新生の翼たち
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「……ッッ」
最悪な目覚めだった。
あの胸糞悪い夢を見たせいで、私はベッドから飛び上がる様に起きてしまった。
そんな私の行動にビックリしていたのは、私の部下であるペトラだった。
「ふ、副長大丈夫ですか?」
「あ…いや、ごめん。大丈夫」
変な所を見られてしまって恥ずかしい。
絶対変な上司だと思われてしまった。
周りを見渡せば、見慣れた光景だった。
つい最近も、部下を庇って右腕を怪我した時に訪れた場所だった。
ペトラは訝しげな表情をしながらも私の右腕を取り、何かをしている。
「ペトラ、何をしている?」
「副長、沢山怪我をしているんですよ」
そう言われ、私は自身の体を見る。
右腕、左腕両方には包帯が巻かれていた。
「それだけじゃありません。背中に大きな傷があるんです」
“後ろを向いて下さい”と言われ、私は大人しく後ろを向く。
なんか、ペトラが苛立っている様子に見える。
こういう時のペトラには、刺激を与えない方が良いと前からオルオに言われていた。
だから、今回は大人しくしておこう。
やはり、怪我をしていたのは薄着だったせいだ。
兵団内の服は、丈夫に作られている。
戦闘の際、大きな物体(家の煉瓦、木の枝)などが飛んできても、怪我をしないように。
「リヴァイ兵長、とても心配していました」
私の手当を続けながらも、ペトラは静かに口を開いた。
私はただ、彼女の言葉に静かに耳を傾ける。
ペトラ「兵長から聞きました。また体力が無くなって倒れたのだと。
それに、吐血していたそうですね」
「…体力が無くなって気絶したのは自分でも分かっていたけど、吐血していたのは初めて知ったな」
「副長はいつも自分に無頓着すぎです。
いくら副長がすぐ怪我が治ると言われても、私たちは心配です」
リヴァイ班のみんなには、他の兵士達よりも私の怪我を多く見てきた。
何回も、彼らの目の前で怪我をしてきた。
そして、その度に手当をしてもらう。
その度に、部下たちに叱られていたっけ。
「ごめん」
「そう言いながらも、貴方はまた怪我をしますよね。怖いんですよ」
「それは、私が死ぬかもしれないから?」
「はい」
背中に巻いていた包帯を解く手が、震えている気がする。
リヴァイ班の中でも、唯一の同性同士。
ペトラとは、部下の中で一番仲良しな関係だ。
彼女をなだめるように、手を重なる。
常に怪我をして、その度に心配させてしまうのは申し訳なく思う。
だけど私は、君達と比べてとても体が丈夫だから大丈夫。
怪我はすることはあれど、治りは早く。
痛みはあれど、それはすぐ過ぎ去る。
「…見て、ペトラ」
包帯を解き終えたペトラは、息を詰める。
背中の大きな傷は触った感じ、ほぼ傷は無くなっているようだ。
腕の細かな傷はまだ、跡は残っているが。
「もう、治っているだろう」
「…はい」
そのままペトラは包帯を完全に取り、専用のゴミ箱へと入れた。
「…私たちがトロスト区に到着する前、兵長は一足先に壁内へと入っていきました。
そして、私たちが到着した頃、兵長は貴方を抱えて来ました」
満身創痍なグレースの姿、口からは血が流れ、顔を真っ青にさせている。
リヴァイの表情は暗く、兵団内の誰もが最悪な未来を想定してしまった。
「貴方の姿を見た私たちの気持ちが、理解出来ますか…?」
そしてリヴァイはそのまま、羽織っていたマントを私にかけ、医療班の者に治療を頼むと、再び戦場へと戻って行った。
ペトラ達も本当はグレースの元にずっと居たかった。
しかし、そんなのは許されない。
彼らは、兵士だから。
その肩書きがある限り、自分勝手な行動は許されない。
「巨人の掃討を行っている間、私は気が気じゃありませんでした。
オルオ達もそうです。兵長も多分、そうだったと思います」
トロスト区に残っていた巨人の掃討は、丸一日費やされた。
