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それからしばらくして、夜神さんたちの計らいもあり私たちはこっそり外へと出られた。
どうやら屋上での確保も無事済んだようだった。かなりパニックになっていたソマディアたちは油断していて空きだらけ、怪我人などもなく確保は済んだらしい。その報告を夜神さんから聞いて私たちはほっと胸を撫で下ろした。
その後もホテルに残ったメンバーがいないか細心の注意を払いつつ警察たちは中を練り歩き、同時に客室の人質解放もされた。
外の空気がとてつもなく美味しく感じた。ホテルの前には沢山のパトカーや救急車、離れたところにはテレビ局まで来てるようで、私たちはそれの目から逃れるように人目のつかない傍に逸れた。
ホテルを囲うようにして植えてある木々の裏で、ふうと息をつく。
すでに夕方、まだ明るいものの明るさには陰りが出ている。
…長い一日だった。
木の陰からそびえ立つ高いホテルを見上げる。エルが言うように、4階のみ停電したように暗い。被害もなく爆破は成功したようだ。
高級な有名ホテル、ここであんなことがあったなんて、なんだか夢みたい。
そこまで来てようやく脱力する。終わったんだ、と自覚できた。
「大丈夫?光」
ジェシーが私の顔を覗き込んだ。私は何とか笑顔を作る。
「うん、なんとかね」
「さすがに疲れたでしょ、当たり前よ。車に乗りましょう、今日はとりあえず帰って…」
ジェシーが言いかけた時だった。
「ゆづきちゃん!!」
少し離れたところからそんな声が聞こえて、私達は振り返る。
そこにはとんでもない顔でこちらに駆け寄る、
「松田さん!」
松田さんだった。
彼は今にも泣き出しそうな顔で走ってくると、おもむろに私を抱きしめた。
「わっ!」
「よかったぁー!!カイドウの部屋にいるって竜崎から聞いてっ…生きた心地がしなかったよー!」
強い力で抱きしめられ、いつだかキラ捜査本部が解散する時を思い出す。
でもあの頃よりずっと力が強くて、私はつい心臓が高鳴った。
「あ、ありがとうございます松田さん…」
「無事でなによ…うぉえっ」
松田さんの苦しそうな声が聞こえて彼が離れる。見ればエルが目を見開いて彼の襟を掴み上げていた。
「いい度胸です…一度とならぬ二度までも、ゆづきを私の前で抱きしめるなど」
「り。竜崎!」
「よほど死にたいんですね」
無表情で目を見開いて松田さんを見下す。
怖いよ!私は慌てて彼を宥める。
「り、竜崎!心配してくれてたんだよ!ほら松田さん離して!」
急いでエルの手を解く。苦しそうに松田さんは咳をした。
「く、苦しいですよ…。僕も今日頑張ったんですよ、優しくしてください…」
「なにを頑張ったのですかあなた」
「だって!テロリストから名指しで恨みあるとか言われて!心臓潰れるかと思いましたよ!周りからは何か冷たい目で見られるし…」
わっと嘆くその姿がなんだか懐かしい。彼は2年前からあまり変わらない。私はつい微笑んだ。
松田さんはばっと顔を起こす。
「それに!4人の情報も頑張って調べて…!あれ役立ったんでしょう!?あの中にほんとのボスが居たらしいじゃないですか!」
「今回はあなたからの情報は何一つ使いませんでした」
「…へ」
「結局は名前だけで分かったので」
そんな!と言わんばかりに松田さんが項垂れる。申し訳ないけど、そんな姿に私は笑う。
彼は本当に変わらないなぁ。それがとてつもなく嬉しい。
それに、そうだね。
いろんな人達の努力があって、私たちは助かったんだ。目には見えない人たちの努力が積み重なって今がある。
「ありがとうございます、松田さん」
「え?」
「みんながやったことは無駄じゃないですよ。心配かけてすみませんでした。びっくりしましたよね、名指しでされた時は。」
「ゆづきちゃん…」
「みなさんがたくさん動いてくれたから助かりました。ありがとうございました」
松田さんは眉を垂らして微笑んだ。
「まあ。僕はほんと何もしてないからね。結局は竜崎ありきでさ。みんな無事ならよかったよ」
「…はい」
「さ!やる事が山なんだ!行かなきゃ!」
「あ、お疲れ様です!」
「そうだ、カイドウの部屋にいたってことで、今回はゆづきちゃんも色々形式上聞かなきゃいけないから…また後日ね。ゆづきちゃんを特別扱いしたら、竜崎との関係もバレちゃうからさ」
「あ、そうですね。大丈夫です、分かってます」
「またメールするね、ゆっくりご飯行こう!」
松田さんはそう明るく笑うと、手を振って人混みの中へ入っていってしまった。
嵐のような騒がしが懐かしい。私は目を細めて彼の後ろ姿を見ていた。
でもそうか。聴取もそりゃあるよね。
Lもここに滞在してるって言ったらしいけど、誰かまではバレてないんだし、私は一般人のフリをしなくては。
