ワイミーズハウス
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「光さん。出掛けませんか」
朝早く。エルはそう私に突然提案した。
基本難事件を日々解いているエルは忙しくあまり外出はしない。それでも時々、こうして時間を作って私と外出してくれたりする。
それは買い物だったり散歩だったり、この周辺が多かった。
キッチンでエルにお菓子を焼こうとしていた私は持っていた計量カップを置いて慌ててエルの隣に行く。
「わ!ほんとですか。仕事落ち着いてるんですか?」
「ええちょうど今手掛けていた事件の容疑者も特定しましたので。」
「嬉しいです!どこへ行きますか?」
「ワイミーズに行きましょう」
突然エルから出た単語に、私は目を丸くする。
はて、ワイミーズ??
「ワイミーズ??とは、なんですか。」
「以前あなたにもお話ししたと思います。私が幼少期育った施設です」
「……え!」
「あなたを連れて行きたいと言いましたので」
そう、それは確かまだエルと気持ちが通じ合ってすぐの頃。
彼は教えてくれた、孤児院で育ちワタリさんはそこの責任者だったと。いつか私を連れて行きたいと言ってくれていた。
…覚えててくれたなんて。
つい感傷的になる。あの頃はキラを追っていて、エルがいつ死んでしまうか分からない…そんな日だった。
約束が守られるのかどうかも不確かだった。
第二のキラが現れたり死神が現れたり、色々な事があって、一度はエルはノートに自分の名前を書き込むつもりだった。
あの白い死神が私の話を聞いてくれたおかげでこうして今幸せに過ごせているが。…どこにいるんだろうか、あの白い存在は。
「どうしました」
エルが目を丸くして私を見る。
つい涙目になってしまったのをなんとか抑え込んで、エルの白い服に抱きついた。
「…光さん?」
ややエルがたじろぐ。
「約束が…叶って嬉しいなって。エルが覚えててくれたのも嬉しいし、今更…エルが生きてるの再確認しました」
「他のことを全て忘れたとしてもあなたに関することだけは覚えてますよ」
「ふふ、嬉しいです。」
「それより中々あなたから抱きつくなどして貰えないので今非常に気分が高まってるので外出はやめて寝室に行」
「そうと決まればちょっと出かける準備してきます!楽しみですワイミーズハウス!」
私は笑顔でエルから離れる。
エルが幼少期過ごした場所なんて。どんなところなのか凄く楽しみだ。
エルはなぜか不服そうに爪を噛みながら私を見ていた。
「えっ、ワタリさんが創ったんですか!」
いつものようにワタリさんの運転で私とエルは外に出る。
相変わらず紳士で優しい目をしたワタリさんが運転しながら答えた。
「ええ、そうです」
「施設の責任者だったってエルから聞いてましたが…創設者だったんですか」
「今はロジャーという男に変わっています。」
「ロジャーさんかぁ〜…」
私は窓から流れる景色を見る。いつもよりカラフルに見えるのは、きっと私の心が踊っているせいだと自覚していた。
エルは隣で棒付きのキャンディを舐めて座りながら言った。
「Lの後継者を育てています」
「…後継者?」
私は隣を見る。
「ええ。様々な才能が秀でた者たちばかりの施設です。優秀な後輩たちが多くいますよ」
「え…Lほどの天才がいるってこと…?いつかはLを継ぐ子がいるの…?」
「まだ誰にするかは確定してませんけどね。候補はいます」
ちょっとゾッとした。想像してたのとだいぶ違うぞ。
それは孤児院というより、エリートを育てる施設なのでは…
私のような凡人が混ざっていいのだろうか。
ワタリさんが運転席から補足する。
「Lはワイミーズみんなの憧れですよ。やはり彼は群を抜いて優秀でしたし、こうして世界を股に活躍してますからね」
「…す、すごい…」
気後れしてきた。なんだか凄いところに連れて行かれるようだ。
「じゃあ、今日エルが訪ねて行ったらみんな喜びますね?」
私が言うと、隣でエルが否定した。
「いいえ、Lの顔は今のワイミーズの者たちはほとんど知りません」
「…え?」
