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「うわ、あれ、どうしよう。なんか違う」
私は手に持っていた生クリームを掲げて首を傾げる。
ジェシーもワタリさんも帰宅した夜、夕飯を食べ終えた頃、エルに夜食を作っていた。
普通の人間なら夕飯後に甘味など太る原因だから食べないのだろうけど、彼は別だ。いつでも甘いものを欲している。これでも取る量は昔に比べれば減ったのだから驚きだ。
朝大量に焼いたブラウニーが残っていた。そこでふと、そういえば前エルと約束したのを思い出した。
パフェを作るねって、言ったんだった。
約束したあとワタリさんにパフェ用グラスを用意して貰ったと言うのにすっかり忘れていたのだ。
私は思い立ってエルがお風呂に入ってる間に飾り付けをしようと準備した。
ブラウニーがあるんだ、チョコレートパフェだよね。
一番下にはコーンフレークを入れて生クリームを入れたあとブラウニーを切って入れた。カットした苺も入れてみる。
そこまではとてもいい感じだった。けれどもラスト、一番目につく上部に取り掛かると私の不器用さが出てきた。
生クリームにチョコレートシロップ、ブラウニー、戸棚にあったポッキーとクッキー、これを適当に積み重ねるだけなのにどうしたのかな、なんだかパフェが斜めに見える。ピサの斜塔ですか?
うーんと唸りながらあっちを修正、こっちを修正してる間にとんでもなくボリューミーなパフェと変貌を遂げた。勿論斜傾は直ってない。
「あれ…こんなはずでは。」
「どんなはずでしたか」
「可愛らしくてキラキラしたお洒落パフェのつも…うわっ!エルいつのまに!」
背後から声が聞こえて仰け反る。髪を濡らしたエルが私を覗き込んでいた。
私の手元を見て、瞬時に彼はキラキラと目を輝かせる。
「パフェですか」
「う、うん、前作るって言ったのにやってなかったから」
「最高です##NAME1##さん、逆にバランス力がなければこんなパフェしあがりませんよ」
「遠回しに斜めだってディスるのやめてもらっていいですか」
そこまでいって、あ!チョコアイスを忘れてた!と思い出し慌てて冷凍庫から取り出す。業務用のアイスの箱とディッシャーを取り出す。
エルはさすがに少し後退した。
「ここにアイスを乗せるつもりですか」
「だってパフェにはアイスがないと!」
「今ですら奇跡のバランスを取ってるように思えますが」
「ほらここ!ここなら多分乗る!」
私はそう断言して、チョコレートのアイスをアイスクリームディッシャーですくった。こういうのは思い切りが大事だ、中途半端に手を出すとダメになる。一気に押し込むんだ!
そしてさっとパフェの端の方に押し込んで手を引く。
するとなぜか、斜めになっていたパフェは真っ直ぐ上を向いたのである。
「わ!ほら、エル!真っ直ぐになりました!」
私が笑顔で言うと、隣のエルは珍しく小さく吹き出してわらった。少しだけ肩を震わせている。
「さすがです。##NAME1##さん」
「え、ええ?」
「アイスを突っ込む時の思い切りのよさ、そのあとのまさかの奇跡で斜傾が改善されるなど。私の計算外です」
「た、たまたまだけど」
エルは優しく口角を上げたまま私を見る。濡れた髪が頬に張り付いて、どことなく色っぽかった。
「あなたといると飽きません」
そう一言言って、軽く私にキスをする。
水滴を含んだ髪が頬を撫でた。
「エル、冷たいよ」
「ああ、すみません」
「まず拭かないと。はい、エルは溶けないうちに食べてね」
私はパフェ用のスプーンを取り出してエルに手渡す。
彼はスプーンを持ったまま困ったように眉を潜めた。
「これは…さすがに運べませんね」
「あは!確かに!立ち食いだね」
「斬新です。」
エルはそう言いながら恐る恐るスプーンで生クリームを掬った。そんな彼を横目で見ながら、私はタオルを取りに行く。
エルの背後に回れば、彼の白い服の首回りはすでにかなり濡れている。いつも思うけど気持ち悪くないの?軽く拭けばこんなにならないのに。
