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「…まあ、親の遺産でちゃんと学校通えて働けてるんだし幸せだと思ってます。こんな事件に巻き込まれなきゃ平凡な生活送れてたろうし」
私は落ちる気持ちを無理に上げて言った。
「災難でしたね」
「めちゃくちゃ災難ですね。ま、なったもんは仕方ないです。竜崎が早くJのボスを逮捕してくれるの待ってます」
「任せてくださいかならず仕留めます」
「すっごい自信ですね…」
「当たり前です。」
私は少し笑って水を飲み干した。
「あなたは…面白い人ですね」
唐突に竜崎は言った。私は彼を見る。
竜崎はいつもの真顔で立っている。
「物怖じせず私になんでも言うし、度胸もあるし、表情も嘘をつかない。正直な人です」
「面白いなんて、竜崎にだけは言われたくありません。あなた以上に面白い人いませんよ」
「褒めてくださってありがとうございます」
「全然褒めてませんけど」
私はまたちょっとだけ吹き出した。
「まあなんだかんだ、ここでは不自由してないし感謝してます。本当だったら今生きてないかもしれないし」
「………」
「明日、役立てるか分かりませんが出来ることはやります。犯罪者、私も捕まえたいですからね!」
竜崎は私をじっと見たまま何も言わなかった。
だから、そんなに見られると落ち着かないってば。何か言ってよ。
「…紅茶、冷めますよ。せっかく私が淹れたスーパー美味の紅茶が」
「ありがとうございます。頂きますスーパー美味の紅茶」
「馬鹿にしてますか?」
「あなたが言い出したんですよ」
きょとん、とした顔で言う。
私はまた笑う。
なんか、分かってきた。竜崎って人が。
多分この人は私に敵意を持ってるとか無くて、別に拒絶してるわけでもなく、本当に何も考えずに言葉を発してるだけなんだ。
そして多分だけど、悪い人ってわけでもなさそう。
「頑張って寝ます。竜崎も寝たらどうですか」
「まだ考えることがありますので」
「もし倒れたら私が看護してあげましょう」
「…恐ろしいですね、少し寝ます」
「どう言う意味ですか!ちゃんとしたプロですよ!」
「冗談です」
冗談なんて言えるんだ。私はまたぷっと笑った。
「おやすみなさい。」
「はい。おやすみなさい」
竜崎は私の淹れた紅茶を手に取ると、またソファへと移動していく。
そんな竜崎を見ながら、どこか心がほっとするのを感じた。
変な人だけど、悪い人じゃない。
それが分かっただけで、私は嬉しいと思えた。
翌早朝、私たちの元へやってきたのは、私の想像の遥か上の二人組みだった。
なんと。外国人だったのである。
リビングの扉をあけて私は呆然とした。寝不足でしょぼしょぼしていた瞳は一気にさめる。
そこには青い瞳をした男女がいた。
二人とも長身で絵になる美男美女だった。
私に気づくと、二人はにこやかに笑って見せた。
「あ、あ…の、は、ハロー…」
戸惑いつつとりあえず挨拶をしてみると、男の人の方がにこやかに笑った。白い歯が眩しい。
「はじめましてレディ。こんな美しい人の護衛だなんて、はるばるアメリカから来た甲斐がありました」
流暢な日本語だった。ほっとしつつ、その言葉に驚く。
「え、アメリカから来たんですか!?」
「そうよ。私はメリー。よろしくね」
「僕はマイク。本当に可愛らしい。」
「え、あ、ありがとうございます」
二人が出した手をそれぞれ握る。さすが外人は違うなあ、お世辞でも褒めてくれれば嬉しいよ。
…あのパンダ男も見習って欲しい。
私はちらりと竜崎を見たが、彼はいつも通りお菓子を食べていた。
マイクがいう。
「事情はすでに竜崎から聞いています。あのJを追っているんですよね」
「あのって…ご存知なんですか」
「知っていますよ。中々尻尾が掴めない犯罪組織として裏では有名です」
「そうなんですか…」
なるほど、Jとは本当に有名な犯罪組織らしい。
「安心してください。あなたの安全はこの身をかけて守ります」
