私は気分を上げたまま周りを見渡す。

「エ…竜崎、何か飲みたいのある?」

「そうですね、私は基本紅茶は何でも好きですが…」

「わ、これ凄くいい香り〜」

紅茶のわりに値段は貧乏人の私からすればとんでもなく高いけど、これはエルが仕事中飲むものだしケチるところではない。

私がウキウキしながら見ていると、奥から上品な女性が現れた。

「 What can I do for you?」

声をかけられ、私はすぐに英語で返した。

「おすすめの茶葉はどれですか?」

店員はにこやかに笑う。こういうちゃんとした店の人は、エルを見ても驚くそぶりはない。

彼女はいくつか候補を上げた。

私も笑顔でそれに応える。

彼女はその場で試飲もさせてくれた。

エルも次々嗜む。

どれも香りよく、甘いものからさっぱりしたものまで幅広くある。

エルと一緒にいることでいつのまにか紅茶マニアになった私は舌鼓を打つ。

あれ、これ、とエルと選びながら試飲するのはとても楽しい。

「竜崎、どれも美味しい〜」

「では、すべてください」

けろっと彼は言う。…いつものことだよね。気に入った物はすべて手に入れる。彼はどちらにしようか、などと迷うことはないのだ。

「ありがとうございます、少々お待ち下さい」

女性は多くの種類の茶葉を手にとり包装するために一旦その場から離れる。

帰ってティータイムにしよう。楽しみだなあ。

私が胸を躍らせてると、エルが隣で言った。

「##NAME1##さん本当に英語が流暢になりましたね」

「え、ほんと?!」

「凄い成長してます。パソコンからの通信も大体分かってますね?」

「うん、たまに分からないこともあるけど…いやー、ジェシーがスパルタ教育してくれるから」

以前知り合った長身美女と思いの外仲良くなり、彼女はパソコンを通じて私に英語を教えてくれてるのだ。

「ジェシーと随分仲良くなったんですね。いつの間にそんなことになったんですか」

「ふふ、私もこうなれるとは思ってなかった!」

「あまり厳しい事を言ってませんか」

「厳しいけどね、出来たら凄く褒めてくれるの。飴と鞭ってやつ?」

エルは不思議そうに首を傾げる。

「弥といいジェシーといい、あなたの友人はなぜああも気性が荒い人ばかりなんですか…」

「は、ははは…」

気性が荒いのは否定できないかもな、うん。

でもいい子たちだけどな。凄く素直で。

「ミサはともかく、ジェシーは…同じ人を好きになったわけだし、好みとか似てるのかも」

私はちらりとエルを眺めた。彼もゆっくりこちらを見る。

「彼女は私を好きなのではなく、肩書きに憧れがあっただけです」

「そ、そうかなあ…」

「本当の私を好いてくれるのはあなただけですよ」

まあ、ジェシーの口からエルを好きだ、とは最後まで聞かなかった気はする。

憧れと恋、似てるっちゃ似てるよなぁ…

「お待たせしました」

気がつけば、店員が大きな袋を持ってきてくれた。

…げ。こんなに買ったんだっけ。

私が受け取ろうと手を出すと、エルはさっとそれを受け取った。

片手はポケットに入れつつ、そのまま出口に向かう。

「ありがとうございました」

「あ、こちらこそ!また来ます!」

私は慌ててエルを追う。

「重くない?」

「これぐらい平気です」

「私持つよ」

「どこの世界に女性に持たせて手ぶらの男がいますか。たまの外出くらいカッコつけさせてください」

エルはそう言いながら少し口角を上げて笑った。

そんな些細な事が嬉しくて、私は足を弾ませながら隣を歩く。

「キラ事件の時はこんなふうに街を歩いたこともなかったもんなぁ〜」

「そうですね、あの頃は本当に忙しかったですし、身元を一番隠さねばならない時でしたので…」

「こうやって竜崎と並んで歩くだけでも、私にとっては本当に奇跡みたい」

隣を歩く彼を見上げる。背の高いその人は、私を見下ろすように見た。

「……##NAME1##さん」

