オフの日
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「今日は、オフの日とします」
イギリスに来てしばらく。ある天気のいい朝、突然エルはそう言った。私はきょとんとして彼を見る。起きたばかりで、ようやく顔を洗ってリビングに入ったところだ。朝食の準備でもするか、と思っていた矢先、彼からその発言が飛び出したのである。
エルは相変わらず、ティーカップを指先で持ち啜っていた。が、普段と違うのは、彼の目の前にはパソコンも何も置かれていないことだ。エルとパソコンは必ずと言っていいほどセットなのだが。
「え、オフですか?」
彼は頷く。
「深夜、手掛けていた大きな仕事が終わりを迎えました。他の仕事もありますが、一日くらい置いておいても大丈夫なので、今日は思い切って休みにしようかと」
「え!」
「なのであなたも今日はお休みです。ケーキは焼かなくていいです。光さん、何かしたいことはありませんか。まだイギリス観光も行けていませんし、外に出ますか」
エルからそう提案が出たので、私の心はわっと踊り出した。
イギリスに来てからも、エルは変わらず多忙だった。次から次へと事件が舞い込んでくる。この世界中で起こる難事件が回ってくるので、そりゃ休む暇もなくて当然だろう。休みという休みも無く、彼は毎日働いていた。
とはいえ不満はなかった。エルはそんな中でも、私と買い物に行く時間を設けてくれたり、短くとも一緒に寝るようにしてくれたりと、気遣ってくれてるのが分かっていたからだ。まあ働きすぎによる健康被害は心配してたけど、これでもキラ事件の時に比べればずっと休息出来ている。
そんなエルが、丸一日休みだなんて。私は軽い足で彼に近づき、隣に腰かけた。
「わくわくします!」
「あなたのそんな可愛い顔が見れるなんて……私はなぜもっと早く休みを取らなかったのでしょう、愚かすぎて自分を殺したい」
「どうしましょうね、観光、もいいですけど……ていうか、待ってください? ワタリさんもお休みということですよね?」
尋ねるとエルは頷いた。
「彼ももちろん休みです。なので、観光に行くなら車を出してもらえますよ」
それは休みとは呼ばないのでは??
私とエルのために車を出させるなんて、いつもと変わらないではないか。ワタリさんこそ、高齢なのにいつも働いていて健康状態が心配だ。こんな時ぐらい、ゆっくりしてもらわねば。ワタリさんが倒れたらこの世の終わりだ。
ううんと考え込んだ。外出はこれで却下だ。では何をしよう、エルと二人で……。
「光さん、どうしますか。やはりロンドンにでも」
「エル、決めました!」
私はぐっと顔を上げる。クマのあるエルの顔を見て、高々に宣言した。
「今日はだらだらデーにします!」
私は戸棚を漁る。エルはその後ろで人差指の爪を噛みながら、じっとこちらを見ていた。私は適当に見つけ出した缶詰と、冷凍しておいたパンを焼く。
「さー! これが朝食ですよ!」
「私は何でもいいので構いません。だらだらデーとは何ですか」
くるりと振り返る。私はにっこり笑って言った。
「言葉通り、とにかくだらだらしますよ! 今日は私は洗濯も料理も辞めて、パジャマで過ごしちゃいます。お昼ごはんは久しぶりにカップラーメンとか食べちゃおう!」
「はあ」
「エルもとにかくしたいことをするんです。お昼寝とかしません? テレビ見たり、またホラー映画見るのもいいなあ。エルは何かしたいことありませんか?」
彼は考えるように天井を見上げる。あまり自由な時間がない彼に、何がしたいという要望はあまり見つからないのか。
「どうですか、何かありませんか?」
「そうですね……」
「んーエルが好きな事でいいんですよ。今日は三食チョコレートでも怒りませんし」
「考えておきます」
「何かあったら言ってください。あ、とりあえず朝ごはんたべよーっと」
私はわくわくしながら焼いたパンを取りだし、ダイニングテーブルに置く。エルもその正面に腰かけ、なるほどというように言った。
「思えば、光さんもキラ事件の時は、ほぼ休みなく働いてくれていましたもんね。私のお菓子作りや捜査員たちの食事作り、掃除など」
「ま、まああれは大したことじゃなかったですけど」
「いいえ。こうして何もしない日というのは大事です。気づけなくてすみません、今日は思いきりだらだらしましょう」
エルはそう宣言し、焼き立てのパンにかじりついた。
