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今すぐ愛しい人のもとへ行きたかった。
居場所はわかっている。行こうと思えば何とかそこまでなら辿り着くことは可能だと思う。
しかしそれで彼女を救出したところでどうする。
爆破前に脱出できるか。もし出来たとしても。彼女が身代わりにまでなった大事な友人に何かあれば、心に深い傷を負うことは目に見えている。
まだ私は動いてはならない。Lは強く爪を噛んだ。
もどかしさで心が引き裂かれそうな中なんとか冷静に自分を沈める。
「L、松田さんからです」
ジェシーが言いLは反応した。
『竜崎!』
相変わらず半泣き状態の松田は昔から変わらない。
『まずは今回解放の指示があった4人の情報を送りました!』
「あなたはその4名覚えていますか」
『覚えてますよ勿論!でもその、特別抵抗したとかそういうのは全然ないです。
最近出所した者たちも分かったものから送りましたが、正直時間かかりそうです。こっちも現場に駆り出されて人手が無くて…』
松田が悔しそうに言う。Lは口を結んだまま少し考える。
状況が状況だ。確かに警察も手が足りないだろう。
「カイドウの恨みについては」
『…ああ正直分かりません…』
彼の戸惑った表情が目に浮かぶ。
「でしょうね」
『え?どういう意味ですか?』
Lはふうと息を吐くと、自分の感を信じることにした。
「その4名についてはどんな小さな情報でもいいので調べて送ってください、こちらも調べます。出所してきた者たちより、こちらを優先させて」
『えっ…この4人の方をですか?ソマディアと関係有るんですか?』
「それを調べるんですよ。お願いします」
『あああの!ゆづきちゃん無事なんですか?…僕のせいなんでしょうか』
「彼女は今のところ無事です盗聴してるので間違いないです。自分のせいだとか自責の念を感じる暇はないです、とにかく動いてください。」
Lはそれだけ言うと、電話を切った。それを置こうとしてすぐに思い立ち、夜神の元へ声を掛けた。
「夜神さん、犯人たちの要求の準備は進んでいますか」
電話口から戸惑ったような声が聞こえてくる。
『長官からも達が来て、今準備を進めてはいるが…正直2時間ではかなり厳しい』
「4人の解放は」
『一応手筈は進めている。4人ともを護送してくるつもりだが…しかし竜崎、テロリストの要求を飲むなど…』
「いいですか、私もこのまま素直にどうぞと差し出すつもりはありません。とりあえず危惧するは、人質たちの無事です。警察が要求の準備を何も進めていないとなれば見せしめに人質を撃ち殺すかもしれません。
ソマディアのメンバー全てがここにいるとは限らないのです。外にスパイがいて警察の動きをカイドウに連絡していれば、警察の動きは向こうに筒抜けなのですよ」
『た、確かに…』
「言い忘れてましたがゆづきは今カイドウのいる部屋に一人人質になっています」
電話口の夜神が息をのんだ。
『なっ…ど、…』
「経過は時間が勿体ないので省きます。とにかく警察はとりあえず素直にやつらの要求を準備すること、解放される4人について調べ抜くこと、これを心がけてください。4人については、護送中などの表情や仕草細かく観察できるよう監視を」
『しかしその4人は関係…あ、竜崎!通信がきた!』
夜神が慌てて動く様子が聞こえる。Lは電話を持ったまま、ジェシーとワタリに松田から届いたファイルの4名について調べるよう伝える。
時計を見れば、すでに初めの交渉から40分経っていた。
時間がない。Lは強く睨む。
カイドウと交渉人の声が響いてきた。
『伊藤です、カイドウさんですか』
『要求のものはどうなってる』
『今準備は全力で進めています。が…やはりほんの少し時間が厳しいのです。少しでいいので余裕をもらえないか』
