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「………」
「こんにちは。」
飛び蹴りしてやろうと思っていた気持ちがぶっ飛ぶほど、変な人が現れた。
不健康そうな白い肌、無造作すぎる黒髪。
その髪の隙間から覗く目の下は見たことないようなくま。
ひどい猫背。
私はどこかの死神と出会ったのだろうか。
「……」
「こちらへどうぞ。部屋を変えて話しましょう」
男は白い服にジーンズで、ポケットに両手を入れていた。
ヤバイ。
ヤバいやつが現れた。
私これからどうなるんだろう。
びくとも動けない私を見て不思議そうにその人は首を傾げた。
「月島さん?」
「…あ、いえ、…あなた誰ですか」
とりあえず出た言葉はそれ。
彼はああ、と小さく呟いて自己紹介した。
「竜崎といいます」
「…竜崎さん」
「こちらへどうぞ。もう少し明るい場所をご案内します」
そう言われても、この人について行こうと言う気がしない。
私は呆然とそこに立ち尽くしていた。
が、その時竜崎さんの後ろから一人の老人が現れた。
「月島さん、何かお食事を取られませんか。こちらが信用できないのなら未開封の物を用意いたしますが」
その人はしゃんと背筋を伸ばして優しい顔をした、紳士な老人だった。
警戒心がすっと薄れる。
「あ…じゃあ、お願いします…カップラーメンとかでいいです…」
「承知しました。さあ、こちらへどうぞ」
優しく促され、私はようやく足を踏み出せた。
竜崎さんはじっと私を見ながら立っている。
怖い。
私は彼からなるべく遠くなるよう距離を置いて部屋から出た。
出れば広い廊下。思ったより新しくて綺麗だ。
少し先に老人が立っている。
「こちらへ」
私は言われるがままそっちに素直に移動した。少し後から竜崎さんが付いてくる。
かちゃりとそこにある扉が老人によって開かれると、とても広くて綺麗なリビングが目の前に広がった。
うわ…思ってたのと違う。
そこはお金持ちが住んでそうな高級感のある部屋だった。
私がいた部屋とあまりに似つかわしくない。
唖然としてる私の隣を、竜崎さんがすっと通る。やはりひどい猫背。
彼は部屋の奥にある大きいソファにぴょんと飛び乗る。そして体育座りのように膝を抱えて座る。
「月島さん、こちらへ」
竜崎さんに言われる。
…え、あの人の前?ちょっと…
一瞬引いたが、すぐそばにいた優しげな老人が微笑んだのに心和らいだ。何という緩和剤。
私は恐る恐る竜崎さんの前に移動し、なるべく彼から遠い対角線に座った。
見れば、ソファの前のローテーブルには所狭しと並ぶお菓子。…何この量。
すると竜崎さんはつまみ上げるような何とも変わった持ち方でフォークを持つと、パクパクとあらゆるお菓子を食べ始める。
「よければどうぞ。私も口にしてるものなら薬物の混入なども疑わないでしょう」
そう言いながらもぐもぐ食べ続ける。
…とりあえず…この人の行儀の悪さは置いておこう。
丸一日何も食べてない私には確かに魅力的な図だった。我慢しきれず、おずおずと目の前にあった焼き菓子を手に取って口にする。
「お、…いしー!!!」
私はつい顔を綻ばせる。絶食の後の甘味、なんという
幸福感。
私はもう我慢しきれずパクパクと色んなものを食べた。
お腹空いてた。堪らなく美味しい。
私が食べていると、隣からあの老人がペットボトルに入ったミネラルウォーターを持ってきた。
「どうぞ」
「あ、どうも!」
カラカラだった喉に冷たい水が流れる。生き返るとはまさにこれか。
私はふうと一息つく。
老人は次々と、包装された食べ物を持ってきてくれた。
私は遠慮もせずパクパクと口に入れた。
竜崎さんはそんな私のことを気にする様子もなくお菓子を食べている。
いくらか食べたところで一息置く。急にたくさん食べては胃によくない。
ゆっくりまた水を飲んだ。
「月島さん」
「ひゃっ」
突然呼ばれて驚く。竜崎さんは私を見ることなく話した。
「まずは改めて監禁状態をお詫びします。あなたはどうやらJの被害者なようです」
「そのJってなんですか?被害者って?」
私は眉を潜めて聞いた。私には聞く権利があるはず。
竜崎さんはなんの表情もないまま、お菓子を食べている。
「それよりまず少し聞かせてください。あなたはどこで誘拐されたのですか」
…誘拐?
