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夢小説設定
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エレベーターで長く下り、私は言われた通り顔は伏せて、4人に囲まれながら少し歩く。
すぐ前に黒い車が止まっていた。ワタリさんはさっと扉をあけて乗せてくれた。
私は車に乗り込むと、一度ふうと息を吐いた。そこへ、竜崎が隣に乗り込み一瞬ぎょっとする。
ドアが控えめな音でしめられる。
竜崎は車の中でもすぐにいつもの格好になった。運転席にワタリさんが乗り込む。
マイクたちは違う車で行くらしかった。
シートベルトを閉めて、すぐにワタリさんは発車する。
なんとなく竜崎をみることもできず、私は窓から外を眺める。
正面に座ったことはあっても、竜崎と隣に座るのは初めての事だった。なぜか、緊張する。
大きな車の中は広々としていて安心した。触れるほど近ければ気まずさが爆発する。
流れる街並みをみて、久々に外出したなあ、なんて考えていた。
しばらくそのまま走る。
「昨日あの後眠りましたか」
隣から声が聞こえて一瞬びくっとなる。少し彼の方を見れば、膝を抱えて爪をかじっていた。
うん、今日も揺るぎない変人。いつも通りですね。
「なんとか寝ましたよ。竜崎は寝ました?」
「寝ていません」
「でしょうね。」
「あなたに看護されたかったので」
「なるほど、やってやりましょう。まずは食事制限からです」
「やはりお断りします」
「健康体に変身させてやろうかと思ったのに」
私たちは目も合わさず言葉のキャッチボールを交わした。この変人と普通に会話出来るようになっただけで、私のコミュ力の高さが伺える。
「近いんですか、アジト」
「車で15分ほどです」
「まあまあ近いんですね」
「5階建てのビルです。周りには民家などなく閑散としている。地下室もありそこに被害者たちが監禁されてました。
あなたはその最上階にいました」
「最上階かあ…」
「豪華な一室であることから、Jのトップの部屋なのかもしれません」
「Jのボスの部屋に寝てたってことですか!」
私は首を傾げる。ボスの部屋で眠ってた、でも私は恐らく乱暴などされてない。一体なぜ?
女としての魅力全然なかったのかな。喜ぶべきか、落ち込むべきか。
「あの、竜崎のところでお風呂借りた時体に異変はなかったんです。なので、なんというか」
「特に乱暴された形跡はないと言うことですね。まあそれは想定内でした。すり傷一つないし衣服の乱れもなかったので。昏睡してる相手を犯した後丁寧に下着や服を着せるのは不自然でしょう」
それもそうか。そう考えるとやはり私は無事だと言うことになる。
「はて…不思議ですね…」
私は腕を組んで考え込んだ。
しかし考えてもわかるわけない。
「ボスは私に酷く惚れてたんですかねぇ?まあありえないと思いますが」
「そうですね」
そうですねって!相変わらず失礼なやつだな!
私はジロリと竜崎を睨んだ。彼はそれに気づいたのか、ああ、と小さく呟いて、
「すみません、月島さんはお綺麗だと思いますが、いつも若くて容姿の整った女を誘拐してるJは目が肥えてると思いまして」
「…まあ一応フォローの言葉が出たのは成長を感じます。あまりフォローになってないけど」
「まあその可能性も考えてはいましたが。…あまり高くはなさそうかと…飛び蹴りするような女性…」
ぐっ。また蹴りの事を上げてくる!
「言っておきますがこれでも仕事中連絡先を熱心にくれる人だっていたんですよ!佐藤くん!」
「誰ですか佐藤くん」
「俳優の佐藤卓に似てるから佐藤くんって看護師間で呼ばれてたんですよ!私は相手にしませんでしたけどね!」
「俳優ほどの顔面を持ちつつあなたを選ぶとは奇特な人ですね」
「〜!!」
私はとりあえず大人になって落ち着こうと深呼吸した。竜崎のペースに乗せられたらおしまいだ。
話題。話題を変えよう。
「ところでマイクたちは何者なんですか、まさかわざわざアメリカから来るとは」
「私が信頼を置いている数少ない人たちです。腕は確かです」
「あまり外国の方と話す機会なんてないしいい経験でした」
「あまりマイクの言葉を鵜呑みにしないでください。あれは彼らの挨拶がわりです」
「分かってますよそれくらい。私もいい大人なんですから」
褒められて気分良くなっているところを現実に戻さないでほしい。せっかく女性ホルモンが活発化してたのに!