固定砲の火が吹き続ける中、彼らもずっと戦い続けた。
「今、トロスト区襲撃から三日経ちました。
その間、貴方はずっと眠ったまま。
私達が貴方を呼び続けても、反応せずにただ眠ったままの状態を見て、私たちは…ッ」
苦しそうな顔をしながら話していたペトラは、涙を流しながら私を攻める様に見てくる。
部下をこんなにさせてしまって、私は本当に上に立つのに向いてないな…。
顔を隠して泣いているペトラに、私はただ抱きしめることしか出来なかった。
「ごめん、ペトラ……」
これしか言えない。
安心させてやることなど出来ない。
多分、これからもずっと。
私は、自分の体を犠牲にし続けると確信しているから。
「それで、この3日間何があった?」
暫く私の腕の中で泣いていたペトラは、目を赤くさせながらも私に現在の状況を説明してくれた。
まず、エレンのことだ。
エレンはトロスト区奪還作戦が成功した後、地下牢にて身柄を確保されているらしい。
これからどうなるかは、まだ分からないとのこと。
一応、調査兵団はエレンの巨人の力を使ってウォール・マリア奪還作戦に向けて準備をしていきたいと思っているらしい。
しかし恐らく、憲兵団もエレンの身柄を引き取りたいと思っているだろう。
そのため今後近い日、エレンの身柄をどちらの兵団に委ねるかを決める審議会が開かれるだとか。
死者・行方不明者207名、負傷者897名。
人類が初めて巨人の進行を阻止した快挙であったが、それを歓喜するには失った人々の数があまりにも多すぎた。
「あと、もう一つ大切なことが…」
「なんだ?」
「…トロスト区に残った巨人を掃討している際、4m級一体と7m級一体の生け捕りに成功しました」
「それは…なんと言うか」
とてもめでたい事だが、眼鏡をかけた茶髪のポニーテールの人が顔を真っ赤にさせて興奮している様子が目に浮かぶ。
モブリット、また胃を痛めていないと良いのだが…。
「そろそろ私は失礼します。暫くは安静にしていて下さいよ」
「分かってるよ」
ペトラはそう言って医務室から出て行ってしまった。
やることも無くて、暇だな。
今度誰かが来てくれたら、自室にある本を持ってくる様に頼むか。
ベッドから降り、窓を開ける。
時は夕刻。
ここから見る世界は平和で、3日前に巨人の襲撃があったようには到底見えない。
当事者でない人は、今でも平和に過ごしている。
死んでいった者たちのことを、何一つ気にする事なく過ごすのだ。
自分は関係ないのだと思いながら。
風に乗って仄かな花の匂いが流れてくる。
その匂いが好きな私は、思わず窓の外に顔を出す。
「病人が何やってやがる」
「リヴァイ…」
扉に寄りかかり、こちらの様子を眺めている私の上司。
窓の外に出していた顔を引っ込め、リヴァイの方に振り向く。
リヴァイはそのまま部屋に入ってくる。
手には、私の自室に置いてある2冊の本が。
「本持ってきてくれたんだ、ありがとう」
「お前はどうせこれを望んでいただろう」
口は悪いが、リヴァイが私のためにしてくれた行為に、心が緩んでしまう。
「さっきペトラに大人しくしていてくれと言われたから、暇していたんだ。ここに置いておいてくれ」
ベッドのすぐ横にある机を指で示す。
リヴァイは手に持っている本を2冊置き、近くにあった椅子を手で手繰り寄せ乱暴に座る。
「怪我の様子は」
「ほとんど傷はない。さっきペトラに背中の傷見られたんだけど、もう治っていて驚いていたよ。
やっぱり、私の怪我の治りは早いな」
私の言う言葉にリヴァイはただ黙ってこちらを眺めながら聞いている。
それが何となく気まずいなと思いながらも、話していく。
「104期訓練兵は本当に運が悪かった。
まさか、解散式の翌日に巨人に襲撃されるとは…」
みんなまだ若いだろう、大体15〜17の年齢か。
トロスト区奪還作戦が成功しても、喜んでいる暇なんかなかっただろう。
沢山の仲間たちが死んでいった。
それは、新兵たちもだ。
