ワイミーズハウス
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「エル…お待たせしてすみません!」
私は初めにいた部屋にようやく戻る。そこにはワタリさんにロジャーさん、そしてエルがいた。
エルの前にはお菓子が並んでいる。ワタリさんか、それともロジャーさんが用意したのだろうか。
時計はもう15時を指していた。ほぼ1日エルを放置していた。
エルは紅茶を啜る。
「いいえ、謝ることは何もありません。聞きましたよ、大活躍だったと」
「そ、そんな大そうなことはしてません…思ったより時間かかってしまって。エル退屈でしたよね?」
「いいえ、あなたの素晴らしさをロジャーに語っていたらすぐに1日終わりました」
「忙しいロジャーさんに何してるんですか」
呆れている私に、ロジャーさんがゆっくり立ち上がった。
「とても助かりました、あなたがいなくては大変でした。ありがとうございます」
「と、とんでもないです!楽しかったです私も!」
言葉は通じないけどスタッフの人たちと働いて、子供たちともすこし触れ合えて。
凄く充実した一日だった。清々しい気持ちでいっぱいだ。
「ずっと来たいと思ってたワイミーズに来れて…そしていろんな人と会えて、私とても嬉しくて。壊れた冷蔵室に感謝したいくらいです」
笑っていうと、ロジャーさんの口角が分かりやすく上がった。
「Lの言う通りですね」
「え?」
「そうでしょう。本当に最高の女性なのです、今日見せびらかしにきた甲斐がありました」
「ちょっとエル、どんな盛り方したんですか、やめてください」
私達を見比べてワタリさんが笑う。それを合図かのように、エルはソファからぴょんと降りた。
「さて。ではそろそろ帰りましょう」
「はい、ロジャーさん、ありがとうござ…」
私が言いかけた時、部屋に激しいノックが聞こえた。ロジャーさんが返事をする前に、扉が勢いよく開く。
アイリーンだった。
彼女は私を見るとわっと笑顔になり、思い切り抱きついてくる。
その勢いに体が仰反る。
早口で言う英語を、ワタリさんが素早く訳してくれる。
「まだ帰ってなくてよかった、最後にもう一度お礼が言いたかった、そうです」
「そ。そんな」
アイリーンは私を離し、ニコニコと笑って言う。
「また是非来てほしい、次は私の料理を振る舞うから食べてほしい、だそうですよ」
私は嬉しくなってアイリーンに笑いかけた。
「言葉は通じなくても…一緒に働けて楽しかったです!今度はご馳走させてくださいね」
私の訳をワタリさんから聞いたアイリーンは、もう一度私を強く抱きしめた。情熱的な抱擁だった。
背後でエルが呟く。
「アイリーンが男性でなくてよかったです…」
「え゛っ!!!あの二人がL候補!?」
帰りの車内で私の驚きの声が響く。ハンドルを握ったワタリさんがうなずいた。
「はい。ワイミーズでずっと成績1位2位を張ってる二人なのですよ」
「そ、そうだったんですか!?」
隣に座るエルが言う。
「私を継ぐならあの二人のどちらかだと思っています。まあまだ先の話ですし確定はしてませんけどね」
私は息を吐いて頭を抱える。そんな天才だったのかあの二人は。まあ、ニアは確かにちょっとエルと雰囲気が似てた気もする。メロは正直意外だ、彼がLになったら凄く行動派な名探偵になりそう。
はっと思い出してワタリさんに尋ねる。
「だから…私にニアのおつかいをさせたんですか!」
「ええ。メロと接触したのは本当に偶然なのですが。だったらこの際もう一人の候補もお会いして貰おうかと思いまして」
「どおりで…ワタリさんが私に頼み事なんて珍しいと思ったんです…そんな思惑があったなんて」
「彼らのどちらかがLを継ぐとなった時、また光さんと会うかもしれませんからね。」
まだあどけなさの残る二人だった。どっちかがLになるなんて、なんかまだまだ想像つかない。
隣に座るエルにふと尋ねた。
「と、いうか…エルは引退する年とか決めてるんですか?」
彼は考えるように親指の爪を噛む。
「まだ未来の事は決めてません…ある時すっと辞めて後継者に譲るかもしれませんし、ドヌーヴなコイルという名を二人に譲って自分は死ぬまでLを続けるかもしれません」
「はあ…」
「まあ、早く役目を終えて光さんとゆっくり過ごすのも魅力的なんですがね」
エルがこちらをむいて微笑む。私も笑い返した。
