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翌日、と呼んでもいいのだろうか。
真夜中の3時。ワタリさんに申し訳なさそうに起こされた私は着の身着のままでその部屋を後にし、竜崎とワタリさんと共に次の本拠地へ移った。
そこは私ですら知っている有名ホテルの最上階スイートルームだった。勿論足を踏み入れたこともない私は口をぽかんと開けながらワタリさんについて行った。
高級そうな家具に家電、柔らかなカーペット。そしてその部屋には見覚えのある顔がいた。
「マイク、メリー…!」
私はほっとして2人に駆け寄る。無事だと聞いてはいたけれど、実際会うとようやく実感できるのだ。
2人は無傷でひらひらと手を振った。
「無事でよかったです。…私のために、ありがとうございました…!」
頭を下げる。メリーは笑って言った。
「やあね。それが私たちの仕事よ。顔上げて」
「それに1人取り逃したしな」
竜崎はまたソファに飛び乗って膝を抱える。メリーとマイクを見る。
「襲撃の様子はどうでした」
「あなたたちが上にいったあと、出入り口をそれぞれ見張ってたの。女である私を選んだみたいで、顔隠した男たちが3人押し入ったわ」
「すぐに気づいた私とワタリが参戦、奴らは持ってた拳銃を発砲。って感じだな」
竜崎が表情を変えたのは、そんな揉み合いの音が聞こえたのだろうか。私はまるで聞こえなかったけれど。
メリーが腕を組んでいう。
「やり方としては、少し荒いけど慣れてる感じはした。そんなに下っ端じゃないと思うわ。」
「なるほど、奴らもとうとう本気を出してきましたか…」
竜崎は難しい顔をして考えこむ。
「警察に引き渡したあと事情聴取してますが、ボスがどんな人かは知らないと一貫してるようです。本当にそうなのか嘘なのかまだ分かりませんね。とにかく襲撃し…月島愛という女性を無傷で連れてくる、という名の下動いたそうです」
一斉にみんなの視線がわたしに集まる。
私はやはりぽかんと口を開けてしまう。…私、なんだ。
「理由については知らない、ただ上の指示だったと。上の者の情報を漏らさないか少々手荒な真似をしてでも吐かせようとは思っています」
「理由は分からないけど、やっぱりこの子は私たちにとっても強いカードになるってことは間違い無いのね」
メリーが唸った。
竜崎は机の上にあるドーナツを手に取り続ける。
「以前のアジトを暴いた後からピタッと犯罪も止んでいる…やつらが大人しければその分こちらが得れる情報も限られてくる」
「ジレンマね」
犯罪が起こればそこからJを追えるが、大人しくしてる今中々アジトを見つけられない、ということか。
竜崎はドーナツを口いっぱい頬張る。
「しかしこれでJがどれほど月島さんに執着してるかわかりました…もう一度月島さんの周辺を調べて洗いましょう。またお話を聞いてもいいですか」
「あ、はいもちろん」
「マイクたちは1度アメリカに帰ってもらっても構いません。また必要ならば呼びます」
「OK。いつでも協力するわ」
「相変わらず優秀な働きぶりでした」
「じゃあ行こうか」
「え、もう行かれるんですか?」
私はつい声に出す。今日あんなことがあったばかりなのに、疲れてないのかな。
2人は笑う。
「大丈夫慣れてる。心配してくれてるのか?その優しい顔が見れただけで私は十分疲れが飛びましたよ」
「また口がうまいですね」
「ははは、綺麗な女性を見たら口説くのが礼儀です」
マイクはそう言って笑う。私も釣られて笑った。最後まで、心配かけまいと振る舞ってくれてるのが分かった。
「では…本当にありがとうございました」
「幸運を。また会いましょう」
2人はにこやかに手を振ると、すぐにホテルから出て行ってしまった。
…かっこいいなぁ。外国の人ってスマートで。
私が見惚れていると、竜崎の声が響いた。
「またマイクの社交辞令を真面目に受け取ってませんか」
