14trick or treat?
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いつものように休みの日、ホテルのスイートルームに来てみれば、丁度出入り口でワタリさんと会った。
彼は微笑みながら挨拶をしてくれる。
「愛、こんにちは」
「ワタリさん!こんにちは!」
これから仕事に出かけるのだろうか。ワタリさんはホテルにいたりいなかったりで、この人もまた竜崎と同じくらい多忙そうなのだ。
「お仕事で出られるんですか?」
「はい。少し出てきます」
「お気をつけて!」
笑顔で言うと、普段なら丁寧にお辞儀をしてくれるワタリさんが、何かを思い出したように動きを止めた。
「愛さん」
「はい、何かありました?」
「もしご存知だったら余計な事かもしれませんが」
「はい?」
「本日は、何の日か」
ワタリさんに言われて首を傾げた。
本日、は…ああ、巷ではあれよね、ハロウィン。
お菓子好きの竜崎も好きなイベントだったりするのかな。今日何も買ってきてないけど。あの人が仮装するとは思えない。
「ハロウィンですね!竜崎お菓子買ってきた方が喜びますかね?」
私がニコニコ顔で言うと、ワタリさんは少し困ったように眉を下げた。
…はて?
彼は静かな口調で言った。
「誕生日です」
「…………は」
「竜崎の、誕生日です」
なんだってーーーーーー!!!???
「りゅりゅ、竜崎の、たたたた誕生日!?」
「やはり彼は言ってなかったのですね」
「は、初めて聞きましたけど!!」
ルンルン気分でスイートルームを手ぶらで訪れてる場合ではない。
まさか、竜崎の誕生日が今日だったなんて!
「まあ、彼は特にいつも気に留めておりませんので、忘れてる事も多々あります。ですが知らずに過ぎるのは愛さんが後に困るかと思いまして」
「すんごく困るところでした…!ワタリさん、ありがとう…!」
時計をパッとみればまだ昼前。これからケーキを焼くには時間は大丈夫だ。
ああ、でも材料買ってこなきゃ!あ、それに…!
「わ、ワタリさん、竜崎って何か欲しいものとかないですかね!?」
慌てて彼に縋り付いた。プレゼントの用意がこれからなのだ。
ワタリさんは少しキョトンとした後、優しくほほえんだ。
「愛さん。竜崎は、あなたからのおめでとうの一言だけで十分に喜びますよ。そんなに気を負うことはありません」
「………」
そうは、いっても。
初めて一緒に過ごす誕生日、だからなあ。
しかしとりあえずケーキだ。あの甘党にはケーキがなくては始まらない。
「ワタリさん、教えてくれてほんっとありがとうございました!ちょっとまた後ほど来ます!」
私はそう宣言すると、スィートルームに背を向けてダッシュでそこから飛び出した。
スーパーに寄ってレシピを見ながら材料を購入し、(失敗してもいいよう3回分)私は急いで家に帰った。
すぐさまキッチンに立って、慣れないお菓子作りを開始する。
何のケーキにしようか迷いに迷った。今まで作ったことのあるものじゃさすがに特別感ないし。
しかし誕生日=ショートケーキのホール、がどうしても私の頭から覆らなかった。
あの腕前の癖に、スポンジを焼いてデコレーションするなんて無謀だと自分で自分を何度も止めた。でもやっぱり揺るがなかった。
竜崎はショートケーキが好きなのは知ってるし、万が一失敗を重ねてどうしようもなくなったら買っていけばいいさ!という結論に落ち着いた。
家であわててハンドミキサーを掲げながら、私はもう一つの問題を頭に思い浮かべた。
…プレゼント、どうしよう。
何をどう考えても考えてもいいものが思い浮かばないのだ。
だって相手は世界のL。お金あるし、正直欲しいものは自分で手に入れるでしょう。
彼氏の誕生日の王道といえる財布、時計などはことごとく不要。彼は使わない。
アクセサリーなんて絶対つけないでしょ。つけてたらキモい。
靴下履かないでしょ、服あれしか着ないでしょ、仕事も室内で一人きりだし、ペンとか使ってるの見たことないでしょ。
…これはまずい。非常にまずいぞ。
なんにも思い浮かばない。
「ワタリさんはああ言ってたけどさ…」
卵を割りながら呟く。
でも、思ってもらいたい。
特別な日だったなぁ、なんて。
思いを馳せながら調理していると、自分の携帯が鳴った。画面をみれば、夏美からだった。
はっとしてそれを取る。よし、友人に聞いてみる!