「もったいない気もしますよ、せっかくの天才が。それに今でも十分ゆっくり過ごせてます」
「事件のことも考えずあなたと24時間暮らしたいのですよ」
それ、ちょっと私大変そう。
…と思ったのは心にしまっておく。
「L候補の二人にも会えちゃったし、今日はほんと充実した1日でした!」
「二人はどうでしたか」
「正反対のタイプでしたね。でも二人とも可愛かったです」
「あなたに可愛いと言わせるとは。今私は嫉妬に狂っています」
「子供相手じゃないですか…」
「年が離れていても油断なりませんよ、あなたの素晴らしさに心奪われるのに年齢なんて関係な」
「エル、後輩にまで嫉妬するのやめてください」
流れる景色を窓から見つめて、今日会った人たちを思い出す。
うん、みんな良い人たちだった。楽しかった。
そして、ブロンドと白髪の二人の顔が目に浮かんだ。
いつかまた、会える日が来るのかなぁ。
私はそんな日を想像して、一人笑った。
働いていた頃、エルは
「客人を働かせてしまって申し訳ない」
ロジャーがすこし頭を下げた。彼は戸棚から甘い菓子を取り出し、ソファに座るLの前に並べる。
Lは紅茶に砂糖を放り入れながら言う。
「構いません。彼女は困ってる人を見ると放っておけない性分なので、想定内です。篭ってることが多いですし、彼女自身気分転換になれば」
スプーンで軽くかき混ぜる。その音がやたら部屋に響いた。
ロジャーはゆっくりかけている眼鏡をあげる。
「…世界のLがそんな特定の人を作るなど、どういう風の吹き回しです」
Lはスプーンを置いて紅茶を啜った。
「…私自身こうなる事は想像もしていませんでした」
「その上、彼女はどう見ても一般人でしょう。まずどこで知り合ったのです」
「彼女は一般人です。しかし詳しくは言えませんが一時期特殊能力を持っていました。今は消えてしまってますが…キラ事件で捜査協力してもらったのがきっかけです」
「彼女もキラ事件と関わっていたとは」
「さすがのロジャーにもキラ事件の詳細は言えませんが、話しても信じてもらえないような内容でした。私は彼女の能力がなければ確実に死んでいた」
「命の恩人ですか」
Lはすこし目を細める。
「…命を救ってもらったから、ではありません。それよりずっと前から、私は彼女の全てが眩しかった」
ロジャーは何も言わずただ一つ、息を吐く。
「面白い人です。利益を考えず人のために動ける。恐らく今日働いた事も彼女は何も恩を売るつもりはありません。働けて楽しかった、と、壊れた冷蔵室に感謝するくらいの勢いでしょう」
そう話すLの口角は優しくあがっているのにロジャーは気付く。
これが、あのLだとは。
「しかし…Lが特別な人を作るとは…しかも一般人だなどと。危険も隣り合わせなのでは」
ロジャーが聞くと、Lはわかりやすく視線を下げた。
「百も承知です。私がやってきた事は犯罪でもありますし、さまざまなところから恨みを買ってきました。私の正体はまだ出回ってませんが、いつか漏れた時、彼女にまで危害が及ぶのではと気が気ではありません」
「……」
「彼女はあまり自覚してないようです。私は彼女が一人外出するのすら心配でならない。あの人は世界のLの最大の弱みだと言うのに」
膝に置いた指が強くジーンズの生地を掴んだ。
そう、彼女は私の全て、私の弱み。
恐らく彼女自身はその重大さに気付いていないのだ。
…だがしかし、矛盾しているのは分かってる。
私はあの人にはただ笑っててほしい。気兼ねなく私に接してほしい。何も危機感を覚えず伸び伸びと過ごしてほしい。
危険を自覚してほしいと思う自分と、あまり気にせず彼女らしくいてほしいという自分で割れている。
まだ手探りだ。
彼女と共に歩いていくには。
「…実に面白い」
ロジャーがぽつんと呟いた。
「Lも…人間でしたか。」
「………」
「ここにいる者たちがあなたを継ぐのはやはりまだ早い。幼い彼らはあなたのような強みを見つけれていませんからね。」
「強み、ですか」
「弱みでもあり強みでもある。全てを捨てて強くなる方法もありますが、私は守るべきものがある方が強くなれると思ってますよ」
ロジャーはゆっくり目を細めた。
そう、ここにいる『少年』たちはまだ幼い。Lですら、愛を知り人間になるのにこれだけの時間を要したのに。
「…ワタリにも同じことを言われたことがあります」
「彼は特に喜んでるでしょう。あなたのこんな姿を見る日が来るとは」
「呆れられる事も多々ありますがね」
