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それは真夜中、午前2時。湿気が多くどこか蒸し暑い中、虫の音が響く。
世の中は静まり返り、みな夢の中にいる頃。
人気のない街のはずれに寂れたビル。その周りに人影が多数あった。
男たちは厳しい顔で小声で何かを話す。月明かりだけが明るさの根源だった。
ビルからは微かに明かりが見えた。
男たちは静かな足取りでビルへ近づく。壁に背中を伝わせながら手には物騒なものを持っていた。
拳銃だった。
しんとした静けさの中、男が一人小さく頷く。それを合図とするように、人々は一気にビルに押し入った。
「動くな!」
ドアを蹴破り侵入し、持っていた拳銃を翳す。
しかし中は人一人いなかった。
それなりの広さのあるビル内にはいくつか机があり、その上にはまだ火のついたタバコがあった。
男がそれを見て悔しそうに言う。
「まだ近くにいるぞ…!」
多数の男たちは他の部屋も次々突入した。しかしどこにも目当ての者たちはいない。
「地下がある!」
誰かが叫んだ。数人が足早にそちらへ向かう。
そこには確かに、地下へ伸びる階段があった。
もう一度しっかり拳銃を持ち直すと、一気に階段を下る。
分厚い扉が見えた。南京錠で鍵がかかっていた。
男たちは必死に開けようとするが開かない。苛立った一人は鍵に向けて発砲した。
扉が開いた瞬間、悲鳴が湧き上がる。
「……!」
小さな子供たちと女が数人いた。みなおびえた目でこちらを見ていた。
ほっと男は胸を撫で下ろす。
「…被害者たちだ」
幼い男女に、容姿の整った若い女。みんな乱暴に手足を縛られ、出血しているものもいた。
「警察です、安心してください!」
一人が言うと、安心からかみんなが一気に泣き出した。
その場を部下に任せ、男は再び階段をのぼる。
「上に人がいます!」
そんな声が聞こえた。はっとし更に足を早める。
「どこだ!」
「一番上の階です!」
「ホシか!」
「いや、それが…」
答えを聞く時間も待ちきれず男は走って階段を登り詰める。
最上階にたどり着くとすでに開けられた扉にはいる。
部下が3人たっていた。
その部屋は下とは違い、立派なソファに豪華な机、ベッドがあった。
明らかに特別な部屋。
男は部下たちがじっと見つめる方を見る。
「……」
かざしていた拳銃を下げる。
そこへ、男の付けていたイヤホンから変成器で変えられた無機質な声が響いた。
『犯人は誰もいませんか』
男はその声に反応し、親指に付いている指輪を口元に近づけた。それが小型のマイクになってるらしかった。
「L…犯人たちは誰もいない。まだ火のついたタバコがあった。逃げられた」
『感づかれましたか。…またあと一歩』
無機質な声が聞こえる。
「地下には攫われた被害者たちがいた。やはり子供と若い女性だ」
『今まで通りですね』
「だが、L…」
男は戸惑いの声を上げた。
「最上階に…もう一人いた」
豪華なベッドの上には、こまめに交換されている様子の分かるシワのない白いシーツ。
そこに一人、女が横たわっていた。
彼女は長い髪を振り乱しながら寝ている。
目隠しをされ、手はしっかり縛られていた。
「…なんで…この女だけ…ここで?」
唖然と男は呟いた。
女は規則的な寝息を立てるだけで、答えてはくれなかった。
ぼんやりと瞳が開く。
眩しい。もう朝かな。
天井を見ながら心で思うが、その天井はいつもの自分の部屋とはどこか違う。
…ん?
辺りを見渡した。知らない場所だった。
…え、どこ?ここ。
自分が寝ているベッド以外には何もなかった。広さは8畳ほどか。窓すらない。
私は慌てて起き上がる。少し頭痛がしてこめかみを抑えた。
「いた…」
しかし、今は頭痛を気にしている場合ではない。
私は自分を奮い立たせてベッドから足を下ろす。
少しふらついた。それを何とか踏ん張って立ち上がる。
部屋には扉が二つあった。まず一つに手を掛ける。
開くと、質素なトイレがあった。小さい手洗い場。鏡はない。
そこにも窓は存在しない。
すぐに閉めて、もう一つの扉に手をかけた。
ドアノブを掴むが、それは回らない。
「な…!」
鍵か掛かってる…!
だがどう見ても中に鍵らしきものは見えない。外から掛かってるんだ!
