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それから一週間後、私とエル、ワタリさんは日本へと飛び立った。ちなみにジェシーは一足早く日本に入っているとのことだった。
半年ぶりの日本。ミサにはまた連絡し、夜に会うことを約束し、
松田さんたちも今回はメールが返ってきて、どこかでみんなで食事をしよう、となっていた。
少ないけれど私にとっては大切なかけがえのない人たちに会えるのが、本当に本当に楽しみで仕方がなかった。
「あ…つーーい」
私は外に出た瞬間目を細めた。日差しは強い。
夏でも冬でも同じ服装のエルは隣でスニーカーの踵を潰して立っている。
「日本の夏はさすがですね。以前いたときはあまり外に出れませんでしたから感じれませんでした。」
「この前来た時も冬だったしね。」
湿度も気温も高い日本の夏は厳しいものがある。すでに額には汗がにじみ出てくる。
「ワタリさんも暑くないんですか…」
私が心配すると、彼は笑った。
「基本車の移動か室内ですからね。大丈夫です」
「ならいいですけど、日本の夏は熱中症とか怖いですから…」
「私のような年寄りは特に気を付けなくてはですね」
「と、年寄りなんてー!」
私たちが話していると、目の前に颯爽とリムジンが止まる。ハッとして見ると、中から長身美女が降りてきた。
一つ一つの動作も美しく、映画のワンシーンみたい。
たまたま近くを通った日本人が目を見張るのが分かる。まあ、納得。
彼女は長い髪をなびかせながらこちらへ近寄った。
「お久しぶり!」
白い歯を出して笑った。その笑顔は最初に会った頃とはまた違う、リラックスした爽やかな笑顔だった。
「さ、竜崎はすぐのって。ワタリ、荷物ください積みます。ゆづきも乗りなさい、暑いでしょ」
テキパキと働くジェシーを見て、この子って根っから世話好きなんだなぁとしみじみ思った。
再会の挨拶を言う間もなく、私たちはとりあえず車に乗り込んだ。エアコンの効いた車内がすっと汗を乾かしてくれる。
エルも乗り込みいつもの体制になる。ワタリさんは助手席に乗り、ジェシーが運転席に乗った。
ここ数年ワタリさんの運転でしか出かけていない私は、彼が助手席にいるのがとても新鮮だった。
「お久しぶりジェシー!」
私は後ろから話しかける。彼女はさっと大きなサングラスをかける。なんとサマになるのか、私がかけたら失笑しそうなデザインだ。
「久しぶりね。夏の日本は初めてきたわ、殺人並みね。L気を付けてくださいね、体調崩さないように。」
「はい」
「ワタリさんが助手席なの初めてみたから新鮮です!今日はジェシーが運転なのね」
「ええ、マンションに向かうわ。」
ジェシーはそう言うと、その性格にはそぐわないぐらい慎重な滑り出しで車を発進させた。
ちょっと意外。ジェシーって凄い安全運転。
「ジェシー凄く安全運転なの意外…」
私がポツリと呟くと、呆れたように彼女は言った。
「世界のLを乗せてるのよ、当然よ。一人の時は飛ばしたくもなるけどね」
やっぱりLへの忠誠心すごいな、ジェシー。
「L、私に声をかけてくれてありがとうございます!またあなたと仕事が出来て嬉しいです。その子の子守だとしても」
「子守って!私の方が年上なんだけど!」
「そうだったかしら?私より身長も低いし日本人って幼く見えるから忘れてたわ」
「え?幼く見える?嬉しい!」
「喜ぶところなの?変な子」
全然口を開かないエルやワタリさんを差し置いて、私とジェシーはリズム良く会話を続ける。ワタリさんが笑った。
「いつの間にそんなに仲良くなられたのですか。息のあった掛け合いですね」
「ははは…ジェシーには英語の講師をしてもらってるうちに結構プライベートな話もしてて」
「講師って言う程のことではないわ。ただの英語の話し相手よ」
「でもおかげで結構成長できたんです!」
ワタリさんは優しい笑みで頷いた。まるで子供たちを見てるような目だった。
日本に来て、更に久々にジェシーとも会えた私はかなりテンションが上がってしまう。
Lは仕事もあるのだというのに、私は完全に旅行気分。いや、修学旅行気分かも。
「やはり日本だとあなたは楽しそうです」
「ご、ごめんなさい、すっかり旅行気分で…」
「なぜ謝まるんですか。楽しそうなあなたが見たくて来てるんですどんどんはしゃいでください」
「そ、そう言われるとやりづらい…」
「子供のように楽しそうに笑うあなたは天使といいますかなんといいますか、その可愛さで私はキュン死にしそうですが幸せですので」
「エルキュン死になんてどこで覚えてきたの」
「どこでしょうね。結構前から知ってますよ」
また変な日本語覚えて…
呆れてる私をよそに、エルは微かに口角を上げてこちらを見ている。
そんな顔をされれば、私も顔が緩んでしまう。
もう見慣れた人の顔も、背景が違うだけでなんだか新鮮な見えてくるのはなぜなのだろう。
「ゆづきは弥などに会いに行く時も必ず一人にはならずジェシーに送り迎えしてもらってください」
「…はい」
「それ以外も少しなら出かけても構いません。私の推理力が落ちない程度の時間なら」
