しの思考の後に周りを見るが、リリアはとっくに去っており影すら無かった。

俯き口内に広がる苦々しさに口元を歪める。そして呪いのように言葉を呟いた。



「あの……バケモノめッ」



ミク視点

メルティクルーシブル3日目の終わりに運営からお知らせがあった。急遽ファイトの内容変更。マジで?
明日はメルティクルーシブル最終日でありそして準決勝も決勝戦が始まる……ん?準決勝はタッグファイト、決勝戦はリレーファイト!?おいおい、とんでもねぇサプライズじゃん!やっべぇ、燃えてくる!

タッグファイトのルールは大体前世で覚えている。アジアサーキットの香港ステージみたいなモノか。ターンはむげんだい書く時みたいな順番、クイックシールドは4番目のファイターが最初のターンで得られる。タッグガードやカウンターブラストやソウルブラストのコストの共有は前世と変わらず。手札から捨てるとかは共有の対象外であり、プロテクトを含む完全ガードでパートナーを守ることは出来ない……ふむふむ。
ヒールトリガーを引いた場合、合計ダメージが相手より多いならパートナーのダメージを回復も可能。いいこと聞いた。

因みに、リレーファイトの場合の要点を纏めるとこうなる。

・ファイトは3人対3人で行う。その為、先鋒、中堅、大将の役割を決めておく。3人共異なるクランでなくてはいけない。

・各ファイターのダメージゾーンが7枚になった時点で敗北となる。超過分はカウントしない。

・全てのファイターのカードは「このカードはすべての国家とクランに属する」という永続能力を持つものとして扱う。

・先鋒または中堅が敗北した場合、アタックヒット時・バトル終了時・ターン終了時の能力の解決、ルール処理を行う。その後、敗北したファイターは、ソウルを含めた中央前列のカード、サークルと手札のギフトマーカー、バインドゾーン、ドロップゾーンのカードを残し、自分の山札とダメージゾーンをすべて回収する。
先鋒は中堅、中堅は大将に交代する際、ダメージゾーンからノーマルユニットのカードを2枚選び、それらを表にしてからダメージゾーンのカードを回収する。

・引き継いだファイターは予め自分のデッキからグレート3を1枚選び手札に加え、その後デッキをシャッフルしてから山札を置く。引き継ぎ前のVのグレードが4でもライドは可能。
その後、自分の山札の上から6枚引き、「リレーション・ヴァンガード」を宣言することでファイトは再開される。

・勝ち抜いたチームのメンバーは、ドロップからトリガーユニットとノーマルユニットをそれぞれ3枚まで選び山札に戻してシャッフル。その後、次の対戦相手が中堅ならダメージを1枚、大将ならダメージを2枚回復する。(回復するダメージは裏でも表でもよい。)
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