悪女退治は突然に

その後の展開は……まあ、ある程度予想通りだった。枸幹はハイジーニストのアタックを防ぎ、続けてフェザーパレスのアタックをプロテクトで完全ガードしようとしたが、フェザーパレスのスキルで今度は自分が守護者封じされる羽目に。パワー40000にクリティカル2のアタックを防げず、情けない声を上げながら遥か遠くに飛ばされるデーモンイーターのイメージが浮かんだ。

ダメージゾーンに置かれたのはフラヴィアとグーリッシュ。よって詠導の勝ちとなった。

『よっしゃぁぁぁ!!!』

「すっげーな詠導!記憶喪失って聞いてたけど全然遅れてねぇじゃん!!」

「凄かったよ詠導さん!」

「ほむほむ!」
訳:お前やるじゃねーか! ✧⁠◝⁠(⁠⁰⁠▿⁠⁰⁠)⁠◜⁠✧

……ホンット、スゴい奴がここに来やがった。マジで誰だよ、スレッド形式のネット掲示板で「記憶喪失の詠導ミクはオワコンwww」や「想天の令嬢、見事に堕天www」とかクソミソに言ってたの。実際のアイツを見た奴なら、堕ちただの何だのは言えない。


詠導ミク……本当に、不思議な奴だ。



その後の後始末が大変だった。
枸幹アカネは負けたのをデッキのせい―もっと言えばそれを構築した取り巻きの責任だと宣った。我儘で傲慢で他責思考とかマジでアイツ終わってんな……。ホムちゃん、プラカードで枸幹と取り巻きを殴るな。たん瘤程度で済んでよかったなお前等。
取り巻き達は何を思ったのか詠導を逆恨みし暴力を振るおうとしたが、詠導はそれらを千切ってはポイ、千切ってはポイしていた。
何でも帯をもらっていないだけで、合気道の腕は師範級だとか。……いぃや強くね?

そこに現れたのは咲神高校ヴァンガード部顧問の小早川先生と副顧問(自称)の大神田先生。枸幹とその取り巻き達が引き起こしたと詠導が説明すると「詠導さんに脅されたの!」と反論。
言い訳が小学生以下でホムちゃんブチギレ制裁からの、叶音がICレコーダーで録音していた会話のお陰で、詠導を含めた俺達の無実は確定。
内容を聞いた激昂した大神田先生とホムちゃんによって生徒指導室へ連行される取り巻き達。宛ら出荷される家畜達のようだった。
全ての元凶である枸幹アカネは目が全然笑ってない小早川先生によって連行。終始「私は悪くない!悪いのは詠導ミクや綴木君なのにッ!!」と枸幹は喚いていたが、小早川先生にそんな言い訳通用しないってのにな。

こうして、今日の俺の学校生活はなんやかんや無事に終わったのであった。




「えぇーーー!詠導ミクちゃんがファイトしてたの!?何で私を連れてってくれなかったの!?」

「大神田先生の抜き打ちテストで赤点取って追試食らっていたのは何処のどいつだよ。」

「うぐっ……。」

帰り道、俺とコウは補習でグロッキー状態の俺の従妹・月島サユと出会い一緒に帰ることに。
途中までは帰り道一緒だしな。各務原は仕事終わりのお姉さんが送迎しているらしい。


「どの道お前はあの場に来れなかったんだから、文句言うんじゃねぇっての。」

「ぶーーーー!!!」

「はいはい、あんまりブー垂れるなよー。それにアイツ、うちの部にスカウトするつもりだからさー。」

「はっ?」

おい待て。今……なんて言った?

「えっ!ミクちゃんうちの部に……咲神高校ヴァンガード部に来るの!?」

「おい待てコウ、そんな勝手に決めるな!」

「えー何か文句あんのかよ。」

「否、別に文句とかじゃなくて……本人の意志とか確認しないでそういう無責任なこと言うのはどうかって話で……。」

「何だよユター、お前詠導に向かって大声で応援してたくせに。」

「えぇ!?あのユタ君が大声出したの!?」

「うるせぇ、余計なこと言うな。」

「ぐぇ、肘打ちすんなよ!!」

コイツの俺へのイジりは今に始まったことじゃないが、やっぱり腹立つ。
つーかあんな有名人、入部させたらさせたで面倒なことになるじゃねぇか……。

「……これ以上面倒ごと起きてたまるかよ。大体サッカー部の連中、全然懲りてねぇじゃねぇか。」

「…………………。」

「……お前がサッカー部辞めたのは、部費盗まれたからって各務原を勝手に犯人扱いしていた癖に、手の平返した部員達に幻滅したからだ。信用なんないから離れたんだろ、なのに未だにお前や各務原にしがみついて、縋って、自業自得だろうっての。」

「そう、なんだけどさ……あの時、もう少し上手く円満に解決出来なかったのかなって考えちまうんだ。俺がもっと早く、各務原はやってないって証明出来ていたら……各務原や俺も、サッカー部を辞めなくても良かったのかなって。」

「…………自惚れんな。」

「あイタッ!」

「いいか。本当に優秀なチームや組織ってのはな、誰か一人が抜けたくらいで空中分解なんてしないんだよ。仮にお前や各務原が抜けたせいでグダグダになっているんなら、それは彼奴等がお前と各務原にばかり負担を掛けて、自分達は楽な方向に流れていただけ。要はお前等を、体の良い道具にしか思ってなかった……だから、お前と各務原があの場所から離れたことは間違ってない。自分や各務原を守ろうとしただけだろ。自分を守る為に逃げることの何が悪い。周りからあーだこーだ言われているなら言わせておけばいい。」

「………………。」

「それに……詠導ならあの場所に、ヴァンガード部にいてもいいって、思えた。だから……明日詠導を連れて来い。絶対だ。」

「ユタ……!!」



ミク視点

「というわけだから、早速ヴァンガード部に行こうぜ!!」

『どういうわけですか。』

確かに昨日のトラブル解決の立役者な訳ですが、放課後に凸するなんて聞いてないです。

『あの……あたし、ちょっと用事があって―』

「昨日の報酬として新弾ブースターパック3つとエンジェルフェザーの有能なトリプルレアユニット1枚。」

『行きましょう!!』

「チョロすぎるわよ詠導さん……また明日。」

『おう、また明日な小南!!』


小南と別れ、綴木先輩に着いていくあたし。辿り着いた場所は「咲神高校ヴァンガード部」と達筆な字で書かれた看板を下げている引き戸の前。ガラガラと音を立ててあたしが見たのはデカデカと「新人さんようこそ!ヴァンガード部へ!!」と書かれた横断幕とクラッカーの音。紅茶のいい匂いとシフォンケーキやクッキーの甘い香りが小腹にダブルクリティカルである。

「ようこそ詠導さん!早速―」



「小早川先生!俺コイツの入部なんて絶対に認めませんから!詠導ミク!ヴァンガード部に入りたいなら、俺を倒してからにしろ!!」


一難去ってまた一難……巫山戯んな。だが売られた喧嘩は買ってやる!!

続く
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