5
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あれ、ワタリさんとジェシーは?」
エルの元へ戻ると、彼は一人木の裏で蹲み込んでいた。
「車を取りに行きました。とりあえず今日は帰宅です、聴取も後日にするよう夜神さんに伝えました。あなたも限界でしょう」
ゆっくりとエルは立ち上がる。
「もうよいのですか、クラスメイトは」
「あ、うん。警察の人が来て、みんなの連絡先とか聞いてた。とりあえずみんなもヘロヘロだから解散なのかな」
「まあかなりの人数ですから聴取も大変でしょうからね」
エルはそういうと、ふと私の手元を見た。
「ずっと聞こうと思ってたのですが」
「え?」
「指輪、どうしたんですか」
言われて思い出す。カイドウの部屋に行く前に外したのだった。
私はポケットから取り出す。
「そうだった…人質立候補の時にこっそり外したの…なんとなく、ない方が連れて行ってもらえる気がして」
手のひらの指輪を眺めながら言うと、エルは呆れたように言った。
「…あなたは変なところで冷静すぎです」
「え、そうかな…無我夢中だったんだけど…」
「貸してください」
エルは私から指輪をそっと取ると、左手を優しく支えながら薬指に通した。
その行為がなんとなく恥ずかしくて、私はドキドキする。
ゆっくり指輪が通りいつも通りの位置にたどり着いた瞬間、エルは強く私を抱きしめた。
それは強い力で、驚いて言葉をなくす。
私の肩に顔を埋めながら、エルは小さく呟いた。
「…本当に心配しました……」
木の裏に隠れているとは言っても、少し出れば沢山の人々がいる。一瞬恥ずかしく思ったけれど、私は今日はその抱擁を止めなかった。
…そう。
色んな人に心配かけてしまったけど、分かっている。
世界で一番私の身を案じてくれるのは、エルだということを。
私はゆっくりそれを受け入れて抱きしめ返す。
「…ごめんなさい」
「あなたの強いところはとても魅力的ですが、今回ばかりはそれを恨みました」
「無謀でした…」
「正直狂ってしまった方が楽かと思いましたよ…」
「…でも、エルなら助けてくれると信じてたので…だから勇気も出ました…」
エルがゆっくり私から体を離す。しっかり両腕を握ったまま、私を見た。長い黒髪から黒い瞳が覗く。
「こんな無謀なことをしたあなたを叱りたいですが、今回ばかりはあなたからの情報がなくては私は非常に厳しかったです」
「え」
「時間も機材もなく部屋からも出れませんでしたので。あなたが助けたのですよ、クラスメイトも、私の事も」
エルの大きな黒い瞳が私をじっと見る。
「い、いや…たまたまカイドウが口を滑らせただけでラッキーだったから。結局はエルなしでは何も出来なかったし」
「光さんは相手の心に入り込む才能が秀で過ぎてます。弥の時もそうでした。ラッキーではないですよ、あなただからあれだけの言葉を引き出せたのです」
エルは再び私を抱きしめる。
「ですからお礼を言わねばなりません。光さん、ありがとうございました」
「…こっちこそ…ありがとうございました、エルがいなくちゃみんな死んでたよ」
エルの白い服をぎゅっと掴んだ。
「クラス会は残念でしたね」
「またやり直そうって」
「なんと。また私の苦悩が始まりますね」
「ふふ、口説いたりされなかったよ。みんな楽しく話しただけ。でもほんとーに、凄く楽しかった。」
「あなたを口説かないなど男たちの目は節穴ですか」
