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しばらく車を走らせた後、再びまた有名なホテルが見えてきた。
「また裏口から入るわ。さっきと同じ、マイク先頭で、次に愛が行って。私は一番後ろから行くから」
「はい」
「つけてきてる車も無いし、大丈夫そうよ。安心して」
「よかった…」
またメリーたちを危険な目にあわせたくない。それが仕事だと彼らは笑っていたけど、こんなに素敵な人たちが命を落とすかもしれないと考えるとやはり辛い。
もちろんワタリさんや、竜崎だって。
こんな一般人の私を守るために犠牲になんてなってほしくない。
「さ、着きますよ」
ワタリさんの声が響く。しっかり帽子をかぶり直した。竜崎もゆっくり足を下ろして靴を履く。
慎重に車は停車し、マイクとメリーは何度も周りを見渡した。その目つきは見たことない鋭さで、ついぐっと息を飲む。
無言でマイクが降りた。メリーもドアを開け、私はそれに続いて降りる。
先を歩くマイクにしっかり着いていく。
そびえ立つホテルの外観など見る暇もなく、私は緊張しながら足を進めた。
すぐに裏口にたどり着き、マイクがセキュリティ解除し開けててくれた重い扉を潜り抜ける。
彼は人差し指をちょい、と招き、私を誘導する。
長い廊下を歩いてエレベーターを見かけた時、ほっと息が漏れた。マイクはカードキーでエレベーターを呼ぶ。
振り返れば竜崎とメリーもちゃんと来ていた。その後ろには誰もいない。
声を出そうとして、まだ安心しきってはならないと叱咤した。暗いこの廊下では大きく響いてしまうだろう。
ついたエレベーターに乗り込み、扉が閉まったところでようやく全員が息を吐いた。
「怪しい人影も何もなかった。恐らくバレていない」
「よかった…」
私はほっとし笑顔になる。メリーとマイクも顔を緩ませた。
「まあ、元の居場所がバレてたらとっくに襲撃されてたはずだからね。誰もこんなホテルに匿われているなんて思わないし」
メリーが腕を組んで言った。それもそうだ、普通警察とかが保護してると思うに違いない。
「とりあえず安心しました…メリーとマイクがいてくれるからとても心強かった。ありがとう」
心の底から言った。二人とも面食らったように目を丸くしたが、すぐに笑顔になる。
「今回は本当に何もしてないけど。楽な仕事だったわ」
「でも気を張るでしょう?車から降りるとき、なんか二人とも顔違ったもん。プロって感じ」
「そう?無意識だな」
穏やかな空気の中、エレベーターが到着する音が響いた。再びマイクが先頭で降りる。
私たちも続いた。カードキーで部屋は開かれ、全員入ったところで扉は閉められ、本当に無事移動が済んだことが確定した。
竜崎はそこらへバケツを適当に置くと、スタスタと一人で進んで部屋へ入っていく。メリーもそれに続いた。
私はとりあえず窮屈に思っていた帽子をその場で脱いだ。長い髪がパサっと落ちる。手櫛で簡単に整える。
まだ廊下に立っていたマイクが私に近づき、小声で聴いた。
「少し質問していいかな」
「え?」
「まさか、竜崎とデキてるなんて事ある?」
外人がデキてる、なんて言葉を使うことに驚いたが、それよりやはりその内容にぶっ飛んだ。
私と、竜崎??が?
