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2日後、リビングでいつものように読書をしていると、いくつかの足音が響いた。
はっと出入り口を見ると、ワタリさんを先頭に見慣れた顔が見えた。
「マイク!メリー!」
私はぱっと笑顔になる。二人とも変わらずニコニコと人懐こい笑顔で私に手を振った。
「お久しぶり!元気にしてた?」
まるで友達に再会したかのように気軽に言ってくれるメリーが、なんだかとても嬉しい。
「うん、元気でした!二人とも元気そうで」
「もちろん元気でしたよ。美しい人に会って更に元気になりました」
「あはは、出たー外人のサービストーク!」
相変わらずのマイクに私は笑う。少ししかこの前も会ってないけど、なんかこの二人って距離がないというか、昔からの知り合いみたいな感覚に陥る。
ワタリさんが持っていた着替えを差し出した。また変装のグッズだろう。
「あ、変装ですね」
「ええ、しかし移動はもう少し暗くなってからしますので、まだ大丈夫ですよ。マイクたちとお待ちになってください」
「分かりました」
私はワタリさんから受け取りとりあえず近くに置いておく。
マイクとメリーが竜崎に声をかけた。
「お疲れ様です竜崎。またよろしくお願いします」
「ほんの少しの移動ですので仕事はすぐ終わると思いますが。お願いします」
彼はこちらも見ずに淡々と答えた。
二人はそんな竜崎をいつものことだと言わんばかりに受け入れ、ダイニングに腰掛ける。
「あ、何か飲みますか。コーヒーが紅茶どっちにしますか」
「コーヒーをちょうだい」
「私は紅茶貰えるかな」
私が立ち上がるとワタリさんが止めた。
「月島さん、私がいれますよ」
「いいですよ、ワタリさんたまには座ってくださいよー!たまには私も働きます。」
「これはこれは…ではお言葉に甘えます。私は先程飲んだばかりなので大丈夫です、マイクたちの分だけお願いできますか」
「はい!」
私はお湯を沸かす。えーとメリーがコーヒーで、マイクが紅茶ね。私はたまにはコーヒーにしよう。
きっと竜崎も飲むだろうと、人数分のカップを取り出した。
もうだいぶ慣れた手つきでそれぞれ淹れていく。
「ずっと引きこもりで退屈しない?」
メリーが話しかけてくる。
「ワタリさんが面白い本とかくれるし…読書元々好きだから」
「そう。私ならこんなところに閉じこもってたらおかしくなるわ」
「あはは!スイートルームなんか泊まれる経験ないから、それだけで私は心躍っちゃうよー」
人数分の準備を整えると、私は竜崎に声をかけた。
「竜崎、紅茶いれました」
「ありがとうございます」
相変わらずお礼はちゃんと言ってくれ、彼はソファから飛び降りてくる。
私はマイクたちにいれたのを運ぼうとお盆に載せていく。
と。
「…ん!?竜崎、それマイクの分です!」
お盆に乗せたばかりの紅茶を、竜崎はひょいと持ち上げてすぐにすすった。
見れば、竜崎のためにいれた分ももう片方に持っている。
彼は両手でティーカップを持つと言う、なんとも珍しい格好だった。
「すみません、喉が乾いてるんです」
「だからって人の取らないでくださいよ!行儀悪いですよ!水でも飲んどきなさい!」
「行儀の悪さなど今に始まった事ではありません」
「え、自覚あったんですか。てっきり無自覚かと思ってましたよ」
「自覚しつつ直しません」
「一番厄介なタイプですね」
私たちが言い合っているのを、マイクとメリーはポカンとして見ていた。
優しい笑みをしたワタリさんが近寄ってくる。
「月島さん、マイクの分は私がいれなおしますよ。ほら、あなたはせっかくですから座ってお話しされたらどうですか」
「え、すみません…」
結局ワタリさんを使う羽目に。私は竜崎を軽く睨むが、素知らぬ顔してまたソファに戻っていく。両手にティーカップ、なんて滑稽な格好。
私はとりあえず自分とメリーのコーヒーを運んだ。
メリーは笑顔で受け取る。
「ありがとう」
「マイクごめんなさい、ワタリさんが淹れてくれるから…まあそっちのが美味しいよ」
「いや、別に構わないけど…竜崎にあんなにハッキリ物を言ってる人を初めて見たよ」
二人は感心したように言った。
竜崎もワタリさんもそう言ってたけど、今までなぜ誰もあの変人に指摘してこなかったのか?