「口説いて欲しいのか欲しくないのかどっちなのよもう」
私はエルの胸の中で笑う。
「…確かに途中からは散々な展開だったけど。でも私、ほんとに幸せだなぁ」
ポツリと呟く。
「エルがいて、ワタリさんやジェシーがいて、日本には夜神さんたちやミサもいて、…昔のクラスメイトともやり直せた。私、毎日エルのそばにいてほんと幸せばかりだよ。こんなに幸せで大丈夫かな」
「あなたはまた…こんなところでも私を揺さぶるんですか。勘弁してください、歯止めが効かなくなりますよ」
困ったようにいうエルから体を離すと、私は彼に笑いかけた。
「だって本心ですから。どんな危機に陥っても助けてくれるスーパーなエルがいて、私は世界一の幸せ者です」
「言っておきますが世界一の座は譲りません。こんな私の隣にずっといてくれるあなたのおかげで私が世界一の幸せ者です」
「どこで張り合ってるんですか…」
呆れながら笑う私を見て、エルも優しく微笑む。
私だってね、譲れない。
毎日たくさんの愛情を貰って、愛する人の隣にいられる。
ちょっと(いやかなり)心配性な彼だけど、やっぱりこの人が一番好き。
どんなありふれた日常ですら、幸せに陥る。
「愛しています、光さん」
「…はい」
エルはそっと私にキスを落とした。人が近くにいる時のキスなんて許した事ないけど、今日だけは私は素直に目を閉じた。
木陰に隠れた忍びのキスは、いつもよりなんだかドキドキした。
それから数日経ち、私は松田さんに言われるようにあの日の事を詳しく事情聴取された。
エルのことは伏せながら話さなくてはならないのでやや緊張したが、相手は夜神さんや相沢さんだったので安心した。恐らく彼らが気を遣ってそうしてくれたのだろう。
世間は前代未聞のテロ事件の報道で賑わった。どうやらエルが起こした爆発は本当に誤爆という扱いになっていた。
奇跡の救出劇、というように報道されていたが、みんな知らない。
そこにはたった一人の天才の力が働いていたことを。
いつものマンションで先日あった事件の事も考えずまったり過ごしていた頃、ワタリさんの元へ夜神さんから連絡が入った。
エルへ繋いでくれ、という依頼をうけエルが電話に出る。
私はエルの隣で読書をしている時だった。珍しく手を出した恋愛小説なのだが、いまいちハマりきれなくて自分の乙女心を呪っていた時。
エルの目が座った。
「無理です」
キッパリと述べた。私は顔を上げてエルを見る。
「いくらなんでも危険すぎます。こちらになんのメリットもない」
電話口から微かに夜神さんの声が聞こえる。眉を潜めてエルはちらりと私を見た。
…え、なに、私?
エルははあと息をつき、ゆっくり私に電話を差し出した。
「…夜神さんからです。一応当人であるあなたと話さなくては、と」
「??」
私は言われるまま電話を受け取って耳に当てる。夜神さんの声が聞こえた。
『ゆづきか?』
「はい!夜神さん、お疲れ様です!」
『突然すまない』
「いえ、どうしました?何かあったんですね?」
夜神さんは言いにくそうに口をつぐんだ。しかしすぐに少し低い声を出す。
『一応上からの指示なので連絡したが、断ってくれていい』
「はあ」
『事件が終わり捕らえたソマディアたちの取り調べをずっと行なっている最中なんだが』
「ああ、そうですよねお疲れ様です」
『…カイドウが、君を連れてこいと言うんだ』
ぎょっとして、一旦電話を耳から話してしまった。
なんて言ったの??私を?
なんで??