「もしもし!!」
『うわっ、なんか凄い食いつきでびっくりした』
電話の向こうで夏美が驚いたように言う。
『今マリとばったり会ってさ〜お茶してるんだけど暇ならどうかなって』
「ねえ夏美!竜崎のね、誕生日なの!今日!」
『へっ』
「何あげればいいかな!?」
核心をついた質問を投げた。それほど私は時間はない。
電話口の向こうで、夏美はマリにも説明してるみたいだ。マリは彼氏いるし、何かいい案があるかもしれない。
「あのね!竜崎は身に付けるものは必要なし、財布使用なし、仕事は家、無駄に金はあるから大概のもの持ってる!」
『なんだそれ。なんもあげなくていいじゃん』
「そんなわけにはいかないよー!」
わっと嘆きながら叫ぶ。
向こうで夏美もマリと何か相談してる。
ああ、何か。
何かありませんか親友よ。
私が眉を潜めて向こうの出方を待っていると、夏美があっけらかんとして言った。
『もうあんたをあげときなよ』
…は?
『プレゼントはあ、た、しでいいじゃん。あ、もう流石にあげてた?』
「馬鹿ーーーー!!!」
私は電話を切ってそれを乱暴に放った。
とりあえず残りの卵を割る。
何を言ってるんだあいつらは!こっちは本気で悩んでいるのに!
今まで短期間で別れてきた私には彼氏の誕生日祝うなんて初めてなんだから!
顔を熱くしながら卵を混ぜていると、ふと頭が冷静になった。
…もしそうなったらどうしよう。
いやいや、待て待て。竜崎がそんなこと言うようなタイプか?
「ではあなたを下さい」
ぎゃーーー!!!
そんなこと言われたら心臓爆発する!無事死亡ありがとうございました!
「って、そんなこと考えてる場合じゃない!」
私は慌てて手元に集中し直した。
夜も更けて20時。
私は揺らさないよう細心の注意を払いながらケーキの入った箱を運んだ。
スイートルームの鍵を開けて部屋の中へ入っていくと、普段と同じように竜崎が座ってパソコンを見ているのが見えた。
私の足音に気づいたのか、竜崎が振り返る。
「こんばんは」
「こ、こんばんは」
彼はすぐにまたパソコンに視線を戻した。私はゆっくりそんな竜崎に近づき、彼の目の前にケーキの箱を置いた。
竜崎がそれを見た瞬間、私は隠し持っていたクラッカーを竜崎に向け、糸を引いた。
大きな破裂音が部屋に響き渡る。
竜崎はびくともせず、けれど目を見開いて動きを止めた。
クラッカーから放たれた紙屑が竜崎の髪に落ちた。
「お。お誕生日おめでとうございます…!!」
クラッカーを掲げたまま、私は言った。
竜崎はしばし唖然とした後、ゆっくり私を見た。
「………」
「あれっ、10月31日。お誕生日ですよね?」
「…そうでした」
気の抜ける返事にずっこけそうになる。そういえばワタリさんも忘れてることもあるって言ってたっけ。
え、でも本当に忘れるかな…自分の誕生日なのに。
「なぜ知ってるんですか」
「あの今日一度ここに来た時たまたまワタリさんに会いまして…教えてくれたんです」
「そうでしたか」
「時間なくて、なんかあまり準備が出来なかったんですが…」
未だ固まっている竜崎は、髪についた紙屑を取ろうともしない。それがなんだか可愛くて、私は笑ってしまいそうだった。
「…忘れてました。ありがとうございます」
「ほんとに忘れてたんですか、自分の誕生日ですよ?」
「あまり日付感覚もありませんし、今までこんな風に誰かに祝ってもらったこともないんです」
「…え」
じゃあ、人生で初めてお祝いされたってこと?
人生初のお祝い!?