私にすればそっちの方が驚くんですが。
「気が強いもんで。」
「それにしても。だって彼は…」
メリーが何か言いかけて、はっと口を閉じた。
私はきょとんとする。
「彼は?」
「あ、いや、意外と仕事の出来る偉い人なのよ」
「え?そうなんだ。ほんと意外」
「正直な子ね」
ケラケラと彼女は笑った。私も釣られて笑う。
マイクは腕を組んで笑顔で言う。
「気が強い女性というのもとても素晴らしい。」
「マイクって女なら誰でも口説くの?」
「まさか!私にも好みはありますよ」
「本当?まあ、その口のうまさは日本人にも分けてほしいですよ」
「日本人は照れ屋だからね。」
日本人でもないくせにサービストークもできないやつを知ってますけどね。
私がちらりと見ると竜崎はまたお菓子を食べていた。
でも、もし竜崎がマイクみたいに口がうまかったら…
いやいや。それはそれで気持ち悪い!あのあまり表情を出さない顔でそんなの言われても!
つい身震いした。
「でもあなたは本当に明るくて面白い素敵な人だと思うわ。」
美人のメリーが言ってくれると、これまた嬉しい。私は素直にへらっと笑った。
「私たちは正直、こんなやつ守らなきゃだめかな、と思うような酷い奴の護衛もつくことあるから。あなたみたいな素敵な人を守る方が気持ち的にはいい」
「え…やっぱり悪人とか?」
「人に恨まれて当然のやつとかね。仕事だから手は抜かないけど」
「そういう仕事も大変なんだなぁー…私にとっては映画の世界だけど」
銃すら身近にない日本。アメリカは銃は合法でみんな持つことが出来る。私は圧倒的に平和な世界で生きていると断言できる。
きっとマイクもメリーも、もしかして竜崎も、私が知らない世界を知ってるんだろうか。
そう考えるとほんの少しだけ、寂しくなった。
夜も更けて、また私はワタリさんに渡された変装グッズを利用した。
前回とはまた違った洋服だった。そういえば、変装してたけど追われたってことは結局バレてたんだもんなぁ。
意味があるかどうかは分からないが、できることは全てやっておくべきだ。私は素直に用意された服をきた。
リビングへ戻ると、メリーたちも清掃員の格好をしていた。
さらに…
「わ!竜崎が違う服着てる!」
竜崎も。
彼は不機嫌そうにジロリとこちらをみた。
帽子から覗くその目は普段より迫力がある。
「仕方ありません。前回私の事も見られてるので」
「まあ、竜崎は一番目立ちますよね。外人二人組より目を引きますよ」
「いつもの格好以外は嫌いです。さっさと移動しましょう」
彼は嫌そうにいうとソファから降りる。その足は靴下は履かず、相変わらずかかとを踏んだスニーカーだった。
「固まってるとまた目立つから、マイクは先を歩いて。私は愛の少し後ろからついていくから。ほらこれ持って」
渡されたのはバケツだった。小道具まであるとは、仰々しい。
竜崎はさらに不機嫌そうにそれを持った。なんだかその様子がおかしくて、私は不謹慎にも吹き出した。
「何が面白いんですか」
「ぜ、全部です…」
「そんなに似合ってませんか」
「逆です、似合ってますよ」
「絶対に褒めてはいませんね」
「バレましたか」
私が竜崎の隣で笑いを堪えているのを見て、なぜか竜崎もふっと表情を緩める。笑いが伝染したのかもしれない。
「さ、ワタリは先に行って車を回してる。気を引き締めるのよ。」
メリーの言葉で、私は笑いを抑えてしゃんとした。全ては私の安全のためにしてくれてるんだ。本番はちゃんとせねば。