①テレビ鑑賞
「エルエル、ワタリさんが日本から取り寄せてくれた、ミサが出てるドラマです。見ましょう!」
「ミサさんってそういえば芸能人でしたね」
「そういえばって……わわ、ミサ映ってる! 可愛い―!」
私は大画面に流れるミサを見ながら、リビングに行きポテトチップスを取ってくる。わくわくしながらエルの隣りに座ると、彼は意外な顔でこちらを見た。
「あなたでもそういうの食べるんですか」
「え? 食べますよ、ワタリさんが色々日本の食べ物買ってきてくれるので、いつか食べようと思ってたんです。おいしいですよね」
「……カップラーメンを食べると言った発言も意外でしたが」
「あは、幻滅しちゃいました?」
私は笑いながら封を開ける。思えば確かに、捜査しているときは規則正しい生活だったし、自分も頑張っていた自覚がある。でも以前は私もこうやってだらしない時間をよく過ごしていた普通の人間なのだ。
一枚取り出して食べる。ああ、たまに食べると本当美味しい。
その味にうっとりしていると、隣から手が出てきた。エルが一枚手に取ったのだ。
「幻滅なんてするはずがないですね。また新しい面を見られて、今とても舞い上がっています」
そう言った彼は、少し口角を上げてポテトチップスを食べた。そしてすぐに、顔をしかめる。その光景が面白くて、私は声を上げて笑った。
②昼寝
「昼間のお布団さいこー!」
私はベッドにダイブする。エルはまたしても意外そうに私を見ていた。私はうつ伏せに寝たまま、温かな布団を抱きしめた。
「気持ちいいですエル……」
「……なんと……うちにこんな天使がいたとは」
「昼寝って幸せですよねえ。あ、でもエルは自分のやりたいことしていいんですよ! 全部私に合わせなくてもいいんです」
「いいえ。あなたの隣りで寝るのが私のやりたいことです」
そうきっぱり言うと、エルはのそのそとベッドに上り、私の隣りこてんと横になった。黒い目でじっと私を見てくる。笑いながら言った。
「エルとお昼寝、初めてですね?」
「そういえばそうです」
「うーん、明るいうちにゴロゴロ出来るの楽しいです!」
私は声を弾ませて言った。エルは何も言わず、私を微笑んでみている。二人で布団に包まれながら、気持ちいい気分でいっぱいになる。
そういえば、エルがしたいこと、まだ見つからないのだろうか?
③リビングでおやつの時間
私は気分を高揚させながら、リビングのテーブルに色々なお菓子並べていく。エルはまたしても、意外そうにその光景を見ていた。
「そんなにお菓子を出してどうするんですか」
「エル、今からおやつの時間です」
「はあ」
「家でお菓子バイキングです! 甘い物からしょっぱい物、からいものまで入れちゃいました。このお皿に好きなだけ乗せていいんですよ!」
私はお皿を手に持ち、笑顔でテーブルを指さした。そこに置かれたのは様々なお菓子だ。
エルの好きな甘いものはもちろん、酸っぱいグミや辛いスナック菓子、ゼリー。ご飯系も欲しいなと思ったので、冷凍してあった小籠包とおにぎりを出してきた。完璧というざるを得ない。
エルはじっとテーブルを見つめている。
「はい、エルのお皿です」
「面白いですね。あなたはこういう遊び心を考えるのも得意だったんですね」
「と、得意かは分かりませんが……やってみたいな、って子供の頃思ってたんです。なので、実行してみました。一人だったら出来ないです、誰かと一緒じゃなきゃ」
私はエルに笑いかける。お昼ごはんもインスタントだったし、今日はかなり栄養バランスが崩れている。でも、たまにはいいと思う。だらだらする日が一日くらいあっても、神様はきっと怒らない。
特にエルなんて、普段休みなく働いているのだから。
「エル、これ知ってますか? 凄く辛いんです」
「私は取らないことにします」
「ふふ、食べてみたら案外ハマるかもしれませんよ。あと酸っぱいグミ」
「酸味もけっこうです」
「やっぱりエルは甘い物ばかりなんですね……」
「……いえ、せっかくの機会なので、グミだけ食べてみます」
「え、無理しないでくださいよ……?」
レモン味のグミを一つ手に取り、エルはじっと眺める。少し経ったところで、思い切って口に放り込んだ。途端、彼は目玉を落とすんじゃないかと思うほど瞼を見開き、持っていたチョコレートで味を誤魔化そうと慌てていた。
そんな光景が楽しくて、私は声を上げて笑った。
④???
