16紅葉
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
だいぶ外の気温は下がってきたと言うのに、この男はやはりいつも同じ服だ。
まあ温度管理のしっかりなされたスイートルームに篭りきりでは確かに服一枚で十分だろう。
しかしあまりに季節感がない。というか何枚持っているんですかそれ。
そう聞いてやろうかと思っていた矢先、竜崎が突然言った。
「どこか行きますか」
「へっ」
「少し仕事も落ち着いています。ここ最近また篭ってしまってました。」
「外出するんですか!」
「ええ気晴らしに。」
竜崎と特別な関係になってからもう少しで5ヶ月。竜崎と外出した数はほんのわずか。まあ、そのうち2ヶ月は海外に飛んでて会ってないのもあるけど、それにしても、だとは思っていた。
もちろんLだということは分かってるし、忙しいのなんて百も承知。不満ではなかったが、やっぱり外出に憧れはある。
なんせ公園やコンビニくらいだし。
「行きましょう!どこにしますか!」
「あなたの行きたいところはないのですか。あまり人混みで無ければどこでもいいです」
「え、ええー…」
行きたいところ、か。
普通の相手だとしたら、デートに行きたい所は沢山ある。
買い物だって、映画だって、夢の国だって、挙げたらキリがない。
でも相手が竜崎となれば首を傾げてしまう。
買い物?服一種類しかないやつと?
映画?この座り方じゃ周りに迷惑だよ。
夢の国…人混みの代表。この男にキャラクターは似合わなすぎる。
難しい。結局は、どこかのケーキバイキングくらいが一番竜崎も喜ぶのでは。
そう提案しようかと思った時、ふと思いつく。
「あ」
「なんです」
竜崎は紅茶をすすりながらこちらを見る。
「決めました!紅葉見に行きましょう、穴場を知ってるんです!私運転しますよ!」
「………」
竜崎がゆっくり眉を潜める。
「え?嫌ですか、紅葉。あまり人いないところ知ってるんですよ」
「そうではなく…あなた運転出来るんですか」
「ええ?免許くらい持ってますよ」
「車は」
「レンタカーでも。あ、言っときますがあんなリムジン運転できませんからね」
「最後に運転したのは」
「教習所です」
「………」
こうして結局、忙しいのにワタリさんに運転してもらう事になった。(私運転するのに!!)
「ワタリさんも忙しいのに申し訳ないです…」
「いいえ、とんでもございません」
ハンドルを握りながら紳士は優しく微笑んだ。
竜崎が言う。
「私もこんなところで命を落としたくありません」
「どういう意味ですか!」
「あなたの運転なんて想像つきます」
確かにペーパードライバーですけど、それ本人に堂々と言っちゃうかな?むっとして隣の竜崎を見る。
相変わらずL座りをして、持ってきた飴を舐めている。車の中ぐらい我慢できないもんかね。
車は心地の良い揺れで進む。思えばドライブも数えるほどしかしていない。ゆっくりと竜崎と並んで話をするのも、結構新鮮かもしれない。
「紅葉など見に行くのは初めてです」
「えっ、まさか!」
「日本は四季が美しいと言いますが、私は元々日本には仕事でやってきただけで、あまり滞在してなかったので」
「そうなんですか?海外の方が多かったんですか!」
そこまで言って、まさか今は私がいるから日本に滞在してくれてるの?と思い立ち、聞こうとしてやめた。
自惚れな質問だし、もし図星ならこの男はきっと返事をしないから。
少し分かってきた竜崎の傾向に、つい微笑んだ。
「秋が一番いいですよ、夏も冬も日本は過酷だし。春は花粉症だし!あ、竜崎花粉症あります?」
「ありません」
「あー羨ましい!私ひどいんですよ。薬飲んで仕事頑張ってます。マスクするのをいいことに、鼻にティッシュ詰めたまま働いてます」
「またあなたはそんな色気のかけらも無いことを」
呆れて竜崎は私を見る。しまった、確かに竜崎にわざわざ話すことはなかったか。
つい口が滑ってしまった。確かに色気のかけらも無い行為だった。
「有名な場所は夜ライトアップしてたりするんですけどね。そういうところは人が凄くて…」