なるべく俯いたまま、久々にスイートルームから出た。帽子を被り、つけたメガネは慣れなくて鬱陶しい。
竜崎が歩くのについて行き、(とゆうかこの猫背でバレないのか?)そそくさとエレベーターに乗る。
先に乗り込んでいたマイクは全員が乗り終えるとすぐに扉を閉めた。
エレベーターの反対側はガラス張りで、夜景が見える。
それを横目でちらりと見ながら、私は隣に立っていた竜崎も盗み見た。
普段と違う格好は新鮮だ。帽子は案外似合ってる。
さっきは笑っていたけど、単純に珍しくて目を奪われた。なんといってもこの1ヶ月以上、やつはあの服以外を着ないのだ。
すっと、彼の視線が私に降りた。ばちっと目が合う。
盗み見ていたのがなんだか恥ずかしくて、私はすぐに目を逸らした。
「エレベーターから出たら裏口に行くわよ。この時間だから人もほとんどいないと思うけど、油断しないで」
メリーは小声で私に言う。小さく頷いた。
以前銃撃があったのを思い出す。急に心臓が冷えた気がした。
エレベーターが到着した高い音が響くと、まずマイクが颯爽と飛び出し、少し置いてから私たちも続いた。
フロントとは逆の道を歩み、その道はずいぶん薄暗い。真夜中を考えれば当然の結果だった。
なんとなく心細くなり、私はまた竜崎を見上げる。
少しだけ私の前を歩く彼は、普段はのそのそとゆっくりのくせに、今日はそれなりに足を早めてマイクについて行った。
大丈夫だよね、もしこのホテルにいることがバレてたなら、とっくにJは何か行動を起こしてるはず。
途中で偶然見かけられなきゃ、無事移動できるんだから。
私は持ったバケツがあまり音を響かせないよう気をつけながら、ひたすら足を運んだ。
裏口の扉を開けると、すぐ前には黒い車がとまっていた。
今回は全員同じ車に乗るらしく、助手席にまず、マイクが乗り込む。
竜崎がちらりと私を見た後、すぐに自分も後部座席に乗り込んだ。
私は竜崎に続いて乗る。
先に座り込んだ竜崎の隣に腰掛ける。そこへ当然だがメリーもやってきた。私はあわててメリーのスペース確保のために、ぐいと竜崎に詰めた。
彼の腕が触れる。
瞬間、あのアジトの机の下で密着したのがフラッシュバックした。
一気に顔が熱くなる。
メリーは後部座席のドアを閉めると、ワタリさんはすぐに発車させた。
「…ふうー、乗り込みは完了だな」
助手席でマイクが言う。そしてこちらを振り返った。
「特につけられてる様子も…どうしました、顔が赤いですよ」
「えっ」
マイクは私を見てきょとん、としている。
自分の顔に出やすい性格を恨む。こんな緊張感ある時に、私は何を考えているんだ。
「や、やっぱり緊張してて…」
「それもそうですね。まだ気は抜けないがまず第一段階突破だ」
マイクは疑う事もせず信じた。言えるわけない、竜崎の綺麗な鎖骨を思い出してたなんて。(私は変態だろうか)
当の竜崎はすぐさま膝をたてて座る。バケツを膝の上に置いて。
密着していたのが更に強く腕が当たる。
「ちょ…竜崎、狭いですよ!」
「私はこの座り方でないと推理力が40%減なので」
「コ●ンくんも金●一くんもそんな姿勢取ってないですよ!」
「あれはアニメではないですか…」
「あなたはアニメ以上にインパクトあるキャラクターですよ」
「私は頭脳も体も大人ですが」
お構いなしにいつも通り親指を噛む。間近で見るその姿に、なぜか私の心臓は速度を早める。
なんでだよ。なんでこんな変なとこ見てそうなるんだよ。自分で自分が分からない。私は正気か?
