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トイレを済まして廊下へ出ると、玄関に段ボールがいくつか見えた。外からワタリさんが運び入れているようだった。
私は慌ててワタリさんの元へ駆け寄った。
「ワタリさん大丈夫ですか?」
彼は段ボールを台車に乗せようとしているところで、私を見て微笑んだ。
「月島さん。大丈夫ですよ、ありがとうございます」
「私も運びますよ!」
「いえいえ、女性にそんなことさせられません」
「そんな、手伝わせてください」
ワタリさんはいつも優しく気遣いのできる人で、ここの生活に欠かせない存在となっていた。
初め竜崎にドン引きしていた頃も、ワタリさんだけが緩和剤だったし。彼には感謝してもしきれない。
その優しい物腰は癒しとなり、私はこの人が大好きになっていた。
「では、私が持ち上げたら台車を入れて頂けますか」
「へ…あ、はい!」
ワタリさんは段ボールをスマートな動作で持ち上げる。すかさず私は台車を突っ込んだ。
「助かりました、ありがとうございます」
「な、何もしてませんが…他にお手伝い出来ることありません?」
「では…あの部屋に運びたいので、ドアを開けてくれますか」
ワタリさんに指差された部屋へ駆け寄る。後ろから台車を押したワタリさんがついてくる。私は部屋のドアを開けた。
そこは沢山のファイルなどが綺麗に並んでいる部屋だった。
量はかなりのもので、部屋一面使っている。
「ありがとうございます、助かりました」
「い、いえこれくらい…!凄い部屋ですね」
ワタリさんは台車を部屋に入れる。
「竜崎の仕事に必要なものでして」
「はあ〜…未だ竜崎の仕事がよく分からないんですけど、なんか凄いって事だけは理解しました」
犯罪組織を追ってるLの部下。実は凄い人なんだろう。
ワタリさんはふふっと笑う。
「竜崎と月島さんが最近仲がよろしいので、私は素直に嬉しいです」
「またー。どこ見たら仲良しに見えるんですかー」
「彼はあなたと話すときはとても楽しそうなので」
楽しそう?あれが?
私は肩をすくめて呆れた。
「絶対ワタリさんの思い違いですよ…あれが楽しそうって」
「いえいえ。私は彼が子供の頃から見てるのですよ。あんなに誰かと楽しそうに話す竜崎は初めてです。まず第一に彼は他人と雑談などしませんから」
ワタリさんが断言することは、疑問だけれど信憑性は高い。しかし、こんなに口の悪い私と話してて楽しいとは。
私は首をかしげる。
ワタリさんはそんな私に気づいたのか続けた。
「彼はね、仕事上嘘を相手にするでしょう」
「嘘?」
「犯罪者ばかりを見てきてますから。嘘ばかり相手にする。だからあなたほど正直でまっすぐな人が珍しいんだと思います」
「…そっか、犯罪者を追うって、そういう感覚になるんですね…」
「だから嘘偽りないあなたと話すのがとても楽しそうです」
「た、楽しいんですかね?」
そりゃ微笑むのは増えた気がするけど、それでもあの人の表情は読みにくい。
「月島さんはどうですか。彼をどう思いますか」
突然そうふられて、私はどきっとした。
「え、どう、って…」
「はじめは竜崎を大分苦手に思っていたでしょう」
バレてた。そりゃそうか、私は本当に顔に出やすい。
ワタリさんの優しい目尻を見て、私は素直に微笑んだ。
「今はそんなこと思ってませんよ。竜崎って勘違いされやすいけど、良くも悪くもあの人こそ正直な人なんだって分かりましたから。」
私がそういうと、ワタリさんは更に優しく笑った。
ああ、やっぱり竜崎のこと、子供のように思ってるんだなぁってわかるほどに。
「まあ、まだまだ掴めませんけどね」
「色々聞いてみればいいですよ。彼は守秘しなくてはならないことも多いですが、答えれることは答えてくれますよ。あなたを気に入ってるんですから」
気に入ってる、と言われどきっとした。
いや、違う、そういう意味じゃない。前も言ってたみたいに、珍獣みたいに気に入ってるってこと。
「そ、そうですかね…?」
「ええ。きっと。」
力強く彼は言った。
「お手伝いありがとうございました。さあ、竜崎の元へ戻ってあげてください」
「あ。いえ…何か手伝えることあればいつでも言ってくださいね!」
「ありがとうございます」
丁寧にお辞儀してくれるワタリさんにお辞儀し返すと、私はまたリビングへと戻っていった。
色々聞いてみればいい、か。
リビングの扉を開けると、もう慣れてしまった竜崎の後ろ姿がある。
私は何も言わずダイニングに座り、飲みかけの紅茶を一口飲んだ。
気に入ってる、って、言ってくれてた。
それが例え珍獣扱いでも、私は嬉しいと思う。
顔は今は赤くないかな。うん、大丈夫だろう。
私は意を決して振り返った。
「竜崎って、その服以外持ってないんですか」
私は長く持っていた疑問を投下してみた。
よし聞いてみよう、と思い立って一つ目の質問がこれか、と自分でも呆れたが、気になってるものは仕方ない。