「どういうこと…!?閉じ込められてる!」
一気に押し寄せる恐怖感。何故こんなことになったか考えを巡らせるがまるで心当たりがない。
私はとりあえずドアを手で叩いた。
「ねえ!誰かいませんか!」
声は部屋に響き渡る。
「あのー!誰かー!」
拳を握って叩くも、何も返事はない。
何度か叫び、ドアを叩きつけるも応答はない。
ドアを叩くと手が痛い…
イライラした私は今度は思い切りドアを蹴った。
「だーーれーーかーーー!」
その瞬間、部屋に声が響き渡った。
『目が覚めましたか』
無機質な変成器で出された声。私はぞっとする。
辺りを見渡す。はっと上を見ると、監視カメラとスピーカーらしきものが見えた。
「こ、ここはどこ!?私…なんでこんなことに!?」
グルグル回る頭は混乱するばかり。手が震えてるのを必死に抑えた。
『まずは落ち着いてください。我々はあなたに危害を加えたりしません』
「こんな所に監禁されて…信じられるわけないでしょう…!」
『あなたに聞きたいことがあります』
じっとカメラを見た。あそこから、誰か見てる。
『まず、あなたの名前を教えてください』
…名前?
教えていいんだろうか、こんな監禁野郎に…
しかし、名前くらいでどうこう出来ないか。
「…月島愛です」
『月島さん。単刀直入に聞きます。Jについて、何か知っていますか』
はたと止まる。突然何?
じぇい?
私は眉を潜めた。
「J…とは?Jリーガーは詳しくないです」
『………』
何?
私はとりあえず監視カメラを睨みつけた。
「私なんでここにいるんですか…!」
『こちらの台詞です』
「はあ?」
『あなたはなぜここにいるのか、分かりませんか?』
質問に質問で返される事ほどイラつく事はない。
私は唇を噛んだ。
なぜここに?そんなの知るわけない。
私は…そう、ちゃんといつも通り仕事をして…
上がって、帰ろうとして…
…んで、どうしたんだっけ?
「私はいつも通り仕事に行って、…上がって、そこからよく覚えてません。あなたがさらったの?」
相手は答えなかった。しばらく沈黙が流れる。
「ねえ?何で私をさらったんですか!どうするんですかこれから!」
それでも相手は答えなかった。
それにイライラした私は再び扉を思い切り蹴り上げた。
大きな音が響き渡る。
『無駄ですよ。ちょっとやそっとで壊れません』
「怒りをぶつけてるんですよ!」
『見かけによらず乱暴ですね』
「あなたはその見かけくらい見せなさいよ!」
私は叫んだらその場にしゃがみ込んだ。
…なんでこんなことになったの…私どうなるの…
殺される?はたまた乱暴されるんだろうか。
抑えていた涙が出てくる。
しかしそんな私を気にもかけてないように声が続いた。
『仕事は何を』
「私の質問に答えてもくれない人にはもう何も言いません!」
精一杯の強がり。弱気を見せたらおしまいの気がした。
スピーカーの向こうの人は少し考えたように言った。
『…あなたはある重要な事件の手がかりです』
「…は」
『それと同時に、その事件の共犯も疑ってます』
「わ、私そんなこと知りません!ただの一般人です!…ここから出してー…」
真面目に生きてきた善良な市民なのに!
私は再び顔を覆って泣く。
『とりあえず名前を知れただけでいい収穫でした。食事を出すのでとってください』
それだけ言うと、ぶつっと通信の切れる音がした。
…食事、って、
ここの扉が開く…!?
私ははっとしてドアをみたが、期待は裏切られた。
気がつかなかったが、ドアには下に小さな小窓があった。そこがパカッと開くと、さっと食料が入れられたのだ。
「…徹底してるんだ…」
私は愕然とする。相手は顔や声すら隠し、私を監禁している。
なぜ?なんの事件と関わってしまったの?
