香木の花が咲き、朝夕が肌寒く、ホットの紅茶が売れるようになってきた今日この頃。スツールに座っているキュウコンの毛皮も真夏より心なしかもっふりとして見える。今日はビレッジブリッジで営業中だ。お客さんによると、以前はここでサンドイッチ屋さんが出店していたらしい。今はホウエン地方で出張販売をしているとのことだ。
「こんにちは。ホットのミルクティーください。」
紫色の髪の女性がやって来てキュウコンの隣に座る。四天王のシキミさんだ。最近四天王の方と縁がある気がする。
「少々お待ちください。ティーカップでのご用意もできますけどどうしますか？」
紫を基調としたカップを見せながら訊く。
「お願いします！」
カップを温めて紅茶とモーモーミルクを調理する。
「お待たせしました」
「いただきます」
シキミさんはふうふうと息を吹きかけて冷ましながらミルクティーをひとくち飲む。ほっとその顔が緩んだように見えた。
「美味しいです。ところで、このキュウコンはあなたのポケモンですか？よく育っていますね！」
「ありがとうございます」
紅茶を誉められるのもキュウコンを誉められるのもとても嬉しい。
「アタシ、ビビッと来ちゃいました！あなたとキュウコン、取材させてください！」
シキミさんは万年筆とノートを取り出す。
「挑戦者ではないですけどいいんですか？」
シキミさんといえばポケモンリーグ挑戦者とそのポケモンたちの絆を描いた小説が有名だ。
「いいんです！挑戦しに来てくれても嬉しいですけど」
彼女は立ち上がって勢いよくカウンターから身を乗り出してくる。
「本業は紅茶屋さんですので」
ショップカードを手渡すのを忘れない。専業トレーナーだって難しいポケモンリーグを制覇できるとは思っていない。
「これ、カトレアさんが持ってました！……あのぅ、デリバリーってこのお店やってます？締め切り前に飲みたくて」
カフェインで乗り切るタイプなのだろうか。
「予めポケスタグラムとかで連絡してもらって容器を渡していただいたら中に紅茶を入れて持っていくという形ならできますよ」
ノボリさんという前例がある。
次のお客さんがやって来てキュウコンがスツールを譲った。
「ありがとうございます！今度、お願いする時に業者さんの通るルートを書いた地図も送りますね、取材もその時に！」
その女とポケモンは紅茶の香りを身に纏っていた……呟きながらシキミさんは慌ただしく去っていった。最後の一説は私とキュウコンだろうか。