メリークリスマス
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「わあ…大きなツリーですねワタリさん!凄い!」
私は感嘆してため息を漏らした。目の前には海外の映画のような大きなクリスマスツリー。
ワタリさんが台車に乗っているそれをゆっくり降ろした。
「クリスマスですからね、雰囲気だけでもと。本当はもっと早くから飾ろうと思っていたのにここ最近慌ただしくてすっかり忘れておりました」
「素敵です!忙しいのにありがとうございます!」
今日はクリスマスイブだった。私は特にキリスト教でもないしというか無宗教なのだが、こういう雰囲気のあるイベントには乗ってしまう。まあ、大概の人がそうじゃないのかな。
子供の頃、母は小さなツリーは卓上に飾ってくれていたけど、こんな本格的なものは見たことがなかった。
ワタリさんが微笑む。
「昨年のクリスマスは祝うどころではありませんでしたからね」
「キラ捜査真っ最中でしたもんね…」
「まだLと光さんもぎこちない頃でした」
「あは、そうでしたね」
目を細めて思い出す。まだ夜神さんたちも捜査に加わっていない頃だった。
私はなんでかエルの元で働くと決めて転がり込んだけど、彼のとっつきにくい性格に悩んで毎日大変に思っていた頃だ。
それから一年。まさか、こんなことになってるなんて。
人生ってほんとどうなるか分からない。
「あ、私飾り付けはしますよ!」
「そうですか。ありがとうございます」
ワタリさんから箱を受け取る。開けてみると、中にオーナメントたちが沢山入っていた。
こんな本格的に飾るだなんてしたことない。
私はワクワクして胸を躍らせた。
「光さん何してるんです?」
背後から声が聞こえる。振り向くと、エルがポケットに手を入れて立っていた。
「あ、エル!ワタリさんがツリーを用意してくれたので飾り付けです!」
「なるほど。クリスマスイブでしたね今日は」
「そうです!ケーキもクリスマス仕様にしますよ、楽しみにしていてください!」
私が笑うと、彼も少しだけ口角を上げた。そして私に近寄り、近くに置いてある箱からオーナメントを取り出す。
「…こんな飾り付けなど生まれて初めてします」
エルはそう呟いて摘み上げたオーナメントをツリーに飾った。赤くて丸いものだ。
エルがツリーの飾り付けだなんて。何か違和感を覚えちゃうな。私はつい笑ってしまう。
「エルはキリスト教ですか?」
「神など信じてません」
「あー予想通りの答えだった」
「ですがまあ、こうして楽しむのはアリだと今思っています。光さんのそんな楽しそうな顔を見れるなら」
「…去年はまだこんなこと出来る暇なかったですもんね」
ツリーのてっぺんに飾られた星を見上げる。
好きな人とこうして二人穏やかに、ツリーの飾り付けをして楽しんでる。
こんな幸せが自分に訪れるだなんて知らなかった。
一度は死んでしまうかもと思ったエルが隣にいる。
私の願いは叶った、サンタさんも神様ももう十分だよ。
「あ!エル高いところお願いできますか?」
「これでどうですか」
「いい感じです!あ、これもお願いします」
「ここでどうでしょう」
「あー最高です!」
いつのまにかエルも含めて飾り付けを施す私たち。ツリーは次々に華やかに色を付けていく。
エルは私よりゆうに背が高いので、上の部分を中心に飾ってもらった。
二人で色合いを見てああだこうだ言いながら作業を進める。
「これで最後です」
エルはそう言って最後の一つを飾った。キラキラと眩しいほどに変身したツリーを眺めてほうっとため息をつく。
「ありがとうございますエル、素敵です」
エルが私の隣に並んでツリーを見る。そっと、彼が私の手をにぎった。
「いいものですね、たまにはこういうのも」
「エルはいつも家にこもってるから季節感だした方がいいですよ!」
「光さんがいなくては、きっと私は一生こんなことを体験できませんでした」
エルの少しひんやりした手が大きくて心地いい。
「…ふふ、サンタ来ますかね」
「さすがに私も光さんは年がいきすぎてるのでは」
「いきすぎてるって。言い方!」
「では来年はワタリにサンタの格好をしてもらいますか」
