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どれくらい走ったのだろうか、しばらくすると車はスピードが落ちた。
ようやく落ち着いてきたところでワタリさんが口を開く。
「もう大丈夫だと思います」
背後を振り返ってみる。私には一体どんな人たちが付けていたのかは分からなかったが、振り返らずにはいられなかった。
胸を撫で下ろす。
何が起こっていたんだろう。正直、いっぱいいっぱいで付いていけてない。
「お怪我はありませんか月島さん」
優しいワタリさんの声が聞こえて安堵に包まれる。
「はい、大丈夫です…」
「一度帰るが、明日には滞在地を移す。この車はすぐに破棄してくれ」
竜崎が淡々と述べた。
「巻いたとは思うが見られた。どこから漏れるか分からない」
「承知しました」
「追ってきていた車のナンバーを長官に伝えた。すぐに捕まると思うが」
竜崎はどこか悔しそうにため息をついた。
「…あの、マイク達は大丈夫なんですか」
私は恐る恐る尋ねる。
「彼らは大丈夫です。私が選んだ精鋭達です。すぐに連絡がきて合流するでしょう」
少しほっとする。やはり聞こえたのは銃声だったのだろうか。
「月島さん、一度帰ります。説明はまたそれからします」
淡々とそう竜崎に述べられ、私はうなずくことしかできなかった。
家に着いた途端、竜崎はいつものソファに飛び乗ったと思うとパソコンを繋ぎ、英語でどこかとコンタクト取り始めた。
英語が皆無な私にはなにを言ってるかさっぱり。
ワタリさんはすぐにどこかに出て行ってしまった。
いつものリビングに着いた途端私は全身の力が抜けるようだった。現実離れした出来事に、心がついていけてなかった。
ワタリさんもおらず、竜崎は何か仕事をしているし私は手持ち無沙汰になってしまったが、このまま自分の部屋に戻る気にはなれなかった。
今1人にはなりたくない。
(…紅茶を、淹れよう)
竜崎も飲むだろう。私は無言でお湯を沸かし始める。
茶葉を取り出そうとして、ふと自分の手が視界に入った時、小さく震えているのにようやく気がついた。
それに気づいた瞬間、急に足もチカラが抜けて私はその場にしゃがみ込んだ。
自分に苦笑した。まあ、命の危険が迫ってたんだし、普通の反応だよね?
今更ながら…恐怖に襲われるなんて。
こんなの人生で初めて。ふうと深呼吸する。
「…月島さん」
背後から声が聞こえた。私は顔だけ振り返る。
竜崎がたっていた。
「どうしましたか」
「あ、いえ…力抜けちゃいました。かなり今更ですよね」
はは、と乾いた笑いが溢れる。
「驚かせてしまいましたね」
「まあ…でも大丈夫です」
立てずにいる私を見て、竜崎はポケットから何かを取り出した。個装されたチョコレートだった。
「どうぞ。」
「……」
差し出された金色の包み紙をみて、私はぽかんとした。竜崎とチョコレートを交互に見る。
彼はいつも通り真面目な顔をしていた。
私はそれを見て、彼なりの気遣いなんだと、優しさなんだと理解した。
しかし腰抜けてる相手にチョコレートって。
つい、笑い出してしまった。
「あは、あはは!」
「……」
「すみません、ありがとうございます」
笑いながらチョコレートを取る。それはずっと竜崎のポケットに眠っていたチョコレートで、彼の体温でだいぶ温まっていた。
それに対してまた私は吹き出す。
「溶けてますよ、竜崎」
「溶けてしまいましたか。すみません」
「あはは!」
私はまた笑い出した時、自分の体の力がもう戻っているのに気がついた。
ゆっくり立ち上がる。
「もう大丈夫です、戻りました」
「立ち直り早いですね」
「それしか取り柄ないもので」
「そうですか」
また。フォローしないんかい。
私は微笑みながら竜崎を見た。
彼はまた後ろを振り返り、ソファへと戻っていく。
いつものように座ったところで話しかけられる。
「しかし度胸がある人です。逃げる時はちゃんと立ち上がれて走れたので。普通の女性ならあそこで腰が抜けるものです」
「はあ…無我夢中でしたから」
「さすがというかなんというか。」
「褒めてるんですよね?」
「もちろんです」
私は改めて茶葉を取り出す。
「マイクたちから通信が来ました」
「え!」
「2人とも無傷です。襲撃してきた3人のうち2人は捕まえましたが1人は逃してしまったようですね。もしかしたら我々を追ってきたやつかもしれません」
「とりあえず無事でよかった…」
「聞いてたと思いますが、準備でき次第ここを離れます。荷物はあとでワタリが纏めますから、あなたは特に何もしなくて構いません」
私は沸いたお湯を注ぐ。いい香りが鼻についた。
「それにしても…迂闊でした」
竜崎はそう言って、悔しそうに親指を噛む。
「マイクたちは念のため呼んでおいたのですが、正解でした。正直私は、すでに警察の手の中にある前のアジトにJが襲撃してくるなどありえないと思っていたのです」
「まあ、そうですよね…」
「それを危険を犯してまで襲撃してくるとは。どれほどあなたに執着してるかよく分かりました」
「や、やっぱり私ですか…?」
「確実に。それ以外に理由はありません」
考えても考えても分からない理由。なんでそんな私狙われているの?
