新年早々
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ワタリさんがイギリスに購入しておいてくれたマンションに越して翌日。
なんてったって仕事ができるスーパーワタリさんだから、すぐに新生活を送るのに困らない準備っぷりだ。キッチンには家電も調理器具も食材もたっぷりあるし、ベッドも洗濯し終えたシーツが敷いてあるし、洗剤だってトイレットペーパーだって完璧だ。
日本から持ってきた少しの荷物を荷解きするくらいで、私もエルもすぐに普通の生活を開始できた。
「……っしゃ、腕によりをかけて掃除しよう」
私は腕まくりをして鼻息を荒くした。
朝、エルにケーキを作り終えた。エルは相変わらずリビングでパソコンや操作資料と睨めっこしている。休憩なんてほぼとらずによくやるものだ。
対して私は、お菓子を作り終えたらあとはやることなんかほとんどない。あるとすれば、この立派なマンションの掃除だ。
埃一つない新築マンションだが、これだけ広ければこまめに掃除をしていかないと手が追いつかなくなる。せめて掃除くらい時間をかけてしっかり行いたい。なんてったって風呂場や洗面所なども昔自分が住んでいたアパートとは比べ物にならない広さとおしゃれさなのだ。
私は雑巾と掃除機を片手にゴソゴソと廊下を掃除していた。あまりうるさくしてはエルの仕事の邪魔になるかも、静かに静かに……。
「光さん、何をしてるんですか」
背後からそんな声がしてきて振り返る。ポケットに手を突っ込んだまま立っているエルの姿だった。
「あ、ごめんなさいエル、うるさかったですか?」
「いいえ、むしろなんの物音もしないのであなたが消えていなくなったかと心配していたところです」
「私は消失したりなんかしませんよ」
「それで、掃除してたんですか?」
エルが私の持つ雑巾を見下ろした。私は大きく頷く。
「はい、私ができる仕事は家事くらいですから! 生活費とか、結局全部エルに出してもらってるし」
「別にそんなのかまいませんよ、むしろもっとあなたにお金を使わせてくださいとお願いしたいです」
「どんなお願いですか……」
「料理はあなたの味でなければ私の仕事に影響するのでしてもらいたいですが、掃除なんかはしなくていいんですよ。ワタリは綺麗好きで、気がついたときには彼が掃除してくれてますから」
「まさか!」
私はぎょっとして声を大きくさせた。
「あの忙しいワタリさんに掃除させるだなんて! 今まではそりゃエルと二人だったから仕方ないですが、今は私みたいな暇人がいるんですよ! 私がするのが筋ってもんでしょう!」
「しかし」
「そっかワタリさん綺麗好きなんですか、まあイメージ通りですが……! これは尚手抜きできませんね、ピカピカに家を磨かないと!」
私はさらに気合を入れて雑巾を握りしめた。エルはじとっとした目でそれを眺めていた。
「##NAME##さん終わりましたか」
「##NAME##さんそろそろ休憩されては」
「##NAME##さんもうそれぐらいでいいですよ」
五分ごとに現れるエルは暇なのか??
私は目を座らせてエルを振り返る。
「エル、仕事してください! 私はまだまだ終わりません!」
「しかし」
「まだ廊下を拭き終わってもいません……! 浴室やトイレとかもこれからやります。ちゃんと時間見て昼食は準備しますから、エルはお仕事しててください。ね?」
私がそう言うと、エルはわかりやすく眉をひそめた。そしてつかつかと私のそばまで歩み寄ると、何も言わず突然キスを降らせてきた。
「! え、エル?」
驚いて彼を見上げると、エルは真剣な表情で私を見ていた。
「わかってください。今まであなたと二人きりの時間なんてなかなか取れなかった中、ようやくこんな時間が出来たんです。私は少しでもあなたにそばにいてもらいたい」
「エル……」
「正直にいいますと、##NMAE1##さんの姿が見えないとどうも落ち着かなくて仕事にならないんです。お願いですから掃除など放って私の隣にいてくれませんか」
低い声で懇願され、私は戸惑い俯いた。少し高鳴ってしまった心臓をなんとか抑え込む。
「その、気持ちはわかります、ありがとうございます」
「では」
「でも私の気持ちもわかってください。エルのそばにいたいのは山々ですけど、仕事もせず居座るのはどうしても心苦しいんです。
せめて、今日は廊下を磨くだけにしておきます。明日からも、あまり長い時間は離れないようにしますから。少しずつは家事をさせてください」
私がお願いすると、エルはふうと息を吐いた。困ったように天井を見上げる。
「……あなたのその律儀な性格は長所なんですがね」
「り、律儀というか普通の感覚では」
「普通はしなくていいと言っているのに家事をさせてくれと頼んだりはしませんよ」
「そう、でしょうか」
「ではあと少しだけです。明日からも、長くは離れないでください」
エルはそうキッパリ言うと、ようやく諦めたようにリビングへと帰っていった。その白い背中を見送りつつ、笑う。
ああ言ってくれるの嬉しいな。確かに、キラ捜査中はなかなか二人きりになれなかった。
……でも。
「この広さ、そんな短時間で掃除できないんだけどなあ……」
はあ、とため息が漏れた。
翌朝。
やってきたワタリさんが挨拶と共に、何やらたくさんの荷物を搬入しだした。段ボールをいくつも重ねていく。
私はキョトンとして尋ねた。
「ワタリさん? それ、なんですか?」
彼は振り返り、優しく微笑んで言う。
「Lから至急と頼まれまして」
「あ、なにか捜査で必要なものでしょうか!」
「まあ、そうとも言えますね」
「え?」
彼が笑いながらダンボールから取り出したのは、
ロボット掃除機だった。
「……あ!」
さすがに知ってはいるが実物は初めて見る。ワタリさんはゆっくり頷く。
「ここの家は広さはありますから、数台設置しておきましょう」
「す、数台……!」
「水拭きもできますからね」
「ハイテク…!」
「他にも、掃除する手間をなるべく省けるようなものを発明してみます。ここのマンションは風呂の全自動掃除機能はついていませんでしたね、ちょっと考えてみましょう」
そこまでいわれてようやくはっと気がついた。
ゆっくりとソファに座っているエルを振り返る。
彼は私が今朝作ったケーキを頬張りながら言った。
「これで光さんを掃除に取られなくてすみます」
……ここは喜ぶべきなんだろうか?
自分の仕事がどんどん減る。そしてワタリさんの仕事が結局増えてる。
私は項垂れた。