「あ……いつの間にかもう夕方です」
私は外を見て言う。赤い夕陽が出ていた。
食べ散らかした部屋のソファに腰かけ、二人でだらだらしていた。時間はあっという間で、一日はもう少しで終わりを告げてしまう。
私はふうと息を吐く。
「お菓子食べすぎちゃって、夕飯入りそうにないです。お腹いっぱいです」
「光さん結構食べてましたよね、驚きました」
「楽しくなっちゃって。明日からはまたちゃんと栄養バランス考えないと、私はエルと違ってすぐ太るし、血糖値に影響あるかもしれないので……」
「太るのは大歓迎ですが、健康を害するのはよくありませんね」
「まあ、一日だけなら大丈夫です」
私は大きく伸びをする。ゆったりできた日だった。家事もなにもしなかったし、体も休められた。お昼寝もたくさんしちゃったしな。
エルが紅茶を飲みながら言った。
「面白かったです。最初はどうするんだと思いましたが。だらだらする、と決めて動いたのなんて初めてでした」
「たまにはこういうのもいいですよね。息抜きになります」
「ええ、リフレッシュになりましたね」
私はぼんやりと、窓の外の夕陽を見ながら言った。
「エルとこういうどうでもいい一日を過ごすのは、夢でした。何にも怯えず、仕事の事も忘れて、二人でだらだらする。あの頃は考えられなかったから……」
「……はい。今だからできることです。あなたがいなければ、こんな時間ありませんでした」
「そんなこと……あ、たいへんエル!」
私は慌ててエルの方を向く。
「私がしたいだらだらばかりでした、エルがしたいこと、何かありませんか? もう一日は終わりかけだけど、でもまだ時間は沢山ありますよ。なんでも言ってください」
すっかり自分がしたい事ばかりになってしまった。エルの要望も聞かねば。
彼はじっと考え込む。そして外を見ながら言った。
「なんでもいいんですか?」
「はい、やりたいこと、言ってみてください」
「そうですね……本当は昼間がよかったんですが」
「あ、遅かったですか……何がしたかったんですか?」
「いいえ、今からでも大丈夫です」
そう言った彼は、私の肩を優しく押した。私はソファに倒れ込む。そんな私の上においかぶさるようにして、彼が顔を近づけてくる。ぎょっとしてその名を呼んだ。
「え、エル!?」
「明るい場所で一度くらい、と思ってまして」
「…………え!!?」
「夕方でもそれなりに明るいですから、今からでも全然オッケーです」
彼が何を要望してきたのか気づいた私は慌てて首を振った。
「ぜ、全然オッケーじゃないです!」
「なんでもいいと言ったのはあなたです」
「で、でもだらだらじゃないです、むしろ激しい運動です!」
「激しいとか、あなたの口から聞くと燃えるのでやめてもらえますか」
「あ、ちょ、ちょっと、せめて夜に……!」
顔を赤くしてそう提案するも、彼は私を見下ろし、面白そうに口角を上げて見せた。
「私の要望も聞く、という約束です」
だらだらするはずの一日。終わりはだらだらどころか、疲労感に溢れることに。
イギリスに来てしばらく。ある天気のいい朝、突然エルはそう言った。私はきょとんとして彼を見る。起きたばかりで、ようやく顔を洗ってリビングに入ったところだ。朝食の準備でもするか、と思っていた矢先、彼からその発言が飛び出したのである。
エルは相変わらず、ティーカップを指先で持ち啜っていた。が、普段と違うのは、彼の目の前にはパソコンも何も置かれていないことだ。エルとパソコンは必ずと言っていいほどセットなのだが。
「え、オフですか?」
彼は頷く。
「深夜、手掛けていた大きな仕事が終わりを迎えました。他の仕事もありますが、一日くらい置いておいても大丈夫なので、今日は思い切って休みにしようかと」
「え!」
「なのであなたも今日はお休みです。ケーキは焼かなくていいです。光さん、何かしたいことはありませんか。まだイギリス観光も行けていませんし、外に出ますか」