「はい?」

ふと、エルは足を止める。私も釣られて止まった。

荷物を持っていない方の手を、ポケットからだす。

それを私に差し出した。

「繋ぎたくなりました。」

そんなずるい言い方をされて、私はつい微笑んだ。

そっと差し出された手に自分の手を重ねる。

と次の瞬間、エルはその手を強く引いて体を寄せたかと思うと、触れるだけのキスを落とした。
 
私は驚いてつい手を払う。

「りゅ…うざき!!」

「したくなりました。」

「街中だよ分かってる!?」

熱くなる顔を懸命に抑える。人通りもそれなりにある道なのに!

しかしエルはまるで気にしてないようにぽりぽりと頭を掻く。

「大丈夫ですよ。日本と違ってここはイギリスですから」

「私は日本人なの!」

恥ずかしさに死にそうになりながら、私はそっぽ向いてエルに背を向けて歩きだす。

「##NAME1##さん、あまり離れないでください」

「離れてないよ!」

「遠いです。また誘拐されたらどうするんですか」

「約2メートルだよ!」

私は怒りながら、ワタリさんが立って待つ車へ向かったのだった。







息をするのを忘れるくらい集中していた。

目線も逸らさず、少しの時間も無駄にしないよう。

あと、もう1箇所…そこそこいい感じなはず…

私が睨みながら作業してると、エルの声が響いた。

「##NAME1##さん、すごい形相です」

「ちょっと黙ってて。…もう終わる…」

眉間にシワがよってるのを自覚しながらも手を休めず動かす。

そしてようやく、作業は終わりになった。

「できた!」

目の前にはショートケーキの生クリームの飾り付けがしてあった。

超絶苦手なショートケーキ、結構いい感じ!歪だけど!

私は仕上がりに満足しながら冷蔵庫から苺を取り出す。エルがソファから降りてこちらへ来た。

私の手元を見る。

「ショートケーキの飾り付けでしたか。」

「そう、成長したと思わない?」

「はじめて作ってもらった時とはまるで別物です。」

「でしょう!?結構回数重ねてようやく形になってきた!」

不器用な私はショートケーキの飾り付けを苦手としていたが、これならまあ克服したと言ってもいいはず。

しかしなぜかエルは残念そうに親指を噛む。

「…あの不細工な形があなたの弱点を表していて可愛かったのに…」

「さらりと不細工言うのやめてもらえますか」

「これもいいですが…初めて作ってもらった時の写真を撮ればよかったです」

「絶対嫌です」

私は答えながら苺を置いていく。

「…ところで##NAME1##さん、また今度日本へ行こうと思っています」

「え!」

私は驚きのあまり、持っていた苺をケーキの上に落とした。

「ああっっ!!しまったー!!」

「すみません、そんなに驚くとは」

いい感じに並んでいたのに、完全に変なバランスになってしまった。

…くそう。今日は成功したのに。

「大丈夫です、##NAME1##さんの作るものは味は天下一品なので」

「…また次回リベンジします。それで、日本へ行くって??」

エルはダイニングの椅子を引いてそこに腰掛ける。

「家を買ったまま前回はそこで過ごす事なく帰ってきてしまいましたし…様子見も兼ねて」

「わ!うれしーい!」

「それと、また日本から依頼があったので」

「えっ…」

つい、胸が鳴る。以前あった連続殺人事件の依頼を思い出す。

終わってから半年経ったが、あの体験を思い出すとどうしても心がきゅんと締まるのだ。

エルがそんな私に気づいたのか、こちらを見る。

「安心してください。日本警察、ではなく日本人からの依頼です」

「あ…なるほど」

ほっと胸を撫で下ろす。またあんな恐ろしい事件が起きてるのかと思った。

「どんな依頼?」

「幽霊屋敷の捜査依頼です」




……




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