片翼の転生者

次に見えたのは鉄格子……え?捕まったの?刑務所?何罪なのあたし?

と思ったら一瞬で景色が変わる。薄い空色の天蓋付きのベッドに焦茶色のベッドチェスト、黒いドアと色鮮やかなステンドグラスだけの殺風景な部屋。そこにあたしは……片方の足首をベッドの骨組みと繋がっている鎖で拘束されていた。
オイちょっと待て、これ孫と一緒にやったゲームとかでよくあるパターンじゃね?ホラーや闇深い恋愛ゲームとかでよくあるパターン!!



≪えっ……なんで、こんな……。≫

≪分かってくれ、詠導。≫

≪やっ、やだ、やだぁ……嫌っ!嫌っ!何で、私だけ……!≫

顔は分からない……畜生が、探偵に依頼すら出来ねぇ!

≪こうするしかない……お前を二度と傷付けない方法は……これしか無いんだよ、詠導。≫

マジで何言ってんの。正に会話のドッジボールってか?笑えねぇ!!

≪そ、んな……■■■君、助けて!私、こんなこと…望んでない!!≫

≪……ごめんね。俺…君に二度と…痛いことも、哀しい思いもさせたくない。今度こそ……怖いことから護ってあげる。≫

今度こそ……?何か含みのある言葉のような気が……。

≪ッ…!ね、ねえ…■■■君は、こんなの可笑しいって……思っているよね!?だって―≫

≪何を言っているんですか?あんな醜い、薄汚い、人間以下の連中が……貴方を穢すなんて、万死に値するんですよッ!そんな連中に搾取されても赦しを与える貴方は本当に慈悲深い……だからこそ、僕達の寵愛を受け続けて下さい。命が尽きるまで……貴方だけに捧げますから!!≫

丁重にお詫びの手紙と熨斗つけて断るわ、バーカ!

≪あ、ああっ……ね、ねぇ…■■君は、違―≫

≪んー……おれも、みく、すき。だから、ここ、ずっといよう?ずっと、ずっと、ずっといっしょ!ご飯食べるのも、遊ぶのも、寝る時も……一緒にお墓に入るまで、ずうっといっしょ!!≫

やだなにこいつ、純粋な奴が一番恐ろしいってか!?

≪やだ……みんな、おかしいよ!……■■■、さ―≫

≪お願い、傍にいて……アタシは、それ以上も、それ以下も望まない。だからアンタは……アタシ達に縛られあいされていればいい。だってアンタは……アタシ達にとって―≫



『うわぁぁぁぁぁッ!!!』

「詠導様……!」

「詠導ちゃん!」

「ミクちゃん…!」

「詠導……なあ、お前は―」

『死に晒せクソ野郎がぁぁぁぁ!!』


ドンナを突き飛ばしからのあたしの怒りの右アッパーがクリーンヒット。これが……この世界でのあたしの過去?巫山戯んな!!この世界でのあたしが何したって言うんだ!野郎共に監禁される覚えも微塵もねぇ!!


『巫山戯んな巫山戯んな巫山戯んな!何なんだよテメー等!あたしは絶対にテメー等許さん、絶対にだ!!』

「わあぁぁ!詠導ちゃん落ち着いて!!」

「流石に暴力は駄目ですよ!!」

「流石詠導様です。流れるようなその身の熟し……美しい。」

「いいぞミクちゃん!ドンナの狐面ごとブチのめせ!つーかもっとやれ、イヤッハー!!」

「ざけんなルイン!!」

「ねえ、あれヤバくない?ボス伸されていない?最早フルボッコ?」

「かくなる上は僕が彼女を―」

「それを全力で阻止してやるー!」

「るー!」

「ッ、しつこいですよ……だから君達みたいなクソガキは嫌いなんですよ!」

「ゼクト!ロキとメーディアはクソガキじゃーねーぞ!よーせいと人工せいめいたい?なんだぞ!」

「訂正しないでいいのよ!というかヴォルフ、こっち手伝いなさい!モフモフ仮面の部下が鬱陶しいったらありゃしない!!」

「モフモフ仮面の部下って言っても、野良猫や烏位じゃ……ぎゃぶえぇ!!何で熊ァ!?どうせならかわいい方の熊さんがいいのに!」

「えっ、待ってチヨちゃん……あれ、ただの熊じゃない!ハイイログマ!グリズリーだぁぁぁ!!」

「というか何であの人ステゴロで熊と対等にバトっているの!?」

「ヒント:パワー5。」

「ルインちゃん、それはヒントじゃなくて最早答え。成る程、ゴリラか。」

「誰がゴリラよ!アタシはアイツみたいに繊細じゃなくて図太い方よ!」

「真面目な自己申告。」

「というか、グリズリーが何でいるんですか?!アレって北アメリカが生息地の筈じゃ……。」

「泳いで来たんじゃね?知らんけど。」


カオスな空気をBGMに、ドンナをフルボッコするのに全集中しているあたし。怒りのボルテージがカンスト寸前の今なら、黒い閃光や渦桃からの爆血繰り出せそうだ。おば◯つはいいぞ。ぜん◯ずも好きだ。

『おいコラテメー、あたしをあんな目に遭わせた罪は重いぞ。』

「嗚呼、そうだな……だから俺達は―」

『あたしはあんなこと頼んでいねぇわ!!』

「…………これ以上の説得は無駄骨みたいだね。皆、帰るよ。」

『おい、逃げるな!あたしに何が―』


あたしが何か言う前に、ドンナは懐から鈍色のコインを取り出し地面に叩き付けた。その瞬間、ドンナを含めた狐面の不審者達が消えた。テレポート用の魔道具まで持っているのか……凄まじく不思議なギャグ世界か。

「え、詠導ちゃあん……よ゙がっだ!!よ゙がっだあぁぁ!!」

「変なことされてないですよね!?エロ同人みたいなこと、されてないですよね!?」

さてれないから安心しろ。両側から泣きじゃくられて揉みくちゃにされそうです。

「逃がしちまったか……おーいモフモフ仮面、帰るどー。」

「ハッ!俺としたことが!モチコ、帰るザマス!!」

「んじゃ、まったねー。私は後でミクちゃんのお家に行くからねー。」

『えっ?何で!?』

「………真面目なお話、だから。」


レナとチヨちゃんと別れ、愛しの我が家へ帰宅したあたし。そこには天音さんと某エレガントを求める初老の男性が、ソファーでエレガントに紅茶を嗜みながら待機していた。判断と行動が早すぎる。天音さんもスーツ着ていて真面目な空気だ。

『た、ただいまー……お、お客様?』

「お帰りなさいミク!大丈夫だった!?」

「天音さん達から、狐面の不審者達、基ヘルヘイム…って輩に遭遇したって聞いた時は、生きた心地がしなかったよ……兎に角、無事で良かった。」

「やっほーミクちゃん、さっきぶりー。」

「久しいな、詠導君……あの出来事以来、こうして顔を見ることも出来なかったから嬉しい限りだ。」

『ど、どうも……。』

「さて、先程の提案なのですが……承諾しては頂けませんか。私共としても、詠導君の身の安全を確保する所存です。あのようなことを、二度と起こさない為にも……。」
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