9甘党と辛党
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「本気ですか。正気ですか。」
「いやもうそれほんとこっちの台詞なんですけど」
私は断固して言い返した。
私と目の前にあるパスタを見て、竜崎は眉を潜めてる。
そういう彼の前にはフルーツタルトに大きなパフェが置いてある。
向き合ってダイニングテーブルに腰掛けている私たちは、お互いの夕食を見てゲンナリした。
竜崎が苦い顔をしているのはさすがにパスタについてではなく、それにぶっかけた私のタバスコの量に対してだ。
辛党のため、パスタにはタバスコが欠かせない人種だ。これがなくちゃ始まらない。
「あなた散々私の食生活に口を出していながら」
「言っておきますけど私何にでもタバスコかけるわけじゃないんですよ!パスタやピザやグラタンの時だけだし、これぐらい普通です」
「普通ではないです、パスタのソースの色が変わってるではないですか」
「あのね竜崎、自分の目の前に置かれてる夕飯を自覚してます?」
まあ確かに今まで辛党の私に引いた友達も何人かいた。
でも竜崎の甘党は別次元でしょう。一日中甘いものを食べてる変人に私に意見する権利はあるのか、いやない。
「たまに食べるくらいの私と、ずっと甘いもの食べてる竜崎じゃレベルが違いますよ」
「しかしタバスコ以外も好きなのでは」
「まあ、ワサビと唐辛子も好きですね」
「ありえません。あんな刺激物を好んで食べるなど。」
竜崎はパフェの上に乗った生クリームをスプーンですくって食べている。それは絶対特別に多く盛られてる。
この高そうなホテルの一流シェフが作ったに違いない。
ちなみに私のパスタは自作だ。勿論、茹でたパスタに和えるだけのやつ。キューピーさん今日もありがとう。
ルームサービスをとっていいと言われるけど、メニューを見るとびっくりする値段のため私はよく自分で材料を買って夕飯を済ましていた。まあ、いつかは食べてみたいかもな。特別な日に注文してみよう。
私はパスタをクルクルと巻いて竜崎に差し出した。
「美味しいですよ?食べてください、ちょっと気分転換に」
私が差し出したフォークを睨み付ける。
「そんな自殺行為しません」
「ええー?竜崎お子様ですね?食べれないんだー?そっかそっかあ、味覚がお子ちゃまなんですね、よしよし」
からかうように言った私を、竜崎はギロリとみた。この男の負けず嫌いは知っている。私はニヤニヤして挑発した。
「ほんとあなたいい性格してますよね」
「え?何がですかー?私は事実を言っただけですよ!甘いものしか食べないなんて味覚がお子様なんです」
「これは脳を使うのに糖分が一番いいからです」
「別にパスタ食べた後にパフェ食べればいいじゃないですかー。もう、そんな言い訳並べて。」
「……」
お、きいてるみたいだ。いつも表情を変えない飄々とした竜崎の目がどうも座っている。
あー、たまには面白い。
私は辛味の強いカルボナーラを食べた。
そもそも夕飯にケーキとパフェってね。ほんと体どうかしてるよ。
「竜崎って普通のもの何も食べないんですか?」
「そんな馬鹿みたいにタバスコを掛けてなければ食べれますよ」
「ほんとですか?私未だかつてほとんど見たことないんですけど。あ、パンは食べてたのみたっけ、あとはフルーツか。…タンパク質ないですね。」
「食べようと思えば食べれます。」
まさに負け惜しみそのものの言い方で言う竜崎のパフェはいつのまにか半分くらいくらいまで減っていた。食べるの早すぎでしょ。
「カルボナーラ美味しいのに。」
「そんなものもうカルボナーラと呼びません。異常です。」
「ほんっっとに竜崎にだけは言う資格ないですよ!」
辛党に甘党の戦い。きっと永遠に分かり合えない正反対の味覚。
まあ、私は甘いものも好きなんですけどね。
「こんな美味しいもの食べれなくて竜崎可哀想ー!」
「……」
「味覚お子様は可哀想です。私は辛いのも甘いのも味わえますからね!」
「……」
完全に竜崎をからかうことに優越感を覚えた私は笑いながら続けた。
竜崎は長いスプーンを一旦おくと、ごとりと立ち上がった。
「わかりました。そこまで言うなら食べましょう」
「え!」
竜崎はスタスタと私の方に回ってくる。
なんと負けず嫌い。あんな甘いものしか食べない竜崎じゃ吐いちゃうかもよ。ちょっとやりすぎたか。
「無理しないでください」
「美味しいんでしょう?」
「そりゃ美味しいですけど」
「私は味覚がお子様ではないので。」
あらー、結構恨まれてるねこれ。この人の負けず嫌いはほんとに凄いみたいだ。
まあ、食べてみればいいよね。もしかしたらハマるかも。毎食ケーキよりずっといい。
私は一口分パスタを巻いた。それを立ったままの竜崎に差し出してみる。
「では、いざ、チャレンジ!」
面白おかしく笑った私を竜崎はじっとみると、そっとフォークを差し出す私の手首を掴んだ。
あれっと思い手首を反射的に見た瞬間、竜崎は食べるように私の口にキスをした。
そして完全に油断していた私の中に冷たい舌を忍ばせ、味わうように角度を変える。
突然の事に私は動くこともせずただただ唖然とされるがまま停止していた。
竜崎から伝わるパフェの味があまりに甘くて、脳天が痺れた。
「…食べましたよ」
顔を離した竜崎はしてやったり、というように口角を上げていた。
もう分かってるけど、私の顔、絶対やばいよね。顔面が熱いし固まってる。能面の自覚あり。
なんでこんな流れで、こんな形でそんなエロいキスするかな。
竜崎をからかった仕返しはあまりに刺激的すぎる。
「…しかし、やはりこれは人の食べるものではありません」
竜崎はすぐに顔をしかめると、テーブルの上にあった紅茶を引き寄せて一気に飲んだ。
私は熱すぎる顔を俯かせて持ってたフォークを咥えた。
完敗だった。敵わない、くそう。
軽いキスなら最近慣れたかもと思ってたのに。もうほんと自分、なんでこうなった!
「よくそんなもの食べれますね。それを食べるくらいなら私お子様の味覚でいいです」
「お、美味しいのに!」
「舌がピリピリしました。あなたMですか」
「断じて違います!」
平然としてる竜崎に、それを見ることすら出来ない私。
竜崎はティーカップを逆さにして最後の一滴まで飲むと、私の方を見た。
「ですがまあ…辛いものを食べた後の甘味は増して特別美味しく感じますね…」
「そんな楽しみ方するの竜崎くらいですよ」
「というわけで、もう一口貰えますか」
「ええええっ!!」
驚きで顔をあげたときにはもう、すぐ近くに竜崎の顔があった。
完全にからかってる。私の反応を面白がってる。
意地悪くあげられた口角が何より物語ってる。
「も、もうあげません!私の夕飯ですから!」
「え?減らないしいいではないですか」
「へへへへへへ減らないって」
「ちょっと口閉じて貰えますか」
「ひいい」
「普通、そんな声出しますかね」
そう少し笑った竜崎はやっぱりまた食べるようなキスを落として、私を翻弄した。
今度は甘い甘い紅茶の味で、私はもう竜崎をからかわないと誓った。
…いや、たまにはからかうのもいいのかも?
って、何を思ってるんだよ私は。
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