あさねぼう
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「うう…ん」
唸り声を上げながらふと目を開ければ、ずいぶん明るい部屋と自分の頭の中のスッキリさにあっと思う。
これ。寝坊したな。
人間はよく出来たもので、寝坊して目を覚ました瞬間それに気づく事はよくある。寝過ぎた感覚が分かるのだ。
今の私はまさにそれ。部屋もだいぶ明るいし、いつもより頭がハッキリしてる。
しまった。エルに朝ご飯作らなきゃ!
そう慌てて時計を見ようと視線を動かすと、隣で布団が膨らんでいるのが目に入る。
あれ、もしかして。
布団の中からは黒髪が覗いていた。そっと指先で布団をずらしてみれば、エルが寝息を立てていた。
なんだ。エルも寝てたんだ。
ほっとして時計を見るともう8時半だった。普段なら朝食も終えてる時間。だいぶ寝過ごしてしまった。
でもエルが寝てるなら別にいっか。朝食なくてもいいよね。
私よりはるかに睡眠時間が短いエルは、時々長い睡眠を取る。それでいい、むしろもっと寝てほしいと思っている。
これでも以前より毎日少しでも寝る習慣が出来たのは褒めてください、とエルはいつも言うから褒めてるけど全然足りてない。寝れる時に寝てほしい。あの黒いクマはまるでよくならないし。
丸まって子供のように寝るエルを見てつい微笑む。寝顔は子供みたい。可愛い、だなんて思ってしまう。
以前は一緒に寝るのも緊張してたけど、だいぶ慣れてきた。むしろ最近は夜中起きてエルがいないと寂しいくらいだ。
(…さて、私は起きて洗濯でもしようかな)
布団をゆっくり剥ぐ。冷め切った部屋の空気が体に突き刺す。寝る時は喉が乾燥するのが嫌で暖房を切るタイプなのだ。おかげで部屋は冷え冷えとしている。
少し身震いしながらベッドからそっと降りようとした時、エルの手が私のパジャマの裾を握ってることに気がついた。
それは中々強い力でぎゅっと握られていて、寝てるのにこんなに力入るかな?って疑問に思うほど。
なるべく起こさないようエルの様子を見ながらその指を離そうと触るが、びくともしない。
力強い。紅茶より重いものほとんど持たないくせに。
困ったなと眉を潜めた時、
「…行かないでください」
突如そんな声が聞こえてエルの方を見た。なんだ、やはり起きてたのか。
…と思ったのだが、エルは目を閉じたままだった。
「エル?」
私が小さな声で呼びかけると、彼はゆっくりと目を開く。長い睫毛が揺れた。が、その目はトロンとした薄目で、彼が寝ぼけているんだと瞬時にわかった。
珍しい。エルはいつも寝起きも普段と変わらずすぐあの調子になるのに。
「…光さんも寝ましょう」
「…え」
「行かないでください」
寝起きの掠れた声でそれだけ言うと、エルは再び目を閉じた。
その光景に心臓がぎゅんと鳴る。
な、なにこれ。可愛すぎる。
寝ぼけてるエルすら貴重だし、更に私の服の裾を掴んで行かないでって…
(……やられた)
不意打ち攻撃。本人は無自覚だろうけど。
私は諦めて再び横になった。未だ布団の中に残る温かさが心地いい。
私が寝たことに気づいているのか、エルはようやく裾から手を離す。と、すぐに今度は私の手を優しく握った。
普段冷たいことが多いエルの手も、寝ている最中ではさすがに熱い。大きな手に包まれてつい顔を綻ばせた。
洗濯はまた明日でもいいや。
私もたまにはガッツリ寝ちゃおう。二度寝だ。
だって、こんなに幸せな時間、手放すなんて出来ないよ。
もう明るくなってきた部屋の中で二人、布団に包まれて寝入った。
その後
目を覚ますと、隣のエルは未だにすうすうと寝息を立てていた。
時計に目をやればもう10時すぎ。なんとまあ寝坊したもんだ。
でもたまには沢山寝るのもいい。そう思いながら私はゆっくり起き上がる。
繋がっていた手は離れていた。今度は私の服を握りしめられていることもない。
エルを起こさないようにそうっと布団を剥ごうとした瞬間、突然腕を引かれて後ろに倒れ込む。
頭がぽすっと柔らかいものに埋もれたかと思えば、それは枕ではなくエルの腕だった。
驚いて隣を見れば、エルがいつもの表情でこちらを見ている。
「え、エル!起こしちゃいました?」
彼は今度は寝ぼけた様子もなく目をしっかり開けて私を見ていた。
「はい、今起きました。おはようございます。」
「おはようございます…もっと寝ていいんですよ。エルは寝不足なんだから」
「いいえスッキリしてます。相変わらずあなたの隣で寝ると熟睡できますから。疲れも取れました」
「ならいいですけど…もう朝ごはんはなしでお昼ご飯からでいいですね。10時過ぎちゃいました」
私が笑って言うと、エルは自身も口角を少しだけ上げて、私の肩に頭を擦り寄せた。まるで大きな猫みたい。
「エル、くすぐったいです」
「朝食はあなたを食べるのでいいです」
「何言ってんですかこの猫は。ワタリさんも来ますよ、今日は昼頃来るって言ってたでしょう」
「昼までまだ時間があ」
「エル?」
「…はい。」
彼は渋々諦めたように口を尖らせる。温かな布団が心地いい。
「ですがまだ起きなくていいではないですか。もう少しこのまま」
「珍しいですね。普段ほとんど寝ない人が」
「昨日仕事も一段落ついたので。こうやってゆっくり過ごす時間ができました」
そうだったのか。私が知らぬ間に難事件を解決し続けるエルは、昨日もまた犯人を突き止めたらしい。
確かにそれなら、別にいくらゆっくりしても構わない。休息は大事だ。
「エルはゆっくりしててください、私いい加減に身支度を…」
「一人は嫌です。一緒に寝てましょう」
「私は毎日よく寝てますもん…」
「横になってるだけでいいんです。充電させてください」
エルはまた私の肩に頭を擦り寄せる。なんだかいつもより増して甘えん坊な気がするのは気のせいじゃない。
オフモード、かな?
「布団がこんなに心地いいなんて知らなかったです」
「ふふ、今までは座ったまま寝てた事が多かったですもんね」
「麻薬のようですね。あなたと布団。もうやめられませんよ」
「やめなくていいんですよ?一生こうやって出来るんですから」
私が言うと、エルは目を丸くする。そしてはあーと息を吐いた。
「出ましたよあなたの殺し文句」
「いやどこが」
「やはり朝食いただいてもいいですか?仕事終わりでお腹ペコペコです、いただきます」
「うわあ!ちょっと!待てーい!」
ジタバタじゃれる少し遅めの朝。
なんてことない朝。
これが最高の幸福だって、私たちは知っている。