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「うわー、この俳優このグラビアと付き合ってるんだぁ…」
夜入浴も済み、パジャマ姿で私は自室のベッドに横になっていた。
テレビをつけてよくある芸能人同士の熱愛発覚を見て、ポツンと呟く。
「女が嫌いな女だなあ。こういうのやっぱりモテるんだなぁ」
返事もないただの独り言。ここへ来て独り言は圧倒的に増えたと思う。
雑談なんかする相手はいないし、友達と連絡を取るわけでもないし、喋るのが好きな女としては話す余力が有り余っている。
ワタリさんは優しいけど忙しそうで部屋にいない事も
多々あるし。
あのパンダは一人何やら難しい顔して雑談なんかふきかけられる雰囲気ではない。振っても絶対つまらなそうな顔しそう。
ベッドで足をバタバタと動かしながらぼーっと眺める。
「またなんか映画でも見ようかなぁ…」
実は映画より読書の方が好きな私は、本棚に並べられた大量の小説はもう読み切ってしまっていた。
今日は一度読み終えたものをリビングでまた読んでいたのだ。
映画はまだまだ見ていないのはたくさんある。
私はベッドから起き上がって引き出しを開けた。
恋愛、アクション、SF、はたまたホラーまで。
レパートリーとしては申し分なし。
「うーん何見ようかなー」
私が一人呟いて悩んでいるところへ、ノックの音が響いた。
はっと振り返る。
…うそ、まさか。
竜崎…?
引き出しを勢いよく閉めた。なんとなく髪型を直す。
一体どうしたというのだろう、こんな遅くに。
彼が私の部屋に訪ねてくるのは初めての事だった。
というか…竜崎が来て、私はこの部屋に彼を招き入れていいのだろうか。はたと、止まる。
まてまて私。夜、自分一人の部屋に異性を入れるとは、これはまさかまさかの展開なのでは。
自分で考えながら頭がパニック状態になる。
ちょっとだけ待て!落ち着くんだ自分!そんな急展開、心は置いてけぼりでついていけないよ!
今私たちの関係とは一体何なんだ、と疑問を持ってる段階で、確かにキスはしたけどそれ以降何も変わらない毎日で手すら繋いだ事なくて、
そんで突然ぶっ飛んでそれ?棒高跳びかってくらいぶっ飛んでない??
一人百面相していた私はまたいつもの如く顔が熱くなるのを感じた。そんなことをしてるうちに、再びノックが響いた。
「あ、はい!」
つい反射的に返事をする。そうなれば開けるしかあるまい。心を決めるしかなさそうだ。
私はやや震える足でドアに近づき、その扉を開けた。
「りゅ…!」
「こんばんは、月島さん」
立っていたのは、ワタリさんだった。
いつものように優しい笑みで、しゃんとして立っている。
予想していた人と違い、私は一気に拍子抜けした。それと同時に安心する。
竜崎じゃなかった。よかった…の反面少し残念なような。
ワタリさんはふふっと小さく笑った。
「竜崎でなくてすみません」
「ええ?!」
言われた瞬間顔が熱くなる。慌てて否定した。
「全然!そんなこと全然ないです!!これほんとに!どうしたんですかワタリさん!」
顔に出やすい事がここ最近凄く自分を苦しめてる気がする。私は何とか顔を冷やすためにもワタリさんに気づかれないように深呼吸した。
彼は足元にあった紙袋を持つ。
「こちらを、どうぞ。お好みのものが有ればよいのですが」
それを受け取ると、ずしっとした重さが腕にのしかかる。何だろうと覗いてみれば、沢山の本が入っていた。
ちょうど読み切ってどうしようかと思っていたところだ。私はわっと声を上げた。
「すごい!めちゃくちゃ嬉しいです!実はちょうど読み切っちゃってて!読書好きなんです」
「そうですか。それはよかったです」
「ありがとうございます」
私は心からお礼を言う。何ていいタイミングなのだろう。
私がニコニコしていると、ワタリさんは優しい笑みで続けた。
「月島さんが本日、以前と同じ物を読んでらしたと、竜崎から聞きまして」
ふ、と顔を上げる。
「新しい物を用意するよう彼から言われましたので」
胸が温かくなるのを感じた。
いつもこっちの方なんかほとんど見てない彼が、私が読んでる本の題名まで知っててくれるなんて思いもしなかった。
収まっていた心臓の音が、また響きだす。
「…そ、うでしたか…びっくりです、私のことなんて見てないかと思ってました」
「…月島さん」
ワタリさんは更に目を細めた。
「彼は、今まで一人で戦い、その能力ゆえ本当の彼と向き合う人とは出会ってこなかったのです。だからいつも正直でまっすぐ彼自身を見てくれるあなたのことを、本当に大切に思っています」
「……」
