「…##NAME1##さん」

エルが呆れたようにこちらをみる。

「顔が、ものすごいことになってます、全部の筋肉が緩んでます」

はっとする。

あまりのワクワクさに、私は我を失っていたようだ。

「ご、ごめん、あまりに…!嬉しくて…!」

「まああなたが喜ぶとだろうと思ってこんな依頼うけたんですが」

エルはふっと小さく笑う。

私は一旦苺を置き、飾り途中のケーキも箱に入れて冷蔵庫に保管した。

そしてエルの正面に座る。

「その話…詳しく聞かせてください」

「喜ぶだろうなとは思いましたが想像を絶する食いつきようです」

「いや、だって現実にそんなことあるなんて…!」

私のホラー好き魂が燃え上がる。しかも今読んでた小説はまさにそんな内容だったし。何というタイムリー。

エルは自分の下唇を引っ張って遊びながら考えるようにして説明してくれる。

「ある古い洋館の廃墟には幽霊の目撃情報や恐怖体験の噂が絶えず…その洋館の持ち主はそれをどうしようか困っていたそうです。しかしそれは元々祖父から譲り受けた物で、絶対に取り壊しはするなとキツく言われていた…」

「くっ…完璧な始まり…!」

「そこでまずありがちですがお祓いや霊媒師に相談。事は済み、祖父の言いつけも守らずそのまま取り壊そうとしました。その持ち主の部下に一切の手続きを任せたのですが…」

「…うん」

「その部下が、廃墟の下見に行ったあと、行方不明になりました」

「……え」

え、途中までは小説を読むように楽しんでたけど、

…本当に人がいなくなってるの?

それは…さすがに面白がるのは不謹慎すぎる…

「ああ、それでエルに依頼が来たんだ、人探しってことで。幽霊屋敷の捜査なんておかしいと思った」

「そうです、正しくはコイルへの依頼です」

「なるほど」

「あと…あまり行方不明になってる事などを公にしたくない主からの依頼ですので」

「え?」

エルはそう言うと、いつの間に持っていたのか紙を一枚机に置いた。

「今回の依頼人です」

私はそれをぺらっとめくりみる。

「!」

「日本を長く離れてる##NAME1##さんも知ってるようですね」

「し、知ってるよ…おじいさんもお父さんも本人も。…有名な政治家じゃない…」

見たことある顔。あまり政治は詳しいとは言えない私ですら知ってはいる顔だった。

そうか、幽霊屋敷の持ち主であると、さらにそこに下見に行った部下が行方不明など…

マスコミにバレたら大事だろう。それで、守秘してくれそうなコイルへ依頼したのか…

「たまには面白そうなのでこんな依頼も受けてみました。生まれてこの方幽霊屋敷の捜査は初めてです」

「エルは幽霊なんて信じてるの?」

「信じてはいません。が…自分の目で死神など見てしまった私が幽霊はいない、と断言するのはあまりに愚かです」

…確かに。

死神、見ちゃったからなあ。

あれがあれば幽霊だっていたっておかしくない。

「まあ、いないと断言はしませんが自分の目で見なくては信じません。大概の心霊現象は大体説明がつきます。そのほとんどは…」

「ほとんどは…!?」

「『気のせい』です。」

「……」

そう言われれば、なんか何も言い返せないなぁ…

「いわゆるラップ音とは家鳴りの事ですし、偶然にも不幸が重なったりすると人は何か言い知れぬ恐怖を感じる。

女を見た、などとは幻覚、気のせい、見間違いです。少なくとも今は私はそう思っています。」

「まあねーエルが幽霊信じてるなんて思ってないよ私は」

「##NAME1##さんは信じてるんですよね?」

「絶対いる!とは思ってないよ、いるって考えた方が楽しいでしょ?」

「普通は恐怖心を感じないためいないって考えた方がいいと思う物ですが」

「まあ、私は映画とか本は好きだけど自分は体験はしたくないけどね。肝試しとかも嫌」

「なるほど。賢明な考えです。肝試しなど恐怖に埋もれると人の精神は簡単に破壊されますのでね」

「でも今回は仕事だから仕方なく…見るんだよね?!屋敷!」

「やはり見たいんですね」

呆れたように言うエルに、私はふふっと笑った。

「一週間ほど経ったら向かいます。またあなたの友人たちに連絡はしても構いません」

「わ、楽しみー!」

「あと。こちらにいるあなたの友人を連れて行きます」

きょとんとした。こっちにいる友人、とは…

エルは私を見る。

「ジェシーです」

「え!ジェシーを!?」

私は驚いて目を丸くした。半年前、彼女の研修として共に日本へ行ったけれど、それ以降は会えていないし、もう彼女を招き入れることはないと思っていた。

「せっかく日本に帰っても篭りきりではあなたが可哀想なので…かと言って一人の外出は持っての他…というわけであなたの護衛を主に呼びます」

「ごご護衛とは!!」

「ワタリも仕事がありますし。私やあなたの事を知ってる者に来て貰えばやりやすい」

私のためにジェシーを呼び寄せるのは何だか申し訳ない気がするけど…



いや、Lと働けるとなればどんな形でも彼女は喜ぶかも。

「すでに彼女にはワタリが連絡をとっています。喜んで来るそうです」

やはり。Lに強い尊敬の意を持ってる彼女ならそうなるだろう。

まあ、確かに私としてもちょっと日本を歩き回ったり買い物したりもしたいかもしれない。

忙しいワタリさんを付き合わせるのは申し訳ないし…

「分かりました!楽しみ!」

「私も楽しみです。またあなたが嫉妬してくれるのが」

エルをジロリと睨んだ。まだそんな前の話題を…忘れてって言ったのに…

「もうしません。ジェシーは友達になったもん」

「!もうないのですか」

「ないです。」

「誤算でした。それが私にとっての目的でしたのに」

エルはいじけるように爪を噛む。私はついそんなエルを見て笑った。





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