「人混みは嫌いです」
「想像通りです」
竜崎が人にぎゅうぎゅう押されてる姿って何か想像出来ない。
ちょっと面白いかもだけど。いつも飄々としてる竜崎がどんな顔をするのか。
「今から行くところは、マリが前教えてくれたんですよ!ちょっと山を登ったところにあるんです。人もいないけど綺麗に色づいてますよ!」
「以前はマリさんと行ったのですか」
「ええいつもの3人で。夏美は車持ってるから乗せてもいましたー」
「仲がいいですね」
竜崎は前を向いたまま言う。
「3人タイプ違うんですけどね?どうも気が合っちゃって。仲良しです」
「一度少しみただけですが、特にマリさんは大人しそうな方で、夏美さんとあなたは活発そうですよね」
「ですねぇ。夏美はかなり奔放です。でも2人ともいい子ですよ!」
私が力強く断言すると、なぜか竜崎はこちらをみて笑う。
「友人を胸を張っていい子だと言えるのはいいことです」
そう言う竜崎の声は普段よりどこか優しく聞こえて、ついときめいてしまった。
「りゅ、竜崎は友達とかいないんですか」
「ええ、幼い頃から謎を解くのが全てで篭ってましたので。誰かと遊ぶなどしたことありませんし、友達と呼べる者はいません」
「そ、っかあ…」
まあ、Lともなれば素性を隠すのが第一だから、そう友達も簡単に作れないか。
そう思うととても寂しく思えた。本当にワタリさんが全てなんだろうなぁ。
感慨深くなりながら窓の外を見れば、目的地が見えてくるのに気づく。
「あ!あの辺ですよほら竜崎!いい感じに色づいてるー!」
窓を指差してはしゃぐ。タイミング的にはバッチリだ。紅葉が赤く染まり風になびいてこぼれ落ちいてるのが分かる。
幻想的なくらい、綺麗だ。
運転席のワタリさんが言う。
「とても綺麗ですね」
「ね!ね!いいでしょう!」
車が紅葉の木の下にあったスペースに止まる。ワタリさんが颯爽と降りて扉を開けてくれた。恐縮しながら車を降りる。
「私はここで待っておりますので」
「えっ、ワタリさん行かないんですか!」
「車の中で少々やりたいことがございまして。ごゆっくりどうぞ」
丁寧にお辞儀して優しく微笑んでくれる紳士が、私たちに気を使ってると気づかないほど鈍感ではない。本当にただの運転手として使ってしまって申し訳ないことこの上ない。
私も慌てて頭を下げると、竜崎は何も言わずにスタスタと木の葉が舞い落ちる中へ進んでいった。それを急いで追いかける。
「ワタリさん申し訳ないですね、運転手にして…」
「彼はよく私を連れ出してくれますよ。別に今日特別運転手にしたわけではありませんし、彼には適度に休みもとってもらってます」
「ならいいんですけど…ワタリさん倒れたら竜崎死んじゃうんじゃないですか、コンビニすら行ったことなかったのに」
「死にはしませんよ。なんとかなります」
「まずあの大量のお菓子の仕入れどうしてるか知ってるんですか」
「…ワタリにそういった引き継ぎの資料を作ってもらうことにします」
やっぱり。自分が大好きなお菓子たちもどこで手に入るか知らないなんて。私は呆れて隣を見上げる。
まあ、でも世界のLだもんね。睡眠時間すらないんだもんね。そんな余裕ないか。
…あれ、そう思うと
「…竜崎眠くないですか?」
「なんですか藪から棒に」
「だって。思えばせっかく仕事落ち着いてるんだから、外出より寝たほうがよかったなって…竜崎全然寝ないのに」
私が困ったようにそういうと、竜崎はこちらを見た。
「またあなたは。気を使いすぎですよ」
「いやそんなクマみたら誰でも思いますって」
「私は私に必要な睡眠はとってます。それに、睡眠よりもあなたと外出したいと思ったらいけませんか」
あの無表情でそんなことを言い放ち、私はつい目を丸くした。
竜崎は気にせずポケットに手を入れたまま道を歩いていく。
…やめろやめろ、顔よ熱くなるな。
必死ににやけそうになる顔面に言い聞かせながら、落ち葉の絨毯が敷かれた地面を歩く。
白い服の背中を追いながら見上げると、丁度黄色から真っ赤に色づいた紅葉たちがグラデーションを作っている一面が目に入った。
遠目でも綺麗だったけど、間近で見るとやっぱ凄い!