『断わる』
『人質の人数が多くそちらも手を焼いているのでは?子供たちとその親だけでも解放するのはどうかな』
『断わる』
『警察の松田には何の恨みが?』
『言う必要ない。下手な時間稼ぎはもういいか』
『要求は必ず揃えます。こちらの要求は人質の無事』
『また連絡する。解放する4人は特に急げ。言い忘れていたがジェット機に下手な仕掛けはするな。こちらは一般人の人質を一人連れて行く』
『話が違う、こちらは要求をのむんだ、人質全ての無事をま』
そこで通信が切れた。
Lは一旦眉を潜めて電話を置いた。
まあ、テロリストのボスが出した条件を覆したり甘くしたすることは考えられない。
改めて松田が送ってきた4人の犯罪者たちのデータを開く。
新井ともや 36歳 振り込め詐欺を数十件実行、金を引き落とそうとした現行犯で逮捕(前科あり)
土井みさ 42歳 結婚詐欺師。幾度となく詐欺を繰り返し金銭を騙し取る。明確な物だけでも5件。
村田慶 23歳 強盗罪。コンビニエンスストアに強盗で押し入る。逃走途中に駆けつけた警官により逮捕(前科なし)
天堂清 68歳 窃盗罪。空き巣のプロ、繰り返し実行していた経歴あり。
Lは少し首を傾げた。
ワタリが声を掛けてくる。
「L、4名とも罪については認めており裁判も非常にスムーズです。冤罪の可能性は低いかと」
その他も松田が送ってきた情報に素早く目を通す。
Lは初めからずっと不審に思っていた。この4人の解放を。
「その4人が何か関係が?」
ジェシーがパソコンから目を離さずに尋ねる。
「あまりに不自然です」
「不自然?」
「松田さんに恨みがある、とまでを事実だとして。だからと言って彼が捕らえた犯人たちの解放を復讐として選ぶとは」
確かに警察が買った恨みのせいで犯罪者が世の中に放たれたとなれば、世間から顰蹙を買うだろうし、松田自身自分を責めるだろう。精神的に追い詰める方法にはなるが。
…が、あまりに遠回りすぎないか。
「松田さんに本当に恨みがあるとして、こんな回りくどい復讐方法は不自然極まりない。彼の親しい者を攻撃するとか、そちらの方が自然でしょう?ここ2年の間という限定も気になります」
「確かに…」
「ともなれば。発想を逆転させて…」
「元々この犯人たちの解放が目的だった、という事ですね?」
Lはうなずいた。松田への恨みなど後から付け足した言い訳に過ぎない。つまりはカモフラージュだ。
「この4名の中に、ソマディアの一員がいるということですか?」
「そうなります。」
「しかしそれはそれで周りくどいのでは?あえて松田さんへの恨みだとかの言い訳を並べる必要がどこに?」
Lは思い出したようにチョコレートを口に頬張った。甘味もあまり感じない状況。
「よほど大事な人なのでは」
「…え?」
「ソマディアとの関連を疑わせず解放したかったのでしょう。このまま解放され逃亡したとして、またどこかで逮捕される可能性は非常に高い。そんな時、『テロリストに突然指名され、逃亡すら脅されてやった』となればかなりの減刑が期待できます。」
「なるほど…」
「なのでこの4名の中にキーパーソンがいると思うのですが…ソマディア自体ワタリが調べた時に情報がない組織。関わりを突き止められるか…」
時間がない。
「もし関わりが分かれば、こちらからカイドウに交渉を持ちかける重要なキーになるのですが」
Lは未だパソコンを眺めながら呟いた。
しかし、振り込め詐欺に結婚詐欺、窃盗、空き巣。テロリストの思考がある者とは容易に結びつけれない。
例えば不謹慎だが、通り魔やテロ行為などの罪で捕えられていればわかりやすいのだが。
…だがしかし。カイドウがここまで周りくどくしながらも救おうとしてる相手…
ただの仲間とは思えないが…
仲間ではなく、家族?はたまた恋人か?