出された食事は意外にも豪華で温かった。しかし、監禁されてる身として敵の食事をやすやす取るのは危険すぎる。
私は湧き出る空腹感を抑え、その食事にそっぽを向いた。
そしてベッドに飛び込んだ。
こちらも意外と柔らかくいい香りのするシーツだった。
「なんなのよ〜…」
私はそう誰に言うでもなく呟いて、布団を顔を押しつけて涙を流した。
それから一日。
時計はないし窓もないが、食事が3回運ばれたから丸一日経ったのだろう。
私は食事も水も口につけず、断固として拒否した。
そして再び、あの憎らしい機械音が響いた。
『月島さん。食事は取られないのですか』
よくいけしゃあしゃあと。私は乾いた喉からなんとか声を出した。
「監禁してるようなやつが用意した食事を取るほどアホじゃないんです」
『なるほど、意外と警戒心が強いんですね』
意外とって何。
相手は私を心配するそぶりもなく続けた。
『ところで。あなたの疑惑が晴れました』
はっと目を見開く。監視カメラの方を見た。
『あなたの事を調べました。まるでJとは無関係そうですね』
「そう言ったじゃないですか!」
『月島愛。都内にある白沢病院勤務の看護師。勤務態度は真面目で評判良し。杉野高校卒業後、金山看護専門学校入学。4歳の頃両親を亡くしその後施設に入り育つ。10歳の頃遠い親戚に引き取られるも仲はあまり良好とは言えず現在は一人暮らし。友人関係にJに近いと思わしき者なし』
ぞっとした。
私の名前だけで、たった1日でこんなに調べられるの?
特に両親や親戚のおじさんたちについては、私は友達にすら話した事はなかった。
何者…?
心が冷え切る。私は嫌悪の表情を隠さずカメラを見た。
「何者なんですか…」
『決して怪しい者ではないです、Jを追う者です』
「怪しすぎるでしょ…」
私が怯えながらいうと、相手は答えた。
『あなたを解放します』
「…え」
『身分も分からないためこうしていましたが、あなたが本当にJの被害者だとすればあんまりな対応です。今から扉を開けます』
…ここから出して貰える?
思ったより話のわかる相手だったのかもしれない。
私はほっと息をつく。
しかしすぐに気を引き締めた。
いやいや、解放されるという嬉しさから気が緩んだけど、人を簡単に監禁したような人。
何者なのか。やはりヤバい筋の人なのだろうか。
それでも私はそこの扉が開いたら飛び蹴りでもかましてやろうかと思った。そうせねば腹の虫が治まらない。
お腹は空いてるし喉乾いてるし私のイライラは極限なのだ。
じっと扉を見つめる。瞬きも忘れるほどに。
開いて顔が見えた瞬間飛びつけるよう構えた。
そしてそれがガチャリと大きな音がしたあと、ゆっくり開かれた。
そこから見えた人はーーー
世の中は静まり返り、みな夢の中にいる頃。
人気のない街のはずれに寂れたビル。その周りに人影が多数あった。
男たちは厳しい顔で小声で何かを話す。月明かりだけが明るさの根源だった。
ビルからは微かに明かりが見えた。
男たちは静かな足取りでビルへ近づく。壁に背中を伝わせながら手には物騒なものを持っていた。
拳銃だった。
しんとした静けさの中、男が一人小さく頷く。それを合図とするように、人々は一気にビルに押し入った。
「動くな!」
ドアを蹴破り侵入し、持っていた拳銃を翳す。
しかし中は人一人いなかった。
それなりの広さのあるビル内にはいくつか机があり、その上にはまだ火のついたタバコがあった。
男がそれを見て悔しそうに言う。
「まだ近くにいるぞ…!」
多数の男たちは他の部屋も次々突入した。しかしどこにも目当ての者たちはいない。
「地下がある!」
誰かが叫んだ。数人が足早にそちらへ向かう。
そこには確かに、地下へ伸びる階段があった。
もう一度しっかり拳銃を持ち直すと、一気に階段を下る。
分厚い扉が見えた。南京錠で鍵がかかっていた。
男たちは必死に開けようとするが開かない。苛立った一人は鍵に向けて発砲した。
扉が開いた瞬間、悲鳴が湧き上がる。
「……!」
小さな子供たちと女が数人いた。みなおびえた目でこちらを見ていた。
ほっと男は胸を撫で下ろす。
「…被害者たちだ」
幼い男女に、容姿の整った若い女。みんな乱暴に手足を縛られ、出血しているものもいた。
「警察です、安心してください!」
一人が言うと、安心からかみんなが一気に泣き出した。
その場を部下に任せ、男は再び階段をのぼる。
「上に人がいます!」
そんな声が聞こえた。はっとし更に足を早める。
「どこだ!」
「一番上の階です!」
「ホシか!」
「いや、それが…」
答えを聞く時間も待ちきれず男は走って階段を登り詰める。
最上階にたどり着くとすでに開けられた扉にはいる。
部下が3人たっていた。
その部屋は下とは違い、立派なソファに豪華な机、ベッドがあった。
明らかに特別な部屋。
男は部下たちがじっと見つめる方を見る。
「……」
かざしていた拳銃を下げる。
そこへ、男の付けていたイヤホンから変成器で変えられた無機質な声が響いた。
『犯人は誰もいませんか』
男はその声に反応し、親指に付いている指輪を口元に近づけた。それが小型のマイクになってるらしかった。
「L…犯人たちは誰もいない。まだ火のついたタバコがあった。逃げられた」
『感づかれましたか。…またあと一歩』
無機質な声が聞こえる。
「地下には攫われた被害者たちがいた。やはり子供と若い女性だ」
『今まで通りですね』
「だが、L…」
男は戸惑いの声を上げた。
「最上階に…もう一人いた」
豪華なベッドの上には、こまめに交換されている様子の分かるシワのない白いシーツ。
そこに一人、女が横たわっていた。
彼女は長い髪を振り乱しながら寝ている。
目隠しをされ、手はしっかり縛られていた。
「…なんで…この女だけ…ここで?」
唖然と男は呟いた。
女は規則的な寝息を立てるだけで、答えてはくれなかった。
ぼんやりと瞳が開く。
眩しい。もう朝かな。
天井を見ながら心で思うが、その天井はいつもの自分の部屋とはどこか違う。
…ん?