「彼は言葉足らずですし分かりにくいでしょうが、ちゃんとあなたを見ています。そして私も、そんな彼が見れてとても嬉しい。ありがとうございます」
ワタリさんはゆっくり頭を下げた。
「や、やめてくださいよワタリさん!私は何もしてないし、これからだってどうなるか!」
私はここに保護されてるだけの存在だ。Jが突き止められれば、ここを出ていく。
それ以降竜崎とどうなるかなんて、まるで想像はつかない。
「…竜崎はまだ…あなたに言わねばならないこともありますね」
「え?」
「…そのうち、お話しされるでしょう」
ワタリさんはそう静かにいうと、またゆっくり頭を下げてその場から去っていった。
残された私は貰った紙袋を抱いて、部屋の中へと入る。
私に話さなきゃいけないこととは何だろう。
「正直ベールに包まれすぎてるから、教えて欲しいことたくさんなんだけど…」
年はいくつなの、とか、血液型は、とか、誕生日はいつなの、とか、国籍はどこなの、とか…
私に話さなきゃいけないことなんて山ほどあるでしょうに。
そう、私は
「何も知らないんだなぁ…」
竜崎の下の名前すら知らない。
知っているのは、彼はケーキと紅茶が好きだということだけ。
付き合ってるだなんて笑ってしまうほど、私は竜崎について何も知らない。
教えてくれるつもりは、あるんだろうか。
どこか芽生えた不安と、彼の優しさで貰った大量の本たちは、私の心を支配して、説明できない複雑な感情へと変化していった。
翌朝、私は昨日ワタリさんから貰った本を片手にリビングへ向かった。
扉を開けるとやはりいつものように竜崎は座っていて、その後ろ姿をみただけで心は騒いだ。
こちらを見ることもなく挨拶だけ言ってくれた竜崎におはようを返すと、私はソファから3メートルくらい離れたところまで歩いた。
「あの…」
彼が顔を上げる。ばちっと、目が合ってしまった。
「本、ありがとうございました。竜崎が届けるよう言ってくれたって」
私が頭を下げると、一瞬彼の目が細くなる。しかしすぐにまたパソコンに視線を下ろしてしまった。
「不自由なく暮らす、というのが約束でしたので。あなたも必要なものは言ってくださって構いません」
「は、はい…ありがとうございます」
それだけ答えて、朝食を貰おうとしたところ、私は思い出してまた彼に向き直った。
「あの竜崎」
「なんでしょう」
「竜崎の…し、下の名前って何ですか」
彼は私の名前を呼んでくれた。あれ以降聞いてないけど。
私も出来れば、呼んでみたいと思った。
彼の名前を。
だが聞いた瞬間、竜崎は少しだけ眉を潜めた。
じっと考えるように一点を睨みつけた後、ゆっくりと私の方を向いた。
何か変なことを言っただろうか。それともめちゃくちゃ変な名前だったりするのだろうか。ごんべえとか。
聞きたいことは沢山あったが、まずは名前からという私の計画だった。あとは年齢と、誕生日と…
「…ありません」
予想外の言葉に、私はキョトンとした。
「…へ」
「すみません、ありません」
「…は」
「偽名なんです」
頭から冷水を浴びせられたような感覚に陥った。
偽名。
本当の名前じゃ、ない?
竜崎はやや視線を下げる。
「仕事上人には偽名を使うことにしています。本名は教えられません。すみません」
体が芯から冷えていくような感覚だった。
私が大切に呼んでいたこの名前は、彼の本当の名前ではなかった?
昨日ワタリさんは言ってた。竜崎は私のことを大切に思っていると。
…でも、私は、
彼の名前すら知らない存在なのに??
「そ…っか、分かりました!大変ですね、こういうお仕事も」
深くは聞かなかった。名前くらいいいじゃない、大切な人なんでしょう!?
…と、怒ることができたらよかったのに、私はそんなことできなかった。
ただ単に、ショックだった。
彼はどうやらかなり特殊な仕事をしてるらしいとは流石に分かってるし、偽名を使うようにしているというのもなんとなく分かる。
でもそれを教えてもらえないのは、さすがにこたえた。
私と彼の関係はよくわかった。
名前も、年も、国籍も、誕生日も、
何も知らない人
近づいたと思った彼は、やはり全然遠くの人だった。
「朝食頂きますね、竜崎もたまにはちゃんと食事取ったらどうですかこの糖尿病予備軍」
「大丈夫です、定期的に血糖値もHbA1cも測ってますが予備軍ではありませんので」
「その体質奇跡ですよね。まあ年取ったら知りませんが」
「頭使えばちゃんと消費しますよ」
「どうせ私はそんなに頭使ってませんよ!」
笑いながらいつものような会話をし、朝食のパンを温めた。
口元は笑顔の形を作りながら、瞳は感情に正直だった。
稼働するトースターの前で、私は少しだけ出た涙を拭き取った。