「あ、ありがとうございます…しかしそんな身をかけることはしないでください、いざとなれば自分の命優先ですよ」
「…これは。珍しい事を言う人ですね」
マイクが目を丸くした。メリーが隣で笑う。
「それじゃ仕事にならないわよ。ま。安心して、そう簡単に死ぬことなんかないわ。」
「ならよかったです!よろしくお願いします!」
マイクは唸るようにして言った。
「あのJが特別扱いしていた女性とは…あなたが美しすぎるゆえですかね」
「さすが外国人は、口が上手いですね!」
つい私はあははっと笑ってしまう。
マイクは肩をすくめる。
「お世辞のつもりはありませんが…」
「マイク、挨拶はすみましたか」
離れたところから竜崎の声が出て響いた。どこか機嫌が悪そうだ。Jのアジトへ行くのにはしゃぎすぎただろうか。
メリーが腕を組んで竜崎に言った。どうでもいいけど足長い。腰の位置が私と違いすぎる。
「私たちはいつでも行けます。ただ竜崎、この子この格好じゃ目立つから、少し変装させては?どこでJが見てるか分かりませんよ」
「ワタリに準備させてます。もう来るはずです」
朝から胸焼けしそうな生クリームたっぷりのケーキを頬張りながら竜崎は言う。
と、なんというタイミングの良さか、ノックをしてワタリさんが部屋に入ってきた。
「失礼します」
「おはようございます、ワタリさん!」
「おはようございます。月島さん、こちらに着替えて頂けますか」
ワタリさんは私に着替えの一式を手渡す。
「髪は結って帽子に入れてください。それでだいぶ印象が変わりますので」
「うわー変装って、初めてします。じゃあちょっと着替えてきます」
私はワタリさんの手から受け取ると、すぐにそのまま自室へ入った。
ワタリさんがくれたのは黒いシャツにジーンズ、黒縁のメガネにキャップだった。
変装というほどの物でもないけど、確かに髪型一つでも印象はだいぶ変わる。
私は洋服を着替えつつ考える。というか…本当に私ってJに狙われてるんだ。
今までも疑ってたわけじゃないけど、こうして変装までさせられると気が引き締まる。
治まっていた緊張が再び湧き出す。
ドレッサーの鏡をじっとみた。気合、入れよう。私の記憶次第で犯罪者が捕まるかもしれないんだぞ。
子供や女の人をさらって人身売買とか、許せないクズたちを捕まえなきゃ私の自由だってないんだ。
長い髪をゴムでしっかり結んだ。それを中に入れながらキャップを被る。
最後に度の入ってないメガネをかけると、私は鏡をしっかり睨みつけてまたリビングへと戻る。
リビングでは、何やら4人で真剣な眼差しで話していた。
ワタリさんが私に気づく。
「終わりましたか、ありがとうございます」
「こんな感じでいいですかね」
「だいぶ印象がかわります、万が一Jに見られても気づかれないでしょう」
マイクが私を見て大袈裟におおっと驚く。
「確かに印象はだいぶかわりますが、美しさが隠し切れてませんね」
私はあははっとまた笑った。この人、私の緊張ほぐそうとしてくれてるんだな。きっと緊張で顔が強張っていたのに気づいてくれたんだろう。優しい人だ。
「ありがとうございますマイク。優しいんですね」
「笑顔が素敵ですよ」
なんというリップサービス。私はまた笑った。
「さあ早いうちに動きましょう。」
メリーはそう言って立ち上がる。
「では竜崎…」
「私も行きます」
竜崎が発した言葉に、メリーやマイクは驚いて振り返った。
ワタリさんも意外そうに竜崎をみる。
彼はソファの上で紅茶を飲むと立ち上がった。
「気が変わりました。Jのアジトだった場所、直接見てみるのも悪くない」
「し、しかし、竜崎あなたは…」
「行きましょう」
竜崎はテーブルの上にある個装されたチョコレートを何個か手に取りポケットに入れた。
ワタリさんは小さく笑うと、かしこまりました、と言って丁寧にお辞儀した。
竜崎はのそのそと歩いてくると、私に言った。
「では行きます。あまり顔は上げずなるべく目立たないよう歩いてください」
「は、はい」
私は急ぎ足で、竜崎の後を追ったのだった。
