1
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「え?今イギリスに住んでるの?」
吉沢くんが目を丸くする。
私は目の前のアイスティーを一口飲んでうなずく。
「そう、今帰省してるの」
「どおりで。外人の友達なんてどこで見つけたんだろうって思ってた」
ジェシーを見て納得の表情を作る。ジェシーは特に何も気にする事なくアイスコーヒーを飲んでいた。
「結婚相手について行ったって感じ?」
「ああ、…そんな感じかな。吉沢くんは?何してるの?」
「俺はただの会社員だよ。ここからすぐの勤務先。ちょうど今日からお盆休み」
「そうなんだ」
「てゆーか、まさか結婚相手も外人?」
「う、うん、日本人じゃないけど…ジェシーみたいに日本語ペラペラだし、ぱっと見ジェシーみたいにザ 、外人って感じじゃないよ。日本人ぽい」
黒髪だし瞳もジェシーみたいに茶色じゃない。
顔立ちすっきりした日本人だ、と言われれば別に疑わない。
吉沢くんは感心したように何度かうなずいた。
「へえーすごいなー!俺なんて結婚とかまだまだ遠そう」
「吉沢くんモテるのに」
「え?ぜーんぜんだよ?」
「昔からだけど、凄く話しやすいし誰にでも優しいから。凄く素敵だと思う」
ありがちなことだけど、クラスの人気者の彼はやはりモテていたと私でも知っている。
女子の熱い視線と言うものは非常に分かりやすいことだし(少なくとも同性には)、この人はモテるだろうという感覚くらいは正常に持ち合わせている。
「うわ、そんな真っ直ぐ褒められると照れるよね」
困ったように頭を掻く動作が可愛らしい。私は微笑んだ。
「どんな人なの?結婚相手」
「え?」
「いや、気になる。藍川って浮いた話とか聞いたことなかったし。」
「うーん?ちょっと変わった人かも。でも優しい人だよ」
ちょっと、とはかなり控えめな表現だと自分でも思う。かなり、変わった人だけど。
初めて会う人は確実に二度見する。
「なにそれ、凄く気になる」
「あはは、とにかく優しい人だよ。」
「そっか、うん、幸せならいいことだ」
腕を組みながら微笑んでコーヒーを飲んだ。
「いやでもほんと、こんな言い方もあれだけど高校の頃って藍川、なんか人を寄せ付けないオーラあったからさ。今全然そういうのなくて、それも旦那さんのおかげなのかなーって」
「え、私そんなだった?」
「だね。別に感じ悪いとかは全然ないんだけど。なんて言えばいいのかなぁ…俺たちとは別次元の人みたいだった」
「それ感じ悪いよね」
「いや、そうじゃないって!」
慌てる吉沢くんに私は笑う。
いや、間違ってないよ。私その頃はあえてそうしてたから。
でも今、こうやって再会したクラスメイトと笑って話せるって結構楽しいな、と感じる。
「あ、そういえば担任の山田はさ、退職したらしいよ」
「えー!まあ、もう結構年だったもんね」
ジェシーには申し訳ないけれど、私たちは懐かしい話に盛り上がった。なんとなく感覚が高校生の頃に戻った気がする。
ああ、予知なんてなかったら、こんなふうに青春を送れたんだろうか。
…でも予知なかったらエル助けれてないしなぁ。複雑。
私はそんな事を考えながら、吉沢くんと1時間ほど話に花を咲かせた。
「そろそろ出ないと心配するわ」
ジェシーにそう言われてはっとする。
いけない、あまり長い時間空けるとエルが心配するし拗ねる。
私は慌てて吉沢くんに言った。
「ごめん。もう行かなきゃ」
「あ、ごめん気付かなくて。ジェシーさんも付き合ってくれてありがとう」
犬みたいな笑顔で吉沢くんが笑う。ジェシーもどういたしまして、と微笑んだ。
思い出したように吉沢くんが言う。
「あ、よかったら連絡先教えて?」
「…え」
「ほらそのうち同窓会でも開こうと思って。イギリスじゃ中々帰ってこれないかもだけど、連絡はするよ」
悪意のない笑顔を見ても戸惑った。
私は護身用のための携帯電話しか持っていないのだ。そこに他人の連絡先を入れて使うのは少々まずい。
それに正直、クラス会があったとしても行くつもりはない。友達はほぼいないし、都合よく日本に来れるとも限らないし、
…エルが心配しそうだし。
「あの、本当の事なんだけど、私今携帯持ってないの。仕事用しかなくて」
「え」
「ごめんね、ほら、私友達あんまりいないし必要性感じなかったから」
決して嘘じゃない。母が亡くなった後自分で解約したのだし。
吉沢くんは少し考えたあと、鞄からペンを取り出し、机の上にあったペーパーに何やらメモを書いた。
「じゃあ、もし買ったら、連絡頂戴。無理にとは言わないからさ」
そう笑いながら差し出してくれた。見れば、電話番号とアドレスも書いてある。
「もちろん下心じゃないよ、既婚者にそんなこと抱かない」
「あはは、疑ってないよ。ありがとう」
私は素直に受け取った。恐らく連絡することはないかもしれない連絡先だけど、素直に嬉しかった。
「じゃあ、また会えるといいね!今日楽しかったよ」
吉沢くんはそう言って笑顔で立ち上がると、右手を軽く振って爽やかにその場から離れて行った。
私は貰ったメモを鞄に入れる。
「ジェシー、付き合ってくれてありがとう」
「全然構わないわよ。それにしても可愛い子ね…」
「ああ、クラスの人気者くんだったよ。昔から誰にでも人懐こくて素敵な人だった」
「あなたも好きだったの?」
「うーん、それはないかな。憧れてたクラスメイトって感じ」
私は笑いながら言う。ジェシーはふうんと言いながら立ち上がる。
「それより思わぬところであなたの名前知っちゃったわ」
「そういえば知らなかったんだよね。捜査員の人たちとかは知ってるけど結局ゆづき呼ばわりだし。友達のミサにも結局言ってないなぁ」
「ま。名前なんてなんでもいいのよ。大事なのは本人なんだから」
私たちは並んで店から出る。もうすでに吉沢くんの後ろ姿は確認できない。
「それより、今日会ったこと、ちゃんと全部竜崎に報告しなさいよ」
「え?う、うん、話すつもりだけど」
「連絡先貰ったこともよ!私もフォローしてあげるけど、彼の心配性は並みじゃないんだから。隠してて後でバレたらきっと大変なことになるわ」
「そ、そんなに?昔のクラスメイトに再会しただけだし…」
「女性ならよかったのにね。男ってのがね…今日は荒れるかもよ」
ジェシーはそう言って、困ったように眉を下げた。