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しばらくして髪を切った。
失恋して髪を切るなんて、王道パターンすぎてちょっと自分でも苦笑した。
少女漫画みたいな行動を取った自分に呆れつつも、長く伸びてた髪は少し邪魔だったからちょうど良い。
肩くらいの長さになった髪は意外と自分では気に入ったので結果オーライ。
1ヵ月以上休んでいた職場に、顔を出した。
「あれー愛ちゃん!久しぶりー!」
先輩が声を上げた。慌ただしくしていた職場に差し入れを置くと、師長も驚いたようにこちらへ寄った。
「月島さん!もう体調大丈夫なの?」
体調不良による休職扱いであったとワタリさんが言っていた事を思い出す。
「あ、はいもう完治!完治です!」
「何があったのよ急に〜!」
「あ!えーとですね…ちょっと…婦人科系とか…ありまして…」
「あらーもういいの?」
「はい、もう働けます!シフト入れてもらって大丈夫です!」
私は元気に答えて笑った。
先輩がこちらに寄ってくる。
「あれ髪切ったね、バッサリ!」
私の顔を覗き込んで言う。微笑んで自分の髪を触った。
「今切ってきたとこなんですー。サッパリしました」
「うんうん似合ってるよ。心配してたけど元気そうで安心したよ」
「はい元気ですよ。ほんと急に迷惑かけてすみません、バリバリ働きますね」
私は拳を作って見せる。職場は以前とまるで変わらない慌ただしさが見えた。
師長が考えたように言う。
「じゃあまた考えたら電話するわ。夜勤はまた来月からにしましょ」
「はい。あ!そうだ、私今携帯無くしちゃってて、まだ買ってないんです。またここくるか、私から電話します。その時教えてください」
「え?携帯無くしたの?」
「はは、ドジふんじゃいまして」
「あらら。わかった、とりあえずシフト作っとくね」
携帯電話は、すぐに買いに行こうと思っていた。
でも、なぜだかそんな気は中々起きなくて。
私は職場にこうして来るのだけで精一杯だった。働かねば金は貰えない。生活するには、仕事をしなくては生きていけないのだ。
それに忙しい毎日に追われれば、あの人の事を考えなくて済むと思っていた。どうしてもまだまだ思い出して泣けてしまう。
自分がこんなに脆い人間だったなんて、知らずに生きてきた。
「病み上がりならあまり無理しないようにね」
「はーい。」
「診断書もらってきてね」
げっ。しまった。
そりゃそうだ、休職していたのに診断書も出さないなんてありえない。
そこまで考えてなかった。正直に言った方がいいのだろうか、言っていいのだろうか。
(とりあえずまた警察が事情聴取に来るって言ってたし、その時警察の人に聞いてみるか)
「また今度貰ってきます」
「忘れずにねー」
病院特有の匂いと、モニター音にナースコールの音。
慣れた人たちに、慣れた環境。
私は帰ってきたんだ、と実感した。あの非日常的な毎日から、私が過ごしてきた毎日に。
目の前にはすぐ浮かぶ白い服とジーンズが、もう遠くに感じた。
今はもうどこにいるのかさえ分からない人を想うだけで、心が締め付けられる。
私の たった一つの 恋心。
「じゃあ、とりあえず今日は帰ります。また来ます!」
「はーい、お大事にね!」
笑って手を振る仲間に振り返すと、私はその場を後にした。
外に出ると気持ちのいい快晴だった。
肩までの髪が風に巻き上がる。頬にかすってくすぐったい。
空気を思い切り吸い込んで深呼吸した。
何も考えてないのに、なぜか涙が出る。
気持ちいいね。あなたもどっかのスイートルームでこの空を見てるかな。
甘いものばっかり食べないでよ。
たまにはちゃんと寝てよ。
しゃんと背筋も伸ばしてよ。
「はは、考えることがお母さんみたいだ」
青い空があまりに綺麗で、私はつい目を細めた。
