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「あ、で…でも!ここ肝心ですよ!最後まではされてないんです!」
私は場の空気を変えるように笑顔で言った。
「いざ!って時、蹴ったんですよ!得意の蹴りを炸裂させたんです!痛がってる間に逃げ出して、そっから丁度専門学校に通うため一人暮らし開始だったからそれ以降会ってないし…相手からすればそのために10年以上も育てたのに未遂で恨まれてるくらいかもーって」
何を言い訳並べているんだろう。
私は竜崎に何を伝えたいんだろう。
「蹴って逃げるって、私らしいでしょ?」
笑って欲しかった。
『確かにあなたらしいですね』なんて、
愛想笑いでもいいから、そう軽く流して欲しかった。
そうすれば、きっと私は笑ったまま部屋に戻れるから。
でも竜崎は笑わなかった。
じっと私の目を見たまま動かなかった。
その目はやっぱり初めて会った時から苦手で、私は自分の笑顔が固まるのを自覚した。
「……愛さん」
びくっと、体が動く。
…やめてほしい
なんで、
こんな時に、
「あなたは笑ってる方がいいと言いましたが、こんな時にまで笑う必要はないです。
無理に笑うあなたはあなたらしくない」
彼の顔は見たこともないほどに真剣で、どこか怒りを抑えてるようだった。
その言葉はまるで魔法のようにストンと私の心に落ちた。
そしてその瞬間、自分の気持ちがようやく分かった。
みるみる目からは涙があふれ、頬をいくつもつたう。
そうか。そうだったんだよ。
この涙の意味は。
「私…強がりじゃなく…過去は乗り越えてるんです…男性恐怖症ってわけじゃないし…。でも……」
涙は止まらない。
きっと目も鼻も真っ赤の、不細工顔。
竜崎はそんな顔をじっと見ている。
分かったんだよ。自分で泣いてる意味が。
「……竜崎にだけは…知られたくなかった…」
相手があなただから、涙も出てしまう。
あなたには知られたくなかったんだ。
ようやく分かった。
私がそう言い終えた瞬間、竜崎は強く私を抱きしめた。
竜崎の甘い匂いがした。あの日感じた彼の広い胸が、今私を包み込んでいる。
その腕は私をしっかりと抱きしめ、彼の吐息が聞こえた。
「……何、してるんですか…竜崎…」
「…何してるんでしょうね」
耳元で聞こえるあなたの声。普段とはどこか違って聞こえる。
私の涙はピタリと止まった。
「嫌なら、振り払ってください」
彼は言う。その力は増して私を強く抱いた。
振り払えるわけない。分かってこの人は言ってるんだろうか。
竜崎は小さくため息をついて、どこか戸惑うような声色で言った。
「あなたは騒がしいし口うるさいし足癖は悪いし失礼なことは言うし、こんな女性見たことありません」
「ええ…」
「…でも正直で度胸があって真っ直ぐで、私はなぜかその笑顔から目が離せないんです」
竜崎は困ったように言う。今、彼はどんな顔をしてるのだろう。
いつもはまるで変わらないあの表情が、少しはくずれてるのかな。
体全体に伝わるぬくもりが心地良くて、私は目を細めた。
「教えてください、愛さん。これは、何ですか?」
ズルイ。
なんてズルイ。
そんなの、私に聞くことですか。
なんてやつなんだ。
「…私だって…竜崎は寝ないし病的甘党だしクマ凄いし失礼なことばっかり言うし、こんな変な人見たことないです」
「辛辣ですね」
「…でも、時折見せてくれる笑顔が頭から離れない。突然優しかったりして振り回される。ドキドキしてばっかいるんです。これ、何ですか」
質問に質問で返してやる。
これほどむかつくこと、ないでしょう。
「教えてください竜崎。竜崎は私より頭いいんでしょう?」
私の口からは言ってやらない。
絶対言ってやらないんだから。
しばらく竜崎は黙ったままその状態だった。
私は催促もせず、ただ黙って待っていた。竜崎の甘い香りに酔いながら。
そして竜崎はまいった、とばかりに大きく長くため息をついた。
ゆっくり私を離す。
ようやく見えた竜崎の表情。彼は困ったように、でも面白そうに少しだけ微笑んでいた。
間近で目が合う。
その目。最初に会った時から、私はその目が苦手だったんだよ。
全て見透かされそうな漆黒の瞳が。
「愛さん、それは……」
竜崎が小さな声で呟く。
「恋、ではないでしょうか」
そう言うと、私の返事も聞かずに、彼はゆっくりと私に唇を重ねた。
あんな失礼で常識のない竜崎のくせに、優しく、柔らかなキスだった。
身を任せて、目を閉じた。
分かってた。私はとっくに。
分かってたたんだよ。そんなこと。
ただ認めるのが悔しかっただけ。
私はあなたに、「恋」してるなんて。
でもずっと聴きたかった。あなたから、その言葉を。