エルからそう提案が出たので、私の心はわっと踊り出した。
イギリスに来てからも、エルは変わらず多忙だった。次から次へと事件が舞い込んでくる。この世界中で起こる難事件が回ってくるので、そりゃ休む暇もなくて当然だろう。休みという休みも無く、彼は毎日働いていた。
とはいえ不満はなかった。エルはそんな中でも、私と買い物に行く時間を設けてくれたり、短くとも一緒に寝るようにしてくれたりと、気遣ってくれてるのが分かっていたからだ。まあ働きすぎによる健康被害は心配してたけど、これでもキラ事件の時に比べればずっと休息出来ている。
そんなエルが、丸一日休みだなんて。私は軽い足で彼に近づき、隣に腰かけた。
「わくわくします!」
「あなたのそんな可愛い顔が見れるなんて……私はなぜもっと早く休みを取らなかったのでしょう、愚かすぎて自分を殺したい」
「どうしましょうね、観光、もいいですけど……ていうか、待ってください? ワタリさんもお休みということですよね?」
尋ねるとエルは頷いた。
「彼ももちろん休みです。なので、観光に行くなら車を出してもらえますよ」
それは休みとは呼ばないのでは??
私とエルのために車を出させるなんて、いつもと変わらないではないか。ワタリさんこそ、高齢なのにいつも働いていて健康状態が心配だ。こんな時ぐらい、ゆっくりしてもらわねば。ワタリさんが倒れたらこの世の終わりだ。
ううんと考え込んだ。外出はこれで却下だ。では何をしよう、エルと二人で……。
「光さん、どうしますか。やはりロンドンにでも」
「エル、決めました!」
私はぐっと顔を上げる。クマのあるエルの顔を見て、高々に宣言した。
「今日はだらだらデーにします!」
私は戸棚を漁る。エルはその後ろで人差指の爪を噛みながら、じっとこちらを見ていた。私は適当に見つけ出した缶詰と、冷凍しておいたパンを焼く。
「さー! これが朝食ですよ!」
「私は何でもいいので構いません。だらだらデーとは何ですか」
くるりと振り返る。私はにっこり笑って言った。
「言葉通り、とにかくだらだらしますよ! 今日は私は洗濯も料理も辞めて、パジャマで過ごしちゃいます。お昼ごはんは久しぶりにカップラーメンとか食べちゃおう!」
「はあ」
「エルもとにかくしたいことをするんです。お昼寝とかしません? テレビ見たり、またホラー映画見るのもいいなあ。エルは何かしたいことありませんか?」
彼は考えるように天井を見上げる。あまり自由な時間がない彼に、何がしたいという要望はあまり見つからないのか。
「どうですか、何かありませんか?」
「そうですね……」
「んーエルが好きな事でいいんですよ。今日は三食チョコレートでも怒りませんし」
「考えておきます」
「何かあったら言ってください。あ、とりあえず朝ごはんたべよーっと」
私はわくわくしながら焼いたパンを取りだし、ダイニングテーブルに置く。エルもその正面に腰かけ、なるほどというように言った。
「思えば、光さんもキラ事件の時は、ほぼ休みなく働いてくれていましたもんね。私のお菓子作りや捜査員たちの食事作り、掃除など」
「ま、まああれは大したことじゃなかったですけど」
「いいえ。こうして何もしない日というのは大事です。気づけなくてすみません、今日は思いきりだらだらしましょう」
エルはそう宣言し、焼き立てのパンにかじりついた。
①テレビ鑑賞
「エルエル、ワタリさんが日本から取り寄せてくれた、ミサが出てるドラマです。見ましょう!」
「ミサさんってそういえば芸能人でしたね」
「そういえばって……わわ、ミサ映ってる! 可愛い―!」
私は大画面に流れるミサを見ながら、リビングに行きポテトチップスを取ってくる。わくわくしながらエルの隣りに座ると、彼は意外な顔でこちらを見た。
「あなたでもそういうの食べるんですか」
