ヴァンガード部へ入部せよ!

一旦落ち着いた頃、名倉はあたし達に身の上話をしてくれた。

名倉は有名な一族の血縁者で、その一族は皆口を揃えて「ドラゴンエンパイアのクランは絶対。ドラゴンエンパイア以外のクランは塵芥ちりあくたに等しい。」と豪語する程の傲慢ぶりでも有名だったらしい。
「だった」って過去形なのは、プロファイターである今の当主がそういう古臭い慣習を取っ払い、新たな形にしようと東奔西走しているからだそうだ。

「名倉君。あなたが今のクランを使っている理由は……ドラゴンエンパイアのクランを、上手く使えなかったからなの?」

小早川先生が静かに尋ねる。名倉は俯きながらも、自分の言葉で返事をしてくれた。

「……生まれた時から、ドラゴンエンパイアのクランを使うように強いられて、きました。でも…幾らデッキを変えたり、デッキのパーツを入れ替えても……どうしても、勝てなかった。ドラゴンエンパイアのデッキを…マトモに扱えない俺は、人間以下の扱いで……中途半端、恥晒し、落ち零れ……お前は本当に、あの方の弟なのかって。毎日毎日……何かにつけて、兄貴と、比べられて……誰も、俺自身を見てくれなかった。」

「何だよそれ……俺から言わせれば、名倉を扱き下ろしているソイツ等の方が、落ち零れで恥晒しだろうが。」

「俺も同意見だわ!家族だからって言っていいことや悪いことも分かんねぇのかよソイツ等ッ!!」

「酷いよ……名倉君だって、一生懸命努力してきたのに…そんな言い方しか出来ないなんてッ。」

「というか、ドラゴンエンパイアのクラン使っているからって何様なの!?好きなクラン使って何が悪いのさ!偉そうに!あんた達の方がチリコンカンだってーの!」

それを言うならちりあくた・・・・・だぞー……何処ぞの金田一◯助シリーズで皆殺されそうな性格クソ下水の一族だなオイ。

「ぐぬぬぬ、許せん、許せんぞ!!名倉君、ソイツ等の住所教えて!カチコミじゃコラー!!」

「ミツナリ君、落ち着きなさい!私達は教職者よ!いくら相手でロクデナシであっても、暴挙に出てはいけないわ!!」

「…………ほーむー。」
訳:みーなごろしー。 (:3[▓▓]サツイマシマシ


ホムちゃん、さては起きてるな?狸寝入りだな?うん、とりま落ち着け。

『だからあたしに対してあんな滅茶苦茶態度悪かったのか……そして記憶を失う前のあたしは、顔もよく知らぬプロファイターに認められる程の実力者だったのか。』

「っ……そう、だよ……お前が、羨ましくて、憎くて……妬ましかった!!」

「名倉……。」

「…名倉君。他人のことを羨んだり、妬んだりする気持ちは分からなくもないよ。俺も教職者である前に人間だから、そういう思いを抱かずに生きてきたって言ったら嘘になる。でもね、詠導さんだって、何の苦労もしないで今を生きてきたわけじゃないんじゃないかな?」

「……………………。」

「事故で今までの記憶を喪って、周りからあることないこと言われて、剰えさっきストーカー行為されているって言っていた……生まれてきて、一切合切苦しまなかった人間なんてそうそういない。いたとしても、ソイツがある意味希少なだけ。みんな何かしら悩んだり、苦しんだり、迷ったりする。そんな時は……出来るだけ周りを頼りなさい。俺が頼りにならないならコバちゃん。コバちゃんに言えないなら神谷君達。神谷君達に言えないなら、俺達以外に信頼できる誰か。周りに助けを求めるのは、決して恥ずかしい事じゃない。頼りっぱなしは駄目だけど、独りで抱え込むのはもっと駄目!だからこれだけは言わせて欲しい……ここにいるみんな全員、名倉君の味方だからね!」