作戦が終わった後、次に待ち構えているのは“遺体回収”だ。
私たち調査兵団は慣れている。
壁外調査に行く度に仲間が死んで、その遺体を持ち帰って、家族達に罵倒される。
慣れてはいる。
それは、涙や吐いたりしないという意味であって、心理的に慣れたというものではない。
心が完全な無となってしまう時間だ、遺体回収は。
「巨人共は、空気を読むことなんざ出来ねぇだろ」
「元々空気を読むことが出来たのなら、そもそも私たちを喰おうとは思わないだろうな。
こっちの心の状況も知ろうとしないで。
とりあえず、新兵達の心が不安だ」
「…お前は新兵共の心配をするんじゃなくて、まずは自分自身の心配をしろ」
「なに、心配してくれてるの」
「そうだ」
リヴァイが珍しく素直に言ったことに驚きを隠さずに、目を見開く。
そんな私の様子を無視しながら、淡々と言葉を紡いでいく。
「色んな兵士から聞いた、副長は巨人を多く討伐し、エレンを排除しようとする駐屯兵の前に立ち塞がり、そいつを守った。
そして作戦成功に大きな貢献を齎したとな」
「照れるな」
「だがお前は、またこうして横になっている。
今回の壁外調査を同行禁ずることでお前の悪い癖は直ると思ったんだがな」
腕組みをして苛立ち気に言っているように見え、目を逸らしてしまう。
というか怒っている。
私の上司が怒ったら本当に怖いから、この場から逃げ出したいと思ってしまう。
窓から飛び出てやろうか。
「おいこっち見ろ。
人と話す時は目を見て話せと教わらなかったのか」
「…」
顔を背けたことについて余計に苛ついたことで、リヴァイは私の頬を掴んで無理矢理元の方向へ向けさせられた。
…だけど、仕方ないじゃないか、リヴァイ。
あの場で一番戦闘経験があって強いのは私だ。
私が前に出ないで、誰が前に出るんだ
そうやって言ってやりたいが、今は下手に反抗しない方が良い。これは経験談だ。
作戦実行前に言われた、ピクシス司令の言葉。
【今この場において、一番頼りになるのはお主しかおらん。頼んだぞ】
その言葉に、私は答えようと今回頑張ったつもりだ。
それなのにこの言われようは酷いと感じる。
いや、リヴァイは口に出して伝えるのが下手くそだから、言えていないだけかもしれない。
そうと信じたい。
「別に前に出ることが悪いと言ってる訳じゃねぇ。他の奴に頼れと言ってるんだ」
「分かった、今度からそうする。
でも、あの時みたいな状況の時は私が前に出るしかなかった。それだけ理解してくれ」
「…チッ」(どうせお前はまた無茶しやがる…)
「で、リヴァイは怪我ない?」
「あの時確認してただろうが」
あの時というのは…リヴァイが先に壁内に戻ってきたら時のことを言うのかな。
確かにあの時確認したが、それは外見だけで兵服とかで隠されている部分は分からない。
「問題ない。それよりさっきから気になっていたんだが、それはペトラが持ってきたものか?」
「ん?」
リヴァイが指差した方向を見る。
リヴァイが指差していた方向は、窓に向かって置かれてある机の上だった。
そこには、私がさっき見た夢の中に出てきたものとまるで同じでー
「…なぜ」
一本の赤い彼岸花が、置かれていた。
「ペトラがそんなものを持ってくるとは思えねぇが…」
ペトラがこんなものを持ってくる訳がない。
そんなの、リヴァイと私も分かっている。
彼岸花
花言葉は悲しき思い出。
お見舞いに持ってくるのに最適な花言葉を持っていない。
ペトラがお見舞いで花を持ってくるのであれば、彼女は私が大好きなシノグロッサムを持ってくる筈だ。
「ペトラじゃない」
「…こっちで処分しておく」
リヴァイは机の上に置かれている彼岸花を手に取る。
私はそれを静かに見つめながらも確信したのだ。
【さっきのは、夢ではなかった】と。
リヴァイは彼岸花を持ってそのまま医務室から出て行った。
あの夢のことを思い出してしまった私は気味悪く思い、さっさと寝ることにした。