「私がワイミーズを出たのはかなり前なので。今いる者たちとは面識がないのです。ワイミーズにいる頃も部屋に篭りきりでしたし」
「そ、そうなんですか…」
「ですので今日もLということは伏せて行きます。少し見てロジャーと話すくらいですがよいですか」
「はい、見れるだけで十分です!」
エルが幼少期を過ごしワタリさんと出会った場所。一目遠目から見るだけでも私にとってとても価値のある場所だ。
運転席からワタリさんが懐かしむように言う。
「Lはワイミーズに来てすぐ、他の子たちと激しく喧嘩して一人勝ちしていたのですよ」
「えっ…結構やんちゃっ子だったんですね?」
エルも喧嘩とかするんだ。そりゃ月くんとはしてた事もあったけど…
隣でエルは悪びれもなく言う。
「新人可愛がってやる、などと言って手を出してきてのは向こうですよ」
「そ、そうなんですか…まあ、子どもらしいと言えば子どもらしい、のかな…」
小さい頃のエルを想像して少し笑う。うん、前も思ったけど絶対手がかかる子だと思う。とんでもない子どもだろう。
ワタリさんが少し笑って続けた。
「しかしその才能はすぐに突出してると分かりましたし、子供ながらに本当に素晴らしい能力を持っていました」
「さすがですね…多分今の私の能力はエルの3歳頃の能力だと思います」
ワタリさんが声を上げて笑った。私も釣られて笑うが、あながち間違いではない例えだと思った。
「Lの後継者の候補って、でもまだ子供なんですよね?」
「ええ、しかし子供といえども侮れないほどの能力と聞いてますよ。」
「はぁ〜…凄いんだろうなぁ…」
なんだか本当に別世界だ。ずっと普通の一般家庭にいた私には到底理解できない世界。
そんなところに足を運ぶのはなんだかひどく違和感があった。
しばらく車を走らせながら見えてきた立派な建物を見て、私はこれまた想像を覆されて目を白黒させた。
実際孤児院を見たことがあるかと聞かれればノーで、完全にドラマだったり本だったりの勝手なイメージなのだけれど。
私が想像していたよりずっと大きくてお洒落で、正直孤児院には見えなかった。思えばここはイギリスだから、日本の建物の造りやデザインとはまるで違うのでそのせいもあるかもしれない。
映画にこのまま出て来れるほどの素敵な建物だった。
「す、凄い…想像以上に素敵なところです」
これを作ったワタリさんも一体何者なのだろう??
車の窓ガラスに張り付くようにして外を眺めていると、一瞬広々としたグラウンドのようなものが目に入った。
そこでは年齢も差がある子たちがサッカーをしてるのが見えた。
その様子はまるでエリート集団と感じさせない無邪気さがあって私はほっとして微笑んだ。
子供たちは子どもらしい顔で笑っていた。そういえばエルはテニスも得意なのだから、勉強だけでなくスポーツなどもしっかり行うんだ、ワイミーズ。
そんな沢山の笑顔を一瞬で通り抜け裏口らしきところに車が回される。広々とした駐車場だった。
「さ、ロジャーに挨拶くらいしていきましょう」
ワタリさんがそう言い車から降りる。颯爽と後部座席のドアを開いてくれた。
私とエルは地面に足を下ろす。寒さが突き刺す風と温かな陽射しが相反していて心地よい。
微かに子どもたちの声が遠くから聞こえた。
「さあ、こちらから参りましょう」
ワタリさんが歩みを進めるのについていく。隣にいるエルを見上げてみるが、意外と彼は感傷的にもならずいつもの表情でいる。
「エル久しぶりなんですよね?」
「ええ、直接足を運ぶのは」
「懐かしいーってなってます?」
「ええ多少は。」
多少なんだ。苦笑する。エルらしいといえばエルらしいか。
ワタリさんに続いて裏口から中へ入る。広く長い廊下にいくつか扉が並んでいる。今は人一人いない。
響く足音でいくらか進めると、ワタリさんが一つの部屋の前で足を止めた。英語で部屋のプレートには何か書いてあるが、私には意味は分からなかった。
そしてはっとする。自分、英語皆無なのだと思い出す。
ワタリさんはきっと通訳してくれるだろうけどロジャーさんという方に自己紹介くらい自分でしたい…!マイネームイズくらいしか出来ないけど!