私は腕を組んで考えた。
誘拐された記憶がまるでなかったのだ。
「あの、本当に覚えてません。私誘拐されたんですか?」
「…最後の記憶は仕事帰りでしたね。何日のことですか」
「え?ええと、20日ですね」
私がいうと竜崎さんはピタリと手を止めた。停止したまま何やらじっくり考えている。
「…詳細に、最後の記憶を思い出してください」
「え?詳細に…って」
私は考えをめぐらせる。
うーんと、徒歩で家まで歩いて。
…どこから記憶がないんだろう。
「どこが最後か、ちょっと思い出せず…」
「なるほど」
竜崎さんはそういうと、親指の爪を噛んだ。
まるで子供のような仕草だ。
ええ…それ癖?変人が更に増してますけど…
引いてる私に気付いてないようで、竜崎さんは続けた。
「やはり20日帰りにあなたは誘拐されてます。ちなみにそのあとあなたは警察に保護されてます。それが23日、3日後です」
「けけ、警察!?」
自分の記憶にないことだらけで混乱する。
しかし、今一番気になるのが…
「てことは、竜崎さん警察関係者なんですか!?」
「竜崎、で構いませんよ」
彼はまたお菓子を頬張る。
「警察関係者…とは少し違いますが、まあ近いです。警察と共にJを追っています」
「…早く言ってくださいよ…」
「言って信じますか」
「信じません」
「正直な人ですね」
このナリで警察関係者とは。しかしではなぜ私はこんな個人的な場所に?ここはどう見ても警察署でもないし。
「あの…」
「あなたが保護された所までは別段特別な事ではありませんでした。こんなふうに監禁する必要もなかった」
疑問を口にしようとする私を遮って竜崎は言う。
「Jとは、今までもさまざまな犯罪を犯してきた犯罪組織です。中々その尻尾を掴めていない。奴らは詐欺から麻薬取引、あとは主に子供や女性をさらって人身売買しています」
「…え!じゃ、私売られるとこだったんですか!?」
「いいえ、あなたは違います」
竜崎さんは初めて、ゆっくり私をみた。
その大きな黒い瞳にぐっと言葉をなくす。
なんて。威力のある瞳。
「あなただけ特別扱いでした…他の被害者は地下室に適当に閉じ込められていただけなのに、あなたは温かく柔らかなベッドで寝かされていた」
「え…」
「私は以前もJのアジトを突き止めたことがあります。前回と今回も、あと一歩のところで彼らを取り逃してしまったのですが。前のアジトも地下室に適当に被害者たちがいるだけで、あなたのような者はいなかった」
「……」
「さらい方も違います。他のものは乱暴に殴られたりスタンガンで気絶ですが、あなたは薬品で眠らされたようでした。みんな傷だらけで保護される中、あなただけはかすり傷一つなかった…」
「なんで、ですか」
「その理由が知りたくて監禁してました」
竜崎はそばにあった紅茶を飲む。
「あなたが本当にJの被害者なのか、それとも実はJの事を知っている者がこちらに潜入するために被害者の振りをしていたのか分からなかったからです」
「スパイだと疑われてたって事ですか!?」
「まあそうですね。もしくはとんでもない身元なのかも期待したんですが。だから身元が分かるまではああさせて貰ってたわけです」
どっと脱力した。自分の記憶にないところでそんな事が起こっていたなんて。
「で…疑いは晴れたんですね?」
「ええ。あなたの半生を調べましたが、まるで怪しいところもないし、さまざまな犯罪に関わった形跡もなし。まあ被害者の振りするのにあんな豪華な部屋じゃ違和感があるので、初めからスパイの可能性は低いと思ってましたが」