「ああ…!」
私は自分の顔を両手で覆う。
「どうしました」
「そんなはじめてのお祝いを、私はとんでもないものをもってきてしまいました!」
「はい?」
やっぱり買ってくるんだったか。しかしもう後悔しても遅い。
私は竜崎の目の前に置いた箱をそっと開けて、中のショートケーキを取り出した。
それは人生初のショートケーキ。やはり歪でゆがみ、生クリームのデコレーションの失敗を隠すためにやたら苺が乗ってるなんとも無様なものだ。
迷ったんだよ。最後まで…買おうかどうしようか。
私は顔が熱くなるのを自覚する。もうほんと、自分不器用。
「予めわかってたら練習したのに…なんで教えてくれてなかったんですか!竜崎が悪いんですよ!」
完全に八つ当たりしながら彼を見る。竜崎は不細工なケーキを凝視していた。
「買えばよかったです、ほんとすみません。」
恥ずかしくて穴があったら入りたい気分だった。やっぱりショートケーキは無謀だった。こうなること分かってたくせに。チーズケーキであのレベルのくせに。
私が俯いていると、竜崎はポツンと呟いた。
「愛さん」
「…え」
そして私の腕をぐいと引っ張った。油断していた私はそのまま竜崎の元へ倒れ込む。
彼はしっかりと、私を抱きしめた。
驚いて顔を上げると、竜崎は優しい顔で微笑んでいた。
「最高の日です」
「…え」
「ありがとうございます」
今まで見た中でも一番優しい笑顔だったかもしれない。どこか子供のように、彼は嬉しそうにしていた。
その笑顔は予想外で、反則で、つい私は胸が苦しくなる。
「いや…かなり失敗しちゃって」
「市販の物よりずっといいです」
「それにすみません、プレゼントないんです…何あげたらいいか分からなくて…」
私は素直に告げた。
悩みに悩んだ挙句、結局いい案は思いつかず、私は何も買うことなくここへ来たのだった。
竜崎が初めて祝われたという誕生日に、プレゼントがないだなんて。
やっぱり何か買ってくればよかった。
「このケーキで十分です」
「でもせっかくの誕生日が…」
「私は欲しいものは自分で買えますので」
「まあ、でしょうね」
「あなたの作るケーキは買えません。ですから価値があります」
竜崎はそういうと、そっと私にキスを落とした。
高鳴る胸でそれを受け入れれば、すぐに彼の舌が感じられて驚いた。
いつかのような、まるで食べるようにキスをする。
その力は強く、私はつい後ろにのけぞっていった。
それでも竜崎はどんどん私を押すようにキスを重ねる。
普段と少し違うその光景に、私の脳裏に夏美の言葉が浮かぶ。
『プレゼントはあ、た、し、でいいじゃん』
まさか!
本当に?
夏美様!私どうすればいいんですか!!
完全に体を支えきれなくなった私はソファに倒れこむ。
そこでようやく竜崎はキスを止めた。
上から私を見下ろす。
見上げる竜崎の顔は、なんだかいつもと違って見えた。心臓はそろそろ爆発する。
絶対すでに赤くなってるだろう私の頬を、竜崎はそっと触れた。
「あ、の、竜…」
「紅茶、いれてもらえますか」
そう一言いうと、竜崎は体を起こして私から離れた。
あれっ、とキョトンとしたあと、慌てて自分も起き上がる。
竜崎はまた膝を抱えて親指を噛みながらじっとケーキを見ていた。
「あ、は、はい!なんの茶葉にしましょうか!」
「別に何でもいいです」
「へいただ今!」
「威勢がいいですね」
私は立ち上がりキッチンへと入る。倒れて乱れた髪を押さえて直した。
びっくりした。あんな竜崎初めて見たかもしれない。
未だドキドキが治らない。本当の本当にそうなるのかと思った。でもまあ。ケーキ出しっぱなしだしね。まずはそっち先に食べなきゃね!