また夢の中に彼女が出てきたらどうしようかと思ったが、何事もなく次の朝を迎えた。
計4日間休んでいた私は、久々に自室に戻った時自身の机の上に置かれている莫大な量の書類を見て、頭がふらついてしまった。
今回のトロスト区襲撃についての報告書類を中心に書かなければならないことが多かった。
最初は真面目に、正直に書いていた私だったが、あまりにも多すぎる書類にリヴァイに泣き言を言いに行ったが
“怪我する方が悪い”
と蹴り出された。
その時にリヴァイに伝えられた言葉。
エレンをどの兵団に託すかを決める審議会が一週間後に行われることになったと聞いた。
それについてエルヴィンから話があるそうだから、昼頃に彼の執務室へ向かえと。
書類を片付け、昼食をとった私はエルヴィンの執務室へと向かった。
この前エルヴィンに言われた言葉を忠実に守り、私は彼の執務室の扉をノックしてから入室した。
「怪我は大丈夫か?」
「すぐに治った。それで、審議会について何か用?」
「ああ。まずは、エレンから聞いたことを君に話そう」
“座るといい”と言われ、大人しくソファーに座りエルヴィンの方へ顔を向ける。
今現在、エレンの身柄は憲兵団が受け持っている。
元々エレンの首に掛けられていた鍵があったが、実はそれは彼の生家シガンシナ区のイェーガー先生の地下室、そこに巨人の謎がある。
エレンの生家を調べる為には、シガンシナ区ウォール・マリアの奪還が必要となる。
破壊されたあの扉を塞ぐ為には飛躍的手段、彼の巨人の力が必要になる。
だから私たちは、何としてでもエレンを調査兵団へと引き入れたい。
憲兵団に引き渡されたら、また一から始めることになってしまう。
そう、何としてでも彼を引き入れなければならない。
どんなことをしてでもー。
「私の考えでは、エレンを引き入れたらリヴァイと君の監視下に置くつもりだ。
もし彼が、裏切ったり自我を失い暴れてしまった場合、君たちが殺すことになる」
「それは別に良いけど…」
「ああ、任せたよ。
それより問題なのが」
「憲兵団がどう出るか、ということ」
その通りだと言うようにエルヴィンは頷く。
私の予想では、憲兵団はエレンの体の構造を調べた後、彼を殺し人類の英霊となってもらう、と言いそうだ。
彼らは所詮、シーナに住んでいる貴族様を守るために、危険人物を消しておきたいのだろう。
裏から金とか貰ってそうだし…。
「しかし、ちゃんと策は用意する。
まぁ、これを出すことが出来るかどうかは審議の流れ次第だが…。
その策とは…」
エルヴィンから放たれた言葉に、私は顔を歪めてしまう。
相変わらず、彼はぶっ飛んでいる。
このイカれた発想なんて、普通の人間は思いつきなどしないだろう。
しかし、そういう人間だからこそ今までを乗り越えてきた。
それに、私が彼以上の発想を出すことんて不可能。
それなら、彼のいう策に大人しく従おう。
「…エレンが無事だといいんだが」
「それなら大丈夫だろう。彼は巨人だからな」
エルヴィンが言った言葉に、最初は意味を理解することが出来なかったが、ある出来事を思い出し確かにと思ってしまう。
エレンの左腕に通っていた、途中で千切れていた服の袖。
巨人化できるなら、エレンも巨人と同じように身体が破損したって、すぐに再生することができる。
「身体のどこかが壊れる前提で言っている?」
「リヴァイがやるのならね」
「……」
もし仮にエレンが調査兵団に入団することが出来ても、リヴァイに怯えながら過ごすことにならないか、彼。
そう言うことも出来ないまま、私は再び書類を片付けるため自室へ向かった。
ーーーーーーーーーーーーー
そして、一週間後。
私はリヴァイとエルヴィンに並んで一階の審議室へ立っていた。
今はミケとハンジが直接エレンが収容されている地下牢へと向かい、憲兵団と共にここに来ている筈だ。
あまりにも異例な審議内容なため、空気が重く感じる。
そしてしばらくして、扉を開く音が聞こえた。