一瞬ドキッとしたのを、私は平然を装って隠す。
「え、ち、違うけど…」
「そうか。ふーん、なるほど。」
一人で何か納得してるようにマイクは呟く。
どこか面白そうに口元が緩んでいる。
「いや、何でもない。竜崎の恋人を口説いてたとなれば大変だなと思って」
「はは、口説いてもないくせに」
「ははは、クールだね」
「これでもいい大人ですからね!」
私は適当に返すと、すぐそこから離れる。
揺れている心を落ち着かせたかった。
竜崎とそんな関係になるなんてあり得ないと思った。それは決して私が拒んでるわけではなく、彼からはそういった属性の匂いがしない。
そう、何だか、恋とかそういったことをする想像がどうしても出来ないのだ。
性別なんかを超越してる気がする。竜崎とは、そういう人。
私はリビングへ入ろうとしたところへ、メリーがひょいと顔を出した。
「あ、愛。あなたの部屋案内するようワタリから聞いてたの。こっちの部屋だそうよ、来て」
「あ。はい」
メリーに言われるまま私はまた廊下を戻り、すぐそばの扉を開けられた。
そこはまたしても立派な一室で、前いたホテルより広々と感じるくらいだった。私は中に入る。
「メリーたちはどうするの?」
「今日は泊まらせて貰って明日帰るわ」
「来たばかりなのに忙しいね…」
「慣れてる。帰る前に日本のお好み焼きでも食べてくわ」
「あは!好きなんだ?」
「好きよ日本食!いつか一緒に食べましょう」
「ほんと?楽しみ!」
「約束よ。ほら、今日はもう遅いから休んで。」
メリーは軽くウインクした。すごい、日本人は普通の生活でウインクなんかしないよなぁ。
メリーは静かに扉を閉めた。私は一人残された部屋で、とりあえずこの清掃員の格好を着替えようと服を脱いだ。
クローゼットにはすでに何枚か洋服が用意されている。全てワタリさんがやったんだろうなぁ。感謝感謝。
適当に部屋着を出して着ながら、さっきマイクが聞いてきたことが頭に蘇った。
竜崎は、恋とかするんだろうか。人並みに。
少しは彼の人間性がわかってきたものの、やはりほとんどはベールに包まれている。掴めないし分からない人。
性欲すらあるのか不思議。なんて言うか、彼って人間ぽくないからなぁ。
ぼーっとそんな事を考えながら、私は思った。
もし竜崎が彼女とか出来たら、どんな顔を見せるんだろうか。
私が時々見れる微笑なんか比じゃないくらいの笑顔を見せるんだろうか。
いつだったかその笑顔を可愛いと褒めたとき、きっと二人目は現れないって言ってたけど、彼女が出来たらそんなことはありえない。
心の中の奥底が、ほんの少しだけざわついた。
翌朝、私がリビングへ向かうと、すでにみんなは揃っていた。
竜崎はやっぱりいつもの服装に戻っていて、昨日の貴重な格好をもっとよく見ておけばよかったなと後悔した。
ワタリさんも昨夜いつ帰ったのだろうか、すでに起きていて、竜崎に引き続きこの人もいつ寝てるんだろうと気になってしまう。
マイクとメリーはラフな普段着を来てスーツケースを持っていた。
「おはよう!今行こうと思ってたの」
メリーが笑う。
「え、もう出るの?こんな早くに」
「次の予定もあるからね」
「なんだ、もっと話したかったのに…」
がっくりと肩を落とした。もっと早く起きればよかった。
マイクが大袈裟に両手を上げる。
「そんなに悲しんでくれるなんて。私は感激してます」
「だって寂しいですよ。また会えるといいなぁ」
「会えるわよ、きっと」
メリーは優しく笑った。
マイクは肩を落とす私の手をそっと握った。
「ぜひ私も会いたい。またあなたに会いにきてもいいですか」
映画で見るように下から手をすくうように持ち上げる。うーん、マイクは早朝から絶好調だなあ。