普段通りエルの髪を拭こうとして、彼との身長差を再確認する。いつもはソファに座ったエルを背後から拭いてたから分からなかった。
私はダイニング用の椅子を引きずりエルの背後に置く。そこに立ち上がって、彼の髪をタオルで包んだ。
「これまた斬新です、そんな高いところから##NAME1##さんに見下されるなど」
パフェを倒さないよう最新の注意を払いつつエルが言う。
「ふふ、確かに。だってエル身長高くて腕が疲れちゃうから」
「知っていますか。あなたに髪を拭かれて乾かしてもらう時間が、私の至福の時ベストスリーに入るのです」
「え?そうなの?」
「ええ、この時間かあるから全自動ヒューマンウォッシャーを使わずにいるのです」
「ふふ、じゃ、そのベストスリー他の項目は?」
「あなたがキッチンに立って料理を作る様子を見ている時、夜二人で並んで寝る時、隣でホラー小説を読んで楽しそうにしてる時、朝##NAME1##さんの寝起きの顔を見れる時、あとやはり夜の営」
「エル、スリーの意味わかってますよね?」
「困りました。いざ挙げてみれば3つどころですみませんでした。どれも甲乙つけがたい」
世界の名探偵とは思えないほどなんだかお馬鹿な会話に、私は大きく声を上げて笑う。
もう、出会った頃のエルに見せてあげたい。
無愛想で無表情だったあのエルはどこに行ったんだろう。
私に釣られてエルも少し口角を上げる。髪の水滴を幾分かタオルでとったところで、私は椅子から降りた。
「ドライヤーは食べ終わってからにしようか」
「はい」
「その量食べ切れる?」
「##NAME1##さんが作ったものを残すなんてありえませんよ」
エルは私は到底食べきれないだろう生クリームをいとも簡単に頬張っている。
しまったな、ちょっと盛りすぎだよね。次回はもう少し控えめに盛らなきゃ。エルの健康を考えて。今更かな?反省。
私はしまい忘れていたアイスに気づき慌ててそれを冷凍庫にしまいにいくと、背後からエルが言った。
「##NAME1##さんは本当に作るもの全てが美味しいです」
「そ、そうかな…パフェは盛るだけだから簡単だよ」
「初めて作ってくれたのはうずまき型のクッキーでしたね」
「よく覚えてるね」
懐かしくて目を細めた。エルに食べてもらえるかどうかも分からず作ったクッキー、彼は瞬時に完食してくれたのだ。
「私は忘れると言うことが不得意ですし、特に##NAME1##さんの事に関しては些細なことも忘れるなんてありえません」
「さ、さすがL…言ってみたい、忘れることが不得意だなんて」
エルはいつのまにかもうアイスも生クリームも食べ尽くしていた。ポッキーを手に取り齧る。
私は使ったアイスディッシャーを流しに置いて洗いながら言う。
「エルは絶対おじいちゃんになっても物忘れなんてしないね」
「しない自信はあります」
「私認知症でボケちゃったらどうしよう。エルの事忘れちゃったりしたら」
毎日仕事で脳みそフル回転してるエルに比べて料理と読書だし、エルよりずっと危うい気がする。しかしエルはすぐに返事をした。
「もしそうなっても簡単なことですよ」
「え?」
「もう一度あなたと恋愛し始めれば済むことです」
私は驚きで顔を上げる。エルは飄々としてパフェを頬張っていた。
…なんて締まらない格好での、最高のセリフ。
そんな言葉普通言えないよ。映画みたい。
私つい小さく笑う。
「どうしました」
「ううん、嬉しくて」
「ありえないとは思いますが万が一にも私があなたを忘れてもそうしてください。きっと私は一瞬であなたに惚れ込んで一件落着です」
「あはは、一瞬って」
「私もなんとかもう一度##NAME1##さんに愛して貰わねば。」
なぜか真剣にそう呟くエルがあまりに可愛く見えて、私は手をタオルで拭くと彼の隣に近寄った。
背の高いエルを横から見上げて笑う。
「私もですよ」
長いスプーンをくわえたまま、エルがこちらを見る。
「多分、いや絶対、またエルに恋します」
「……」
「ふふ、おじいちゃんとおばあちゃんになってから始める恋愛ってどんな感じかな」
「想像もつきませんね」