扉の向こうには、驚いた顔をしたエレンが立っていた。
恐らく、審議所の地下に収容されているとは知らなかったのだろう。
立ち止まっているエレンを、後ろに控えていた憲兵団が彼の背中を持っていた銃で押しながら真ん中へと誘導する。
跪けと命令されたエレンは大人しく従い、憲兵団は鎖の間に鉄棒を付け、彼をそこから動けなくした。
そして、エレンが入ってきた扉とは別の方からある人物が入ってきた。
総理閣下、ダリス・ザックレー。
憲兵団・駐屯兵団・調査兵団の3つの兵団を総括している兵団組織のトップに立つ人物だ。
ザックレーは所定の位置に座る。
「では始めようか…。エレン・イェーガー君だね。
君は公の為に命を捧げると誓った兵士である。違わないかい?」
「はいっ…」
「異例の事態だ。この審議は通常の法が適用されない兵方会議とする。
決定権は全て私に委ねられている。君の生死を今一度改めさせてもらう。
異論はあるかね?」
「ありません」
「察しが良くて助かる。単刀直入に言おう。やはり君の存在を隠すのは不可能だった」
私はそれはそうだろうなと思いながらも腕を組み聞く。
彼の存在を何らかの形で公表しなければ、巨人とは別の脅威が発生しかねない。
「今回決めるのは君の同行をどちらの兵団に委ねるかだ。憲兵団か、調査兵団か…。
では憲兵団より案を聞かせてくれ」
「はい、憲兵団師団長ナイルドークより提案させていただきます。
我々はエレンの人体を徹底的に調べられた後、速やかに処分すべきだと考えております!」
やはり、私の予想は間違えてなかった。
エレンの巨人の力が今回の襲撃を退けた事は事実だが、その存在が今、内乱を巡る波紋を呼んでもいる。
今この時も、民衆の間では大きな議論が起こっているだろう。
ある人物は、エレンは救世主だと。
ある人物は、エレンを殺すべきだと。
だからせめて出来る限りの情報を残してもらった後に、我々人類の英霊となっていただく、と言っている。
私はその言葉を聞き、目を閉じる。
「その必要は無い!奴は神の英知である壁を欺き…」
ウォール教の信者…5年前は誰も相手にしてなかったのに偉くなったな。
目を閉じていても分かる、彼らの汚れ切った傲慢な心が。
「では次に調査兵団の案を伺おう」
「はい、調査兵団13代団長エルヴィン・スミスより提案させていただきます。
我々調査兵団はエレンを正式な団員と迎え入れ、巨人の力を利用してウォール・マリアを奪還します。
以上です」
「ん?もういいのか?」
「はい、彼の力を借りればウォール・マリアは奪還出来ます。
何を優先すべきかは明白だと思われますが?」
エルヴィンの言った言葉に審議所のあちこちから疑問に満ちた声が聞こえてくる。
「そうか。ちなみにその作戦は何処から出発するつもりだ?
ピクシス、トロスト区の壁は完全に封鎖してしまったのだろう?」
「ああ、もう二度と開閉出来んじゃろ」
「東のカラネス区からの出発を希望します」
エルヴィンから事前に聞いていた、今後の壁外調査の方針。
先程ピクシス司令が言ったとおりに、以前まで使っていたトロスト区の扉はエレンが塞いだ巨大な岩でもう二度と使うことはできない。
だから、トロスト区ではなくカラネス区の扉を使い、シガンシナ区へ一からルートを模索して接近する予定だ。
その言葉に“ちょっと待ってくれ!”と閲覧者から声が上がる。
「今度こそ全ての扉を封鎖すべきじゃないのか!?超大型巨人が破壊出来るのは扉の部分だけだ!
そこさえ頑丈にすればもう攻められることない!」
「黙れ、商会の犬め!
巨人の力を借りれば俺達はまたウォール・マリアに戻れる!」
「これ以上、お前らの英雄ごっこに付き合ってられないんだよ!」
「よく喋るな、豚野郎」
商会の犬と呼ばれた男は、リヴァイの口の悪さに絶句してしまう。
初めて会ったときから思っていたが、本当に口が悪いな…。
「扉を埋め固めている間、巨人が待ってくれる保証が何処にある?
