香木の花が散り、すっかり風も秋めいてきた昼間、シキミさんからポケスタグラムを経由した依頼でぺリッパー便で魔法瓶2つと地図とスタッフ証が届いた。ヒトモシのシールが貼ってある方がシキミさんのものでもう片方はカトレアさんのものだそうだ。明日その中にホットの紅茶を入れてポケモンリーグに届けることになった。まさか本当に届けることになるとは思わなかった。
朝早くから車を飛ばし23番道路を走り抜けてチャンピオンロード手前のポケモンセンターの横につける。中にいるジョーイさんにスタッフ証を見せてチャンピオンロードをショートカットさせてもらいポケモンリーグの裏側へ入る。なんだか少し緊張している。地図を片手に扉をノックして入るとルーレット盤のような絨毯が特徴的でその中央の黒い高そうなソファーにはギーマさんが座っていた。
「おや？今日は挑戦者はいなかった筈だが」
「すみません、業者ですが部屋を間違えました」
急いで部屋から出ようとすると笑いをこらえたような声で話しかけられた。
「もしかして、きみはいつぞやのわたしのワルビアルによろしく伝えてくれと言っていたトレーナーか。誰に用があってここまで来たんだ？」
ちょっとショッピングモールで話しただけの人間を覚えているとは。四天王の人覚えの良さが怖い。
「そうですが、本業は紅茶屋さんです。シキミさんとカトレアさんに紅茶を届けに来たところ、地図を逆さに持っていたみたいでして」
エプロンのポケットからショップカードを取り出して渡す。営業は大事だ。
「仕事中なら勝負はお預けだな。正しい地図があるならわたしの案内も必要ないだろう、また今度だ」
ひらひらと手を振られたので一礼して部屋を出る。魔法瓶だから紅茶が冷める心配はないのが救いだ。
ノックして入った部屋には本が載った大きな机がありシキミさんが書き物をしていた。よかった、着いたらしい。
「紅茶屋さん、待ってました！多分眠っているのでカトレアさんの分も受け取っちゃいますね」
お代は既に2人とも頂いてあるので紅茶を渡す。
「ありがとうございます、ミツハニーの蜜もどうぞ」
ガムシロップのような容器に入ったミツハニーの蜜も渡す。普段お店ではジャーを使っているが、持ち運びには便利だ。デリバリーが増えたら活用していくのも考えたい。
シキミさんがどこからか椅子を持ってきた。
「それじゃあ、あなたとキュウコンのお話、聞かせてください」
まさかギーマさんも紅茶を届けた先で取材されているとは思っていないだろう。改めてキュウコンとのことを話すのはなんとなく照れくさい。