ようやく目の前に並んだ菓子に手を伸ばすLを見て、ロジャーは微笑ましくもあり、しかし一番疑問だったのはその相手である彼女の生態だった。
あのLを。落とした女性など。
…とんでもない人に違いない。
先ほど見た屈託のない笑顔を思い出し、ロジャーは
少しだけ首を傾げた。
「彼女が素晴らしい人間性だとは分かりましたが」
「はい」
「それでも、他人に興味のないあなたをここまで骨抜きにしているのはどうしても疑問が残る」
「では話してあげましょう。彼女の素晴らしさを」
Lは目を見開いて輝かせた。そして口を開いた途端、ロジャーの相槌をうつ暇さえ与えないほどに愛しい人について語り始めた。
それはよくもまあ、ここまで息が続くものだと感心するほどで、
ロジャーは少しだけ質問したことを後悔した。
「つまり彼女は優しさの塊りです。キラ捜査本部でもどれほどその力が発揮されたか。みんなに愛されていたのです」
「……」
「人の心に入り込む能力が秀でてます。一時期キラ容疑者を監禁してたことがありますがその者に話しかけて心を溶かし友人となったのですよ、私には到底できません」
「……」
「情熱的なのに冷静に物事を見れます。私の無理やりなやり方はやはり日本警察には受け入れられませんでしたが、それを彼女がうまくフォロー入れてくれたりもしました。この時点ではまだ付き合ってないのに、ですよ」
「……」
「それから笑顔が天使。美しさが女神。時折眩しくて失明するかと思うほどです。彼女の放つ光で失明するなら本望です、いや待ってくださいやはり失明は困りますね、彼女の美しさを見れなくなるとは」
「……」
「ロジャーもあった時そう思いませんでしたか?しかし美しすぎるがゆえほかの男が変な気を起こさないか心配なのは困り物です。変な虫がついては…あの人につくのは私一人でいいのに…」
これが本当に世界のLか??
もう世界は終わりかもしれない。
時計ではゆうに2時間は超えた。
私はとんでもないスイッチを入れてしまった。
ロジャーはやはり心の中で後悔した。
さらにおまけ
止めるタイミングもない語り。
ロジャーはこの話題がいつ途切れるか困り果てていた。
Lはこんなに口数の多い人間だっただろうか?
Lに気づかれないよう小さく息を吐いたところで、部屋にノックの音が響いた。
「…ああ、昼食の時間です」
ロジャーはほっとして対応する。スタッフの一人が運んできてくれたのだ。
Lはようやく口を閉じて乾いた喉に紅茶を流し込んだ。ロジャーは何やらスタッフと話している。
少ししてお盆に乗った昼食をロジャーが運んできた。
「L、あなたの分も」
「私は甘味があれば結構です」
「そうですか。あのスタッフから聞きましたが、今日のメインはあなたの恋人が作ったらしいですよ。生徒たちに好評だったと」
その瞬間Lの目が見開き輝いた。
「そうでしょう、彼女の料理の腕前は確かなのです。私は基本甘味ばかり口にしてましたが、今はちゃんと通常の食事も取るようにしています。彼女の作ったものを食べれるなど、今ワイミーズにいる者は全員感謝してもらいたいですね。日本食とは手が混んでいて風味を大切にする風習がありますが、彼女はまさにそれにならっていて」
「………」
ようやく途切れたと思ったのに。また火がついてしまった。
ロジャーは苦々しく眉を潜めた。
そのご
「何といいましたか今」
車の中で今日あった出来事を今一度エルに楽しく話していたところで、彼は目をまん丸にしてこちらを見た。
黒い髪の隙間からのぞく瞳。あれ、何か驚くことあったかな。
「え、なので、ニアは熱が高いのに横にもならずパズルしてて…」
「そこはいいです」
「無理に寝かせて私がフルーツを食べさせました」
「待ってください、食べさせた??」
「え?」
食にも興味のなさそうなニアに何とか食べさせたくて差し出したフォークは、彼の手に掴まれる事はなかった。
ニアはめんどくさそうに口を開けてオレンジを待っていたので突っ込んだんだけど。
「ええ、フルーツだけ」
「食べさせた、とは。あなたがフォークを手にして果物を先端に刺し、差し出したそれをニアが口を開けて食べたということですか」
「は、はあ。」
「つまりはあーんしたんですか」
「そういう言い方になると急に響きが悪くなります」
エルは信じられない、というように小さく首を振った。そして瞬きすらせずに呆然と一点を見ている。
「…私ですら…食べさせてもらった事などないのに…?」