テメェらの我々って言うのは、テメェらが肥える為に守っている友達の話だろう?」
安全区域に住んでいる彼らにとって、土地が足りずに食べるのに困ってる人間は、彼らの視界には入っていないのだろう。
随分とめでたい頭をしているものだ。
私は個人的にエレンの解剖より、あの人たちの解剖をしてみたいものだ。
「わ、我々は扉さえ封鎖されれば助かると話しているだけで…!」
「良さぬか、この不届き者め!
神より授かりし壁に人間風情が手を加えると言うのか?!貴様らはあの壁を…人知及ばぬ神の偉業を見てもまだ分からぬと言うのか?!」
ウォール教の信者が怒り狂いながら言う様に、審議所にいる人たちは冷たい目で彼を見る。
あいつらのせいで壁上を武装する事さえ時間がかかったと言うのに…
支持と権力だけは持ってるから、尚更タチが悪い。
商会人とウォール教は言い争う中、そこにバンバンと机が叩かれる音が響き渡る。
「静粛に。個人の主義主張は別の場所で訴えて頂こう。
イェーガー君、確認したい。
君はこれまでの通り兵士として、人類に貢献し巨人の力を行使出来るのか?」
「はい、出来ます!」
そう言い切ったエレンにザックレーは興味深そうに声を溢す。
目の前に置いてある書類を取って、ザックレーはエレンが驚くような真実を言い渡す。
「だが、トロスト区防衛戦の報告書にはこう書いてある。
巨人化の直後、ミカサ・アッカーマンを目掛けて拳を振り抜いたと」
エレンはその言葉に驚きミカサを見た。
ミカサはエレンによって傷ついた頬の傷を髪で咄嗟に隠す。
やはり、あの時エレンには、制御出来なかった時の事を覚えてない…。
何て厄介なんだ。
ミカサは報告書類を書いたであろうリコを見て、小さく舌打ちする。
仮にも上の立場にあたる者に舌打ちをしたのだから、普段のリコであれば注意するだろうが、こんな状況の中で彼女はそれをすることが出来なかった。
「報告書に嘘を書けって言うのか?この事実を隠す事は人類の為にならないんだよ…」
「ミカサ・アッカーマンは?」
「はい、私ですっ」
「君か…巨人化したイェーガーが襲い掛かったのは事実か?」
ザックレーに問われたミカサは前を向きエレンの方を見る。
エレンは未だに信じれないといった顔でミカサを見つめ続ける。
ミカサがエレンを庇わずに本当のことを言うと良いのだが…。
少なからず、誤魔化さずなか答えなければエレンの為にはならないだろう。
リコに何かを告げられたミカサは、決意をし言葉に出した。
それは、事実だと。
その言葉に再び周囲はざわめき出す。
多くの人はやはり巨人は巨人ではないか、とエレンを否定する言葉を出している者がいる。
(俺がミカサを殺そうとした、俺がか?!)
「しかし…それ以前に二度巨人化したエレンに命を救われました!」
一度目はミカサが巨人の手に落ちる寸前に、巨人の前に立ちはだかり彼女を守った。
二度目は私とミカサとアルミンを榴弾から守ってくれた。
エレンが巨人ではなく、人間に味方をした場面も良い、“これらの事実も考慮して頂きたい”とミカサは言った。
しかし、それに反論する人もいる。
「お待ちください!今の証言にはかなり個人的な感情が含まれていると思われます!