「…とにかくこの4人を洗い続けてください。」
また時計を眺めた。
やはり時間がない。情報も足りない。
いつも隣にいて私の力を引き出してくれる人が、いない。
機械越しに聞こえる彼女の声は、Lの心を揺さぶった。
「順調だ」
カイドウは満足げに言う。見張りの男も嬉しそうに頷いた。
警察との通信を終え、カイドウはまたワインをあおった。
「まあこれほどの人質を取られれば、とりあえずは要求をのむしかやつらに道はない。時間が厳しいとか言ってたがなんとかするだろう」
彼の空のグラスにまたアルコールをつぐ。
このままもし彼らに連れられジェット機に乗せられたら、私はどうなるのだろう。
エルが何とかして爆弾を止めてくれればそれでも構わないと思った。私の救出など、後回しでいい。
それが死ぬより辛い目に遭うとしても、大切な人を全て失うよりはマシだと思っている。
「警察が屋上にジェット機を用意したら、まず仲間が中を事細かに調べる。異常なければお前も共に乗り込む」
「乗った後、私はどうなるんですか」
「さあ、どうするか…使いまわして捨ててもいいな、またどっかで人質を捕まえればいい」
面白おかしく言ったカイドウが私を怯えさせようと言ってると分かった。私は彼を強く睨む。
「凄い目だな」
「今この場で睨む以外どうすればいいんですか」
「泣き喚くのが普通だろ。普通の女ならな」
「現実離れすると涙って出てこないんです」
「だからと言って俺を睨むか?とことん変わった女だ。立場分かってんのか?」
「睨んでも睨まなくても私の運命は変わらないでしょう?」
カイドウは机に両腕をのせると、ずいっと私に顔を突き出した。
「お前、死のうとしたことはあるか」
「あります。二度。」
私が表情も変えずに答えると、男は意外そうに目を丸くした。
「予想外の答えだ。どんな時だ」
「大事な人を、亡くした時です」
実際は、エルに関してはなくしそうになった、が相応しいが。
…もしエルがあの時ノートに名前を書いていたら、私は間違いなく彼を追ったから。
カイドウは何も言わなかった。ただ私を見ている。
「あなたにはいますか?大事な人。大事にしてくれる人」
「おいおい、お涙頂戴か?」
「いいえ、単に気になるんです。神の声が聞こえても、その声すら振り払いたくなるほど大切な人はいなかったのかって」
真顔で私を見ている。
じっと覗く三白眼はどこか揺れているように見える。
「俺にとっては神こそが一番大事な存在だ」
幻聴が聞こえる者の気持ちなんて分からない。ましてやそれで人を殺そうとするような気持ちも。
「だが他に興味を持った人間はお前くらいだ。お前みたいな女は初めて会った」
「………」
「くだらん人間ばかりだ、この世は。みな自分が一番で小さなプライドを抱きながら他者を蹴り落とすのに必死だ。うんざりする」
「あなたは蹴り落とされたの?」
私が言った途端、カイドウは初めて目を吊り上げた。
「…言葉を慎め」
「人を蹴り落とす人間もいるけど、それはその人が不幸せだからですよ。幸福があれば、人は誰かを蹴り落とすような事はしない。」
「調子に乗るな。ここで撃ち殺してもいいんだぞ」
「調子になんて…あなたの思想がひどく気になるんです。あなたと、あなたの神様の思想が」
カイドウは黙ってグラスに残ったわずかな酒を飲んだ。私を撃ち殺そうとはしなかった。
それ以上彼は何も答えなかったし、私も追求はしなかった。
この人は、思ったより人間らしい人なのかもしれないと思った。
やってる事は非人道的で許される事ではなくて、それでも垣間見える彼のこの世界への恨みと絶望が感じられる。一体何が彼をこうしたのだろう。どんな人生を送ってきたのだろうか。
彼を救ったのが、神、だったんだろう。
彼が生み出したたった一人の彼の味方。
「とことん気に食わない女だ」
カイドウが呆れたように呟く。
「だがこの待ち時間の余興にはいい。普通の馬鹿な女じゃ興醒めだ」
「わ、私も普通の女ですけど」
「テロリストの人質になりながら堂々としてる女のどこが普通だ、笑わせるな」
ふんと鼻で笑われる。堂々としてるつもりはないんだけど…私って無自覚だけどよっぽど図々しくなったんだろうか?