「………」
呆れて隣を見る。この人どこで妬いてるの。
「あなたは私以外の男にあーんしたんですか」
「あーんって言い方なんとかしてもらえませんか。私がしてきたのは看病です」
「私ですら…私ですら…」
「エルにもアイスあげたりした事あるじゃないですか」
「あれは違います、あーんとは呼びません。どちらかというと私の口を封じるための手段でした。あーんとはもっと愛のある優しさの行動です」
「とりあえずあーんって連呼やめてもらえますか」
世界の名探偵が何を言ってるんだ。天才とは思えない、お馬鹿にしか聞こえない会話。だがしかし、エルにアイスを突っ込んだのは彼の口を封じるためだったというのはあながち間違いではない。
というか、今もむしろ突っ込んでやりたい。
「エル、相手は子供で病人ですよ」
「でも男です」
「しょ、少年です!」
「はい男です」
「高熱を出してたんですよ!」
「でも男です」
引かない!私はガックリうな垂れた。エルは隣で爪を噛みながら恨めしそうにいう。
「うな垂れたいのは私ですよ…私だって後輩に嫉妬なんかしたくありません。しかし私も体験したことのない事をニアがしてもらったとなれば、私の独占欲が騒がないのは無理があります」
「………」
ずい、とエルは私に顔を寄せた。
そして目を見開いたまま言う。
「今日の夕飯、食べさせてください」
「……」
「でなければ仕事になりません」
「……」
「私は次にニアに会った時何をしでかすか分かりません」
「はい!分かりました!そうしましょう!」
やけくそ気味に叫ぶ。話した私が馬鹿だった、私の失態だ。
エルは満足そうに口角を上げると機嫌をよくしたように窓の外を見た。
運転席でワタリさんが小さく笑う。
…笑い事じゃないですよ、ワタリさん。
「メロ!」
長い廊下で少女の声が響いた。メロと呼ばれた少年が振り返る。艶のあるブロンドが揺れた。
「リンダか」
「昨日言いそびれた!誕生日、おめでとう!」
「ああ」
言われて特に嬉しそうなそぶりも見せないメロは、にこりともせずにめんどくさそうに返事をする。
それを気にしてもないのかリンダは続けた。
「エマにケーキ作ってもらった?」
「いや、昨日厨房はトラブルあったみたいで、エマは夜までいなかった」
「え!食べれなかったの?!」
「いや、なんかヘルプに入ってたやつが作った」
「ヘルプ?そうなんだ、美味しかった?」
「…まあ。悪くなかったな」
そういう彼の口角は少しだけ上がる。ふうん、とリンダが笑った所で、彼女はすぐ近くを歩く少年に気がついた。
「ニア!熱は引いた?」
ニアと呼ばれたあどけない少年はチラリとこちらを見る。白いシャツに白いズボンを履いていた。
「ええ、おかげさまで」
メロはあからさまに目を細めるとすぐに立ち去ろうと足を踏み出すが、すぐにニアが呼び止めた。
「メロ。そのヘルプは日本人の女性でしたか」
振り返る。冷たい目でニアを見た。
「あ?そうだけど。」
「おかしいと思いませんでしたか、ワイミーズに1日限りのヘルプなど」
「まあ、思ったけど腕は確かだったからなんかのツテで来たんだろ」
「そうですか…」
ニアは考えるように髪をくるくると人差し指で巻く。
「あの女性、もしかすると…」
「なんだよ」
「…いえ、なんでもありません」
「はあ?勿体ぶるな」
眉間にシワを寄せるメロを気にかけず、ニアは平然と言う。
「…あの女性、Lと関わりのある者なのでは」
聞いたメロはどこか馬鹿にしたように鼻で笑った。
「考えなくもなかったけど。Lが英語も話せないような人間そばに置くか?役に立たないだろ」
「一理ありますね。ただの一般人にしか見えませんでしたし…しかしあるいは…
恋人、など」
メロが止まる。
リンダも止まる。
ニアは自分で言った後、ピタリと髪をいじる手を止めた。
「…ないだろ」「…ないですね」
同時に発された。
ニアは一度うなずく。
「自分で仮説を立ててみたもののやはり無理がありました」
「Lが英語も話せないような一般人を女にしてワイミーズに連れてくるとか。笑わせる」
「Lの生態はよく分かりませんが今までのやり方を見ても非常識で他者に興味ありませんからね。」
「まあもしその仮説が本当だとしたらただモンじゃないなあの女は」
「お節介の焼き具合は只者じゃなかったですよ」
「ないない。つまんない事で時間使わせるな」
二人は同時に納得して、何も言わないままそこから二手に別れて去っていった。