…この男は。
私はギロリと睨んだ。
「だ、か、ら。社交辞令だと分かってますって!」
「安心しました。月島さんは単純そうなので」
やっぱりこのパンダ男の笑顔にときめいたのは何かの間違いだと分かった。一時の気の迷いだ。
「で?そういう竜崎はいつ私にその社交辞令を言ってくれるんですか」
「………」
「また黙る!」
「まだ遅いので休んではどうですか」
完全に話を逸らされた。私はむっとしたが、大人になってスルーしてあげた。
「私から話を聞くんではないんですか?大丈夫です、いくらでも付き合いますよ」
「…ではよろしくお願いします。そこに座ってもらって構いません」
私は竜崎の向かいのソファに座る。
ああ、そうだ。彼と初めて会った時も、こうして向かい合って尋問されたんだっけ。
1週間ほど前の事なのに、なぜかもう懐かしい。
あの時、本当に竜崎に不信感が凄くて嫌いだったけど、この変人は悪気がないんだって分かってからは扱い方が少し分かった気がする。
「以前はどこまで話しましたっけ」
「最近の行動パターンを伺いましたが、それより前の事が知りたい。やつらがいつからあなたを尾行し始めたのかまだ確定してないので」
「そっか…!いつから尾行されてたか分かれば、その間に何かあったことになりますもんね」
…とは言っても。私は実は記憶力がそんなにいい方ではないのだ。
普段からスケジュールは手帳と携帯管理。仕事上、土日関係ないシフト制なので、曜日感覚もあまりない。
「あー…うーん、2ヶ月以上前だと記憶が…」
「ないのですか」
「色々書いてあった手帳や携帯は捨てられちゃったし…せめて、シフトが知りたいです。過去の私のシフトがわかれば記憶も蘇りやすいかも」
「なるほど。明日ワタリに用意させましょう」
竜崎はそういうとまた新しいドーナツを手に取る。
「それと…人に執着されるような記憶、ありませんか」
ちらりと見られる。
少し、言葉に詰まった。
あの事は言った方がいいのだろうか。Jとは関係ないと私は思っている。しかし、それは私みたいな素人が判断すべき事ではない。
言った方がいいに決まってる。…でも
言いたく、ない
「前も聞かれましたが…思い当たりません」
「…そうですか」
竜崎はそれ以上は何も言わずにドーナツをまた食べた。
強く聞かれなくてよかった、と思った。
私はどうしても秘めておきたい。
今でも夢に見るあの憎い顔を。
それから延々4時間、私は竜崎に質問され続けた。
今回は私も快く受け入れ、ちゃんと頭をフル回転させて答えれた。
朝食の時間になりワタリさんが促してくれた事で、ようやく私への尋問は終了した。
あまり空いていないお腹に簡単に朝食を納めると、一旦部屋で休むように言われてお言葉に甘えた。
昨日は3時から起きていたし、長々とした竜崎からの質問で疲れ切っていたためすぐにベッドに横になった。
私は瞬間、夢の世界へと飛び込んだ。
目が覚めたとき丁度お昼だった。
私はよく寝たと伸びをしてベッドから起き上がり、ふと部屋を見渡した。
新しい部屋も以前と同じように豪華で広くて申し分なかった。
が、私はどこか不安感に包まれた。
今更ながら私がJとかいう訳わからん犯罪組織に狙われている実感が襲ってきたのだ。
竜崎が前言ったように私はだいぶ鈍感。自分自身呆れながら、自分1人しかいない空間がやけに怖かった。
「…リビングへ行こう。」
さすがに全然お腹空いてないけど、あっちに行けばワタリさんと竜崎がいる。
私は立ち上がってリビングへ向かった。
再びリビングへ行くと、テーブルの上には1人分の食事が置かれていた。ワタリさんは不在らしい。
竜崎はあいも変わらず座ってお菓子食べてる。
しかしその変人を見たとき、私はほっと安心感に包まれた。誰かそばにいるというだけでこんなにも心が落ち着く。
私は空腹感も感じないため、テーブルの上の食事を冷蔵庫に入れ、とりあえず紅茶だけいれた。
