トラブル魅惑のマーメイド?

NO SIDE

レナの叫びが公園に響き渡る。彼女にとって大事な友人であるミクが、初対面の男達に好き勝手言われるのが耐えられなかった。
例え彼女が友人であった自分やチヨのことを覚えていないとしても、自分にとっては憧れの人であり大事な友人の1人だ。

レーゲは怒りに震えていた。初対面の相手に自分達の都合を悪だと決め付けられていることに。自分達にとって最愛の少女をやっと見つけた。二度と離すものかと誓った。それなのに、目の前の少女は…まるで自分が正しいと言いたげな顔で反論してきた。


「巫山戯るな、だと?それはコッチの台詞だよ。お前等に何が分かる。オレ達と詠導の関係が。」

「分かんないよ!それに詠導ちゃんはあんた達のこと全部忘れているの!関わらないでよ!」

「…………本当に覚えていないのか?」

『だから…何も覚えていないんだっての!しつけーんだよ!!』

「…………嗚呼、本当に……何にも覚えないのか。」

「そ、そうです!だから―」




「なら、やり直せばいい!惜しげも無く、絶え間なく、何度も、何度も……狂おしい程の愛を、二度捧げればいいだけ!オレ達はこの愛を……お前だけに捧げると決めたんだよ、詠導!」

『ッ…!!』

強引にミクの手を取り自分の胸に引き寄せるレーゲ。狐面越しに彼から自分へ向けられる「異常な愛」を感じ取り、顔が強張り全身に戦慄が走る。
それを見たルインは彼女を護ろうと武器を手に走り出すも、それを鳥兜の花飾りの着いた狐面の男に阻まれる。

「邪魔すんなゼクト!テメーごとぶった斬ってやんぞコラ!」

「やってみてくださいよ。尤も多勢に無勢ですけどねぇ?」

「なんだとー!私達だって戦えるぞー!」

「ぞー!」

「なんだなんだ?遊ぶならおれもまぜろ!」

「もー!遊びじゃないの、邪魔しないで!」

「でー!」

「おのれヘルヘイムゥゥ!行けぇぇ烏軍団!猫軍団!モチコはボスを狙えぇぇ!!」

「カァ!カァカァ!!」

「ちょっと、なんなのよ!やだ、髪啄まないで頂戴!」

「ニャーーー!!!」

「なにこれ、うざい……痛っ!服に爪立てないでッ!!」

「シャーーー!!!」

「おやおや……あんまり燥がないでおくれ。」

「ぐるなぁ〜ん……♡」

「嘘だッ!猫軍団のボス・モチコがヘソ天してハート飛ばしているなんて……なんてうらやま、ふざけんなよ!モチコ、カムバァァック!」

「本音がダダ漏れですよ!?」

「み、ミクちゃん……やだ、いかないで!!」

『っ、チヨ!今すぐレナを連れて逃げろ!コイツ等、マジでヤバい!!』

「で、でもそれじゃミクちゃんが!」

『あたしのことはいい!だから誰か呼べ!このままだと―』




「そこまでよッ!!」

混沌と化した公園。自らへの偏愛を語る男に惑う少女。少女を助けようとする者とそれを阻む者。戦う意志を示す幼子達を阻む者。動物達と共に自分のなすべきことを全力で遂行する者とそれに巻き込まれる者。その全てを制する声が上がる。声の主は熨斗目花色のロングヘアーに同色の瞳を持つ少女。威風堂々たるその佇まいは、宛ら先陣を切る戦士だ。
レーゲが戸惑った隙にルインはミクに近付き距離を置くことに成功した。