混乱しつつも慌ててまた電話を耳に当てる。
『今回の首謀者であるヤツからは色々聞きたい事があるんだが、黙秘して何も口を割らなくてな…君と少し会わせれば吐くと言ってるんだ』
「…ええ」
『今回君はLの協力者とは伏せていて、ただの一般人となっている。それで上の者が君の協力を仰げと言ってきて、申し訳ないが連絡したまでだ。』
目出し帽から見える三白眼を思い出す。
私は携帯を持ちながら隣のエルを見た。
彼は鋭い目で私を見て首を振った。
「行く必要はありません。危険です」
「でも…警察内なら危険は大丈夫なんじゃ」
「あなたに行くメリットは何一つありませんよ」
そうだけど。
私はじっと考え込む。
ボスを助け出そうとして今回の大事件を企んだ男。情も慈悲もなくていつも人を馬鹿にしたような態度の男。
…それでも、と私は思う。
どこか時々感じられる人間らしさがひどく気になった。
人生に絶望したような、それで神に縋った彼がどんな人生を歩んできたのか。
「…エル」
「いけません。」
「私ももう一度、会ってみたいの」
私が言うと、彼は呆れたように上を見た。
「お願いします。一度だけ。」
私が電話を当てたまま彼に言うと、エルはしばらく黙り込んだ。夜神さんも聞こえているのか、何も言わずに待っている。
エルはゆっくり手を伸ばして紅茶を啜ると、諦めたように言った。
「こういう時あなたは言っても聞きませんからね」
「エル…」
「弥の監禁の時もそうだったでしょう。」
「ありがとう!」
私は笑顔で返すと、電話口に告げた。
「夜神さん。聞こえましたか?竜崎の許可も下りたので行きます」
『し、しかし君は大丈夫なのか?』
「ええ、私ももう一度話してみたいんです」
『…感謝する。話すときは勿論私か相沢を同席させる。安全は保証する』
「はい」
『松田を迎えにいかせる。待っていてくれ』
私は具体的な時間を彼と約束すると、電話を切ってワタリさんに返す。近くでジェシーも呆れたように言った。
「なんでわざわざあんなのに会いに行くの?」
「もう少しだけ話してみたくて」
「光ってほんと時々変よ。読めないわ」
肩をすくめて言うジェシーに笑いかける。携帯をしまったワタリさんは言った。
「しかし、光さんらしいかと。きっとあなたはそう言うだろうと思いましたよ」
優しく下がった目尻が私を見る。
「ちょっとだけ…気になるので」
あの部屋の中の出来事を思い出しながら、私は松田さんの迎えを待った。
車で迎えにきてくれたのは松田さんに、模木さんもいた。
心配するエルを宥めて車に乗り込み、(付いてくると言って聞かなかったのを何とか止めた)私はマンションを後にした。
そういえば松田さんの運転なんて初めてだなぁ、なんて思いながら揺られる。
「大丈夫?ゆづきちゃん」
心配そうに松田さんが言う。私は後部座席から笑いかけた。
「大丈夫ですよ。カイドウが私にどんな話があるのかは知りませんけど、警察のお役に立てるなら」
「さすが度胸あるな…君がカイドウの部屋に行った経緯を聞いて驚いたよ。警察内でもしばらく話題になったくらいだ」
助手席で模木さんが感心したように言う。
「いえ。あれは無我夢中で…他のメンバーは特に問題ないんですか?」
「ああ、意外と簡単に口を割って拍子抜けなくらいだ。おかげで土井みさがボスだということも明確になったしな。ただ今回の計画の全貌はすべてカイドウが練ったらしい。そこに土井みさの思惑があったかどうかは重要なんだ」
「つまりは本当の首謀者が土井みさかもしれない、ということですね?」
「ああ。そこはカイドウから割らせないと分からないんだが…」
なぜかそこに私の名前が出てきた、というわけか。
怨みだろうか。やはり今回の計画を台無しにされたのはエルの存在だが、私とエルが繋がりがあると感づいてるのだろうか。
「こういうことはあまり漏らしちゃいけないけど…ゆづきちゃんだから」
松田さんはハンドルを握ったまま言う。
「カイドウは、子供の頃両親から酷い虐待を受けてて、あと少しで死ぬかもって時に保護されたんだ。食事も貰えず暴力をうけて…。けれど保護された後も施設であまりいい人生は送ってない。施設を出た後就職したけど人とは関わらないよう過ごしてきたと仕事仲間から証言がある。どうやら、今までも苛めだったり…色々あったみたい」
「……」
「どこで出会ったかは分からないけど土井みさに心酔して、まあ一種の宗教だからね…ソマディアの幹部として君臨してたみたいだ」
「悲しい人なんですね…」
ゆっくりと流れる窓の外を見る。
全ての人間を滅ぼしたいと言っていた言葉を思い出す。
それほどまでに憎んでたんだ…周りの人たちを。
「会うのはアクリル板越しだし、勿論警察も付き添う。監視カメラで外からも監視するつもりだし、よっぽどゆづきさんに危害は及ばないはずだ」
「ええ大丈夫です」
「嫌になったらすぐ言ってくれ。こんなことに付き合わせて申し訳ない。なんせ前代未聞のテロ事件だからな。上も少しでも情報を欲しがってて」
「そうですよねぇ…」
不思議と緊張も何もなかった。
悲しい人生を送ってきた彼がどんな話をするのか、むしろ私はとても気になっていた。