はあーと私は大きくため息をついた。なんて不運だったのだろう。
まるで映画の中の世界のよう。
「で。月島さん。なぜJがあなただけ特別扱いしたか分かりますか?」
「へ?」
きょとん、としてしまった。
「いや、分からないですよ。全然。」
本心だった。まずさらわれた事すら信じられないほど、私は平凡な日常を送っていたのだ。
毎日働いて、休みの日は友達とご飯行く、そんなありふれた毎日を送っていた。恨みを買うような記憶もない。
竜崎はケーキを食べる手を止めて一度考え込む。
私はそんな彼の様子を伺うように見た。
…この人何者なんだろう。
変な人なのは置いといて、警察と一緒に犯罪組織おってるって…。
「何か心当たりは。例えばあなたに執着しそうな人間など」
「え…」
執着。
そう言われてふと一人思い浮かんだ顔。
瞬間、ぞっとする。忘れてた顔なのに。
違う。うん、違う違う。だってあれは、犯罪組織なんて無関係なのは流石に私は知っている。
執着されてるかも分からない。
少し心に沸いた恐怖を打ち消した。
私は表情には出さず、堂々として言った。
「本当にないです。」
竜崎は私の答えを聞いて何も言わなかった。また考え事をしてるのかもしれなかった。
じっとケーキを見つめて動かない彼に、私は恐る恐る声を掛けた。
「あの竜崎」
「はい」
「厚かましいとおもいますけど、お風呂貸して貰えませんか?」
ずっと言いたかった要望だった。だって、20日の帰りにさらわれてそこから3日間監禁されてたんでしょう。
正直変人だと言え男性と向き合って話すのも躊躇してしまうほど清潔感に自信がない。
竜崎はああ、と小さく言った。
「すみません気がつかなくて。ワタリ」
竜崎が言うと、あの老人がすっと私に近寄った。
「月島さん、こちらへどうぞ」
私は言われる通り立ち上がる。私のことを竜崎は見もしない。
そんな無愛想な人に私も何も言わず、ワタリさんと呼ばれた人について行った。
扉を開けて廊下をぬけ、ワタリさんはある扉をゆっくり開いた。
そこへ入ると、十分すぎるほど広くて綺麗な浴室があった。バスタブは足を十分に伸ばせるほどの直径。そこにはすでに湯気の立つお湯が張ってあった。
「こちらにあるものは何でもお好きにお使いください」
「あ、ありがとうございます!」
「ごゆっくりどうぞ。」
丁寧にお辞儀をしてくれると、ゆっくり戸は閉まられた。
私は向き直る。すっごい風呂、何人で入るの。
そんなことを思いながら自分の格好を改めて見た。20日に着ていた洋服そのままだった。適当なTシャツに白い長いスカート。
キョロキョロと体を見れば、確かに竜崎が言うように傷もなく痛みもない。
知らないやつに誘拐され、保護されるまで3日も眠らされていた、となると。
やはり心配なのは体である。これでも女なのだ。
私は意を決して服を脱いでいく。下着も同じように脱ぎ捨てた。
汚れひとつない大きな鏡に映る自分は、いつもと何ら変わりない体だった。
変なところは何もない。
…乱暴された跡は特になさそう。多分、大丈夫。
私はほっと息をつく。そのまま浴室に入った。
湿気の多い部屋に入り、まず熱いシャワーで全身流す。生き返るようだった。
頭からお湯を流しながら、私はそっと目を閉じた。
…でも、さらっておいて乱暴もしない、
特別扱いでベッドで眠らせてただけとは。
ほんとに、
何のために私を攫ったの???