『……?』

「そこまでよ、ヘルヘイム!」

「トーコちゃん!」

「ちゃん!」

「おやおや……スパーコナのリーダーさんが直々にお出迎えですか。」

「トーコちゃん……。」

『えっと……誰?』

「……本当に、私のこともみんなのことも忘れちゃったのね……それでいいのよ。あんな陰惨な記憶なんて、覚えていない方が良い。他人の悪意や負の感情に巻き込まれ、苦悩して泣き腫らして、その挙げ句に……ヘルヘイムのアンタ達から歪んだ愛に沈められかけた過去なんて、忘れたままでいて。どうか……何も思い出さないまま、あなたは幸せに暮らして欲しい。あなたは何も知らないまま、このまま私達に関わらないで日常を過ごせば―」

『それは無理。あたしはあたしを貫く為にここにいるから。』

「っ!!」


呆気羅漢と、至極当たり前のような声で返答するミク。それは「嘗ての彼女詠導ミクを知る者達」にとっては有り得ない言葉だった。唯一それを見て平然としているのはルインだ。

「何で、どうしてそんなこと……!」

『記憶喪ったのは事実だし、昔のあたしに何があったなんて正直知りたくない……それでも、あたしが原因でコイツ等が好き勝手するって言うんなら……あたしはコイツ等をぶん殴る権利がある!』

「む、無茶苦茶ですよ!あなたがまた…あんな目に遭うくらいなら、私が!」

『あたし、友達とかが何かの犠牲になろうとするの嫌いなんだよ。だから無理。あたしだけ幸せに暮らすのは無理。つーか今すぐ彼奴等ぶん殴って平和にさせろ。』

「おっ、殺る気満々か?メリケンサック貸そうか?」

「ピコハンでもいい!?」

「いー?」

「モチコォォォ!!あんな胡散臭い男の何処が良いんだァァァ!!!」

「まだやっていたんですかそのコント!?」

「…………ふふっ、ふふふ。」

『あっ?なーに笑ってんだ?』

「詠導……お前は矢張り、俺達の傍にいなくちゃならない存在だ。ずっと、ずっと、ずっと……何れ訪れる別れの時まで、お前だけに、変わらぬ愛を捧げ―」

『巫山戯んな、お断りだよバーカ!!』

「寧ろ爆発四散しろよ拗らせ馬鹿。」

「そんなに死に急ぎてぇかルイン。何なら―」

「やめなさいレーゲ……ここまでにしよう。」

「はっ?」

「何言ってんのドンナ。ここまで来て手ぶらで帰れって言いたいの?」

「寧ろ好機じゃないですか!詠導ミクを籠絡して、ルインとスパーコナの奴等も完膚なきまでに潰してやりましょうよ!!」

「おれもてぶら、やだ!このままみく、連れていく!」

「お黙りアンタ達!これ以上頓着起こしたら―」




「詠導様ッ!!!」

混沌がさらなるカオスを呼んだ。誰がそんな上手いこと言えとツッコミを入れる間もなく、猪突猛進の如き勢いで何らかの物体がミクに接近してきた。慣性の法則宜しくにその勢いに押し倒されるミク。彼女を押し倒したのは小麦色のミディアムヘアに藍白色の瞳の女性。オフィス街を颯爽と歩くお洒落なOLの服装を纏うその人物にミクは心当たりしか無かった。


『えっ…もしかして……リリアちゃん!?』

「ハイそうです!リリアちゃんです!」

「誰ッ!?」

『え、何で!?だってリリアちゃんは確か、ワニゾーの……えっ??』

「ワニゾー様から貴方の助言役として仕えるよう御命令されましたので、張り切って素敵な御召し物を用意してここに来ました。ところで詠導様……これはどういった状況なのでしょうか?」

純粋に湧き出た疑問に対し、ミクは全てを悟ったような声色で答えた。


『カオスだ。』

自分を主人公と宣う脳内お花畑女。知らない奴等によってバラ撒かれたヤンデレ監禁メリバフラグ。それをブチ壊そうとする何か変な人達。そして何故か地上に下り立った神様ワニゾーの使い・リリア。

果たしてミクは、このカオスな状況を打破出来るのだろうか!?


続く
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