上品なダージリンが、私の心を落ち着かせてくれる。
「竜崎、紅茶どうぞ」
私が声を掛けると、竜崎はソファから下りた。手に何か紙を持っている。
「ありがとうございます」
そう言いつつ、私の正面に腰掛けた。
「食べないんですか、食事」
「ああ…お腹空いてなくて」
「そうですか」
竜崎は短くそれだけ言うと、私に紙を差し出した。
「ここ最近のあなたの仕事のシフトです。思い出せる行動を教えてください」
「仕事早いですね…ちょっと見せてください」
私はそれを受け取り見る。そこにはシフトだけでなく、他に一緒に働いていたメンバーの名前も書いてあった。
なんと。さすが。
その日その日で働くメンバーも違う毎日。メンバーに誰がいたか思い出すだけで、記憶は蘇りやすい。
「あー、糸井さんとの夜勤のあと、すき家で牛丼食べました」
「はい」
「えっと、ここの休みは…友人とカフェでお茶してます」
「はい」
私が話す内容に淡々と返事をする。ふと、私はあることに気がついた。
「メモ、取らなくて覚えてるんですか?」
彼がメモを取ってる姿を今まで見たことがない。
竜崎は私のいれた紅茶に砂糖を放り入れて答える。
「当然です。」
「記憶力いいんですねー」
「あなたが悪いだけです」
「わ、悪くないですよ!」
「私は2ヶ月以上前に関わっていた事件のこと覚えてますよ」
ぐっ。言い返せん。
私は悔しいが押し黙って、思い出せる行動を全て竜崎に告げていく。
しかしその数はあまり多くはなかった。遡ればのぼるほど数は減っていく。
甘ったるい紅茶を啜り、竜崎は頷いた。
「分かりました、とりあえずあなたが思い出せるだけの事は聞けたようです。またこれから調べます」
「はあ…頭使ったー」
「自分のことを思い出すのに頭を使うとは。」
「むっ!普通ですよ!」
「む、という擬音を口に出す人初めて見ました」
また減らない口だな!私は竜崎を睨みながら紅茶を飲む。
「よく知りませんが竜崎は相当頭いいんでしょうねぇ?」
「少なくともあなたよりはいいです確実に」
「か、看護師の仕事も結構頭使うんですよ!」
「それは承知してます。別にあなたが馬鹿と言ってるわけではないです。調べでは仕事ぶりも優秀と聞いてますので。人の命を救うような方が馬鹿ではかないません」
「…記憶力悪いって言ったくせに」
「記憶力悪いと馬鹿はまた違いますよ。
それよりこんなに気の強いあなたが患者にどんな顔を見せるのか非常に気になります」
「このままですよ?見た通り優しくて可愛らしい白衣の天使ちゃん」
「………」
「ちょっと何か言って!」
私が言うと、また竜崎はふっと息を漏らして少しだけ口角を上げた。
あれ、また笑った?
意外と優しい雰囲気になるその顔は、どこか可愛らしくも感じられる。
あのとんでもないクマが気にならない程に。
「ワタリも言ってましたが私にこんなにハッキリ物事を言う人は見たことありません。あなたのような人と会ったのは初めてです」
「…怒ってます?」
「いいえ。非常におもしろいと思ってます。珍獣のような感覚ですね」
「珍獣て…」
呆れながらも、少しだけ上がった口角をみて、私はつい自分も笑った。
「竜崎」
「はい」
「竜崎も、笑ってる方がいいですよ」
竜崎は驚いたように私を見た。紅茶がティーカップの中で揺れている。
「ふふ、笑顔のがクマも気になりません」
「…そうですか」
「笑うと、可愛いです」
彼は更に目を見開いた。あれ、意外。照れたのかな。
「生まれてこの方人に可愛いなどと言われたのは初めてですね」
「あれ。第一号でしたか。」
「おそらく第二号は現れないでしょう」
その言葉を聞いたとき、なんだか胸がぐっとなった。
私一人ってこと。
彼の人生の中で、私だけが彼の笑顔を知ることが出来るのだろうか。
そうだとしたら…
…何?
そうだとしたらなんだろう。私今、嬉しい、って思った??