「え? 食べますよ、ワタリさんが色々日本の食べ物買ってきてくれるので、いつか食べようと思ってたんです。おいしいですよね」
「……カップラーメンを食べると言った発言も意外でしたが」
「あは、幻滅しちゃいました?」
私は笑いながら封を開ける。思えば確かに、捜査しているときは規則正しい生活だったし、自分も頑張っていた自覚がある。でも以前は私もこうやってだらしない時間をよく過ごしていた普通の人間なのだ。
一枚取り出して食べる。ああ、たまに食べると本当美味しい。
その味にうっとりしていると、隣から手が出てきた。エルが一枚手に取ったのだ。
「幻滅なんてするはずがないですね。また新しい面を見られて、今とても舞い上がっています」
そう言った彼は、少し口角を上げてポテトチップスを食べた。そしてすぐに、顔をしかめる。その光景が面白くて、私は声を上げて笑った。
②昼寝
「昼間のお布団さいこー!」
私はベッドにダイブする。エルはまたしても意外そうに私を見ていた。私はうつ伏せに寝たまま、温かな布団を抱きしめた。
「気持ちいいですエル……」
「……なんと……うちにこんな天使がいたとは」
「昼寝って幸せですよねえ。あ、でもエルは自分のやりたいことしていいんですよ! 全部私に合わせなくてもいいんです」
「いいえ。あなたの隣りで寝るのが私のやりたいことです」
そうきっぱり言うと、エルはのそのそとベッドに上り、私の隣りこてんと横になった。黒い目でじっと私を見てくる。笑いながら言った。
「エルとお昼寝、初めてですね?」
「そういえばそうです」
「うーん、明るいうちにゴロゴロ出来るの楽しいです!」
私は声を弾ませて言った。エルは何も言わず、私を微笑んでみている。二人で布団に包まれながら、気持ちいい気分でいっぱいになる。
そういえば、エルがしたいこと、まだ見つからないのだろうか?
③リビングでおやつの時間
私は気分を高揚させながら、リビングのテーブルに色々なお菓子並べていく。エルはまたしても、意外そうにその光景を見ていた。
「そんなにお菓子を出してどうするんですか」
「エル、今からおやつの時間です」
「はあ」
「家でお菓子バイキングです! 甘い物からしょっぱい物、からいものまで入れちゃいました。このお皿に好きなだけ乗せていいんですよ!」
私はお皿を手に持ち、笑顔でテーブルを指さした。そこに置かれたのは様々なお菓子だ。
エルの好きな甘いものはもちろん、酸っぱいグミや辛いスナック菓子、ゼリー。ご飯系も欲しいなと思ったので、冷凍してあった小籠包とおにぎりを出してきた。完璧というざるを得ない。
エルはじっとテーブルを見つめている。
「はい、エルのお皿です」
「面白いですね。あなたはこういう遊び心を考えるのも得意だったんですね」
「と、得意かは分かりませんが……やってみたいな、って子供の頃思ってたんです。なので、実行してみました。一人だったら出来ないです、誰かと一緒じゃなきゃ」
私はエルに笑いかける。お昼ごはんもインスタントだったし、今日はかなり栄養バランスが崩れている。でも、たまにはいいと思う。だらだらする日が一日くらいあっても、神様はきっと怒らない。
特にエルなんて、普段休みなく働いているのだから。
「エル、これ知ってますか? 凄く辛いんです」
「私は取らないことにします」
「ふふ、食べてみたら案外ハマるかもしれませんよ。あと酸っぱいグミ」
「酸味もけっこうです」
「やっぱりエルは甘い物ばかりなんですね……」
「……いえ、せっかくの機会なので、グミだけ食べてみます」
「え、無理しないでくださいよ……?」
レモン味のグミを一つ手に取り、エルはじっと眺める。少し経ったところで、思い切って口に放り込んだ。途端、彼は目玉を落とすんじゃないかと思うほど瞼を見開き、持っていたチョコレートで味を誤魔化そうと慌てていた。
そんな光景が楽しくて、私は声を上げて笑った。
④???