「もちろん会いましょう!」
「可愛らしい笑顔です。あなたの笑顔は太陽のようです」
「映画みたいなこと言うんだね…」
「それよりひまわりでしょうか。花すら霞むほどです。あなたを護衛できたことが本当に嬉しい。」
「ははは…」
「事件が解決したら、旅行でも行きませんか。よければアメリカに来てください、私がしっかり案内します。」
「わ、アメリカはちょっと行ってみたいですね」
「日本とはまた違ったよさがありますよ。ぜひ…」
「マイク」
声が響いてマイクの発言を遮った。竜崎だった。
彼はパソコンを睨みながら言う。
「クライアントを口説くなど、プロとしていかがなものかと」
キョトンとしてしまった。それはメリーも同じようで、竜崎を丸い目で見ている。
ただマイクだけはすました顔をしていた。
散々これはマイクの挨拶がわりのお世辞だって言ってたやつが、急にどうしたの。
誰がどう見ても本気で口説いてるわけじゃないのに。
私だって本気になんかしてない。どっからどう見てもマイクはおちゃらけてるのだ。
「…竜崎、マイクは挨拶がわりだって散々言ってたのあなたじゃないですか」
私は彼に言った。竜崎はこちらを見ず、長く沈黙を流した。
「……………そうでしたね」
「さてはまた私が本気にすると思ってたんですね」
「よく分かりましたね」
「心配していただかなくとも大丈夫ですって!」
「なら安心しました」
私は口を尖らせる。メリーとマイクは二人視線を合わせた。ワタリさんはいつもと変わらず優しい顔で見守っている。
そんなにお世辞を真に受けるタイプに見えるかしら。
確かにまあ、性格は比較的単純な方だけどさ。
悩み出した私に、メリーが慌てて言った。
「じゃ、じゃあ飛行機の時間があるから行くわ。愛、またね」
「あ、気をつけてね!」
「またお会いしましょう」
二人はスーツケースを持つと、指先を軽く振って部屋から出て行った。その後ろ姿を私は最後まで見送る。
ガラガラとケースが動く音も聞こえなくなったところで、心には寂しさが残った。
また会えるかなぁ。会えるといいけどなぁ。
ふうと息をつくと、タイミングをみたワタリさんが話しかけてくれる。
「月島さん、お食事をどうぞ」
「あ、すみません。ありがとうございます!」
私はテーブルに用意された豪華な食事の前に座る。ワタリさんはすぐにお湯を沸かして紅茶の準備をしてくれる。
「でも、無事引っ越しできたのはよかったです」
「そうですね。緊張されたでしょう」
「はい、少し…でも、何事もなくてよかったです。」
非現実的な事ばかりだけれど、私は守られてるだけだ。緊張するのも筋違いな気がする。
「それよりワタリさんいつも素敵な洋服とか化粧品とか、たくさん用意ありがとうございます」
「いえ、あなたに不自由なく生活して頂くというお約束ですから」
「ほんと不自由ないです!ありがとうございます」
これだけ至れり尽くせりで不自由なんか感じるわけない。まあ、外に出たいと言う欲望はあるけど。
「何かあれば遠慮なく言ってくださってよいのですよ。」
「はい、ほんとなーんも文句なしです!初めは戸惑ったけど…ここに保護されたの、私にとっては最善でした。安全も守られてるし…」
私はロールパンをかじりながら笑う。その時ふと、この前の竜崎との会話が蘇る。
不愉快な思いをさせたらすみません、彼はそう言っていた。
ちらりと竜崎を見る。
体制を1センチも変えずパソコンを見ている。
「…竜崎」
つい、呼んだ。
彼はいつものように視線を動かすことなく声だけ上げる。
「はい」
「竜崎にも感謝してます。ありがとうございます」
「…私は別に何もしてません」
そういうと思っていた。お礼言われるのをなぜか素直に受け取らないパンダめ。