メリーが呆れたように言う。
「緊張感ない子たちね…仲良いのは結構だけどまだ着いてないのよ」
「な、仲良く見えますかこれが!」
「とんでもなくね。」
ワタリさんも言ってたけど、なぜこんな喧嘩腰の会話がそう見えるのだろうか。
私は口を尖らせた。
マイクが助手席で笑う、
「葬式みたいに暗いよりいいよ。度胸のある女性はいいと思いますよ」
「あ、ありがとう…」
ちらりと竜崎を見ると、彼は何も気にしてないのか一点を見て考え込んでいる。もしかして本当に推理などしてるのだろうか。
彼からはどことなく甘い匂いがした。あの日と同じような香り。
お菓子ばかり食べてるからなのか、何か石鹸の香りなのか、私には分からなかった。
はっと出入り口を見ると、ワタリさんを先頭に見慣れた顔が見えた。
「マイク!メリー!」
私はぱっと笑顔になる。二人とも変わらずニコニコと人懐こい笑顔で私に手を振った。
「お久しぶり!元気にしてた?」
まるで友達に再会したかのように気軽に言ってくれるメリーが、なんだかとても嬉しい。
「うん、元気でした!二人とも元気そうで」
「もちろん元気でしたよ。美しい人に会って更に元気になりました」
「あはは、出たー外人のサービストーク!」
相変わらずのマイクに私は笑う。少ししかこの前も会ってないけど、なんかこの二人って距離がないというか、昔からの知り合いみたいな感覚に陥る。
ワタリさんが持っていた着替えを差し出した。また変装のグッズだろう。
「あ、変装ですね」
「ええ、しかし移動はもう少し暗くなってからしますので、まだ大丈夫ですよ。マイクたちとお待ちになってください」
「分かりました」
私はワタリさんから受け取りとりあえず近くに置いておく。
マイクとメリーが竜崎に声をかけた。
「お疲れ様です竜崎。またよろしくお願いします」
「ほんの少しの移動ですので仕事はすぐ終わると思いますが。お願いします」
彼はこちらも見ずに淡々と答えた。
二人はそんな竜崎をいつものことだと言わんばかりに受け入れ、ダイニングに腰掛ける。
「あ、何か飲みますか。コーヒーが紅茶どっちにしますか」
「コーヒーをちょうだい」
「私は紅茶貰えるかな」
私が立ち上がるとワタリさんが止めた。
「月島さん、私がいれますよ」
「いいですよ、ワタリさんたまには座ってくださいよー!たまには私も働きます。」
「これはこれは…ではお言葉に甘えます。私は先程飲んだばかりなので大丈夫です、マイクたちの分だけお願いできますか」
「はい!」
私はお湯を沸かす。えーとメリーがコーヒーで、マイクが紅茶ね。私はたまにはコーヒーにしよう。
きっと竜崎も飲むだろうと、人数分のカップを取り出した。
もうだいぶ慣れた手つきでそれぞれ淹れていく。
「ずっと引きこもりで退屈しない?」
メリーが話しかけてくる。
「ワタリさんが面白い本とかくれるし…読書元々好きだから」
「そう。私ならこんなところに閉じこもってたらおかしくなるわ」
「あはは!スイートルームなんか泊まれる経験ないから、それだけで私は心躍っちゃうよー」
人数分の準備を整えると、私は竜崎に声をかけた。
「竜崎、紅茶いれました」
「ありがとうございます」
相変わらずお礼はちゃんと言ってくれ、彼はソファから飛び降りてくる。
私はマイクたちにいれたのを運ぼうとお盆に載せていく。
と。
「…ん!?竜崎、それマイクの分です!」
お盆に乗せたばかりの紅茶を、竜崎はひょいと持ち上げてすぐにすすった。
見れば、竜崎のためにいれた分ももう片方に持っている。
彼は両手でティーカップを持つと言う、なんとも珍しい格好だった。
「すみません、喉が乾いてるんです」
「だからって人の取らないでくださいよ!行儀悪いですよ!水でも飲んどきなさい!」
「行儀の悪さなど今に始まった事ではありません」
「え、自覚あったんですか。てっきり無自覚かと思ってましたよ」
「自覚しつつ直しません」
「一番厄介なタイプですね」
私たちが言い合っているのを、マイクとメリーはポカンとして見ていた。
優しい笑みをしたワタリさんが近寄ってくる。
「月島さん、マイクの分は私がいれなおしますよ。ほら、あなたはせっかくですから座ってお話しされたらどうですか」
「え、すみません…」
結局ワタリさんを使う羽目に。私は竜崎を軽く睨むが、素知らぬ顔してまたソファに戻っていく。両手にティーカップ、なんて滑稽な格好。
私はとりあえず自分とメリーのコーヒーを運んだ。
メリーは笑顔で受け取る。
「ありがとう」
「マイクごめんなさい、ワタリさんが淹れてくれるから…まあそっちのが美味しいよ」
「いや、別に構わないけど…竜崎にあんなにハッキリ物を言ってる人を初めて見たよ」
二人は感心したように言った。
竜崎もワタリさんもそう言ってたけど、今までなぜ誰もあの変人に指摘してこなかったのか?
