少女、覚醒める

あたしこと、詠導ミクにはあまり人に言えない秘密がある。
それは……自分が「神様によって転生した存在である」ことだ。

初対面の相手にこのことを言えば「痛い子」と敬遠され、友人に言えば「何処かに頭を打った」と変な心配をされる。だがしかし、あたしが神という存在によってこの世界に転生したのは揺るぎない事実だ。

まず始めに、あたしが前世でどういう生き方をしたかを説明しよう。

あたしはヴァンガードファイターであり、異性の幼馴染みがいた。アイツは異能力を持って生まれたが故に様々な事件に巻き込まれていた。因みに、あたしとソイツとの間には恋愛感情は一切合切ない。友達以上、家族未満ってやつ。

そのことを知ったのは、訳あって離れ離れとなっていたアイツとの再会だ。それ以来あたしは仲間として強敵に立ち向かい、時にぶつかり合いながらも、地球と惑星クレイの危機を救った。うむ、中々の冒険譚だ。どっかの投稿サイトで小説としてアップしたらBuzzりそうだ(個人の意見)

そしてあたしは大病や大怪我も無く天寿を全うし、自分の子供や孫達に囲まれながらあの世へ旅立った。

そんなあたしの魂(?)は……何の運命の悪戯か、神様の両手で包み込まれていたらしい。




目を覚ましたあたしは驚いた。今際の際まで皺クチャで痩せていた手が、皺一つない肉付きの良い手になっていた。手だけではない、背丈や顔付きまでもが10代の姿になっていた。死んだと思っていた矢先、いきなり若返りを経験したあたしの脳内は忽ち混乱状態となる。


≪ふむ、目が覚めたようじゃな!≫

『………誰?』

≪ワシは神・ワニゾーじゃ!≫

『神様って……アーッハハハハハハッ!何それ無茶苦茶胡散臭いしウケるー!どう見てもチョ○ビのワ○山さ―』

≪アホかーーー!!!≫


何処からともなく取り出したハリセンで典型的なツッコミをされる。叩かれた頭を擦っていると、ワニゾーとかいうピンクのワニが地団駄を踏んでいた。それを微笑みを崩さずにエレベーターガールのような女性が見守っている。……どっかで見たことある顔だな。あっ、孫が推しだとルンルン気分で見せていた裏ボスキャラに似ている。確か必殺技がメギド

≪最近の者は敬うことを知らんのか!ワシはワニゾー!人間が犯罪行為で騙る存在ではなく本物の神じゃ!!≫

『イテテ、まだ言ってるのかよ……そんなに言うなら神様らしいことしてみろよなー。』

≪ぐぬぬぬ、あー言えばこー言う奴め……SNS映え間違い無しのアフタヌーンティーセットよ、出ろ!≫


ありがちな効果音と共に現れたのは、不思議の国のアリスをモチーフにした可愛らしくも綺麗なアフタヌーンティーのセット。それを見て可愛いと感激すると同時に、手元にスマホが無いことを少し残念に思っていたりする。そんなあたしにエレベーターガールさん(仮)がハートの女王モチーフのアイスティーを差し出してくれた。綺麗。


『おー、可愛いー!食べてもいいか?』

≪いいぞいいぞ。これでお主がワシを本物の神様と認めるか?≫

『認める認めるー。』

≪(此奴の言葉に嘘は無さそうじゃの。)ゴホン。所で詠導ミク、お主がワシの眼前にいるのには列記とした理由がある。≫

『はっ?理由?』

≪詠導ミク様。此の度貴方様には、再び「詠導ミクとして」生きて貰います。≫

『んー?エレベーターガールさん、どういうこと?』

≪私のことは、お気軽にリリアちゃんとお呼びください……とどのつまり、詠導様は今ある記憶を保持したまま、別の世界へ転生して貰います。≫

『てことはあたし、巷で流行りの転生モノの主人公みたいなことをするのか!?』

≪まあそういうことじゃ。因みに言うが、お主が前世で暮らしていた人物は両親以外誰一人らぬ世界。異世界転生の主人公と同じ環境下で暮らすことになる。そんでもってお主にはワシの手伝いをしてもらうぞ。≫

『内職の手伝い?』

≪全然規模が違うわ!邪神・ネフシュタンの野望を打ち砕く手伝いじゃ!≫

『ネフシュタン?ソイツは悪い奴なのか?』

≪紛うことなき悪い奴じゃ!最早大邪神と呼んでも過言ではない!奴にとってお主等人間は自律式の道具!寧ろ暇つぶしの玩具!最悪の場合虫ケラとしか思ってない悪ーい奴じゃ!≫

ネフシュタンが如何に悪党かの演説をしながら自分の目的を話すワニゾー。
自分はネフシュタンの野望を阻止するために動いているが、自分達ではネフシュタンを止めることは不可能であること。ネフシュタンの野望を唯一止められるのは「人間」であることが分かり、それに協力してくれる人間を捜し回っていたこと。その協力者があたし……ってコト!?責任重大では?

『つまりあたしは選ばれし勇者的な立ち位置なのか……でもネフシュタンの野望を打ち砕くにしても、具体的にはどうすればいいんだ?』

≪それはだな……リリア、説明せい。≫

≪畏まりました。詠導様、貴方様が転生する年齢は16歳、月日は5月17日。転生場所は病院のベッドの上、隣には両親がいます。≫

ちょっと待て。何で病院のベッドの上?あたし転生後の世界では病弱設定なの?

≪お主の転生はちと特殊でな……転生後の世界のお主は事故に遭い、手術後暫く目覚めない状態が続いている。そして、目を覚ましたら今までの記憶が抜け落ちてじゃじゃ馬になってしまった……という筋書きで行こうと思うのじゃ。≫

『ちょっと何言ってるか分かんない。』

≪転生後の世界の詠導ミク―つまり貴方様の魂がやり残したコトを誰かに託したいと、ワニゾー様に願ったのでございます。それと同時期、貴方様が天寿を全うし死後の世界へ旅立とうとしたのを見つけたのでございます。……もうお分かりですよね?貴方様の魂を、向こうの世界の貴方様の肉体に移し替える……バ美肉的な意味での受肉と言えば、話が早いでしょうか。≫

何それヤバい、怖い。神様に良識とか無いの?てか受肉というよりも憑依に近くないか?……そうでもないか。

≪小難しい話は是位にして、具体的に何をすればいいかと言えば……お友達やお仲間を作って下さい。貴方様が大変な時、危機に陥った時、側にいて支えたり力添えをしてくれる良き友人や仲間を増やしていけば、軈てネフシュタンの野望を打ち砕く決定打になるでしょう。という訳で、貴方様には転生者特典としてコチラを授けます。≫

リリアちゃんが差し出したのはクリップボードに挟まれた1枚の紙。そこにはあたしの名前と転生者特典と書かれた色んなスキル名の羅列があった。
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