竜崎は相変わらずパソコンを眺めながら答える。机には私がいれた紅茶が湯気を立てている。
「私はこれが一番気に入ってるので。ワタリに用意させてます」
「着替えてるんですよね?」
「当たり前なこと聞かないでください」
「当たり前だけど竜崎には当たり前って言葉使って欲しくない…」
食事も睡眠も当たり前に出来ないくせに。
「あとその猫背なんなんですか?」
「何なんですかとは何ですか」
「いや病的すぎるでしょ。」
「特に理由はありません、パソコンや捜査資料に見入ってたらこうなりました」
「ふわー…ほんと人間らしい生活送ってないんですね…」
「相変わらず失礼な人ですね。私は人間です」
呆れたように言って紅茶を飲む。もう何十回とみた光景。
私はそれを眺めながら、指は長くて綺麗だなあと思った。
「あとその指先は何ですか、潔癖症ですか」
「別にそういうわけではありません。理由はないです」
「爪噛むの昔からなんですか」
「…月島さん」
竜崎は顔を上げて私をみた。
「なぜそんなに質問責めなのですか」
私は口を尖らせて竜崎を見る。
「ずっと気になってたんですよ。一個聞いたら次々聞きたくなっちゃって」
「そんなに私に興味津々なのですか、光栄です」
「べ、別にそういうわけじゃないですよ!竜崎は私のこと延々質問責めにして何でも知ってるくせに!」
「私の場合は仕事ですから。あなたのもつ好奇心とは違います」
「じゃあ仕事なかったら私に興味ないんですか」
言ってしまった途端、はっとした。
私は何を口走ったんだ?
竜崎は不思議そうに私をみて首を傾げる。
「興味持って欲しいんですか」
「そ、そりゃ、同居人ですよ?」
「…それもそうですね」
案外あっさり納得してまた視線をパソコンに移した。それに私は軽く安堵する。
「あなたは特別です、今までこのように人を保護したことなどないので」
「え、そうなんですか…」
「誰かとこうして過ごすのもワタリ以外はあまりないので、不愉快にさせたらすみません」
私はぐっと押し黙る。
突然やめてほしい。そんな真っ直ぐな言葉をぶつけてくるの。
確かに最初は不愉快に思ったけど、それはもう以前の話。今は竜崎という人に、不愉快な思いはしていない。
「…あの、りゅうざ」
私が言いかけたとき、ノックの音が響いた。扉が開くと、ワタリさんが中へと入ってきた。
「あ、おつかれさまですワタリさん」
「お疲れ様でございます。」
ワタリさんは優しく笑うと、竜崎にはなしかけた。
「竜崎、準備は整いました、2日後です」
「わかった」
私は二人を交互に見る。なんのことだろう。
竜崎は立ち上がって私の方へ歩いてくる。
「また引っ越しします、月島さん」
「あ…変わるんですか」
「ええ。あなたを外に出すリスクもありますが…それでも1箇所に留まり続ける方が危険です。定期的に所在地は変えねば」
「分かりました」
「2日後にまたメリーたちがきます」
「あ!また会えるんですね!」
私はぱっと笑顔になる。ワタリさんや竜崎以外の人と会わない生活は、不満ではないけれど他の誰かと話したいという気持ちが正直生まれてくる。
二人とも優しくて素敵な人たちだったし、素直に嬉しい。
「ほんの少しの移動ですが、やはり護衛はしっかりつけませんと」
「わざわざアメリカから申し訳ないけど、また二人に会えるのは楽しみです!」
「…随分嬉しそうですね」
竜崎は爪を噛みながら私をじっと見た。どこか目線が鋭い気がする。私はたじろいだ。
「え、だってせっかく知り合いになれたんだし、再会出来るなら嬉しいですよ」
「そうですか。」
そう短く言うと、彼はふいっと私を背を向けてまたソファに戻っていく。
??なに、今のは。私なんか怒られた??
私が首を傾げてる横でワタリさんが小さく微笑んだ。
「す、すみません、不謹慎ですかね、二人とも命を懸けて守ってくれるのに」
とりあえず謝っておこう。実際この前、私のために危険な目にあっているんだった。
また会えて嬉しい、とはやはり心が浮ついているか。
竜崎は私の方を見ずに言う。
「別に謝ることではないです。二人もあなたに会えて嬉しいと思います」
「…じゃあ。なんで竜崎怒ってるんですか?」
私が尋ねると、彼は顔をあげてきょとんとした。
「怒ってますか?私」
「え、怒ってませんか?」
「…別に怒ってません」
それだけ言うと竜崎はまたパソコンに視線を下ろしてしまう。
私は小声でワタリさんに言った。
「怒ってませんでした?あれ」
私が尋ねるも、ワタリさんはふふっと小さく笑っただけで答えてはくれない。
そのかわり、私に言った。
「竜崎の表情の見分けが随分上手なんですね」
「え…そ、そうですか?まあ。それなりに長く一緒にいるから…」
確かに彼の顔はわかりにくい。能面みたいだと最初は思っていた。
でも豊かではないものの、彼だって笑ったりイラついたりしてるのは分かってきた。人間だから当たり前なんだけど。
ワタリさんはなお微笑み、それ以上は何も言わなかった。
