少女、覚醒める

ミク視点

目覚めたらそこは白い天井だった。そう、ここはとある病院の個室だった。

瞬きをしながら辺りを見回すと、そこには赤い髪に金色の瞳を持った四十代の女性。その隣には白髪混じりのチャコールブラウンのショートに暗紅色の瞳を持った女性よりも少し年上の男性。

嗚呼、忘れもしない……この2人は……あたしの両親だ。

だかしかし、いきなりおふくろや親父と言ったら心臓に悪いと考えたので、あたしはベターな呼び方をすることにした。


『お母、さん……お父、さん……?』

「ミクッ!!」

「あ、あああ……よかった!!よかった!!」


子供みたいに泣きじゃくるおふくろ。嬉し涙を流しながらナースコールを押す親父。ナースコールで呼ばれた看護師さん。そこに偶然お見舞いに来ていたこの世界でのあたしの友人らしき2人の女子(見た目は某世界で一番カァイイ普通の女の子とその子と恋バナをしようと向き合った女の子)が固まっている。

『………………(カオス。)』


意識が回復したから即退院とはいかず、身体的動きやら脳の機能に異常がないかどうか等の精密検査を受けた。結果は身体的や脳機能の異常は見つからなかった。奇跡。


ただ、この世界でのあたしの今までの記憶は失ってしまった。それが……この世界であたしが生きる為の「代償」だから。

おふくろは担当医に「どうにか出来ないんですか!?」と必死に縋り、親父は「止めなさい。一番ツラいのはミクなんだぞ。」とおふくろを抑えている。正直、2人を騙しているような罪悪感に苛まれる。あたしは確かに詠導ミクだけど、「この世界での」詠導ミクじゃない。別の世界あたしが、この世界での詠導ミクの肉体を借りている。その事実だけは、消しちゃいけない。忘れちゃいけない。あたしは……もうひとりのあたしの人生を、背負っているんだから。


「ミク……泣いているの?」

『えっ……。』

無意識にあたしは泣いていた。自分の行動のせいで泣いたと誤解したおふくろは「ごめんなさい……本当にツラいのはあなたなのに。」とあたしに向き合い謝った。謝るのはあたしの方だ。目の前にいるのは、おふくろの知っているあたしじゃない。あたしは……親を、唯一無二の家族を、騙しているんじゃないかって考えてしまう。


『ッ……ごめんなさい……あたし、あたし……何にも、分かんないんだ。』

「いいの、いいの!あなたがこうして生きていてくれるなら、記憶なんて……!」

「そうだぞミク。今までの記憶を喪ったとしても、私達は家族であることは変わりない。これから新しい思い出を沢山作ろう。例えお前が私達のことを覚えていなくても、私達は家族だ。これだけは、何があっても絶対に変わらない。」

『お父、さん……』

あたしは年端もいかない子供みたいに泣いた。おふくろもつられてさっきより泣いた。親父は静かに涙を流した。3人で泣いた。担当医の人は「これから楽しい思い出を作っていって下さい。」と温かい言葉を掛けてくれた。


……この2人があたしの親で良かった。だから決めた。あたしの正体を、親には話そうと。



我が家(?)に帰って色々荷解きや一休みを置いてあたしは親に自分の正体を正直に話した。

この世界でのあたしは既に亡くなっていること。

今いるあたしは別の世界の詠導ミクであること。

この世界でのあたしの心残りを解決する為にあたしがここにいること。


流石にワニゾーとかいう神様によって転生したことは黙った。色々な情報がいきなり出て来たし、何より神様―人によっては地雷たる存在を今は明かすわけには行かないと思った。

暫く目が点になった親父とおふくろは段々優しい顔になり、「ありがとう。私達の元に戻って来てくれて。」や「どんな世界のあなたでもいいわ。こうしてまた家族3人で暮らせるんだから。」と優しく抱き締めてくれた。

『……ありがとう。親父、おふくろ。』

正直に話して良かった……よーし、吹っ切れた!あたしはこれからこの世界であたしらしく生きてやる!この世界での過去のあたしとのギャップや「チガウ、コレジャナイ」なんていう外野の言うことなんざクソ喰らえ!

これがあたし、詠導ミクなんだからな!



退院して数日後、この世界で通っている高校へ再登校すんのかなって思ったけど、どうやら親父の仕事の都合で引っ越すようだ。
おふくろはどこか安心している様子……マジでこの世界でのあたし、どんな人生歩んできたの?

あっ、何かライム(※LI◯Eのようなツールをイメージしてもらいたい。)……この前病室の前で会った2人の女の子のどちらかだな。
内容は「話したいことがあるから近くの公園に来てほしい。」……大丈夫だと思うけど、一応なんかあったらこのデッキか合気道で捻り潰す所存だ。



「詠導ちゃん!!」

「引っ越すって本当なんですか!?」

『あー、もう知っているんだ……。』

「今日担任の先生からいきなり言われたんだよ!詠導ちゃん、本当に引っ越すの!?」

「わーん、私は嫌ですよー!折角私とレナちゃんとミクちゃんの3人で「チーム・キュートマシンガン」でヴァンガードの全国大会行くって夢が無くなっちゃいますーー!!」

引っ越しは決定事項だったようだ。
キュートマシンガン……ネーミングセンスがちょっとアレなのは触れないようにする。

『……あたし、本当に何にも覚えてないから……何も言えないんだ。でも……約束、守れなくてごめん。』

「そんな謝んないでよ!詠導ちゃんだって事故に遭いたくて遭ったわけじゃないし!」

「うう……でも私達、本当にお友達だったんです!これから高校や大学、会社員や結婚してもこうして3人で遊べる仲良しになる予定だったんですー!嫌ですー!離れ離れになるなんて……あんなことになるのは、もう沢山なんです!!」

何やら重要そうなことを話している様子だが、残念ながらあたしは何にもピンときてない。鈍いとかじゃなくて何の話なのかさっぱり分からないんだからしょうがない。

と、思っていたら…なーんかイヤな予感が……えっ?何か、急に雲行きが怪しくなってきた?天気予報一日中晴れだって言っていたのに。

「え、詠導ちゃん…!」

「あわわわわわ……!」

『ん?どうした2人共?何か変な格好したおっさんでもいたのか?』
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