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「エル!ただ今戻りました」

「遅かったですねそろそろ死ぬかと思いました」

「だからあなたはどこのウサギですか…」

「ですから私はウサギより寂しがり屋の自信があります」

家に帰ると、エルは出かけた時と変わらない体制でソファに座っていた。私が作って行ったお菓子は全て空になっている。かなりの量を作ったんだけど…

背後から無言でジェシーが入ってくる。

エルはこちらを見ながら聞いた。

「楽しめましたか」

「うん凄く!ちょっと買い物しちゃった」

私は持って帰ってきた紙袋から服と靴を取り出す。ジェシーに勧められたやつだ。

「ジェシーが似合うって言ってくれたから」

「!ジェシー、あなたは最高の働きぶりです」

「今までで一番褒めてくれましたねL」

やや呆れたようにジェシーが答える。

「素敵な色ですね。似合います、可愛いです、なんならその店ごと買い取ってきてもよかったのに…」

「出た…金持ちめ…」

「靴も可愛らしいですね。たまりません」

「あはは、でもやっぱり買い物って楽しい。すっきりしちゃった」

褒められてちょっといい気分の私は笑って言う。

とりあえず買ってきたものを丁寧に畳んでまた袋に仕舞った。

「あ、紅茶いれるね。お菓子まだ食べるよね、朝ジェシーが買ってきてくれたケーキ出すね」

「ありがとうございます」

エルは再びパソコンに目を移す。私はキッチンに立ってお湯を沸かす。

冷蔵庫からケーキを取り出した。中にあるショートケーキをお皿に乗せフォークを添える。

「途中でね、高校の頃のクラスメイトに再会したの」

「クラスメイトですか」

「うん、話しかけてくれて。私正直学生の頃とかあまり人と関わらなかったしそんなに仲いい友達もいなかったんだけと。クラスの人気者って感じの子で、私の事も覚えててくれたみたい」

「なるほど、もともとあなたはここから少し離れた所に住んでましたしね」

パソコンを見るエルの元へケーキを運ぶ。

「ジェシーと3人で少しだけお茶してきたの。だから遅くなっちゃいました」

「そういうことでしたか」

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」

エルのすぐそばに置く。彼はすぐにフォークを手に取った。

「でね、吉沢くんって言うんだけど…」

私が言った途端、カシャン、と音が部屋に響いた。

見れば、エルはフォークを持つ手の形のまま停止している。が、そこにフォークはない。

持ち上げられたフォークはまたお皿に落ちていた。

「…エル?」

「…いえ、女性なのかと思ってました」

「あ、ジェシーと3人で会ったんだからね?」

「はい、大丈夫です聞いてました」

彼はゆっくりまたフォークを手に取った。

まあ…独占欲強いって自己申告するほどの人だ。他の男性と関わるのにいい顔をしないのかもしれない。

「ちょっと近況報告しただけ。エルの事も話したし」

「私ですか」

「うん、エルに付いてイギリスに住んでるって話してたの」

「…そうですか」

エルは普段となんら変わらない表情でパソコンを見ている。  

私は続けた。

「えっと、それで、連絡先を貰って…」

またしてもカシャン、と音がした。しかしその音は先ほどより小さな音だった。手元を見れば、フォークは握られたままだが、そのフォークはなぜかケーキの真横に命中している。

「…エル。苺はもう少し右です」

「…そうでした」

私とジェシーはやや呆れて見る。

「勿論私の連絡先は何一つ教えてないよ。貰っただけだし、こちらから連絡することはないと思うし」

「…しかし男性から女性に連絡先を渡すとは、確実に##NAME3##を口説こうとしてる行為…」

「いや、今度同窓会するから誘うって言われただけ。」

「口実です。何とも自然でこちらも断りにくい口実です。」

エルは空振りしたフォークをそのままに、ただ一点を見つめたまま言う。その姿はどこか不気味だ。

背後で見ていたジェシーもフォローに入った。

「L。もしそうだとしても彼女から連絡することがなければどうにもなりませんよ。」

「…##NAME3##」

ゆっくりと首をこちらを向ける。私は苦笑した。

「エル。連絡しません。約束します」

「絶対です」

「同窓会も行くつもりないし。友達いないから」

「必ずです」

「エルが心配性するの分かってるし」

「当然です、あなたのように美しい人が同窓会に降臨すれば男どもは夢中になってしまいます、絶対に行かないでください」

「出た、大袈裟な…」

「もしくはどうしても行きたいのなら私も行きます。」

「やめてください」

エルはようやくフォークに苺を刺した。

「松田さんと時々メールをしてるのでさえ私はかなり我慢をしているのですよ」

「キラ事件を共に戦った相手じゃない…」

「最後にあなたに愛の告白をしてたのを忘れましたか。」

うっ。そんなこともあった。

「もう2年半も前だよ!」

「私もそう思って何とか耐えてます。あとは彼の人柄を知ってるのでまだ安心できますが、どこの馬の骨か分からない男と連絡とったり会ったりされれば気が狂います」

「……」

普通の女性なら窮屈で怒ってしまうだろう。

私の友達が少ないという事実はこういう時助かる。男友達が多かったらエルどうなってたんだろう。

…想像するだけで怖い。

「街に出て素敵な服や靴を買い物して楽しそうなあなたを見れたのは本当によかったのに…まさかそんな偶然があるとは…」

「昔の知り合いとちょっと話しただけだよ…」

「その男があなたを好きになったらと思うと」

「下心ないって言ってたよ」

「下心ある時こそないと言うものです」

「ほんとにね、誰にでも優しいクラスの人気者って感じの子で、隅っこにいた私なんてよく覚えてたなってレベルだから。」

「彼はあなたの学生服姿を見ていたんですね…悔しい。私は見たこともないのに…ゆづきは写真も残してませんし…は!##NAME3##こん」

「いやです」

「まだ何も言ってません」

「今度制服用意するから着てみろって言うんでしょ」

「なぜ分かったのですかさすがですね」

苺を頬を頬張ってもぐもぐと食べる。そりゃ分かりますよ、もう3年以上も一緒にいるんだもの。想定内のパターン。

「コスプレなんて絶対いや」

「外に出る必要はないんですよ」

「そう言う問題じゃない」

「ではどういう問題ですか」

「いい?エルが見たい制服姿はつまりは10代の頃の私がみたいってことでしょ。もうこんなに大人になった私が着てもそれは意味ないの。」

「一理ありますね。確かに昔のあなたを見てみたい。」

「ね?」

「しかし今のあなたが制服を着るという事にまた需要がありますので」

「…とにかく私は死んでも着ないから!」

エルは残念そうに爪を噛む。一体この人はなぜこんなにも私に執着してくれるのだろう。
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