「…竜崎と一緒に暮らすの、全然不愉快なんかじゃないです」
ぴくり、と彼は動いた。
ゆっくり顔を上げて私を見る。
目が合って、私は笑った。
「楽しいですよ!私。」
竜崎は不思議そうに私をじっと見た後、何も言わずにまたパソコンに目を落とした。
「ちょっと!何か返事してくださいよ!」
「…変わった人ですね」
「竜崎に言われるなんて世も末ですね」
「私もそう思います。私が変わってるなどと言うのはあなたぐらいです」
「ほんとにね、竜崎にだけは言われたくない」
竜崎はただひたすらパソコンを睨んでいた。でもその口角は、またほんの少しだけ上がっていた気がした。
「また裏口から入るわ。さっきと同じ、マイク先頭で、次に愛が行って。私は一番後ろから行くから」
「はい」
「つけてきてる車も無いし、大丈夫そうよ。安心して」
「よかった…」
またメリーたちを危険な目にあわせたくない。それが仕事だと彼らは笑っていたけど、こんなに素敵な人たちが命を落とすかもしれないと考えるとやはり辛い。
もちろんワタリさんや、竜崎だって。
こんな一般人の私を守るために犠牲になんてなってほしくない。
「さ、着きますよ」
ワタリさんの声が響く。しっかり帽子をかぶり直した。竜崎もゆっくり足を下ろして靴を履く。
慎重に車は停車し、マイクとメリーは何度も周りを見渡した。その目つきは見たことない鋭さで、ついぐっと息を飲む。
無言でマイクが降りた。メリーもドアを開け、私はそれに続いて降りる。
先を歩くマイクにしっかり着いていく。
そびえ立つホテルの外観など見る暇もなく、私は緊張しながら足を進めた。
すぐに裏口にたどり着き、マイクがセキュリティ解除し開けててくれた重い扉を潜り抜ける。
彼は人差し指をちょい、と招き、私を誘導する。
長い廊下を歩いてエレベーターを見かけた時、ほっと息が漏れた。マイクはカードキーでエレベーターを呼ぶ。
振り返れば竜崎とメリーもちゃんと来ていた。その後ろには誰もいない。
声を出そうとして、まだ安心しきってはならないと叱咤した。暗いこの廊下では大きく響いてしまうだろう。
ついたエレベーターに乗り込み、扉が閉まったところでようやく全員が息を吐いた。
「怪しい人影も何もなかった。恐らくバレていない」
「よかった…」
私はほっとし笑顔になる。メリーとマイクも顔を緩ませた。
「まあ、元の居場所がバレてたらとっくに襲撃されてたはずだからね。誰もこんなホテルに匿われているなんて思わないし」
メリーが腕を組んで言った。それもそうだ、普通警察とかが保護してると思うに違いない。
「とりあえず安心しました…メリーとマイクがいてくれるからとても心強かった。ありがとう」
心の底から言った。二人とも面食らったように目を丸くしたが、すぐに笑顔になる。
「今回は本当に何もしてないけど。楽な仕事だったわ」
「でも気を張るでしょう?車から降りるとき、なんか二人とも顔違ったもん。プロって感じ」
「そう?無意識だな」
穏やかな空気の中、エレベーターが到着する音が響いた。再びマイクが先頭で降りる。
私たちも続いた。カードキーで部屋は開かれ、全員入ったところで扉は閉められ、本当に無事移動が済んだことが確定した。
竜崎はそこらへバケツを適当に置くと、スタスタと一人で進んで部屋へ入っていく。メリーもそれに続いた。
私はとりあえず窮屈に思っていた帽子をその場で脱いだ。長い髪がパサっと落ちる。手櫛で簡単に整える。
まだ廊下に立っていたマイクが私に近づき、小声で聴いた。
「少し質問していいかな」
「え?」
「まさか、竜崎とデキてるなんて事ある?」
外人がデキてる、なんて言葉を使うことに驚いたが、それよりやはりその内容にぶっ飛んだ。
私と、竜崎??が?