「うわあああ!竜崎、みてくださいよこれー!」
私が興奮した声で叫ぶと、少し前を歩いていた竜崎は足を止めて上を見上げた。
「確かに幻想的です」
「一番いい時期に来たんじゃないですかね!?人もいないしほんと穴場ー!綺麗綺麗!」
まるで絵画のように美しい一面だった。紅葉は少し時期がズレるだけでその美しさは変わる。ほんといいタイミングできたなぁ。
上を見上げながら笑っていると、ふと視線に気がつく。
見れば、竜崎は目を細めて私を見ていた。
「…な、なんですか」
「いえ。5歳児のようだと思いまして」
「クレヨンしんちゃんですか私は!」
「なんですかその文具と名前を組み合わせたものは」
「あっ、知りませんか。日本のアニメ。5歳の男の子の話ですよ」
「また。テレビ好きですね」
「これは好きじゃなくてもみんな知ってますよーう!子供の頃とおるんですから!」
私がいうと、竜崎はふ、と笑う。
瞬間、少し風がそよいだ。
竜崎の白い服が風でなびく。なんだかその姿がひどく幻想的だった。
黄色と赤に囲まれた中、白い服と黒い髪が映える。どこか消えてしまいそうだと思った。
竜崎の真っ直ぐな黒目が私を掴んで離さない。
「紅葉、いいですね」
「で、でしょう!?」
「初めて見ました。」
竜崎の無造作な髪が風に吹かれて顔を覆う。少し邪魔そうにする竜崎の表情がなんだかおかしくて、笑いながら彼の隣に並んだ。
「人もいなくて最高ですね!多分綺麗だけど範囲そんなに広くないからかなー」
「確かに穴場です」
「はあー今年も終わりに近くなって感じですよねぇ」
今年は色々あった。
変な犯罪者にやたら執着されたり、そのおかげで竜崎と一緒に暮らしたり付き合うことになったり。
濃い一年だったなぁ。
微笑む顔で紅葉を見上げていると、ちょうど目の前に一枚ひらひらと舞ってきたのに気づく。
反射的に手を伸ばせば、タイミングよくそれを掴むことが出来た。
「ナイスキャッチ!しかも、真っ赤ですごく綺麗なやつ!持って帰ろう!」
「そんなもの持って帰ってどうするんですか」
「記念にですよ!うーんと、本のしおりとか?思い出の品です!」
私は大事にその一枚を鞄に入れた。
竜崎と外出なんてほとんどないし、特にデートっぽい場所は初めてのこと。これは一生の記念品だ!
しっかり鞄をしめたところで、竜崎が一言言った。
「あなたはこんなことでそんなに喜ぶんですね。」
「え?」
竜崎を見れば、彼はどこか真剣な眼差しでこちらを見ていた。
「ほんの少しの外出で、そんなに喜べるんですね」
「当たり前じゃないですか、竜崎とならどこに行くのも嬉しいし楽しみですよ!」
「すみません」
「は?」
「…あまり普通の人のように時間を作れなくて。」
まさか、竜崎がそんなことを謝ってくるなんて思わなかった。驚いて否定する。
「いや、でもディナー用意してくれたりとかあったじゃないですか!それにそれは初めに竜崎言ってたことだし…」
普通の恋愛はできませんよ、と忠告してくれて、それでも笑っていいですと答えたのは私だ。
竜崎が世界のLだということはよく分かってる。むしろ、私のために少しでも時間を作ってくれたり考えたりしてくれてることが嬉しい。
決して不満は抱いていない。
「だから…謝られることはないです。ほんと、あんな高級スイートルームに入れるだけで楽しいし、竜崎だってこうやって時間作ってくれてるし。寝る間もないのに。」
笑顔でそう断言すると、竜崎はゆっくり口角を上げた。
その優しい笑みを見るだけで心がふわりと温かくなるのを自覚する。
ほら、ね。ちょっとあなたが笑うだけで気持ちが楽になる。
それだけで私には十分だよ。
「あ、もう一枚キャッチ!」
「またですか」
「うん綺麗綺麗!」
「ください」
私が一人満足して笑っていると、竜崎がそう言ってきたので驚く。
彼は私の手から、紅葉を一枚取った。
「記念に。持って帰ります」
「…竜崎持って帰ってどうするんですか」
「分かりません。とりあえず持って帰ります」
珍しそうに木の葉をまじまじと見つめる彼に笑顔を向けると、もう一度上を見上げる。
「はあ、ほんと、綺麗!」
「そうですね」
「山は肌寒いですけどねー…ってそういえば竜崎そんな格好で寒くないんですか!!」
「ああ、忘れてました」
「季節無視ですかほんとに!風邪引きますよ!」
いつもの白い服だけを着てる彼に驚いてそういうと、竜崎は突然私の手を握った。
「…!」
「これで温かいから大丈夫です」
「わた、私も冷え性ですよ!」
「はい確かに温かいというには無理があるほど手が冷たいですね。ま、そのうち温かくなるでしょう」
そう言って彼は少しだけ笑い、また上を見上げた。
サラサラと音を立てながらさざめく木々が心地良くて、そして赤い色たちが幻想的で、私は少しだけ目を細めた。
竜崎がしっかり握ってくれる手を戸惑いながらゆっくり握り返した。
彼の大きくてひんやりとした手が、最高に愛しくて心地よかった。
