片翼の転生者

おふくろは真剣な表情、親父は何処か不安そうな顔で考え込んでいた。あたしは空気の読める人生2度目の子だから静観してました。

「………………。」

「……本分さん。貴方も人の親として、沢山苦悩したかもしれません。私も未熟ではありますが、あの子の親なので……ですがあの子は、あの子なりに、前に進もうとしているんです。貴方方の提案やお心遣いには感謝しています。それでも……私達は、あの子の成長や思い出を、側で見守っていきたいんです。親馬鹿だと、私達のエゴだと思われても、仕方ありません。だから……スパーコナの保護システムは、受け入れられません。」

「何故です。詠導君が奴等に、ヘルヘイムに狙われているのは御存知の筈だ。……詠導君がまた、彼奴らに拉致監禁される危険を考えないのですか!」

「……何度も何度も、考えました。考えた結果……貴方方の保護システムは、受けないことを決めました。」

「ッ……貴方達は、ヘルヘイムの奴等に会ったことがないから分からないんですよ。彼奴等の、ミクちゃんへの執着心を舐めない方が良いです。現に彼奴等は、異常な執念で彼女を見つけ出し接触しました。それがどういう意味か分かりますか?彼奴等は……詠導ミクを自分達の手中に収める為なら、どんなに非人道的だろうと、倫理から大きく外れた行為も厭わない奴等なんですよ!」

『……………………。』

「奴等に対抗出来るのは、私達スパーコナだけなんです!貴方達が彼等への対抗手段を持たない以上、私達がミクちゃんを守ります!だから―」

『あたしもヤダ。保護システムとか、絶対ヤダ。折角親父やおふくろと又、家族3人で暮らせるって喜んでいたのに……離れ離れになるのは……嫌だ。』

嘘偽りない、あたしの言葉。それを聞いていた天音さんは一瞬戸惑いながらも「そっか……。」と何処か分かりきっていたような声で答えた。

「詠導君……君は自ら、茨の道を歩もうとしているのだよ。それでも……その選択をすると言うのだね。」

『……自分勝手なのは重々分かっています。だけど……あたしは、ヘルヘイムのリーダーをタコ殴りに出来たので、向かうところ敵なしだと自負しております!!』

「なんと……!!」

「それに、ヘルヘイムは何だかんだミクちゃんの嫌がることは(今の所)しないと思うから大丈夫じゃないかなー。まあ、警戒は怠らないけど。」

「ふむ、何事も有備無患、備えあれば憂いなしと言うからな。用心には用心を重ねて損はないだろう。」

「というわけで、お引越し先には私やユキムラさんも配置されるので、何か心配がありましたら御相談下さい。」

「何から何まで……ありがとうございます。」

「本当に有り難い限りです……ほらミク、お前もお礼を言いなさい。」

『あ、ありがとうございます!!』

「さーて、これでシリアスなお話合いはおーわり!次はミクちゃんの新しいデッキを作ろうか!!」

『あたしのデッキを……?』

天音さんがイリュージョンから出したスーツケースを取り出す。開けばそこにあったのはエンジェルフェザーのカード達。

…………何時か、会いに行く。だから……待っていてくれ、ファヌエル、皆。



「ねえねえ、これとかどう?」

『あっいいかもしれないです!』

「逆にこれは……使いづらそう、かな?」

『んー……1枚くらいは保険で入れるなら、許容範囲…ですかね?』



「…………二人きりにしましょうか。」

「そうだな。」

「楽しい時間に、横槍は禁物ですからな。」


親父やおふくろ、そして初老の男性がリビングから出ていく。あたしにとって納得のいくデッキが出来た時、外の世界は既に夜だった。長い時間付き合わせちゃったな……。


『すみません、結構時間掛かっちゃいましたよね?』

「いいのいいの。私も気晴らしになったし!」

「それでは、何かありましたら……。」

「はい。ありがとうございます。」

「外も暗くなってきましたし、お気を付けてお帰り下さい。」

『天音さん……また会いましょう!』

「……うん。またね!」

天音さん達を見送った後、おふくろから「少し遅めの夕飯でも食べましょうか。」と言われ、家に戻ることに。

おふくろの料理、また食べられるなんて夢みたいだ……ちょっと涙が出そう。




ルイン視点

「お疲れ様ッスね、ルイン君!」

「……ユキムラ君、ヘルヘイムのアンチキショー共のアジトの特定は出来そう?」

「それはまだ厳しいッスねー。あいも変わらずちょこまかと移動していやがります。もしかしたら、アジトは俺達には追跡不可能な場所、若しくは移動式の建物とか……考え過ぎッスかね?」