一瞬ドキッとしたのを、私は平然を装って隠す。
「え、ち、違うけど…」
「そうか。ふーん、なるほど。」
一人で何か納得してるようにマイクは呟く。
どこか面白そうに口元が緩んでいる。
「いや、何でもない。竜崎の恋人を口説いてたとなれば大変だなと思って」
「はは、口説いてもないくせに」
「ははは、クールだね」
「これでもいい大人ですからね!」
私は適当に返すと、すぐそこから離れる。
揺れている心を落ち着かせたかった。
竜崎とそんな関係になるなんてあり得ないと思った。それは決して私が拒んでるわけではなく、彼からはそういった属性の匂いがしない。
そう、何だか、恋とかそういったことをする想像がどうしても出来ないのだ。
性別なんかを超越してる気がする。竜崎とは、そういう人。
私はリビングへ入ろうとしたところへ、メリーがひょいと顔を出した。
「あ、愛。あなたの部屋案内するようワタリから聞いてたの。こっちの部屋だそうよ、来て」
「あ。はい」
メリーに言われるまま私はまた廊下を戻り、すぐそばの扉を開けられた。
そこはまたしても立派な一室で、前いたホテルより広々と感じるくらいだった。私は中に入る。
「メリーたちはどうするの?」
「今日は泊まらせて貰って明日帰るわ」
「来たばかりなのに忙しいね…」
「慣れてる。帰る前に日本のお好み焼きでも食べてくわ」
「あは!好きなんだ?」
「好きよ日本食!いつか一緒に食べましょう」
「ほんと?楽しみ!」
「約束よ。ほら、今日はもう遅いから休んで。」
メリーは軽くウインクした。すごい、日本人は普通の生活でウインクなんかしないよなぁ。
メリーは静かに扉を閉めた。私は一人残された部屋で、とりあえずこの清掃員の格好を着替えようと服を脱いだ。
クローゼットにはすでに何枚か洋服が用意されている。全てワタリさんがやったんだろうなぁ。感謝感謝。
適当に部屋着を出して着ながら、さっきマイクが聞いてきたことが頭に蘇った。
竜崎は、恋とかするんだろうか。人並みに。
少しは彼の人間性がわかってきたものの、やはりほとんどはベールに包まれている。掴めないし分からない人。
性欲すらあるのか不思議。なんて言うか、彼って人間ぽくないからなぁ。
ぼーっとそんな事を考えながら、私は思った。
もし竜崎が彼女とか出来たら、どんな顔を見せるんだろうか。
私が時々見れる微笑なんか比じゃないくらいの笑顔を見せるんだろうか。
いつだったかその笑顔を可愛いと褒めたとき、きっと二人目は現れないって言ってたけど、彼女が出来たらそんなことはありえない。
心の中の奥底が、ほんの少しだけざわついた。
翌朝、私がリビングへ向かうと、すでにみんなは揃っていた。
竜崎はやっぱりいつもの服装に戻っていて、昨日の貴重な格好をもっとよく見ておけばよかったなと後悔した。
ワタリさんも昨夜いつ帰ったのだろうか、すでに起きていて、竜崎に引き続きこの人もいつ寝てるんだろうと気になってしまう。
マイクとメリーはラフな普段着を来てスーツケースを持っていた。
「おはよう!今行こうと思ってたの」
メリーが笑う。
「え、もう出るの?こんな早くに」
「次の予定もあるからね」
「なんだ、もっと話したかったのに…」
がっくりと肩を落とした。もっと早く起きればよかった。
マイクが大袈裟に両手を上げる。
「そんなに悲しんでくれるなんて。私は感激してます」
「だって寂しいですよ。また会えるといいなぁ」
「会えるわよ、きっと」
メリーは優しく笑った。
マイクは肩を落とす私の手をそっと握った。
「ぜひ私も会いたい。またあなたに会いにきてもいいですか」
映画で見るように下から手をすくうように持ち上げる。うーん、マイクは早朝から絶好調だなあ。
「もちろん会いましょう!」
「可愛らしい笑顔です。あなたの笑顔は太陽のようです」
「映画みたいなこと言うんだね…」
「それよりひまわりでしょうか。花すら霞むほどです。あなたを護衛できたことが本当に嬉しい。」
「ははは…」
「事件が解決したら、旅行でも行きませんか。よければアメリカに来てください、私がしっかり案内します。」
