先輩の矜持、狐面の暗躍


ツツジの手にあったのはムーンエッジ―クリティカルトリガーだ。シラユキは忍法で作った雪の槍を地面に突き刺し、辺り一面を凍らせていく。自分の足元まで向かう氷に後退るヒミコは一瞬の隙を見せてしまい、シラユキの接近を許してしまう。避ける間もないまま、幻夢の六花が作り上げた大きな雪の結晶がヒミコに直撃。全身が凍りつくのを自覚したまま、彼女は美しくもその恐ろしさを思い知らせる氷像となった。

ダメージゾーンに置かれたのはスアデラとプレイオネ。よってツツジの勝利となった。

「勝者、各務原ツツジ!」

「勝った……各務原さんが勝ったぁぁぁ!」

「よっしゃー!!」

『これで廃部は回避じゃぁぁ!!』

「わーい!わーい!」

「すっげー……!」

「おい旭野、約束は守ってもらうぞ。まさかとは思うが、これも小手調べとか言わねぇよな?そんな安い言い訳……通用しないからな?」

「う、ううう……せ、生徒会は、もう二度と…咲神高校ヴァンガード部に今後一切横槍はしません。そして廃部は……撤回します」

「ヨシ。じゃあお前等、帰るぞ。そして明日は―」


眠りなさい……。深く、そう、もっと深く……


体育館に響く謎の声。それが聞こえた刹那、次々とその場でゆっくりと倒れ込み眠りに落ちるルリカ達。何事なのかと思いながら辺りを警戒するヴァンガード部の面々。因みに■■も含む眠りに就いた者達は、ホムちゃんが飼っている巨大なコーギーのぬいぐるみ(自律型)によって安全な場所に運ばれている。


「ど、どうしちまったんだ、旭野達。つーか、何で俺達、何ともないんだ?」

「あら、何でアンタ達平気なの?アタシの催眠に耐えられるのなんてルイン位なのに」

「「「ッ!?」」」

「にぎゃああああ!!!」

「て、テメー誰だ!?どっから入ってきやがったッ!!」

「そんなこと正直に言うと思う?というか、警備がザル過ぎない?経費足りないの?」

「失礼ね!うちのセキュリティは一般よりも上よ!それにうちに不法侵入出来るのは天音さん位なのッ!!!」

『(そのツッコミは可笑しいですよ小早川先生)』

混乱に陥れた狐面の男に対する反応に戸惑うヴァンガード部の面々。ミクの姿を確認した狐面の男は、徐ろに彼女へ歩みを進める。

「久しぶりねミク。元気そうで安心したわ」

『うるせぇ帰れアホ』

「え……この人、詠導さんの知人なの?」

『ストーカーです』

「えぇッ!ストーカー!?」

「て、テメーが例のド変態集団ストーカー野郎の1人かッ!!」

「マジでいたんだこういうキッショい奴。漫画でしか居ねぇよなと思いたかった」

「キッモ」

「ヴォォエッ!!」

「余りの気色悪さに月下さんが変顔している!?」

「人聞きが悪いわね。ド変態はテュールとゼクトで充分よ」

『自覚あんじゃねぇかテメー等。巫山戯んな』

「……アタシ達の贈り物、お気に召さなかったかしら?」

『全部フリマアプリやリユースショップで売っ払ってやったから安心しろ』

「何処に安心要素があるの詠導さん!」

『売上金はアカウント借りている母ちゃんと折半しているから大丈夫です』

「違うそうじゃない……つーか、コイツ何なんだ?」

「口の聞き方は気を付けたほうが良いわよお坊ちゃん……アタシはレルヒェ。ヘルヘイムの一人よ」

「へ、ヘチマタワシ?」

「ヘルヘイム。それは北欧神話に於いて、ロキの娘・ヘルが統治している死者の国の名前である。そしてその不審者をブチのめすこの俺は大神田ミツナリじゃぁぁぁ!!!」

「ミツナリ君何時の間に……」

テンション高めに登場したミツナリにげんなりするサトミ。今まで何処にいたのかと聞かれた彼は「モフモフを餌に倉庫に閉じ込められていた」と話す。
脱出に成功したのは、ホムちゃんとリョーコが通りかがってくれたお陰らしい。


「ヘルヘイムだかヘ◯ダーランドだか知らないけど……帰ってくれないかしら」

「ほむーー!!」
訳:出てけアホンダラ!! (# ゚Д゚)フザケンナ!!