辺りを見渡した。知らない場所だった。
…え、どこ?ここ。
自分が寝ているベッド以外には何もなかった。広さは8畳ほどか。窓すらない。
私は慌てて起き上がる。少し頭痛がしてこめかみを抑えた。
「いた…」
しかし、今は頭痛を気にしている場合ではない。
私は自分を奮い立たせてベッドから足を下ろす。
少しふらついた。それを何とか踏ん張って立ち上がる。
部屋には扉が二つあった。まず一つに手を掛ける。
開くと、質素なトイレがあった。小さい手洗い場。鏡はない。
そこにも窓は存在しない。
すぐに閉めて、もう一つの扉に手をかけた。
ドアノブを掴むが、それは回らない。
「な…!」
鍵か掛かってる…!
だがどう見ても中に鍵らしきものは見えない。外から掛かってるんだ!
「どういうこと…!?閉じ込められてる!」
一気に押し寄せる恐怖感。何故こんなことになったか考えを巡らせるがまるで心当たりがない。
私はとりあえずドアを手で叩いた。
「ねえ!誰かいませんか!」
声は部屋に響き渡る。
「あのー!誰かー!」
拳を握って叩くも、何も返事はない。
何度か叫び、ドアを叩きつけるも応答はない。
ドアを叩くと手が痛い…
イライラした私は今度は思い切りドアを蹴った。
「だーーれーーかーーー!」
その瞬間、部屋に声が響き渡った。
『目が覚めましたか』
無機質な変成器で出された声。私はぞっとする。
辺りを見渡す。はっと上を見ると、監視カメラとスピーカーらしきものが見えた。
「こ、ここはどこ!?私…なんでこんなことに!?」
グルグル回る頭は混乱するばかり。手が震えてるのを必死に抑えた。
『まずは落ち着いてください。我々はあなたに危害を加えたりしません』
「こんな所に監禁されて…信じられるわけないでしょう…!」
『あなたに聞きたいことがあります』
じっとカメラを見た。あそこから、誰か見てる。
『まず、あなたの名前を教えてください』
…名前?
教えていいんだろうか、こんな監禁野郎に…
しかし、名前くらいでどうこう出来ないか。
「…月島愛です」
『月島さん。単刀直入に聞きます。Jについて、何か知っていますか』
はたと止まる。突然何?
じぇい?
私は眉を潜めた。
「J…とは?Jリーガーは詳しくないです」
『………』
何?
私はとりあえず監視カメラを睨みつけた。
「私なんでここにいるんですか…!」
『こちらの台詞です』
「はあ?」
『あなたはなぜここにいるのか、分かりませんか?』
質問に質問で返される事ほどイラつく事はない。
私は唇を噛んだ。
なぜここに?そんなの知るわけない。
私は…そう、ちゃんといつも通り仕事をして…
上がって、帰ろうとして…
…んで、どうしたんだっけ?