英語をもう少し練習しておくべきだったと後悔してるところにワタリさんが鳴らすノックの音が響く。中から低い返事の声が短く聞こえた。
ワタリさんが扉を開く。広々とした部屋に大きな窓と本棚が見える。その中央には机と椅子があった。日本でもよく見る「校長先生」が座るあれだ。それでも私が通ってた学校の校長室よりずっとおしゃれで広い。
そこに座る人が立ち上がったのが分かる。
鷲鼻で眼鏡を掛けた老人だった。ワタリさんは一目で優しさの溢れる老紳士だけれど、この人はどちらかというと気難しさを感じる鋭い目が印象的だった。
「お久しぶりです、ロジャー」
ワタリさんが日本語で言う。あれっと思う間もなく、ロジャーさんは流暢な日本語で答えた。
「お久しぶりですね。あなたたちが訪ねてくると聞いて驚きました。」
そう言って少しだけ口角を上げて微笑んだ。昔話に出てきそうな人だと思った。
エルは何も言わずにそばにあったソファに勝手に座り込む。私は慌てて頭を下げた。
「始めまして、藍川光といいます。」
「私の恋人です」
間髪入れずエルが追加した。その瞬間、ロジャーさんの目が丸く見開いた。
「これは…さらに驚かされました」
まさに驚愕、と言った顔でじっと見つめられる。なんとなく恥ずかしくなって私は俯いた。
エルが言う。
「キラ事件で私もワタリも命を救ってもらいました」
「え、エル、大袈裟な…!」
「事実です。今日は完全にプライベートで来ました。身構える必要はありませんよ。少ししたら帰りますから」
ロジャーさんは信じられない、というように小さく首を傾げた。その様子に苦笑する。
「ああ、挨拶が遅れました。ロジャーです、どうぞ掛けて」
「あ。ありがとうございます」
促されエルの隣に腰掛ける。ちらりと視線を移すと、ワタリさんとロジャーさんは懐かしむようになにかを小声で話している。
隣のエルはいつものように座って爪を噛んでいた。
少ししてロジャーさんが私の正面に腰掛ける。掛けていた眼鏡を少し上げた。
「キラ事件は危険な事件だった。無事解決できたようで安心しました」
「今までの中で最も難解で手こずった事件でしたね。あの事件のおかげで光さんに出会えたのですが」
「なるほど、日本語で入ってきた意味を理解した。」
「す、すみません、私が英語できなくて」
エルやワタリさんもだけど、流暢な日本語だなぁ。エリートを育てる施設の責任者は同じようにエリートなのだろう。
ロジャーさんはほんの少しだけ微笑んだ。
「あのLがそういった存在を連れてくる日が来るなど想像もしてなかった」
「その、少しでいいから見てみたかったんです。エルとワタリさんがいたところ…とても立派なところで驚きました。私は本当にただの一般人で、ここにいる方たちとは別世界だと思いますけど、来れてよかったです」
エルが子供の頃を過ごした場所。
とても感慨深くなる。ここでLが誕生したんだ。彼がいなくては世界は変わっていたかもしれない。
エルが隣から口を挟んだ。
「別世界など。あなたは世界一の女性ですよ」
「いや、Lの後継者を育ててる場所なんて別世界ですよ」
「ここにいる者全てあなたという人間の素晴らしさには到底及びませんよ、あなたの武器は頭脳ではなくその美し」
「ちょっとエルは黙っててください」
私とエルを交互に見て、ロジャーさんはまた目を丸くした。一人座らず立っているワタリさんが背後で少し笑う。
「…なるほど、今日は色々と驚かされる日です。」