私にすればそっちの方が驚くんですが。
「気が強いもんで。」
「それにしても。だって彼は…」
メリーが何か言いかけて、はっと口を閉じた。
私はきょとんとする。
「彼は?」
「あ、いや、意外と仕事の出来る偉い人なのよ」
「え?そうなんだ。ほんと意外」
「正直な子ね」
ケラケラと彼女は笑った。私も釣られて笑う。
マイクは腕を組んで笑顔で言う。
「気が強い女性というのもとても素晴らしい。」
「マイクって女なら誰でも口説くの?」
「まさか!私にも好みはありますよ」
「本当?まあ、その口のうまさは日本人にも分けてほしいですよ」
「日本人は照れ屋だからね。」
日本人でもないくせにサービストークもできないやつを知ってますけどね。
私がちらりと見ると竜崎はまたお菓子を食べていた。
でも、もし竜崎がマイクみたいに口がうまかったら…
いやいや。それはそれで気持ち悪い!あのあまり表情を出さない顔でそんなの言われても!
つい身震いした。
「でもあなたは本当に明るくて面白い素敵な人だと思うわ。」
美人のメリーが言ってくれると、これまた嬉しい。私は素直にへらっと笑った。
「私たちは正直、こんなやつ守らなきゃだめかな、と思うような酷い奴の護衛もつくことあるから。あなたみたいな素敵な人を守る方が気持ち的にはいい」
「え…やっぱり悪人とか?」
「人に恨まれて当然のやつとかね。仕事だから手は抜かないけど」
「そういう仕事も大変なんだなぁー…私にとっては映画の世界だけど」
銃すら身近にない日本。アメリカは銃は合法でみんな持つことが出来る。私は圧倒的に平和な世界で生きていると断言できる。
きっとマイクもメリーも、もしかして竜崎も、私が知らない世界を知ってるんだろうか。
そう考えるとほんの少しだけ、寂しくなった。
夜も更けて、また私はワタリさんに渡された変装グッズを利用した。
前回とはまた違った洋服だった。そういえば、変装してたけど追われたってことは結局バレてたんだもんなぁ。
意味があるかどうかは分からないが、できることは全てやっておくべきだ。私は素直に用意された服をきた。
リビングへ戻ると、メリーたちも清掃員の格好をしていた。
さらに…
「わ!竜崎が違う服着てる!」
竜崎も。
彼は不機嫌そうにジロリとこちらをみた。
帽子から覗くその目は普段より迫力がある。
「仕方ありません。前回私の事も見られてるので」
「まあ、竜崎は一番目立ちますよね。外人二人組より目を引きますよ」
「いつもの格好以外は嫌いです。さっさと移動しましょう」
彼は嫌そうにいうとソファから降りる。その足は靴下は履かず、相変わらずかかとを踏んだスニーカーだった。
「固まってるとまた目立つから、マイクは先を歩いて。私は愛の少し後ろからついていくから。ほらこれ持って」
渡されたのはバケツだった。小道具まであるとは、仰々しい。
竜崎はさらに不機嫌そうにそれを持った。なんだかその様子がおかしくて、私は不謹慎にも吹き出した。
「何が面白いんですか」
「ぜ、全部です…」
「そんなに似合ってませんか」
「逆です、似合ってますよ」
「絶対に褒めてはいませんね」
「バレましたか」
私が竜崎の隣で笑いを堪えているのを見て、なぜか竜崎もふっと表情を緩める。笑いが伝染したのかもしれない。
「さ、ワタリは先に行って車を回してる。気を引き締めるのよ。」
メリーの言葉で、私は笑いを抑えてしゃんとした。全ては私の安全のためにしてくれてるんだ。本番はちゃんとせねば。
なるべく俯いたまま、久々にスイートルームから出た。帽子を被り、つけたメガネは慣れなくて鬱陶しい。
竜崎が歩くのについて行き、(とゆうかこの猫背でバレないのか?)そそくさとエレベーターに乗る。
先に乗り込んでいたマイクは全員が乗り終えるとすぐに扉を閉めた。
エレベーターの反対側はガラス張りで、夜景が見える。