「いいや、彼奴等の行動力と軍資金を嘗めない方が良いよ。特にボスのドンナの影響力は凄まじいからね。」

「ボスのドンナ、右腕のレーゲ、参謀のシュネー、切り込み隊長のゼクト、有り事担当のヴォルフ、メカニックのレルヒェ。後はボスにとって都合の良い手駒マリオネットのミーティ君。しかもモデルがルイン君と来たもんだ……どんだけ執念深いんスか、ア・イ・ツ・ラ。」

ユキムラ君は呆れた口調でぼやく。ホントにしつこ過ぎて面倒だよねー。町中華の換気扇かよ。

「特にレーゲって奴、この前ルイン君だけに集中攻撃していたし……嘗ての仲間同士なのに、何があったらあんなに恨まれちゃうんスか?」

「…………ひとりの女の子を、自分達の手中に収めようとしたの。私はそれが許せなかったから、仲間と一緒に協力して助けた。でも……その子の身体、酷いことになってた。」

「酷いことって……まさかDVッスか!?女の子に寄ってたかって暴力とか最低ッス!!」

「……ただの暴力だったら、まだ良かったのかもね。」

「えっ……そ、それって……。」

「足首、ベッドの脚に鎖に繋がれて……自由を制限されて…………あの子の身体、中学生の身体じゃなかった。私と同い年か、それよりも少し上の年齢の人の身体だった。」

「なっ……!」

「しかもあの子……彼奴等にいいように洗脳されていたの。この場所に居れば何にも怖いこと無いとか、ここでずっと居れば幸せとか……彼奴等にとって、都合の良いことばかりを刷り込ませていた。あたしはその子を説得しようとした……そしたら、何を見せたと思う?」


≪天音さん……私、沢山の人を傷付けた罪人なんです。私のせいで、天音さんや本分さん、■■■さん達、それに■■ちゃんやファヌエル達も……みんな、私のせいで―≫

≪君のせいじゃない!!一番悪いのは……最凶とか周りに宣っといて、役立たずだった私なんだ!!≫

≪えへへ、違いますよ……それに私、幸せなんです。だって■■■さん達は私のこと、沢山愛してくれるから。≫

≪えっ……何、ソレ……。≫



「………………………。」

「ッ……何なんッスか、ソレ……その子、彼奴等に玩具みたいに扱われたって訳ッスか?有り得ない……1人の女の子の人生支配しようとしていたとか、ガチで巫山戯てるッスよ!!!」

ユキムラ君は見るからに激昂している……無理も無いよね。ユキムラ君には妹がいるし、もしも妹ちゃんがこんな酷い目に遭ったらって考えたのかもしれない。
拳を作ることで沸き上がる怒りを押さえ込んでいたけど、爪が手の平に深く食い込んでいたのか、指の間から血が滲み出て来た。慌てて私は「血!血出てる!」と指摘した。

「うぉ、何時の間にか血出てる!俺そんなに拳強く握っていたんスか!?」

「秘技・アルコールスプレー。」

「い゙っ!やっぱり滲みるッス!!」

「だーよねー。ごめーんね?」

「いやいや謝らなくて良いんスよ。傷が悪化しないように処置してくれたのに、謝る方が可笑しいッス……で、その子今どうしているんですか?病院にずっと……とかじゃないですよね?」

「それは大丈夫。私の友達に凄腕(と書いて「へんたい」と読む)の名医がいてね、その人に頼んで元の体に治してもらったわ。記憶とかも綺麗に消すことが出来たから、トラウマとかもないの。だけど……私がせっせと貯めてた一万円札が大量に消えた。ちくせう、今度彼奴等と交戦になったら、その穴埋めしようかな。」

「えぇ……その名医、リアル大◯未◯子か間◯男か何かッスか?治療費は4000万とか?」

「けどそれで正常の範囲に戻せるなら、安い方じゃない?しかもリハビリとかが全然要らないという最強仕様。治療費の詳細は言えないけど、まあそんなもん。超絶高額医療ですの。その子にはこの前会ったけど、元気にしているみたい。あの変た……あの名医は相変わらず執刀いっぱいちゅきドクターだった。」

「(最後変な言葉聞いたような……。)へぇー、そうなんすか!なら良かったッス!あっ、モフモフ仮面から借りてたアニマルなビデオ返しに行かなきゃ……んじゃ、俺はここで!また明日ッス、ルイン君!」

「うん、また明日!!」




≪成る程……あれが、スパーコナ。≫
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