ロジャーさんは微笑んだままそう呟くと、思い出したようにお茶でも、と立ち上がった。
「あ、そんなお気遣いなく…!」
「いや、座っていてください」
「す、すみませんどうも…」
ロジャーさんがお茶の準備をする音がわずかに響く。恐縮しながらそれを待つ。
「もしエルがLを後継者に譲ったら、ワタリさん役はロジャーさんがするんですか?」
私が小声でエルに尋ねる。
「そうなりますかね。頭脳は飛び抜けてても私のように生活力のない者は多いですからロジャーも大変ですね」
「大変ですねって…人ごとな…」
お風呂すら一人で入らなかったエルを見て呆れる。ワタリさん、本当にいつもお疲れさまです。
そして今ワタリさんがやってることをロジャーさんがやるかと思うと急に不憫に思えてきた。次のLがもう少し人間力のある人になることを祈るしかない。
ロジャーさんが紅茶を運んできたところで、突然ノックの音が響いた。どこか慌ててるような音に聞こえた。私たちは扉を振り返る。
ロジャーさんは私たちに丁寧に断りを入れると、返事を返した。
するとやはり急いだ様子の人が扉を開けて入ってきた。中年の女性だった。
「I would be in trouble…!」
当然だが今度こそは英語だった。まるで分からない。とりあえず何かトラブルだということだけ理解できる。
背後にいたワタリさんがそっと寄って私に声を掛けた。素早く通訳してくれる。さすがの気遣いの人だ。
「彼女はここの食堂の厨房で働くアイリーンです。どうも…冷蔵室が故障しており多くの食材がダメになってしまったようです」
「え!」
「下ごしらえしていた物もダメになり、食材も足りない。スタッフが数名外に食材の手配に向かったようです。それで厨房の人手が足りないという相談です。」
「なるほど」
ロジャーさんが難しそうな顔で頷きながら話を聞いている。困ったように少し頬を掻く。そして私たちに振り返った。
「私は席を外さねばならなくなりました、もてなせずすみません。厨房の人手が足りないので手伝いに行きます」
「え…ロジャーさんがですか!?」
「ええ。今日のランチは簡易的なメニューにして何とかやり過ごします。それでも生徒数に対して人手が足りないので」
ロジャーさんが英語でアイリーンさんに話している。彼女は腕を組んで困ったように眉を下げていた。
「……あの、エル」
「はい」
「私、お手伝いしてきてもいいですか?」
隣に座っていたエルがゆっくりこちらを見た。
「大して役に立てないとは思いますけど、いないよりマシかもって…」
エルはロジャーさんが出した紅茶をゆっくり啜ると答えた。
「まあ、あなたはそう言いますよね」
「英語も出来ないですけど…」
「あなたの料理の腕前があれば助かるのではないですか。ワタリ」
ワタリさんが頷いて英語でロジャーさんとアイリーンさんに声をかける。二人が驚いたように私を見た。しかしアイリーンさんはすぐに笑顔になってこちらに歩み寄り、がしっと私の両手を握った。笑顔で何か言ってくれる。
「あ、…と」
「ありがとう、ぜひお願いしたい。と言っています」
隣のエルがすかさず通訳してくれる。私は笑顔で手を握り返した。
「役立てるか分かりませんが…!」
こうしてエルとロジャーさんを置いて私はその場から離れた。付いてくると言ったエルを、アイリーンさんが邪魔、と一括したらしい。エルの風貌からして料理の腕前が皆無とすぐに理解したらしかった。
ワタリさんは通訳と、手伝いをするために私について来てくれた。