「わ、アメリカはちょっと行ってみたいですね」
「日本とはまた違ったよさがありますよ。ぜひ…」
「マイク」
声が響いてマイクの発言を遮った。竜崎だった。
彼はパソコンを睨みながら言う。
「クライアントを口説くなど、プロとしていかがなものかと」
キョトンとしてしまった。それはメリーも同じようで、竜崎を丸い目で見ている。
ただマイクだけはすました顔をしていた。
散々これはマイクの挨拶がわりのお世辞だって言ってたやつが、急にどうしたの。
誰がどう見ても本気で口説いてるわけじゃないのに。
私だって本気になんかしてない。どっからどう見てもマイクはおちゃらけてるのだ。
「…竜崎、マイクは挨拶がわりだって散々言ってたのあなたじゃないですか」
私は彼に言った。竜崎はこちらを見ず、長く沈黙を流した。
「……………そうでしたね」
「さてはまた私が本気にすると思ってたんですね」
「よく分かりましたね」
「心配していただかなくとも大丈夫ですって!」
「なら安心しました」
私は口を尖らせる。メリーとマイクは二人視線を合わせた。ワタリさんはいつもと変わらず優しい顔で見守っている。
そんなにお世辞を真に受けるタイプに見えるかしら。
確かにまあ、性格は比較的単純な方だけどさ。
悩み出した私に、メリーが慌てて言った。
「じゃ、じゃあ飛行機の時間があるから行くわ。愛、またね」
「あ、気をつけてね!」
「またお会いしましょう」
二人はスーツケースを持つと、指先を軽く振って部屋から出て行った。その後ろ姿を私は最後まで見送る。
ガラガラとケースが動く音も聞こえなくなったところで、心には寂しさが残った。
また会えるかなぁ。会えるといいけどなぁ。
ふうと息をつくと、タイミングをみたワタリさんが話しかけてくれる。
「月島さん、お食事をどうぞ」
「あ、すみません。ありがとうございます!」
私はテーブルに用意された豪華な食事の前に座る。ワタリさんはすぐにお湯を沸かして紅茶の準備をしてくれる。
「でも、無事引っ越しできたのはよかったです」
「そうですね。緊張されたでしょう」
「はい、少し…でも、何事もなくてよかったです。」
非現実的な事ばかりだけれど、私は守られてるだけだ。緊張するのも筋違いな気がする。
「それよりワタリさんいつも素敵な洋服とか化粧品とか、たくさん用意ありがとうございます」
「いえ、あなたに不自由なく生活して頂くというお約束ですから」
「ほんと不自由ないです!ありがとうございます」
これだけ至れり尽くせりで不自由なんか感じるわけない。まあ、外に出たいと言う欲望はあるけど。
「何かあれば遠慮なく言ってくださってよいのですよ。」
「はい、ほんとなーんも文句なしです!初めは戸惑ったけど…ここに保護されたの、私にとっては最善でした。安全も守られてるし…」
私はロールパンをかじりながら笑う。その時ふと、この前の竜崎との会話が蘇る。
不愉快な思いをさせたらすみません、彼はそう言っていた。
ちらりと竜崎を見る。
体制を1センチも変えずパソコンを見ている。
「…竜崎」
つい、呼んだ。
彼はいつものように視線を動かすことなく声だけ上げる。
「はい」
「竜崎にも感謝してます。ありがとうございます」
「…私は別に何もしてません」
そういうと思っていた。お礼言われるのをなぜか素直に受け取らないパンダめ。
「…竜崎と一緒に暮らすの、全然不愉快なんかじゃないです」
ぴくり、と彼は動いた。
ゆっくり顔を上げて私を見る。
目が合って、私は笑った。
「楽しいですよ!私。」
竜崎は不思議そうに私をじっと見た後、何も言わずにまたパソコンに目を落とした。
「ちょっと!何か返事してくださいよ!」
「…変わった人ですね」
「竜崎に言われるなんて世も末ですね」
「私もそう思います。私が変わってるなどと言うのはあなたぐらいです」
「ほんとにね、竜崎にだけは言われたくない」
竜崎はただひたすらパソコンを睨んでいた。でもその口角は、またほんの少しだけ上がっていた気がした。