紅茶やフォークなどを準備し、私は再び竜崎の元へ戻る。そこでああ、ろうそくを買ってくればよかった、なんて気がついた。
「味見してませんよ、生クリームはしましたけど」
「何度か作り直したのですか」
「3度目の正直です。一度は焦げて2度目はパサパサでした」
「いつかのチョコレートケーキと全く同じ道を辿ったんですね」
彼の前に紅茶を置きフォークも置いた。どうせ彼はカットせずに食べるに違いない。
竜崎は早速フォークを持つと、哀れなビジュアルのケーキに刺した。
やや緊張する。誕生日にゲロマズケーキではあまりに不憫すぎる。そこそこ食べれる状態であることを祈るしかない。
イチゴと生クリームがやたら盛られたそれを、竜崎はパクリと口にした。
「…ど、どうでしょうか」
「またあなたは。」
「は、はい!」
「ビジュアルと正反対のケーキを作り出しましたね」
ほっと胸を撫で下ろす。多分、褒め言葉だ。
竜崎はもぐもぐと食べながら言う。
「しかし今日ばかりは、もしあなたが砂糖と塩を間違えて作っていたとしても美味しいと感じると思います」
「え、まさか!」
「比喩ですよ。ちゃんと甘いです」
「お、驚かさないでくださいよ…」
竜崎がふっと笑う。
「ありがとうございます、愛さん。お金では買えない最高の思い出です。生まれてはじめて、誕生日が特別だと思えました」
「こ、こんなものですみません…」
「何を言ってるんですか。本当に最高です」
竜崎は口角を上げたまま、ひたすらにケーキを食べ続けた。
その姿に、私も無意識に顔が緩む。
おめでとう、竜崎。
「…一緒にお祝いできてよかったです。来年も、お祝いさせてくださいね」
竜崎は手を止めて私を見る。
「来年はもう少し上達しておきます」
「それはそれでパンチが足りなくなりますね」
「ケーキにパンチいりますか」
「不要ですが愛さんのケーキにはそれがないと始まりません」
「からかってますか?」
「とんでもない、褒めてます。蹴りをしなくなった愛さんのようなものです」
「完全にからかってるね!」
来年も、再来年も。
あなたの隣にいさせてください。
こんな不細工なケーキを笑いながら食べてね。
未だ髪に白いクラッカーのゴミをつけた竜崎が、とてつもなく可愛かった。
私は到底食べきれない結構な大きさのショートケーキを完食した竜崎は、紅茶までも砂糖を入れて飲み干した。この人の体本当にどうなっているんだろう。
だらだらと二人で話しながら過ごし、夜もふけた頃私はいつも通りお風呂を借りた。
なんだか本当に誕生日だなんて忘れるくらいいつも通りの展開になってしまっている。まあ、仕方ない。お祝いらしい事は何もしていない。
相変わらず大きなお風呂にゆったり浸かり、髪を乾かしスキンケアも終えて戻ると、やはり竜崎はいつもの姿勢でパソコンを見ていた。
冷たいお茶を飲みながら、私は隣に腰掛ける。
「ワタリさんは竜崎の誕生日のお祝いとかしないんですか」
「思えばケーキがホールだったりハッピーバースデーのチョコレートが乗っていたりしました。あとはおめでとうございますと言われて初めて誕生日と思い出したりします」
「なんだ、お祝いされてるじゃないですか!」
「それもそうですね。ですがクラッカーを鳴らされて手作りのケーキを貰うほど手が込んでるのは初めてです」
「手が込んでると言えませんよ…」
ほてる体をあおぐ。10月の終わり、外はだいぶ涼しくなっている。しかしこのスイートルームは常に温度調整されていて、季節を感じない。
「竜崎って、欲しいものとかあるんですか?」
「欲しいもの、ですか」
「なんも思い浮かばなかったんです。身に付けるものはいらないでしょ、財布も使わないでしょ、仕事も室内でしょ、趣味もないし」
「欲しいものとは難しいですね。必要なものならありますが。最新のパソコンだったりの機器など。しかしこれらはワタリが絶妙なタイミングで準備してくれるので」
「ですよねぇーそんな機器分からないしなんか誕生日プレゼントって感じじゃないですしねぇ」
「あなたは何が欲しいんですか」
「え!そんなの大量にありますよ!服だって靴だって雑貨だって化粧品だって、女は欲しいものに溺れながら生きてるんですよ!」
「それはまたなんと言いますか。強欲ですね」
「竜崎、人間欲にまみれてナンボです。そのために仕事頑張ってるんですよ!」
竜崎は呆れたように私を見た。いや普通でしょ。女なら普通。竜崎がいろんなものに興味がなさすぎるだけ。
「私は難事件の解決そのものが楽しいので、何かのために頑張ってると言うスタンスではないです」
「天職ですね…」
今こうして私と話してるだけでも、色々事件のこと考えてるんだろうなぁ。
一度竜崎の頭の中覗いてみたい。
竜崎はじっと人差し指で唇を弄びながら、言った。
「あと…人生で最高に欲しかったものは、もう手に入れました」
「えっ!竜崎が人生で最高に欲しかったものってなんですか!超絶気になります!」
「………」
どんな豪華なものだろう。家?車?いや、Lほどになればもっとカッコいいものかも。例えば何かの称号とか。大昔の有名な未解決事件を解決させたとか。
私は目を爛々と輝かせて竜崎を見つめる。彼はじっと貯めた後、ちらりとこちらをみて悪戯っぽく言った。
「内緒です」
「ええ!気になって死にそうです!」
「簡単に死ぬんですねあなた」
「死ぬんじゃなくて死にそうです!」
「では大した問題じゃないですね。死ぬ事以外かすり傷、です」
「かすり傷でも、可愛い彼女につくと思ったら守りませんか普通!」
「飛び蹴りするようなあなたなら受け身も上手いでしょう。私の出る幕はありません」
「何でもかんでも飛び蹴り出して来ないでくださいよ!」
竜崎は少し笑ったまま、長い指でパソコンを少し操作したあと、パタンとそれを閉じた。
このリビングにあるパソコンが閉じられたのを見たのは初めてだった。
「せっかくの誕生日なので、仕事は終わりです」
「はあ」
「寝ます」
!!!!