そう考えながら松田さんを見送っているとふと、その彼の行き先に、見覚えのある顔を見つける。
顔を手で覆っている遠藤さんだと、すぐにわかった。
「あ…」
「どうしました」
「ごめんねエル、私ちょっといい?あそこ」
指を指しただけで彼は察したようだ。ああ、といい小さく頷く。
「どうぞいってきてください。ここで待ってます。」
「ありがとう!」
私はそうエルに告げると、急ぎ足でそこへ向かった。
遠目からも分かるくらい鼻を真っ赤にしてる遠藤さんを、吉沢くんや村井さんが慰めていた。周りに集まってるクラスメイトたちも心配そうにそれを見ている。
警察の人らしき人も困ったように頭をかいている。まだ情報が錯綜して、私の無事も上手く伝わってないのだろうと思った。
胸が痛んだ。しまった。ずいぶん心配掛けてしまった。
彼女からすれば、自分のせいで人が拐われたと思ってるに違いない。
綺麗な髪は乱れ、マスカラの溶けた黒い涙で頬を汚す遠藤さんに眉を潜めながら、私は近づく。
「大丈夫だって…みんな捕まったらしいし」
「そうだよ、きっと無事に…」
吉沢くんと村井さんの声が聞こえた時、私は声を掛けた。
「遠藤さん」
遠藤さんを見ていたクラスメイトがはっとした顔でこちらを振り返った。そのたくさんの目に、ちょっとたじろぐ。
みんな唖然とし、遠藤さんは目も口もまんまるにして私を見た。
苦笑して言う。
「ごめんね、心配かけました」
「あ…いかわさああん!」
わっと遠藤さんがまた泣きながら私に抱きついてきた。かなり強い力でついよろめく。今日は随分人に抱きつかれる日だなと思いながら、私はなんだか嬉しくてその小さな体を抱きしめた。
わあわあと泣きながら私に抱きつく遠藤さんに続いて、クラスメイトたちがまたたくまに私を囲む。
吉沢くんが泣きそうに眉を垂らして笑顔を作った。
「藍川!…無事だったんだ!」
「うん、大丈夫。心配かけてごめんね」
「藍川さん謝る事ないよ!私のせいだよ!」
遠藤さんが顔を上げる。せっかくの美少女が台無しになるくらい、彼女は顔をぐちゃぐちゃにしていた。
「わた、私の身代わりでさっ…」
「身代わりじゃないよ。自分から望んだの」
「な、なんかされてない?酷いことされてない!?」
「よく見て。本当に何もされてないの。逃走する時の人質にされる予定だったけど、警察に捕まったから無事保護されました」
クラスメイトたちは口々に喜びの言葉を言った。それがとても嬉しくて、私はつい顔を綻ばせる。
吉沢くんが頭を下げた。
「でも…ほんとごめん。俺が選んだ場所でさ…」
「本当に謝らないで吉沢くん。吉沢くんのせいじゃないよ」
そうだよ、と今度はみんな吉沢くんを励ます。それでも彼は不憫になるくらい意気消沈していた。
遠藤さんはようやく私から離れて顔を拭った。
「うんうん、テロは巧のせいじゃないんだよ」
吉沢くんが悲しげに少し微笑む。私はそんな彼をまっすぐ見た。
「…吉沢くん、今日は本当にありがとう」
「えっ」
「私、最高に楽しかったから。予想外のことは起きたけど、クラス会、楽しすぎて死んじゃいそうだった。」
心から思う。
私の長年の呪縛を解き放ってくれた。
みんな笑顔で話してくれた。
少しだけ、過去を乗り越えられたから。
「みんなに会えてよかった」
私がいうと、周りはぐっと息を飲み、そうだねと同意した。
吉沢くんを見ると、少し微笑んで、彼の頬には小さなえくぼが出来ていた。
吉沢くんも、遠藤さんも。
みんなも、なんて素敵な人なんだろうと思えた。
カイドウの言葉を思い出す。人は自分のことでいっぱいで、人を蹴落とすばかりだと言っていた。
…そんなことない。私はやっぱり、断言できる。
この世には人のために泣ける人たちが沢山いる。そしてそんな人たちに囲まれた私は本当に幸せ者だと思った。
未来は見えない。それでいい。
明日はどうなるか分からない日々を、幸せに生きていきたい。
「…ありがとう藍川」
「だから私のセリフだよ」
「よし。また同窓会はやり直すぞ、今度こそ笑顔で締めくくれるようにやり直そう!」
決意したように吉沢くんは凛とした顔で言った。周りの人たちもわっと同意する。
遠藤さんが私の手をとった。
「藍川さんも絶対参加ね!本当に今日はありがとうね!」
「うん、また会えるの楽しみにしてる」
「ほんとに…みんな無事でよかった!」
溢れる笑みでみんなが包まれる。そこにふと、吉沢くんが腕を組んで言った。
「しかし…あの爆発なんだったんだ?あれが起きてテロリストたちは慌てたけど…」
「さ、さあ…誤爆したんじゃない…」
「ふーん?なんか上手く言えないけど、不思議だよなー。どっかで大きい力が働いてる気がする」
なかなか感の鋭い吉沢くん。
そうなんですよ。
一人一人のクラスメイトの顔を見渡して思う。
…たった一人の力で、私たちは救われたんですよ。