「まあ空に飛べば流石のお前も泣くだろ」
「そうかもしれませんね」
「お前がどんな顔で泣くのか楽しみだ。」
「………」
「ビールにする。これは冷めたから新しいのを冷蔵庫から取ってこい」
私は言われるまま立ち上がった。
部屋にある冷蔵庫に向かう。ちらりと時計を見れば、もう1時間経っていた。
軽くため息を付くと、冷蔵庫の扉を開く。いくつか並んである酒の中からビールを取り出す。
が、それが私の手から滑り落ちた。コロコロと部屋の中を転がっていく。
私は反射的にそれを追いかけた。その瞬間、目の前に現れた足が転がる缶ビールを強く踏みつけた。
缶は脆くも音を立てて潰れた。中身のビールが溢れ出てカーペットを濡らす。
私は見上げた。
カイドウが私を見下ろしていた。
「おいおい、気をつけてくれよ」
「あ、すみません…」
「ちょっとした衝撃でも命取りだ」
口角を上げながらそう言ったやつの顔を見てはっとする。
私はしゃがみ込んだまま停止した。
ビールを踏みつぶしたカイドウの背後には、大きなスーツケースが寝そべっている。
よくある銀色のただのスーツケースだ。
それをじっと見つめ、私は初めて自分の皮膚に汗が滲んだのを自覚する。
まさか、そんな。
「……それ、が…?」
声が掠れた。カイドウは面白そうに私を笑って見ている。
「…それが爆発物なんですか?この部屋に?」
「今回の主役だ。俺が見守るのが当然だろう」
カイドウはそう言って再び椅子に近づき腰掛けた。
私は引き付けられるようにスーツケースを見つめた。
これが。
まさか、こんな近くに。
「おいビール」
言われてハッとする。私は慌てて立ち上がり、冷蔵庫から冷えたビールとグラスを取り出して開けた。
カイドウの前で注ぐも、その手は少しだけ震えていた。
「はは、さすがにビビったか」
「…そりゃ…」
「時限式だ。時間になれば勝手に吹き飛ぶ。警察が要求に答えなきゃ俺もお前も終わりだな。まあ警察はよほど要求を揃えるとは思うが」
「…止めるには?」
「おーおー、止める気か?」
カイドウはまた大きく笑う。
「まあ爆弾処理班がここに時間内に何とか入り込んだとして。あれは普通とは少し違う」
「というと?」
「あのスーツケースは暗証番号で開くようになってる。4桁の数字だ。中の物と連動してる。無理にこじ開ければその場で時刻関係なく爆発。暗証番号も二度入力ミスすれば飛ぶ」
「その暗証番号を知らなければ、処理すら出来ないという事ですか」
「そうだ。暗証番号でケースを開けて、初めて爆弾処理が出来る。まあ時間があれば暗証番号も何らかの方法で突破できるかもしれんが、限られた時間じゃ厳しいだろうなぁ」
面白そうに笑う男に殴りかかりたい衝動を必死に堪えて、私は拳を握った。
ビールを喉を鳴らして飲み、なおもカイドウは続ける。
「止めて欲しいか、あれを」
「止めてください」
「するわけないだろ馬鹿め。」
「何があってもですか」
「何があってもだ。強いて言うなら神が止めろと言ったら止める。
もうすぐだ。もうすぐで、全てが上手く行く。」
目を閉じて深呼吸する。
今エルが何を考えてどう動いてるのか分からないけど、この状況で私たちに勝機などあるんだろうか。
エルを信じてるけど、流石に焦りが出てくる。
…ううん
エルだもの。絶対、どうにかしてくれる。
私はどんな時でも彼を信じ抜くって決めたんだから。
「お前が実は爆弾処理できる特殊な女だったら立場が逆転できるかもな」
「できませんよそんなこと。それに処理出来たとしても暗証番号が分からないと開けれないんでしょ?」
「お前なら何にする。この暗証番号」
からかうように私に言った。
私はふっと目を細める。
「…ハロウィン、ですかね」
「はあ?」
「大事な人の誕生日です」
ソファに座って紅茶を飲む姿を思い浮かべる。
あなたの隣にまた行きたい、そう願いながら。
カイドウの目を見た。やつはビールを飲んで笑いながら小さく頷く。
「なるほど」
残りのビールを大きくあおいで飲むと、強くグラスを机に置いた。
「奇遇だな。俺も、誕生日だ」
はっと目を見開く。
「…誕生日?」
「ああ。このソマディアで一番重要な数字だ。ソマディアを生み出した人間の誕生日は妥当だろ」
「組織を生み出したって…あなたの誕生日?」
普通に考えて、組織を作ったのはボスであるこの男だ。
この男の誕生日が、爆弾を止める鍵となる??
私は目を丸くしたまま男を見た。カイドウはにやりと笑って何も答えない。
「まあ、お前たちにとっては不吉な数字だろうな」
そう笑う男の顔は相変わらず布で覆われて見えない。
でも、一体。
…この男は一体「誰」なのか。
エルは分かってるんだろうか、カイドウの身元を。
この男の誕生日を。
カイドウは微笑んだまま私を見ていた。