ミカサ・アッカーマンは幼い頃両親を亡くし、イェーガーの家に引き取られたと言う事実があります!」
「さらに我々の調べでは、その時の経緯について驚くべき事実も見つかっております!」
それは、私も知らなかった二人の子供時代の出来事。
エレンとミカサは当時9歳にして、強盗誘拐男三人を刺殺している。
なぜそのような経緯にいたかったは知らない。
しかし、ナイルはこの行為について“いかに正当防衛とは言え、根本的な人間性に疑問を感じざるを得ない”と答えた。
そして“果たして彼に人類の命運、人材資金を託すべきなのだろうか”と疑問も呈した。
ナイルによって明らかにされた二人の出来事を知った者たちは、エレンは危険だと再び判断し始めた。
「アイツもだ…人間かどうか疑わしいぞ?!」
「そうだ、念の為に解剖した方が…!」
巨人化する少年に集まっていた視線が、子供時代彼と共に人を刺殺してしまったミカサにも注目が集まる。
それをよく思わなかったエレンは反論する。
「待ってください!俺は化け物かも知れませんが、コイツは関係ありません、無関係です!」
「信用出来るか!」
「事実です!」
ミカサはただ必死に反論するエレンを見つめていた。
「庇うって事はやっぱり仲間だ!」
「違う!」
エレンは前に出るように反論したあめ、鉄棒に嵌められた鎖が大きな音を鳴らした。
その音に、全員が恐怖の顔を浮かべる。
“巨人化してしまうのではないか”と思い。
そう思うのなら、最初から彼が不愉快に思うことを発言しなければ良いと思うのだが。
「いや…違います…。しかしそちらも自分達に都合の良い憶測ばかりで、話を進めようとしている」
「な、何だと…?」
「大体あなた方は巨人を見たことも無いくせに、何がそんなに怖いんですか?」
エレンの感情が昂っていくのがよく分かる。
しかし、よく表情を見てみると、本当にこんなことを言って良いのかと思っているように見える。
だが、エレンは決断した。
自分の言いたい事を、この場にいる全ての人に話すことを。
「力を持ってる人が戦わなくてどうするんですか?生きる為に戦うのが怖いって言うなら、力を貸してくださいよ!
この…腰抜け共め!」
エレンの発言に周囲の人達は顔を顰める。
「いいから黙って、全部俺に投資しろ!」
静まり返る室内。
誰もが口を開いたままエレンの言葉に驚いていた。
誰よりも早く意識を戻したナイルは部下に命令する。
「…構えろ!」
「…ハッ!」
エレンに銃が向けられる。
このまま撃つつもりか。
『全ては、エルヴィンの予想通り』
私はリヴァイに目配せし、リヴァイはその場から離れる。
私はこれから起こるであろう非道な行為をされるエレンの無事を祈る。
すぐに、蹴られる音と共に何かが折れる音がした。
エレン、痛いかもしれないが我慢してくれ。
「待って、ミカサ!」
どうやらエレンが蹴られているのを黙って見ていることが出来ないのか、ミカサが飛び出そうとしたらしい。
それをアルミンは必死に阻止した。
彼も、この行為の本当の意味を理解したのだろう。
大好きなエレンが暴力を振るわれているのだから、リヴァイはこれからミカサに大きな呪詛を向けられそうだ。
エレンの血を吐き出す音が聞こえてくる。
少しやりすぎではないのかと思ってしまう。
「これは持論だが…躾に一番効くのは痛みだと思う。
今お前に必要なのは、言葉による教育ではなく教訓だ。しゃがんでるから丁度蹴りやすいしな」
そう言ってまた蹴る音が聞こえてくる。
青ざめた顔をしているであろうナイルがリヴァイを止める。
リヴァイはうざったそうな声で“なんだ”と言う。
「危険だ…恨みを買ってそいつが巨人化したらどうする…?」
「何言ってる。お前ら、こいつを解剖するんだろ?」
暴力はもうしないだろうと思った私は、目を開ける。
そこには、顔がぼろぼろになったエレンの姿に、頭を掴んでしゃがんでいるリヴァイが。
「グレースからの報告書によると、こいつが巨人化した時、力尽きるまでに二十体の巨人を殺したらしい。
敵だとすれば知恵がある分厄介かもしれん。
だとしても俺の敵じゃないがな…」
「だが君達はどうする?」
静かに私も話し始める。
今までこいつらに言いたかったことを、極力短めに言うように。
「彼を虐めた君達もよく考えた方がいい。本当に彼を殺せるのか」
「総統、ご提案があります」
タイミングよくエルヴィンが手を挙げ、ザックレーは話すように言う。
「エレンの巨人の力は不確定な要素を多分に含んでおり、危険は常に潜んでおります。
そこでエレンの管理をリヴァイ兵士長とグレース副兵士長に任せ、その上で壁外調査に出ます」
「エレン・イェーガーの管理か…出来るのか、リヴァイ」
「殺すことについては間違いなく…問題はむしろその中間が無いことにある」
管理ではなく殺すことに重点を置いて話したリヴァイは、隣から凄まじい殺気を受け取ることになる。
その正体はミカサだ。
彼女が今後上司に変なことをしないよう、ちゃんと見張っておかなければ。
「グレースは」
「管理なら」
ザックレーは静かに目を閉じ、再び開く。
彼の中で、既に結論は出たようだ。
そして、エレンの調査兵団行きが正式に決まった。
エレンが巨人の力を制御出来るか、人類にとって利がある存在かどうか次の壁外調査で証明する。
もしそれが出来なければー今、考えるのはよしておこう。
*************
「全く酷いね、ホントに…痛いだろう?」
エレンは医務室でリヴァイによって受けた怪我をハンジに手当してもらっていた。
「少し…」
「で、どんな風に痛い?」
一見手当してもらっているように見えたが、ハンジにとってその行為は手当ではなく観察だったようだ。
ハンジから奇妙な質問を受けたエレンは、理解ができないといった顔でハンジを見る。
「すまなかった。しかしそのおかげで、我々に君を託してもらうことが出来た」
「はい…」
「効果的なタイミングでカードが切れたのは、その痛みの甲斐あってのものだ」
エルヴィンはエレンの目線に合わせしゃがみこむと、手を差し出した。
「君に敬意を。エレン、これからもよろしくな」
「は、はいッよろしくお願いします!