「そういう竜崎も日本人ではないですよね?」
「そうです」
「ではマイクみたいに挨拶がわりの褒め言葉ぐらい私にくれたらどうですか。」
「………」
「だんまり禁止!!」
「相変わらず騒がしい人ですね…」
私が竜崎の方をみて怒ると、運転してるワタリさんが声を上げて笑った。
「本当に仲がよろしいですね」
「で、ですからワタリさんらどこをどう見たらそうなるんですか!」
「私はお二人の掛け合いとても楽しく拝見しています。」
「ただの口喧嘩じゃないですか…」
私はなんだか恥ずかしくなってまた窓の外を眺めた。
流れていく家をなんとなく眺めながら、出会った時のドン引きから口喧嘩をするようになったのは凄い成長だよなぁ、と思った。
「私は正直に話してるだけなのですが、月島さんが妙に突っかかってくるので」
「その言葉そっくりそのままお返ししますよ。突っかかるように話してくるのはどっちですか」
「あなたほど気が強い女性も初めて見ました」
「褒めて頂いてありがとうございます。知りませんでした?看護師って気が強い女が多いんですよ」
「あなたの場合看護師という道に進まなくても変わらず気が強いのではないですか」
「否定はしませんね」
気が強いのは就職する前からそうだ。
……そう、
あのできごとがあって、私は強くなろうと思ったんだ。誰にも舐められないように、と。
いつだって強くありたいと願った。
思い出したくないのに、思い出してしまう。
忘れようとしてる顔がよぎり、私はつい腕をぎゅっと掴んだ。
「…緊張してるんですか。そんなに気を負うことありません」
私の様子に気づいたのか、竜崎が言った。
隣に座る彼を見る。
顔を傾けて、私を覗き込んでいた。
「…はい、ありがとうございます…」
彼の唐突な方向転換に時々ついていけない。興味なさそうに憎まれ口を叩いてるかと思えば突然ちょっとした優しさを出す。
この竜崎という男は、本当に変わった男だ。
いつでも私の感情を振り回す。
「何か覚えてることを祈ります。私が役に立てるのはそれくらいなので」
「まああなたの情報が無くても私はJを捕まえる自信はありますが」
「本当にその自信はどっからやってくるんですか…あ、Lがいるからか」
「……そうですね」
「さあ、そろそろ着きますよ。ここまでも不審な車両などは見当たりませんでしたので、付けられてることはないかと」
ワタリさんがハンドルを切りながらいった。
私はぐっと窓に顔を近づけて外を見る。
先ほどまでの街並みとは打って変わって、人気のない場所だった。廃屋とみられる家が数軒見える。
その中に、少し古びたグレーのビルが見えた。
「あれですか」
「はい、見覚えありますか」
「いや…全然」
どこにでもあるようなビルだった。ここに犯罪組織のメンバーがいて、地下室には被害者が監禁されていたなど信じられない。
「Jってやっぱ海外でも活動してるんですか?人身売買なんて、日本じゃ考えられませんけど…」
「はい、主に香港やタイでの活動はわかっています。」
「じゃあ…私と一緒に保護されたっていう人たちは、竜崎のお陰で命を救われたんですね…」
小さな子供と女性だと言っていた。変人が際立って忘れていたけれど、
…私もこの人に命救われてるんじゃんね?
竜崎がアジトを突き止めたって言ってたし、もしそれがなかったら今私はどうなってるか分からない。
ちらりと隣を見た。竜崎は爪をかみながら正面を向いている。
お礼を言うべき相手だった。口喧嘩してる場合じゃなかったな。完全に忘れていた。
「マイクたちももう着いています。」
ワタリさんは車をビルのすぐ前に駐車し、先に車から降りてドアを開けてくれた。
まず竜崎が降りる。私も続いて車から降りた。
日差しが暑い。まだ夏前だというのに、今日は随分気温が高いみたいだ。眩しさに目をひそめた。
「あまり時間はかけません。すぐに最上階に行きましょう」
竜崎はそういうと、猫背のまま歩き出す。私とワタリさんはそれに続いた。
ビルの出入り口は重そうな鉄の扉だった。なんだかこのビルには釣り合いな印象に思える。
ワタリさんがしっかりと両手でそれを開けると、中からは冷たい空気が漏れた。
そのまま足を踏み入れる。
「…犯罪組織のアジトって言っても、案外綺麗なんですねぇ…?」
私はポツリと呟く。廊下は特に汚れている様子はなく、古びてはいるが掃除が行き届いているように思えるからだ。
竜崎は親指の爪を噛んで言った。
「様々ですよ、その組織によって。恐らくここはボスが綺麗好きなのではないですかね」
「綺麗好きの犯罪組織ボスか…」
「階段はこちらです」
言われるがまま廊下を少し歩く。途中、扉が開けっぱなしのままの部屋があった。丸いテーブルやパイプ椅子がいくつかあって、上にはタバコが山積みの灰皿があった。
そこはなんだか想像通りだな、なんて案外冷静に思ったり。
3人の足音を響かせながら歩き、暗い階段が見えた。
「さあ、上へどうぞ」
ワタリさんに促され、竜崎、私、ワタリさんの順番に階段を登っていく。
あたりをキョロキョロ見渡すも、やはり記憶にはないないなあ…初めて来た場所って感じだし…
3階分の階段を登ったところですでに苦しくなってきた。普段の運動不足が恨めしい。
意外にも竜崎はけろりとした顔で登り続ける。
「案外…竜崎、平気なんですね…いつもソファから動かないくせに…」
息も途切れながら言うと、竜崎は少しだけこちらを見て呆れたように言った。
「あなたは飛び蹴りをするくらいお転婆なのに意外と体力ないのですね」
「持久力はないんですよ…」
「これくらいでですか。運動不足ですね」
「分かってますちょっと黙っててください」
「あなたが話しかけたのではないですか…」
納得いかない、という顔で私を見る。分かってます八つ当たりですからね。
手すりを掴みながら、何とか登り切って5階へ辿り着く。普段エレベーターばかりなのって、よくないね、うん。事件解決したらジム通おうかな。