「あなたをああして連れてきて検証することを、奴らは予測していたのでしょう。まんまと乗ってしまいました。不覚です。」
竜崎はじっと考えるように上を見上げる。私は入れ終えた紅茶を一旦ダイニングテーブルに置くと、彼に少しだけ近づいた。
「あの、竜崎。」
「はい」
「庇ってくれて…ありがとうございました…」
頭をしっかり下げる。彼は驚いたようにこちらを見た。
しかしすぐ視線を前に戻す。
「あなたを守ったのは私ではなくマイクたちです」
「もちろん、マイクやメリー、ワタリさんもですけど。…竜崎も、私を庇うようにしてくれたから…」
「…あなたの安全を守るというのが約束でしたから。」
「そうですけど。嬉しかったんです」
竜崎はゆっくりこちらを見た。
「それに…あの時、腰が抜けずに立ち上がれたのは…竜崎がいてくれたからです」
一人じゃあ不安に溺れて、きっと立ち上がれなかった。
彼がその温かな体温で、私を安心させてくれたからだ。
私はそっと微笑む。
「ありがとうございました。」
竜崎は少しだけ目を伏せたあと、また私から視線を逸らした。
「お礼を言われることではありません。あなたを危険にさらしたのは私ですから」
「マイクたちを呼んで準備してくれたのも竜崎でしょ?」
「当然のことです」
「当然かもしれませんが」
「特にお礼を言われることはしてません」
あまりに素直じゃない彼に、私は呆れた。と同時に、むっとした私はずんずんと竜崎に近寄る。
座る竜崎のすぐ隣に来た私は、彼の頬を両手でぐいっと挟んだ。
それを少し持ち上げて、強制的に視線を合わせる。
竜崎は驚きで目を見開いて、私を見た。
「竜崎。こういう時は、
『どういたしまして』
でいいんですよ?」
彼の黒い瞳を覗き込む。中に私が映るのが見えた。
彼の温かい頬が掌から伝わる。
「………どういたしまして」
ポツリと竜崎は呟いた。私はふふっと笑う。
不器用な人だなあ。お礼を言われるのがそんなに嫌なんて。
素直じゃない。
私は手をぱっと離す。
「それでいいです。」
にこりと笑った。
「あ、すみません、3メートルルール破っちゃった」
私は慌てて竜崎から離れてダイニングへ戻る。
「紅茶入れてます、いりますか?」
「頂きます」
竜崎はすぐにソファを飛び降りて紅茶をとりにくる。
「月島さん」
「え?」
「あなたはやはり、笑ってる方がいい」
彼を見た。竜崎は紅茶を手に取り、じっと私を見た。
そして少しだけ。
口角を上げて微笑んだ。
「え……」
「命の危機に遭いながらもすぐ笑えるあなたは大したものです」
「………」
「紅茶、ありがとうございます」
竜崎はそのまままたソファに戻っていった。
私はただ呆然と、竜崎の背中を見つめた。
(…びっくりした)
ここに来て、あの人の笑顔を見るのは初めてだった。
そう思った瞬間、私の心臓は大きく高鳴った。
同時に今日、体を密着させた時の彼の鎖骨が思い出される。
自分で心を落ち着かせる。これはあれだ、吊り橋効果だ。
今日自分の身の危険が迫った時、庇ってくれたからそう思うんだ。うん、そうそう。
私は湯気の立つ紅茶を一口飲んだ。柔らかな香りが、なぜか私の心をまた高ならせる。
…そう、だよね?