「あはは!やめてください、想像したらぴったりすぎて笑っちゃいます!」
「彼はワイミーズにいる頃サンタの格好で子供達にプレゼント配ってましたよ」
「流石ですねワタリさん、その光景尊いです…」
「では来年はワタリにサンタ、光さんもサンタのミニスカートを」
「どこでそんな物覚えてくるんですか…」
「私はトナカイの格好にしますか」
「エルが!!トナカイ!!」
お腹を抱えて笑う私を、エルは優しい顔で見る。
ちょっとツリーを飾っただけの簡易的なクリスマスが、こんなにも楽しくて特別なものになる。
お腹が痛くなるほど笑える日になる。
それは、あなたが隣にいるから。
「メリークリスマス光さん。来年もまたツリー飾りましょう」
「メリークリスマスエル。楽しみです!」
私が焼いたケーキをじっと長く見つめ続けたエルは、ようやく口を開いた。
「光さん」
「はい?」
「相変わらずケーキの出来栄えはプロ並ですが」
「はい」
「このケーキの上に乗っている赤と白の塊の砂糖菓子は」
「サンタです」
「………」
(あのエルがフォローを忘れている…来年はもうちょっと上手に作ろう…)
その後
「そうですね、何と言いますかあなたの個性が溢れ出ていますよね、ピカソと同じ匂いを感じます」
長く沈黙を流した後、エルがようやく私の作った不細工砂糖菓子についてフォローした。
赤と白でサンタを表現した物だ。元々不器用でセンスのかけらもない私のサンタはなんとも言い表せれない代物になった。
あのエルすらしばらく言葉を失くすほど。
私は口を尖らせて言った。
「いいですよ…無理にフォローしなくて…とんでもない仕上がりな自覚ありますから…」
「……ケーキはプロ並みなので、ややサンタが異質です」
「あ、とうとう本音出しましたね」
「そんな突然不器用を出してくるあなたの落差があまりに可愛すぎます。」
エルはサンタを手に取ってマジマジと眺めた。そんな近くで見ないで欲しい、ただの紅白の砂糖の塊を!
「もう、エルあまり見ないで食べちゃってください…」
私が顔を手で覆って言うと、エルが口角を上げる。
「照れてる様子は反則です」
「来年はもっと上手く作ります」
「いいえ、これこそあなたの個性が出てて最高に萌えなので上手くなる必要はありません」
「萌えってエルが使うと違和感半端ないです」
私は呆れてケーキを口にする。自画自賛するが、たしかにケーキはかなり自信がある。だから乗せようか迷ったんだよなぁ…
「…迷ったんですけどね…サンタ乗せようか…サンタに見えないし…。でもエルとせっかくのクリスマスだから、それっぽさを出したくて…」
「……でましたね私を揺さぶって殺しにかかるあなたの攻撃」
「エル殺そうなんてしてませんよ!」
「はあ…キリストなんてまるで興味なかったですけど、今日ばかりは感謝します。いいイベントを味わえた事に対して」
エルはそう言うと、持っていたサンタを口に入れた。美味しそうに彼はサンタの砂糖菓子をボリボリと齧った。
「甘くて美味しいです」
「砂糖ですからね…」
「ところで、来年のクリスマスの予定ですが」
(もう来年の予定??)
「私がトナカイであなたがミニスカサンタの話です」
「え!あれ本気ですか!!?」
「はい、本気です。今年用意しておかなかった自分を張り倒したいです」
「………」
「ワタリに用意させるので」
「ワタリさんに変な仕事増やさないでください」
「私がトナカイあなたはミニス」
「着ませんよ」
「カサンタで、サンタとなればトナカイに乗って空を飛ばねはならないので私の背中に乗ってくださいね」
「どんなプレイだよ!!」
「いや、来年まで待つ必要はありませんね、今からすぐにでもワタリに…」
エルがいい案だとばかりに目を輝かせてポケットから携帯電話を取り出したのを見て、私はテーブルに身を乗り上げてそれを奪い取った。
「着ません!私絶対着ませんよ!!」
「しかしせっかくのクリスマスが」
「ツリーあってケーキ食べたから十分です!もう、変なことばっかり覚えてくるんだから!」
私は携帯を取り上げて自分のポケットにしまう。エルは指を噛みながら、それを残念そうに見ていた。