「大神田、先生……。」

「名倉君、今までよく頑張りましたね。出来る限りだけど、私もあなたをサポートしていくつもりよ。先生としても、一人の大人としても。」

「小早川先生……。」

「あー、これ何か言う流れか?……名倉、何か困ったら頼れ。出来ないことあったら無理だけど。」

「いいや!正直過ぎるだろ!名倉、俺達にとってお前は可愛い後輩なんだから、悩みとかあったら遠慮なく言えよ!」

「私も!名倉君の助けになれるように頑張るから!」

「先輩、達……。」

「イズモ君!嫌なことあったらね、ガーーッて言ったり、全力疾走すれば大抵スッキリするよ!私、走ることも大好きだから、嫌なことあったら一緒に走ろう!!」

「月下……。」

『んー……あんなこと言った手前、どの口がって思うだろうが……お前を認めずにボロクソ叩いて安心する奴等に悩むよりも、お前のことを―名倉イズモを認めて大切に思っている人達と過ごすことの方が、何より大事なんじゃないか?兎に角、あたしは名倉の味方だから。だから……さっきの暴言は水に流す。改めて…これからも宜しくな、名倉!!』

あたしは笑顔で名倉に手を差し出す。謂わば仲直りの握手をしようとしたが……えっ?何でお前、顔赤いの?

「…………………だ。」

『へっ?』

「好きだ詠導!結婚を前提に付き合っ―」

「アホかぁぁぁ!!」

≪ほむーーー!!≫
訳:このおバカ!! Ξ≡≡_(:3」 )=)з゚)、;'.・

綴木先輩のツッコミもホムちゃんの怒りの寝ながらドロップキックが炸裂。えっ、今の何処に惚れる要素あったの?ヴァンガードはしたいけど……。

『…………あの、やっぱりあたし入部は―』

「待って待って待って!お願い詠導さん!帰らないで!名倉君の不謹慎発言については謝るから入部拒否しないで!!」

「頼む詠導!名倉のことは煮るなり焼くなり素揚げにするなり好きにしていい!だからヴァンガード部に入ってくれ下さい!」

『あたしはハーレムを作るためにここに来たわけじゃないので。』

「頼む詠導!!俺はこの場所を守りたいんだ!!じゃないとここが―」



廃部になるかもしれないんだよ!!

『えっ……廃部?』

「ど、どういうことですか綴木先輩!ヴァンガード部が廃部になりそうって……何でそんな!?」

「……昨日、生徒会長に言われたんだよ。近頃の咲神高校ヴァンガード部は問題ばかり起こしていると。問題ってのは、コウと各務原がサッカー部からされている嫌がらせやストーカー行為、近年のヴァンガード甲子園での成績の低下……後は主に、ホムちゃんや顧問の奇天烈行為だって。」

「誰が奇天烈ザマス!コバちゃんの悪口は許さないザマス!」

「十中八九ミツナリ君でしょうが!!」

「ほーむー……。」
訳:猫と和解せよ……。(:3[▓▓]ニャンニャン

「こうなったら詠導引っ提げてヴァンガード甲子園優勝してやろうかと思った矢先……今年のヴァンガード甲子園は中止するって速報が流れやがった。」

『はぁっ?中止!?』

「詳しい理由は不明だけど、何か運営側に大きなトラブルがあったとかなんとか……だからせめて、最低人数の部員だけでも確保しようと思ったの。……本当にごめんなさい!全部私達のエゴなのに、何にも知らない詠導さんを巻き込んでしまって!」

『んー…………やっぱり入ります。』

「えっ!?」

断られると思っていた各務原先輩。だがしかし、あたしは前世で色んな修羅場を潜り抜けてきたので此位は大した事ない。名倉には悪いが、あたしとそういう関係になったって良いこと無いぞ。

『あたし、ヴァンガードが大好きです!それ以上でもそれ以下の理由は無いんですけど……あたし、先輩達とヴァンガードがやりたいです!だから……ヴァンガード部に入ります!』

「詠導……!」

「マジか!やったぜ!これで部員の確保クリアだ!!」

「詠導さん…!ありがとう!本当にありがとう!!」

「わーい!これからも宜しくねミクちゃん!」

「え、詠導………あの、こ、これから―」

「ほーむーー。」
訳:空気読めーー。 (っ´>ω<))ω<`)ガバチョ

「うわぁぁ!!」

こうして色んな意味で楽しそうなヴァンガード部に入部出来たあたし。色々問題は山積みだけど、あたしはあたしの未来を進むだけ!その為にも……ヴァンガードの実力、確りつけておかないとな!!

そう思っていた矢先、部室の引き戸が開かられた。そこにいたのは……生徒会という深緑の生地に蒲公英色の刺繍が施された腕章が着けられた制服を着ている女子生徒だった。

「咲神高校ヴァンガード部の皆様、先ずは部員確保おめでとうございます。そして……貴方達には、このメルティクルーシブルに参加してもらいます。勿論、生徒会直々の依頼として……ね?」

不穏な空気が漂っているのは……何で?


続く
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