「帰れバカヤロー!」

ミツナリとホムちゃんは何処からか持ってきた証人台のセットに立っており、「モンスターペアレントは駆逐されろ!」、「AI絵師反対!!」、「モフモフこそ世界一だろうが!!」、「推し活マウントしてて虚しくないのか!?」と魔法のプラカードを掲げて叫んでいる。

途中からコウとサユ、リョーコと何時の間にかいるエンジも魔法のプラカードを掲げ其々「枸幹の父親が経営している会社はブラック企業らしいぞ」や「クリームパンこそ至高のパンどす!!」、「グロっちい方のハロウィン料理は廃止せよ」や「我、咲神高校の冷暖房完備を所望す」と、体育館はお気持ち表明の場と化した。

「なんなのこのイカれた空間は」

『イカれたテメー等が言うことか?』

「ぐうの音もない反論で草」

「…………この前と違って、アタシは手ぶらで帰るつもりはないわ。どうせ帰るなら……アンタも一緒よ、ミク」

『っ……巫山戯んな!』

レルヒェに手首を掴まれるミクだが、転生特典として継承した合気道を使い振り払う。その隙にサユがミクを庇うように前に出て、両手を大きく広げてレルヒェを威嚇する。後ろにはミクを守るように側にいるリョーコとツツジがいる。

「……アタシ達がいない間に随分人を誑し込んだのね」 

『人徳と言え。つーか帰れ』

「ばーーーか!かえれ!!!」

「月下さん、流石に言い方が小学生よ」

「ぐぬぬぬ、おいそこの狐面!俺とファイトしろ!俺が勝ったら大人しく帰れ!!」

「あら、いい度胸しているじゃない。アタシが勝ったら、その子はアタシが貰うから」

「ミツナリ君!絶対に勝ちなさいよ!詠導さんが居なかったら、うちは廃部になるかもしれないんだから!」

「頼みます、大神田先生!」

「……結局アンタ達も彼奴等と同じなのね。あの子の優しさに甘えるつけこむしか能のない、表面しか見ない無象モブ共がしゃしゃらないでよ」

『???』

レルヒェが吐き捨てた言葉は誰にも拾われずに消えた。こうしてミクを賭けたファイトが何故か始まったのであった。





「オイオイ、コイツはなんの冗談だァ?」

気怠げな口調で呟いたのは、仰々しく包帯で巻かれた持ち主の身長の2倍はありそうな長い業物を背負う、羊羹色のショートヘアに孔雀緑のツリ目の小柄な少女。少女の目に映っているのは、寒そうに自分で自分を抱き締めている男子生徒達。現在初夏の爽やかな気候であるにも関わらず、だ。

「(ジュウロウタの爺さんに言われて来たは良いものの……ちょっくら遅かったか。まあ、コイツ等がどうなろうとおれには関係無いか。さて……詠導ミクは何処だ?今はアイツを保護するのが最優先だ)」

「ご、ごめんなさい!ごめんなさい、ごめんなさい!!」

「俺達が何したっていうんだよ…!!」

「寒い、寒い、寒いぃぃぃ!!」

「た、助けてくれ!頼む!寒くて寒くてしょうがないんだ!!」

「俺達はただ、綴木と各務原が戻ってきてくれれば良かっただけなのに!!」

「そ、その為に色々考えただけなのに……!」

「あの事を水に流してくれたっていいじゃねぇかよ!悪かったって本気で思っているのに、何で!!」

「はぁ〜マジでうるせぇよ。つーか寒い?初夏の香り漂う気候なのにか?」

「し、知らない!兎に角寒くてしょうがねぇんだよ!アネモネの花飾りが付いた狐面の男にファイト挑まれて……負けたらこうなったんだよ!!」

「ハッ、恨むならその狐面の男の逆鱗に触れた自分達を恨むんだな」

「て、テメー!」

「良いこと教えてやるよ。あの狐面の奴等はな、ある一人の女に大層入れ込んでいるんだよ。その女に危害加えようもんなら、おっ死んだ方がマシな目に遭わせるのも厭わねぇイカれた連中だよ」

ミクのことを「ある一人の女」と敢えて暈したのは、ここが彼女の通う学校だからだ。下手にミクの名前を出して逆恨みされる危険性を少しでも低くさせようという少女の優しさである。
何のことか分からない顔をする男子生徒達を見るに、アネモネの狐面の男―シュネーもミクの名前を出しては居ないようだ。

「今のテメー等には良い薬じゃねぇのかァ?悪事千里を走る、天網恢恢疎にして漏らさずって話。つーわけで、おれは助けねぇから」

「ま、待ってくれ!!」

「た、助けてくれよ!!!」

「助けてくれたら…何でもするから!」

「巫山戯んな、この人でなし!この、クソ野郎!!」

「ハッ、ハハハハハッ!人でなし?御明察!おれは人じゃねぇんだよ!そんな人でなしの手なんざ借りねぇ方が良いよなァ?あーばよッ!」

「まっ、待ってくれぇぇぇぇ!!」


ゲラゲラと悪意に塗れた笑い声を上げながら男子生徒達―サッカー部の連中を見放した少女ひとでなし。彼女の目的は唯一つ。


詠導ミクの保護である。

続く
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