「私はいつも通り仕事に行って、…上がって、そこからよく覚えてません。あなたがさらったの?」
相手は答えなかった。しばらく沈黙が流れる。
「ねえ?何で私をさらったんですか!どうするんですかこれから!」
それでも相手は答えなかった。
それにイライラした私は再び扉を思い切り蹴り上げた。
大きな音が響き渡る。
『無駄ですよ。ちょっとやそっとで壊れません』
「怒りをぶつけてるんですよ!」
『見かけによらず乱暴ですね』
「あなたはその見かけくらい見せなさいよ!」
私は叫んだらその場にしゃがみ込んだ。
…なんでこんなことになったの…私どうなるの…
殺される?はたまた乱暴されるんだろうか。
抑えていた涙が出てくる。
しかしそんな私を気にもかけてないように声が続いた。
『仕事は何を』
「私の質問に答えてもくれない人にはもう何も言いません!」
精一杯の強がり。弱気を見せたらおしまいの気がした。
スピーカーの向こうの人は少し考えたように言った。
『…あなたはある重要な事件の手がかりです』
「…は」
『それと同時に、その事件の共犯も疑ってます』
「わ、私そんなこと知りません!ただの一般人です!…ここから出してー…」
真面目に生きてきた善良な市民なのに!
私は再び顔を覆って泣く。
『とりあえず名前を知れただけでいい収穫でした。食事を出すのでとってください』
それだけ言うと、ぶつっと通信の切れる音がした。
…食事、って、
ここの扉が開く…!?
私ははっとしてドアをみたが、期待は裏切られた。
気がつかなかったが、ドアには下に小さな小窓があった。そこがパカッと開くと、さっと食料が入れられたのだ。
「…徹底してるんだ…」
私は愕然とする。相手は顔や声すら隠し、私を監禁している。
なぜ?なんの事件と関わってしまったの?
出された食事は意外にも豪華で温かった。しかし、監禁されてる身として敵の食事をやすやす取るのは危険すぎる。
私は湧き出る空腹感を抑え、その食事にそっぽを向いた。
そしてベッドに飛び込んだ。
こちらも意外と柔らかくいい香りのするシーツだった。
「なんなのよ〜…」
私はそう誰に言うでもなく呟いて、布団を顔を押しつけて涙を流した。
それから一日。
時計はないし窓もないが、食事が3回運ばれたから丸一日経ったのだろう。
私は食事も水も口につけず、断固として拒否した。
そして再び、あの憎らしい機械音が響いた。
『月島さん。食事は取られないのですか』
よくいけしゃあしゃあと。私は乾いた喉からなんとか声を出した。
「監禁してるようなやつが用意した食事を取るほどアホじゃないんです」
『なるほど、意外と警戒心が強いんですね』
意外とって何。
相手は私を心配するそぶりもなく続けた。
『ところで。あなたの疑惑が晴れました』
はっと目を見開く。監視カメラの方を見た。
『あなたの事を調べました。まるでJとは無関係そうですね』
「そう言ったじゃないですか!」
『月島愛。都内にある白沢病院勤務の看護師。勤務態度は真面目で評判良し。杉野高校卒業後、金山看護専門学校入学。4歳の頃両親を亡くしその後施設に入り育つ。10歳の頃遠い親戚に引き取られるも仲はあまり良好とは言えず現在は一人暮らし。友人関係にJに近いと思わしき者なし』
ぞっとした。
私の名前だけで、たった1日でこんなに調べられるの?
特に両親や親戚のおじさんたちについては、私は友達にすら話した事はなかった。
何者…?
心が冷え切る。私は嫌悪の表情を隠さずカメラを見た。
「何者なんですか…」
『決して怪しい者ではないです、Jを追う者です』
「怪しすぎるでしょ…」
私が怯えながらいうと、相手は答えた。
『あなたを解放します』
「…え」
『身分も分からないためこうしていましたが、あなたが本当にJの被害者だとすればあんまりな対応です。今から扉を開けます』
…ここから出して貰える?
思ったより話のわかる相手だったのかもしれない。
私はほっと息をつく。
しかしすぐに気を引き締めた。
いやいや、解放されるという嬉しさから気が緩んだけど、人を簡単に監禁したような人。
何者なのか。やはりヤバい筋の人なのだろうか。
それでも私はそこの扉が開いたら飛び蹴りでもかましてやろうかと思った。そうせねば腹の虫が治まらない。
お腹は空いてるし喉乾いてるし私のイライラは極限なのだ。
じっと扉を見つめる。瞬きも忘れるほどに。
開いて顔が見えた瞬間飛びつけるよう構えた。
そしてそれがガチャリと大きな音がしたあと、ゆっくり開かれた。
そこから見えた人はーーー
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