あ、副長!」
エレンに名を呼ばれた私は、ドアに背中を預けていた体制から彼の方を見た。
「この前は助けていただき、ありがとうございました!」
律儀にお礼を言ってくれるエレンの姿に、心が癒されてしまう。
思わずエレンの所まで歩み寄り頭を撫でてしまう私に、彼は驚いたような声を上げる。
「私も君のおかげで助かった場面が多い。お互い様だ」
「いえ、そんな…ヒッ!」
急に怯えた声を出すエレンに驚き、彼が向けている視線を辿ると、とても怖い顔をしたリヴァイの姿が。
大きく舌打ちをして歩いて来たリヴァイはらエレンが座っているソファーに腰掛けた。
ハンジとエルヴィンが一緒になり、何やらコソコソと話している。
何を話しているのか気になるが、リヴァイがどのような行動に出るのかの方が気になってしまい、そちらに目を向けた。
「なぁ…エレン」
「は、はい!」
「俺を憎んでいるか?」
隣にリヴァイが座ったことで、エレンは背筋を伸ばし若干怯えながらも答える。
「い、いえ…必要な演出として理解しています」
「なら良かった」
「しかし限度があるでしょ?歯が折れちゃったんだよ、ほら!」
先ほどリヴァイに蹴られた際に折れてしまい審議所のどこかに落ちていたエレンの歯をちゃっかりと拾っているハンジ。
それを見せられて思わず顔を顰めてしまう。
「拾うな」
「同感だ」
「これだって大事なサンプルだし…」
「エレン、こういう奴らに解剖されるよりマシだろ?」
リヴァイみたいな必要なことでも、ほぼ初対面からボコッてきた上司の下に着くのも嫌だと思うが…。
そんなことを言ってしまえば頭を殴られるのは目に見えているため、やめておく。
殴られて痛くはなくても、音が凄いから嫌だ。
「一緒にしないでほしいなぁ。私はエレンを殺したりはしない」
「殺しはしなくても、弄りまわしたりしそうだけど」
「酷いなぁグレース。君の不思議な体質についても調べて良いんだよ?」
ハンジに調べられてほしくないため、急いで彼女のもとから離れた。
私はエレンに呼ばれる前までに居た位置に戻った。
それを見たハンジは“ざんね〜ん”と口を膨らませながらも言ったのだ。
「まぁ今度の機会にしようっと。ねぇエレン、ちょっと口の中見せてみてよ!」
今この場で観察しようとするハンジを止めるものなどいない。
エレンはそのまま大人しく口を開けた。
巨人とは、項を剃り落とさない限り、どんなに体が破損してもすぐ回復する化け物だ。
エレンは巨人化する。
私の考えがあっているのなら、こうなるだろう。
「…ッ」
ハンジの息を呑む音が聞こえてくる。
「もう歯が生えている…だろ?」
ハンジは私の言葉にただ頷く。
この部屋の中にいる全員が、改めてエレンは巨人化する少年なのだと実感させられた。