「あ……いつの間にかもう夕方です」
私は外を見て言う。赤い夕陽が出ていた。
食べ散らかした部屋のソファに腰かけ、二人でだらだらしていた。時間はあっという間で、一日はもう少しで終わりを告げてしまう。
私はふうと息を吐く。
「お菓子食べすぎちゃって、夕飯入りそうにないです。お腹いっぱいです」
「光さん結構食べてましたよね、驚きました」
「楽しくなっちゃって。明日からはまたちゃんと栄養バランス考えないと、私はエルと違ってすぐ太るし、血糖値に影響あるかもしれないので……」
「太るのは大歓迎ですが、健康を害するのはよくありませんね」
「まあ、一日だけなら大丈夫です」
私は大きく伸びをする。ゆったりできた日だった。家事もなにもしなかったし、体も休められた。お昼寝もたくさんしちゃったしな。
エルが紅茶を飲みながら言った。
「面白かったです。最初はどうするんだと思いましたが。だらだらする、と決めて動いたのなんて初めてでした」
「たまにはこういうのもいいですよね。息抜きになります」
「ええ、リフレッシュになりましたね」
私はぼんやりと、窓の外の夕陽を見ながら言った。
「エルとこういうどうでもいい一日を過ごすのは、夢でした。何にも怯えず、仕事の事も忘れて、二人でだらだらする。あの頃は考えられなかったから……」
「……はい。今だからできることです。あなたがいなければ、こんな時間ありませんでした」
「そんなこと……あ、たいへんエル!」
私は慌ててエルの方を向く。
「私がしたいだらだらばかりでした、エルがしたいこと、何かありませんか? もう一日は終わりかけだけど、でもまだ時間は沢山ありますよ。なんでも言ってください」
すっかり自分がしたい事ばかりになってしまった。エルの要望も聞かねば。
彼はじっと考え込む。そして外を見ながら言った。
「なんでもいいんですか?」
「はい、やりたいこと、言ってみてください」
「そうですね……本当は昼間がよかったんですが」
「あ、遅かったですか……何がしたかったんですか?」
「いいえ、今からでも大丈夫です」
そう言った彼は、私の肩を優しく押した。私はソファに倒れ込む。そんな私の上においかぶさるようにして、彼が顔を近づけてくる。ぎょっとしてその名を呼んだ。
「え、エル!?」
「明るい場所で一度くらい、と思ってまして」
「…………え!!?」
「夕方でもそれなりに明るいですから、今からでも全然オッケーです」
彼が何を要望してきたのか気づいた私は慌てて首を振った。
「ぜ、全然オッケーじゃないです!」
「なんでもいいと言ったのはあなたです」
「で、でもだらだらじゃないです、むしろ激しい運動です!」
「激しいとか、あなたの口から聞くと燃えるのでやめてもらえますか」
「あ、ちょ、ちょっと、せめて夜に……!」
顔を赤くしてそう提案するも、彼は私を見下ろし、面白そうに口角を上げて見せた。
「私の要望も聞く、という約束です」
だらだらするはずの一日。終わりはだらだらどころか、疲労感に溢れることに。