「エルのおじいちゃんになった姿がまず想像つかないよ…」
「何十年先の話ですか」
「それもそうだね」
納得してまた一人笑った瞬間、エルは甘く私に口付けた。アイスを食べた後の冷たい舌がひんやりと心地よさを誘う。
まるで甘味を味わうように、彼は何度も私にキスを降らせる。
「…エル、甘いです」
彼の顔が離れた時に言う。
「チョコレートがですか。私がですか。」
そう口角を上げて笑うエルの表情はまるで子供で、私は愛おしさに溺れる。
「…両方です」
「はあ…全然先が見えませんよ…##NAME3##ちゃんとの食事もままならない…忙しいしたまの休みもみんな予定合わないしてゆうか死んだように寝ちゃうし」
松田がデスクに突っ伏して嘆く。その傍らに立って何やら書類を見ていた相沢が眉を潜めた。
「まあな。次から次へと舞い込んでくるからな」
「##NAME3##ちゃんいつまで日本にいるんですかねぇ?最後にもう一度会えるといいんだけど。」
「結構今は長くこっちにいるみたいだな」
「テロ事件とかあって長引かされたとこもありますよね。##NAME3##ちゃん特に色々聴取されたし」
緊張した面持ちで警察署に来た彼女は可愛らしくもあった。ここでは知り合いであることは伏せている為あまり会話は交わさなかったが、松田の姿を見かけて少し安心したように微笑んだ顔が印象的だった。
「またイギリス行ったらしばらく会えないだろうし、もう一度ゆっくり話したいんですけどねぇ…」
「松田、お前まだ##NAME3##さん諦めてないのか」
呆れたように言う相沢の言葉に、松田は勢いよく顔を上げた。
「いやいや!さすがに僕も諦めてますって!##NAME3##ちゃん指輪してたし!」
「ならよかった」
「でもやっぱり##NAME3##ちゃんは特別っていうか、こう、友達に紹介されたり飲み会行ったりして色んな子と出会っても、ああ敵わないなーと思っちゃうし」
それを世間では諦め切れてないというんじゃないか。
喉まで出かかった言葉を相沢は飲み込んだ。本人は諦めてるって思い込んでるなら、それをあえてひっくり返すこともしなくていい。
もう2年以上も前に失恋してるし、それ以降だってあまり会えていないというのに一途なもんだ。少女漫画の主役を張れるなこいつは。
だがまあ仕方ないとも言える。彼女は確かにそこいらにいる女性とは違う。あのLを惚れ込ませてる時点で証明できる。
相沢は松田の隣の椅子に腰掛ける。
「ま、何とか少しでもみんなで会えるといいな」
「カイドウがあんなこと言い出さなきゃ未だここまで荒れてませんよねぇ〜…せっかく##NAME3##ちゃんのおかげで口を割ったのはいいけど…」
ポツリとつぶやいた松田の言葉に、相沢は天井を仰ぐ。
松田は声を潜めて聞いた。
「どう思います?カイドウのあれ。信じてる人と嘘だって言ってる人で割れてますけど」
「俺は信じてる」
相沢はキッパリと断言した。頭を起こして松田を見る。
「今のカイドウにそんな嘘つくメリットない」
「そうですけど〜…」
「それに、##NAME3##さんとカイドウの面会で同席した俺は感じたんだよ。あのときカイドウが…こう…更生したいと思った心を」
「相沢さんクサいですね」
相沢はジロリと松田を睨んで頭を軽く殴る。松田は大袈裟に頭を抱えた。
「すみません、でも僕も分かりますよ。あの##NAME3##ちゃんとの面会シーンは何か来るものがありましたよ。##NAME3##ちゃんほんと凄いなぁ…」
「だから俺はカイドウが嘘は言ってないに一票」
「…そうなるとぉ…」
松田ははあと大きくため息をついた。
「どうなるんですか、これから」
「…さあなぁ…でも多分どうにもならんぞ。早々簡単に見つかるわけもないし」
「カイドウの虚言ってことで処理ですかね」
相沢は納得行かなそうに口を歪めた。
「それもそれで問題だよな」
「ですね…これはトップシークレットで闇に葬られますよ。警察の信用にも大きく関わることですからね。」
「…まだ一段落つくのは時間かかりそうだな」
二人は同時にため息をついた。