「おふ、おお、ふ、おろふ、お風呂入ったんですか!?」
「おろふとは新語ですね。あなたが入ってる間に済んでます。愛さん長いですからね」
「えっ。ここってバスルーム二つあるんですか?」
「私専用の入ものがあります」
「はーなるほどー」
ってそうじゃない!!!
その場で失神しそうなのをなんとか堪えた。これは流石にとうとう、だ。夏美様とマリ様が言っていた展開になる。
しかし、当然な流れといえば当然だ。誕生日なんだし、いやいや誕生日だからってわけじゃないけど、もう4ヶ月経つし、まあその中の2ヶ月は海外に行ってて会えませんでしたけどその分暇さえあれば会いに来てて、いや別に会いに来た頻度が大事ってわけじゃないけど、いやいや少しは大事かもね、うんうん大事だよ、とゆうわけで私は何を考えてるんだろう。
…混乱の絶頂にあるみたいだ、落ち着かねば。
私が脳内で一人喋っている間に、竜崎はゆらりと立ち上がった。
はっとして、私もそれに釣られる。
「り、竜崎まさかとは思いますけど寝る時もその格好ですか」
「はい」
「ジーンズで寝るの!?」
「はあ、まああまりベッドで寝る事もないので気になりません」
竜崎はそう言いながらのそのそと歩き出す。私も急いでそれを追うが、恥ずかしさと気まずさから口が止まらない。沈黙が耐えられないと思ったのだ。
「いつもはどう寝てるんですか?!」
「ソファや椅子に座ったまま寝てます」
「なんと!横にもならないんですか!」
「たまになりますよ。椅子ごと倒したり」
「???」
「しかし基本気が付いたら寝てるぐらいがほとんどなので」
竜崎は廊下を歩いてすぐ近くにある寝室のドアを摘んで開ける。
大きなベッドが見える。その瞬間さらに心臓が跳ねた。
「わ、ワタリさんは?」
「すぐ下の部屋をとってたりすることがほとんどです。」
「は、はあ…」
私はなんとなくベッドの前で立ち止まる。竜崎はそのままベッドに上がっていく。
横向きのままぽすん、と体を沈めたあと、一言言った。
「愛さん、来てください」
もうこれ以上高鳴ったら本当に召されてしまう、というぐらいに心臓が鳴った。
吐くかと思った。こんな時まで女らしくない反応の自分が恨めしい。
でも。私は頷く。
足を踏み出してベッドに近寄り、そこに腰掛けて仰向けにごろんと寝転がった。棒のようにかちんこちんだ。
竜崎は私の方を向いて横になってる。本当は私も竜崎を見たいけど、もはやそんな余裕は残されていない。
すると竜崎はふいに、私の手を握った。
驚きで、つい彼の方を見る。
竜崎は優しく微笑み、言った。
「最高の誕生日でした。ありがとうございました」
ひんやり伝わる彼の低い体温が、なんだか涙を誘った。
ゆっくり私も握り返す。
失敗と呼べるケーキを完食して、こんなに感謝してくれるこの人の優しさが染みた。
なんてことしてないのに、最高だと笑ってくれた。
ああ、やっぱりこの人がとことん好きだなぁ、なんて。
きっと竜崎となら、未知の世界も怖くないなぁ、なんて。
大袈裟かもしれないけど、私って世界で最高の人と付き合えてると思うの。
きっとこれ以上好きになれる人なんて、現れない。心の底から、そう思える。
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「…スー」
えっ
ほ ん と に ね る の ??
驚いてその顔を見れば、目を閉じて寝息を立てていた。
ついさっきまで話してたのにもう夢の中みたいだ。
まあ目の下のクマを見るに全然寝てないんだろうし、わかると言えばわかるけど。
あれ、まじで寝てるねこれ。嘘でしょ、この状況でこのタイミングで??
全身の力が抜けた。よかったような残念なような。いや残念って、欲求不満か私は。
私の手を握ったまま眠るその人の寝顔は穏やかで綺麗で、拍子抜けしたけどまあいっか、とおもえた。
「ハッピーバースデー、竜崎。」
私は小さく呟いた。
