5
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ぼんやりと目を開ける。
目を開けたはずなのに、目の前は真っ暗だった。
あれ、なに?なんで暗いの?
起き上がろうと思った時、手が動かない事に気がついた。
「…ん、え、なに…!?」
両手は前で拘束されていた。すぐに両足も同じようにされていることに気がついた。
そこでようやく先程の出来事を思い出した。忘れていた自分に呆れる。
彼の声を聞いた瞬間意識が飛んだ。何か薬品を嗅がされたに違いなかった。
「あ、起きましたか」
明るい声が響いた。なんとか頭だけを持ち上げて声の主を探す。
「ちょっと待ってくださいね…」
そう聞こえた瞬間、目の前が明るくなった。眩しさに両眼を強く閉じる。
「すみませんを目隠し取るの忘れてました!」
そっと目を開けると、やはり、そこには佐藤くんが笑っていた。
混乱した頭で辺りを見渡すと、そこはどこかの部屋だった。自分は柔らかなベッドに寝かされており、佐藤くんは横に腰掛けている。
中々広いその部屋は綺麗に掃除が行き届いていて、あの日竜崎と入ったアジトの最上階を思い出した。
「この前は部下にやらせたら薬品の量が多かったみたいで。今日はちゃんと適量です。頭痛もしないでしょ?」
「…いや、あの…」
まるでニコニコと笑う彼に呆然とした。起き上がりたくても、手足を縛られてはうまく起き上がらない。
はっと気づくと、私は着ていた服が変わっていた。ワンピースはなくなり、白いパジャマになっていた。
「あ。すみません。今まで警察に保護されてたわけだし、発信器とか付けられてないか確認したかったからちょっと拝見しました。」
「……」
「尾行もとくになかったし、本当に一人だったんですね」
「……」
「いやあ、まさかあんな脅しであなたが本当に解放されるなんて思ってませんでしたよ、それとも独断で出てきたんですか?」
「あの…あなた、何者ですか」
ベッドに腰を下ろす彼は爽やかに私を見下ろしていた。まるで悪人とは思えない人懐こさだった。
「ええ?さすがに分かってるかと思ってました」
「……Jなんですか…」
「なんだ、知ってるんじゃないですか」
「え、Jの…ボスなんですか…?」
佐藤くんが?こんな若くて爽やかイケメンが、
Jのトップ???
彼は首を傾けて私を見る。
「そうですよ。僕がJのトップです」
持ち上げていた頭を一旦下ろした。シーツに顔を押し当てる。
絶望した。まさか知ってる人だったとは。
自分のバカさに呆れる。
「今までどこにいたんですか。組織総出で探してたのにまるで掴めませんでした。随分腕のいいボディガードもいたみたいですね」
「…メリーの狙撃の依頼もあなたですね」
「そうです。足がつきそうな犯行は組織ではなく他の者に頼む方が安全ですからね」
私は膝を曲げて何とか体を起こした。彼の前に座り視線を合わせる。
「…あの、そうまでしてなぜ私を探してたんですか。私何かしましたか!?」
強く睨みつけた。メリーも犠牲にし、4人もの人を巻き込んだ。
果たして私は彼になぜこんなに執着されているんだろう。考えてもずっとわからなかった。
佐藤くんは頭をぽりぽりとかく。そしてポケットを漁った。
そんな小さな動作にも怯える。何か武器でも出すんじゃないかと。
しかし彼が取り出したのは武器でもなく、小さな箱だった。
それを私に向かって、パカっと開く。
「僕と結婚してください」
頭おかしいんじゃないか、と思った。
なんなのこの状況。私は手足を縛られて不愉快な思いしながら何とか座位を保持してる前で、
彼は恥ずかしそうに笑いながら指輪を見せている。
どうした。なんだこの展開は。むちゃくちゃな図だ。
ぽかん、とせざるを得ない。
「…は…」
「僕が唯一愛した女性なんです、月島愛さん。僕と結婚してください」
セリフだけ聞けばなんてロマンチック。しかも差し出された指輪はとんでもなく大きなダイヤ。これが好きな人に言われたとしたら涙流して喜ぶところなのに、
私は寒気しか走らない。ゾッとする。
「な、何を言ってるんですか…」
「僕の気持ちわかってたはずですよ、あんなに熱心に口説いたのに」
「それは…そんなこともありましたけど、え、本当に…?」
本当に、私に恋してるだけでこんなことしたわけ??
人をさらって手足縛って監禁して、挙句に無関係の人達まで巻き込んで?
「随分熱心に声をかけても全くなびいてくれなかったので、あなたをさらう事にしたんです。一生離れられないようにしようと。そしたら警察にアジトを暴かれまして、時間もなかったので仕方なしにあなたを置いていきました」
「…いやいや、さらう事にしたんです、が意味分かんないんですけど…」
「欲しいものはどんな手を使ってでも手に入れろ、が、父の遺言なんです。Jを生み出した父の。」
眩暈がした。まさかただの恋心のためにこれほどの事態を起こしているとは夢にも思ってなかったからだ。
まさか、本当に?こんなことってある??