「…はい」
まるで子供のよう。しかし言い返せない。
ジェシーは運転しながら呆れたように言った。
「L、相変わらず心配性ですね。前例があるから仕方ないとは言え」
「ゆづきに何かあれば大変ですので」
「……」
諦めたほうがいいわね、と言うようにジェシーはミラー越しに私にアイコンタクトをした。サングラス越しの大きな目が不憫そうに細める。
うん、もう慣れてます。
「さあそろそろ着くわ。このマンションで過ごすのは初めてなんでしょう?」
「あ、うん、前回中を見ただけだから…」
「最上階とその下もLの所有物。イギリスと似た感じね」
ジェシーはそう言いながらハンドルを切る。すると窓から、見覚えのある大きな高層マンションが建っていた。
そここそが、私たちの滞在地となる場所だった。
「わあ、半年ぶりー!」
私は広いリビングに入ってすぐに深呼吸する。
こんなに立派な高級マンション、半年間誰にも住まわれる事なく過ぎてしまうとは。
勿体無いな〜
エルは特に感激する様子もなく、すぐにほぼ新品のソファに飛び乗った。
一足早く来ていたジェシーが色々準備してくれていたらしく、すでにパソコンや食料など必要な物は揃えてあった。
「ジェシー、色々揃えておいてくれてありがとう!」
「何か不足があったらごめんなさい。ワタリほど気が回らないと思うから」
確かにワタリさんの気遣いは異常と呼べるほど凄い。しかしキッチンやバスルームを覗く限り、さすがジェシーも素晴らしい。
彼女はワタリさんと同じようなフォロー役を仕事としてるんだよなぁ。
私はまだ一度も使ってないキッチンに立った。なぜ新しい場所とはこんなに心が躍るのだろうか。
ウキウキしながらエルのために紅茶を沸かす。
ジェシーは冷蔵庫を覗きながら私に聞いた。
「ゆづきは今から何を作るの?」
「え?ええっと…エル何かリクエストありますか?」
「和菓子をください」
「オーケー。」
ジェシーは冷蔵庫からケーキの箱を取り出す。お皿とフォークを準備してケーキをエルへ運ぶ。
「和菓子が出来るまでのつまみです。」
「…ありがとうございます」
そんな光景がなんだか私は微笑ましくてつい顔を綻ばせた。初めてジェシーと会った時はギスギスしていたのに、本当に嘘みたい。
私が半年前事件に巻き込まれた時も、彼女の働きが大きく貢献しているのを知っている。
感謝だなあ…
ワタリさんは持っていた鞄から何やら資料をエルに渡し、自らもパソコンを少し捜査したあと、帽子を被った。
「では私は少し仕事に出てきます。あとはよろしくお願いします」
「あ、…はいワタリさん…ちょっと待ってください!」
相変わらず多忙なワタリさんは座ることもなくもう出発するらしかった。私は慌てて冷蔵庫からペットボトルの水を取り出す。
「外は暑いですよ!車に乗ってるとは言え、水分補給はしっかりしてください」
ワタリさんは優しく笑った。
「ありがとうございます、気を付けます」
私から水を受け取ると、ワタリさんはすぐに部屋から出て行ってしまう。
もうワタリさんの働きぶりを長く見てきているけど、いまだに感嘆せずにはいられない。
…体大丈夫なんだろうか。
まあ今回はジェシーもいる。私の護衛と言ってはいるけど、ワタリさんの補佐もするはず。負担が軽くなればいいけどなぁ。
私はそんな事を考えながらキッチンで調理を開始する。
ジェシーはエルより少し離れたダイニングの机にパソコンを置いて作業を始めた。
「ゆづき」
エルの声が響く。
彼はパソコンを見つめたまま話す。
「お菓子を作って時間が出来たらジェシーと出かけてきて構いません。少しなら。買い物でも行ってきてはどうですか」
「え…」
「たまの息抜きです」
「そんな、エルは息抜きなんてしてないのに…」
「私はちゃんとしてますよ、あなたを抱けばス」
「分かりましたありがたく行ってきます」
目の前の調理中の料理から目を離さずに答える。第三者がいても、この人はお構いなしだ。恥じらいも何もあったもんじゃない。
「行きたい時声掛けて。私はあなたの付き添いをメインにこっちに呼ばれたんだから。あなたもたまには同じ女と買い物っていいんじゃない?」
「はっ!」
「なに?」
「わ、私お母さん以外の女の人と買い物初めて…!」
気がついた途端凄く楽しみになってきた。ジェシーはパソコンから顔を上げて呆れたように言う。
「あなた友達いないの?」
「えっと、うん、ほぼ。」
「私も女友達は少ないけど流石に買い物くらい行ったことあるわよ」
「はは…予知ある頃は、あんまり人と関わりたくなくて、地味に過ごしてたから」
私が言うと、ジェシーは一瞬目を丸くして、しかしすぐ伏せた。
「そう…」
「まあ、もう予知力もないのに全然増えないのは自分のせいなんだけど」
「大人になるとなかなか友達って増えないものよ、しょうがないわ」
「ふふ、ジェシーがなってくれたからいいの」
また彼女は目を丸くして顔を上げた。そしてすぐふっと笑う。
「さすがね。」
「え?」
「いいえ。」
ジェシーは微笑んだまま何も答えず、また仕事にもどる。
私は首を傾げながらも、また手元に視線を落としたのだった。