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それから一週間が経ち、私と竜崎はやはり以前と何も変わらない生活を送っていた。
あの日以降竜崎に質問することはなかったし、彼から話される事はなかった。
催促なんてしようとは思っていなかった。
大切な人、と言ってくれたのは単純に嬉しい。けれど思えばあやふやな言い方だ、と思う。
家族だって友達だって大切な人だし、その言葉で私と竜崎が付き合ってると確信はできなかった。
彼がだらしないとか、優柔不断だとは思わない。
よく分からないけど、私には到底理解の出来ない仕事をしてるんだということは理解したからだ。
本名すら人に打ち明けられないなんて、むしろ哀れだと思う。
でもそんな竜崎だからこそ私は助けられているわけで、彼を責めるなんてできなかった。
竜崎が、好き、だなんて
もう口には出せない。
そしてその日、物語は突然動き出す。
穏やかだった日々が終わりを告げる、
最後のシナリオが。
私はあまり集中力もない中いつも通り小説を読んでいた。
手にしていたのはミステリーで、物語の中盤は男女の恋愛模様が描かれている。
ああダメだよ主人公、その男は話の流れ的に死ぬから。
なんてどうでもよいツッコミを心の中で小さくいれながら読んでいた。
集中しきれないのには訳がある。と、いうのも、朝から竜崎のパソコンは何度も何度も音を響かせて、そのたびに竜崎はイヤホンで通信していた。
今回は相手は日本人らしく、竜崎は日本語で話していた。どうやら何か事件が起きて、その詳細を聞いていた。
テレビドラマで見ると素人にも分かるけれど、実際は専門用語も多いし全ては理解しきれない。
竜崎に聞こうかと悩み、声をかけようとするとまた通信が入る。
その繰り返しで、私はどうも気になって仕方がなかったのだ。
夜も更けて、改めて竜崎の方を盗み見ると、彼は非常に険しい顔をしていた。と、同時に、どこか楽しそうというか、そんな表情も兼ねているように思える。
朝から忙しく動いていたワタリさんは次々と何か資料を竜崎に運び込んで、竜崎はそれを読んだりパソコンをじっと眺めたりしていた。
どうしても聞きたくてしょうがない私はタイミングを見計ろうとチラチラ見る。
うーん。なんか緊迫してるよなぁ。何かあったのかなぁ。
ふうとため息をついてまた本に目を落とすと、竜崎の声が聞こえた。
「ずっとあなたに話せてなくてすみませんでした」
突然声を掛けられたため、驚いて跳ね上がってしまった。
振り返ると、竜崎はいつのまにか立ち上がってこちらを見ていた。
「あ、いえ…忙しそうでしたから」
「…Jが動き出しました」
「え!」
竜崎は私の元へ近づき、向かいの椅子を引いて腰掛けた。
「昨日夜から女性3名、子供1名が行方不明になり捜索依頼が出ています」
「そ、それ全部Jの仕業なんですか…!?」
「それを確かめるために今日一日捜査してました。ほぼ間違いなく彼らの仕業です。やり方が今までのものと酷似してます。」
4人もの人をたった1日でさらうとは。
私は手に汗握り、以前聞いた話を思い出した。
人身売買をしている、J。
若くて綺麗な女性に子供。その人たちが、売られている世界がある。
「不謹慎ではありますが、動いてくれたおかげでこちらもまた彼らに近づける」
「あ、新しいアジト…分かったんですか?」
「まだそこまでは達していません。しかし突き止めます、今度こそは逃しません」
竜崎がそう言った時、ワタリさんが部屋に入ってきた。
やや表情が曇っている。
「竜崎、長官からです」
携帯電話を持っていた。竜崎の目が鋭くなる。
変な持ち方で、彼は携帯を耳に当てた。
「はい」
相手の声は聞こえなかった。ただ、少しした時、あの竜崎が珍しく目を見開いて少しだけ視線を泳がせた。
そしてその泳いだ視線は、私を一瞬捕らえる。
…え、私?
「…すぐにその声明を送ってください。当然ですが飲むわけにはいかない。時間内に彼らに追いつかねばなりません」
竜崎は厳しい声で話している。不安になった私はワタリさんを見上げた。いつもなら、安心させるように笑ってくれるその笑顔は、今日はどこか固いように見えた。
しばらく話した後、竜崎は電話を切った。
私はすかさず彼に声を掛けた。
「何かありましたか…?私が何か?」
竜崎の視線でそれは予測していた。私に関係してるんではないかと。
彼は少し眉を潜めた後、普段より少し低い声で話した。
「また酷なことを言いますがよろしいですか」
「…は、はい、受けて立ちましょう」
「私の話を聞いても、決して一人で判断して動いたりしないと約束しますか」
「…は、い…」
何それ、どういう意味?
返事をしたものの、私の頭は混乱を辿る。
「Jから警察へこう言った要求が来ました」
「…要求…?」
ゴクリと唾を飲む。竜崎はしっかり私の目を見て淡々と述べた。
「本日さらった女性3名と子供1名。解放してほしければ24時間以内に月島愛を解放せよ。」
「…………」
酷、なんてレベルじゃなかった。
頭はショートする。
竜崎の苦手なあの大きな瞳だけを見つめていた。
それは、つまり
…つまりは?
「…私を出せば、その人たちは無事解放される、ってことですか…」
声がかすれる。瞬きすらできないほど、私の脳内は停止した。
「…決してあなたを出すようなことはしません。決して。」
竜崎は私を見つめたまま強く言った。
「で、でも…そしたら、4人が…」
「24時間以内に奴らを追って捕まえます。」
「出来るんですか…?そんなこと…」
「必ずして見せます。」
「〜竜崎!私、別にいいですよ、囮になっても…!それで4人もの人が助かるなら私…!」
私がいうと、彼は厳しい視線でさらに私を見つめた。
「そんなことさせません。絶対に。」
「……」
「あなたは私を信じていてくれればいい。」
竜崎はそれだけいうと、椅子から飛び降りてまたパソコンの前に座った。
「もう一度言っておきます。決してあなたを囮になんてしません。私は起きた犯行を洗って奴らの居場所を突き止めます。必ず。」
力強くそれだけいうと、彼はまた黙って資料をまはじめた。
私は呆然としながら、ワタリさんをそっと見上げた。
彼は力強く頷く。
「大丈夫ですよ。ご心配なさらず。竜崎を信じてください」
信じては、いるけど。
今まで尻尾を出さなかった凄い犯罪組織のアジトを、たった24時間で突き止めるなんて不可能なんじゃないだろうか。
2度特定したとは言っていたが、逆に言えば相手もかなり慎重になってるはず。今までより難易度があがるのは私にでも容易に分かる。
4人の運命が、私一人で。
私一人で済む。
さらに…そのうち一人は子供だと、言っていた。
両親と突然離れ離れにさせられる悲しみは痛いほどわかる。
心がざわめく。
竜崎の鋭い眼光を見つめた。
彼は今までの中で一番厳しい目でパソコンを見つめていた。