「絶対にあなたを幸せにします。金は腐るほどあります。一生僕のそばにいてください」
「…人を…売って作ったような金…嫌です」
キッパリと言って睨みつけた。正直怖くて全身は震えていたけど、ここでこんなやつのプロポーズを受ける演技力なんてないし、言う通りになんてしたくなかった。
佐藤くんはぱあっと笑った。
「さすがです!そういう所が最高です。」
「……」
「僕が入院してた時、あなたの優しくも厳しい働きぶりに心奪われたんですよ…自分貫く強さがたまりません」
何を言ってもだめだ、と思った。
きっとこのプロポーズに返事など不要なのだ。私は縛られて抵抗もできない。私の意思など関係ない。
「…4人は解放してくれましたか」
「え?するわけないですよそんなの」
あっけらかんと彼は言った。私はピタリと停止する。
「…はあ?」
「まさかそんな取引僕が守るとでも?僕はJですよ。警察とのそんな甘っちょろい約束守るわけないでしょう」
ワナワナと体が震えるのが分かった。彼には始めから約束を守るつもりなんてなかった。
じゃあ私は何のために来たのだと。
竜崎との幸せな生活を捨てて来たのに、…それは4人を助けるためだったのに。
やっぱり竜崎が正しかった。私は囮なんかなってはいけなかったんだ。自分の愚かさがいまになって分かる。
悔しさに涙が出た。ノコノコ相手の思うように出て来てしまった。
「泣かないでください!最初は戸惑うと思いますけど、すぐに慣れます。売ったお金であなたの欲しいものを買ってあげますよ、僕の奥さんですから」
「奥さんなんかなるわけないでしょうがこのクズ!」
「あはは、犯罪者にクズって。至極真っ当な罵倒ですね!」
佐藤くんは無邪気に笑うと、私の頬をそっと撫でた。
だめだ、こいつ本当イカれてる。何を言っても聞かない。
本当にイカれてるやつって、こんなに爽やかに笑うんだ。
「ようやくあなたと二人きりになれて幸せです」
幸せそうに呟いた。その触られている頬が汚らしく感じる。
「…どうせいつかは捕まるよ。絶対に…こんなの続かないんだから!」
竜崎はきっとまたアジトを割り出してくれる。
そしたらきっとまた警察に保護される。
私は床にしがみ付いて、ベッドに噛み付いて、ここから動かなきゃいい。
…竜崎が助けてくれるはずだもの。
佐藤くんは優しく首を振った。
「ここはね、Jのアジトじゃないですよ」
「………へ」
「僕と愛さんだけの部屋です。」
「……どういうこと」
掠れる声。唇が震える。
「Jは未だかつて暴かれたことのない完璧な組織でしたが、ここ最近なぜか警察は優秀になったのか、2度もアジトを暴かれる失態でした。
僕も馬鹿じゃないですよ。僕はアジトにもう足を踏み入れないことにしたんです」
「え…ここ、アジトじゃないの…?」
「はい。僕と愛さんがここにいるってことは、部下の誰も知りません。バレることはないでしょう。電話一つあれば、十分彼らに指示を与えられます。アジトは別にあります。
Jという組織は、僕さえいれば何度でも蘇るんですよ。僕以外の部下が何人いなくなっても補充すればいい。またアジトがバレたとしても構わない。」
淡々と述べる彼の話を聞いて、私は頭が真っ白になるのを自覚した。
Jのボスと私だけ、アジトとは別の場所にいるのだ。
じゃあ…もし竜崎がJを突き止めたとしても、
そこに私はいないの?
「すみません。驚かせましたね。震えて…可哀想に」
「…りゅ…ざき」
「安心してください。僕はあなたには優しいですよ。現に、寝てるあなたを犯すこともせず待ってたんですよ」
佐藤くんはそっと私を抱きしめた。動けない私にそれを振り払う術はない。
悪寒が走る。触らないでほしい。
竜崎が抱きしめてくれたこの体幹に、触れないでほしい。
いつだったかあの人が抱きしめてくれた夜、あんなにうれしかったのに、今は悪寒しか走らない。
竜崎、竜崎。あなたに会いたい。
「まあ…単に起きてるあなたの反応が見たかっただけですが」
そういうと、すっと私に顔を寄せた。私は反射的に顔を背ける。
「や…めて!!」
「無駄な抵抗ですね。無理やりは趣味じゃないんですが」
「りゅ…竜崎!!」
「…さっきから誰ですかそれは」
声が低くなる。どきりと胸が鳴った。
笑顔だった彼の目は座っており、私を見ている。
その目は今まで出会った人間の誰より、「ヤバい」目だった。
「まさか男の名前?そんなわけないですよね?あなたの身辺は3ヶ月も調べたけれどそんな相手はいなかった」
「〜っっ」
「もし万が一男の名前なら今すぐ黙りなさい。僕はあなたに優しいと言ったが、怒らせたらどうなるか分からない」
人懐こいあの表情はどこにもなかった。豹変ぶりに言葉をなくす。
ああやっぱりこいつは、ヤバいやつだった。そう再認識させられた。
体の震えは止まらない。
私のパジャマに手を伸ばす。
「や、やめて、触らないで!」
「これから二人きりです。幸せにします。僕の子供も産んでください、Jの跡取りを」
「や、やめてよ!そんなの嫌、絶対やだ!!離してこのクズ!!人でなし!変態!!」
「最高です。この日をずっと夢見てました」
彼は恍惚とした表情で言った。
私はこのままこの狂った男に死ぬまで飼われるのか。
好きな人も出来たのに、その人の側にいれたのに、あえて自分でそれを投げ捨てて。
奴の手が私の肩に触れる。体を倒された。私の腹に馬乗りになる。
私はつい目を閉じた。
後悔してももう後の祭り。私は愚かにも自分でこの道を選んだんだ。
「りゅ…竜崎竜崎竜崎ーー!!」
殴られるのも覚悟で叫んだ。叫びたかった。今はもう、名前を呼ぶくらいしかあの人を感じられない。