それを横目でちらりと見ながら、私は隣に立っていた竜崎も盗み見た。
普段と違う格好は新鮮だ。帽子は案外似合ってる。
さっきは笑っていたけど、単純に珍しくて目を奪われた。なんといってもこの1ヶ月以上、やつはあの服以外を着ないのだ。
すっと、彼の視線が私に降りた。ばちっと目が合う。
盗み見ていたのがなんだか恥ずかしくて、私はすぐに目を逸らした。
「エレベーターから出たら裏口に行くわよ。この時間だから人もほとんどいないと思うけど、油断しないで」
メリーは小声で私に言う。小さく頷いた。
以前銃撃があったのを思い出す。急に心臓が冷えた気がした。
エレベーターが到着した高い音が響くと、まずマイクが颯爽と飛び出し、少し置いてから私たちも続いた。
フロントとは逆の道を歩み、その道はずいぶん薄暗い。真夜中を考えれば当然の結果だった。
なんとなく心細くなり、私はまた竜崎を見上げる。
少しだけ私の前を歩く彼は、普段はのそのそとゆっくりのくせに、今日はそれなりに足を早めてマイクについて行った。
大丈夫だよね、もしこのホテルにいることがバレてたなら、とっくにJは何か行動を起こしてるはず。
途中で偶然見かけられなきゃ、無事移動できるんだから。
私は持ったバケツがあまり音を響かせないよう気をつけながら、ひたすら足を運んだ。
裏口の扉を開けると、すぐ前には黒い車がとまっていた。
今回は全員同じ車に乗るらしく、助手席にまず、マイクが乗り込む。
竜崎がちらりと私を見た後、すぐに自分も後部座席に乗り込んだ。
私は竜崎に続いて乗る。
先に座り込んだ竜崎の隣に腰掛ける。そこへ当然だがメリーもやってきた。私はあわててメリーのスペース確保のために、ぐいと竜崎に詰めた。
彼の腕が触れる。
瞬間、あのアジトの机の下で密着したのがフラッシュバックした。
一気に顔が熱くなる。
メリーは後部座席のドアを閉めると、ワタリさんはすぐに発車させた。
「…ふうー、乗り込みは完了だな」
助手席でマイクが言う。そしてこちらを振り返った。
「特につけられてる様子も…どうしました、顔が赤いですよ」
「えっ」
マイクは私を見てきょとん、としている。
自分の顔に出やすい性格を恨む。こんな緊張感ある時に、私は何を考えているんだ。
「や、やっぱり緊張してて…」
「それもそうですね。まだ気は抜けないがまず第一段階突破だ」
マイクは疑う事もせず信じた。言えるわけない、竜崎の綺麗な鎖骨を思い出してたなんて。(私は変態だろうか)
当の竜崎はすぐさま膝をたてて座る。バケツを膝の上に置いて。
密着していたのが更に強く腕が当たる。
「ちょ…竜崎、狭いですよ!」
「私はこの座り方でないと推理力が40%減なので」
「コ●ンくんも金●一くんもそんな姿勢取ってないですよ!」
「あれはアニメではないですか…」
「あなたはアニメ以上にインパクトあるキャラクターですよ」
「私は頭脳も体も大人ですが」
お構いなしにいつも通り親指を噛む。間近で見るその姿に、なぜか私の心臓は速度を早める。
なんでだよ。なんでこんな変なとこ見てそうなるんだよ。自分で自分が分からない。私は正気か?
メリーが呆れたように言う。
「緊張感ない子たちね…仲良いのは結構だけどまだ着いてないのよ」
「な、仲良く見えますかこれが!」
「とんでもなくね。」
ワタリさんも言ってたけど、なぜこんな喧嘩腰の会話がそう見えるのだろうか。
私は口を尖らせた。
マイクが助手席で笑う、
「葬式みたいに暗いよりいいよ。度胸のある女性はいいと思いますよ」
「あ、ありがとう…」
ちらりと竜崎を見ると、彼は何も気にしてないのか一点を見て考え込んでいる。もしかして本当に推理などしてるのだろうか。
彼からはどことなく甘い匂いがした。あの日と同じような香り。
お菓子ばかり食べてるからなのか、何か石鹸の香りなのか、私には分からなかった。
