蝶のはばたき

ミク視点

………………どうしてこうなった。3回戦は月下と綴木先輩が勝った。
3日目。準々決勝では先鋒戦で名倉が勝ったけどその直後フラついてちょっと焦った。PSYクオリアに目覚めたアイツと同じ……脳味噌の情報処理やエネルギー消費がパネェのかな。
控室に戻った名倉は何処か調子が悪そう。どうしたもんかと思案していると、各務原先輩が「名倉君、取り敢えず横になろうね」と提案。

そしたらアイツはこう言った。




「詠導が膝枕してくれたら治ります」


言い切った直後神谷先輩が「調子乗んなボゲェ!!」ど怒りの右ストレートを炸裂させ、綴木先輩から「何口走ってんだ!このムッツリバカ!」と卍固め。流石に見せられないと小早川先生が両手で月下に目隠ししてました。なにコレ、世紀末?


『あの、先輩達、とりま落ち着いて下さい』

「「落ち着けるかァッ!!」」

一言一句漏れずにハモった。流石幼馴染み。あたしじゃなきゃ見逃してしまうね。意味は知らぬ。

『名倉、それだけ元気があれば膝枕要らねぇだろ』

「無理だ!膝枕してくれ詠導!!」

「胴腹滝みたく流れる鼻血をどうにかしてから言え」

「名倉、幾ら何でも我欲丸出しなのは如何なもんだぞー」

「先輩達の頼みでも無理ですよッ!だって俺さっきカードの声聞き過ぎて、脳がオーバードーズしているので、今直ぐ詠導が膝枕してくれないと死にそうなんです!!」

「そうかそうか。オーバーヒートしてんなら独りでバケツチャレンジして来い。中身は液体窒素な」

青筋どころかありとあらゆる血管が浮き出てきそうな程の怒り。これフ◯ーザ様にクリ◯ンを殺された悟◯の話か?ドラゴンなボール集める旅に出ることになるのか?

「ちょっと名倉ー。ユタガチギレしてんぞ、どうしてくれんだよ」

「アレがガチギレなの綴木君!?」

『液体窒素の時点でお察しである』

「……………ん?おい名倉、今カードの声が聞こえるとか―」


≪次の対戦相手は何処じゃー!!!≫


「よし詠導、行ってこい。部長命令だ」

『分かりましたー!…と言いたいところですが、既に月下が出張ってました』

「サユ貴様ァァァ!!!」

やっぱりこの世界はギャグ路線だったか……もう腹括ろう。膝枕してやろう。このまま鼻血出されて救急搬送とか笑えないし。

『ほら、膝枕してやっから寝ろ』

「よっし!!」

「1秒でもセクハラしてみろ、潰してやるからな名倉」

「し、しませんよ!!」

嘘をつくな。胴腹滝だった鼻血の量が増えたじゃねぇかよ。一旦海に沈めるか。

≪すまん、勘弁してくれ。このとおりだ≫

……PSYクオリア上でナイトローゼ海賊団全員(+それをニコニコと見ているピノ・ノワールと無関心そうに見ているピノ・ブラン)が海賊船の甲板で土下座してきたので一旦保留とした。あたしの膝枕は控え室の窓から見えないように三馬鹿トリオが壁になってくれるらしい。……お前等はあたし達の関係者として認定されているの?ご都合主義ってやつか。

「…………………」

『…………………』

≪いけー!≫

≪やったれー!≫

≪あー惜しい!後ちょっとだったのに!≫

盛り上がってんなー。あたしは会場に背中向けているから何のこっちゃって感じだが。


『名倉……?おーい、寝たのかー?』

「…………………」

『(完全に寝ている……誰かに膝枕すんのなんて何十年ぶりだな)』

最初はクソ生意気な後輩。人のこと勝手に雨宿り場所にしてきやがって……まあ、悪くなかったけど。次はあたしの竹馬の友。その次が小悪魔的な雰囲気を売りにしていた年下のアイドル。その次はドーナツが好きなアイツと、あたしに憧れてくれたあの子……というか、あたしは何かと年下を膝枕にすることが多い人生だったな。家族以外で。

≪うるせぇ、カワイイ後輩である■■■■■様の頼みくらい聞けっての!≫

≪あったかい……心が休まります≫

≪この■■■ちゃんに膝枕させてあげているんだから、充分に感謝してよね!≫

≪ミクちーのお膝、パパのドーナツみたいにふかふか!≫

≪なんか、夢みたいです……ふふふっ≫


≪ママ!おひざのまくら!≫

≪かあちゃん!おれも!≫

≪おばあちゃんのおひざ、すき!≫

≪お、おふくろ!さ、流石に恥ずいからやめろって!!≫

≪君の膝枕には、不思議な力があるみたいだ……すごく落ち着く≫


何の変哲もない膝枕なんだけどな……会場が騒がしい。どうやら月下の勝利で終わったようだ。

≪やったー!勝ったよー!!≫

≪勝者、月下サユ!多種多様な人魚達が奏でる協奏曲を以て、たちかぜの暴竜達を鎮め勝利を収めたァァ!!よって咲神高校ヴァンガード部、準決勝進出だーーー!!≫

≪俺に力を!!モフモフの神よぉぉぉ!!!≫

もうナンノコッチャだなモフモフ仮面。出禁フラグは折れずにそのまま成立することを祈りたい……名倉?

「……やだ……いやだ、すて……いで

『………………』

ひとりに、なりたくない……だれも俺を、見てくれない……まって、くれよ……ひ……にい

『(…やっぱり名倉の兄貴って……■■■さんなのか?)』

子供の時から人扱いされなかった―それを聞いた時、あたしはどこぞの禪ナンチャラのドブカス一家じゃコノヤローと内心怒りに震えていた。竹馬の友のアイツも言っていた。ヴァンガードは自分を救ってくれた。ヴァンガードは自由であるべきだと。
ユナサン支部の某弱罪の愚行を知った時に殴り込みに行くつもりだったが、ユナサン支部の子達の目を覚させる仕事は彼等に―挑戦を諦めない3人のファイターに任せることになった。そしてあたしは、大人の責任ケツを持つ役目を請け負った。楽しかったなー、ファヌエル。
何だかガウリールもあたしのイメージの中でニッコニコだった。表情筋あんまり動かない子だった気がするけど。まあ、クラレットソード一派に自分が診ている患者達を人質に取られていた恨みもあったんだろうがな。

『(何でだろう……名倉のことを、守ってやりたいって思っちまう。恋心なのか親心なのか判断出来ねぇけど……それでも…夢の中くらいは、幸せでいて欲しい)』

そう考えながら、あたしは名倉を頭を優しく撫でた。苦しまなくていい、悲しまなくてもいい。あたしはここにいる。一人ぼっちじゃないんだぞ。


「いかなぃで……いかなぃでくれよ、兄貴!!」

名倉が寝惚けて伸ばした手が掴んだのは……あたしの胸。前言撤回、ぶっ飛ばす!!!

断末魔が聞こえるまで、数秒後。




NO SIDE

一方その頃、ヒイロとギンジはある人物と対峙していた。その目には明確な怒りと憎悪が含まれている。

「テメー、今更何の用だ!」

「随分酷い言い草だね……弟に会うことに真っ当な理由がいるのかな?」

「何が弟だ……俺とお前はとっくに絶縁したんだよ」


栂芽ヒスイ!!!



続く
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