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次々と男の腹の中に入っていくアルコールは中々の量になってきた。それでも顔色ひとつ変わらないので、そうとう酒に強いらしい。
時折部下に指示を出してるのか、イヤホンでコンタクトを取っている。
表情からして、計画通りことは進んでるようだった。
警察はあの条件を飲むだろうか。果たしてどう動くか、私には想像もつかなかった。
私はただひたすら居づらい空気の中、黙って言われたアルコールを注ぐくらいしかしていない。
果たしてここに来た意味は何なのか。エルに何も伝えられていないと思うし…
思ったよりは乱暴なことをされていない(ちょっと暴力を振るわれたけど)のは予想外の幸いだった。
「もう少ししたらまた警察に計画の進捗状況を聞くか」
カイドウは笑いながらそう述べる。見張りの男も楽しそうに頷く。
俯いて腕時計を眺めた。変わらず秒針は時間を刻んでいる。2時間と制限されていたが、あと少しで30分経ってしまう。
もし、このままだったら。
私もエルも、クラスメイトたちも、無事ではいられない。
…それに
カイドウの顔を盗み見た。
先ほどの発言では、もし思惑通りに事が進んだとしても、この人たちは爆弾を作動させるつもりと受け取れる。
何のために?ここにいる人たちに、なんの罪があるというのか。
カイドウが持っていたグラスを置くと、足を組んで私をみた。バチっと視線が合う。
「お前は今日なぜここにきた」
「…クラス会です。高校の」
「よほど仲良しこよしだったか。身代わりになるほどの」
どこか小馬鹿にしたような物言いはこの男の特徴だと思った。常に喧嘩腰で、見下しているように言う。
だがそれはやはりどこか常人とは違うオーラというか、あまり言いたくはないがカリスマ性があるように見えた。大きな組織のトップとは、普通とは違う。
「…いいえ。根暗だったから友達いませんでした」
「ほう。ではなぜ身代わりになった」
「理由なんていりますか?隣で怯えてる人がいるのに、庇うなんて反射的です」
私が述べるとカイドウは面白そうに笑った。
「どこかの漫画の主人公か。えらく正義感に溢れるんだな」
「正義感なわけじゃ…ただ、助けたかったんです」
半分ほどに減ったワインのボトルを見つめた。
カイドウは無言で酒をあおぐと、私に空になったグラスを差し出す。私はまたそこに注いだ。
「俺とは正反対の思考だな」
「正反対?」
「俺は全ての人間を滅ぼしたい。特にこんな高級ホテルでワイワイ楽しめるほど恵まれた人間はな」
滅ぼすという単語に目を見開く。
「俺は神の声に従ってるんだ。神が殺せと囁く。それにしたがってる。俺たちは選ばれた人間だ」
そんな、と叫びたかった。なぜ神が人を殺めろと命令するのか。
眉を潜めた私の顔を見て男は目をほそめる。
「お前は聞いたことないだろ。神の声を」
「…ええ残念ながら」
「信じてないだろ」
「いいえ信じてます」
カイドウは意外そうに目を丸くした。私はじっとその目を見つめ返した。
「あなたが、「あなたにとっての神」の声を聞いている、という事は信じてますよ。ただ、私の思う神とあなたの神は別物みたいです」
未だ目を丸くしたまま私を見つめている。
「神は沢山いるんでしょうか。この事態を収めてくれる神も、いるのかもしれません」
予知を見ていた私も、少しだけこの男の気持ちになれる気がした。
自分だけに見える確かなもの、それを信じない周り。
本物の神のわけはないと思うが、彼にとって「聞こえている」という事は事実なのだ。
それが幻聴だ、と言われても。彼にとっては聞こえるのだから。
「ただ私は…神よりもっと、信じたい物がありますが」
神に祈るより、
エルを信じている。
カイドウは目を伏せて酒を飲んだ。今度は机には置かず、じっとその中身を見つめた。
「面白い」
グラスを揺らしながら囁くように言う。
「やはりお前、普通ではない。これも神の思し召しか、ここでこんな女と出会うとは」
どこか光悦の表情で言うと、彼は自分でボトルを掴みグラスに注いだ。なみなみにつがれたワインをまるで水のように飲む。
「俺を前に一つも怯まない。手を震えさせもしない。挑発的な目でこちらを見る。気の強い女は嫌いじゃないとは言ったが度を超えている」
「…違います、ヤケクソです」
「はっ!なるほどな」
声を上げて笑いながら、カイドウは私を見た。
「お前はなんとか警察がこの状況を奪回してくれると思ってるか」
「…そう信じたいので」
「死にたくないか」
「ええ。爆発で木っ端微塵なんて、嫌ですから」
「死を恐れるなど愚かな事だ。俺はここから撤収する手筈は整えてるが、失敗に終わってもいいと思ってる。神の言うように愚かな人間たちを道連れに出来るなら、死ぬのは本望だ」
「撤収したら、どうするんですか」
「長く逃亡できるとは思っていない。出来るだけ他にもくだらない人間を消しとばす」
目を閉じて息を吐いた。
やはりこの男、警察が要求をのんでも爆破をするつもりだ。それも犯行を繰り返す。
私の様子を見て、意外にもカイドウは励ますように言った。
「安心しろ。お前は木っ端微塵にならない」
そんな言葉を聞いて私は目を開いた。
…今、なんて
「え?」
「なぜならお前は俺たちの逃走時の人質になるからだ。警察が用意したジェット機で飛ぶ」
今日初めて失神するかと思った。
私は大きく天井を仰ぐ。
そうか。そのためなのか。
ようやく納得がいった。人質をあえて一人招き入れた理由を。
カイドウはなおも酒を飲み笑う。
「初めてお前の目から絶望を見た」
「……」
「どっちがいい。俺たちと空に飛んで生きるか、ここで木っ端微塵か。分かってるか、女一人が俺たちの中に混ざる意味を。」
想像もしたくない。
もしかしたら、木っ端微塵の方がマシなのかもしれない。
…いや、木っ端微塵はエルが止めてくれると信じてる。
「さすがにビビったか」
「どっちも御免ですね」
「おーおーそれでこそだ。いつでも俺の想像を上回る答えでいる」
完全に面白がって私を脅してくる男に嫌悪感を抱き、私は躊躇なく睨んだ。
細められた三白眼が、私を見つめる。
「それとも俺の女になるか。そうすれば少なくとも他のやつらはお前を抱けない」
「やはり、木っ端微塵を選びます」
「わはは、減らない口だ」
たいそう面白そうだ。どこまでが本気でどこまでが冗談なのか分からない。
「お前が木っ端微塵を選べば、別にまた一人人質を連れてくるだけだ。さっき選び損ねたお前のクラスメイトをやはり連れてくるか」
つい顔をはっとして上げた。
カイドウは口角を上げたまま私を見ている。
「自分の事には眉一つ動かさないくせに、他人のことになると表情を変えるのか」
「……」
「変な女だ」
「……」
「…白ワインにする。冷蔵庫から出してこい」
会話は急に切られた。
聞きたいことがたくさんあるのに、私の口からは言葉が漏れてこなかった。
とりあえずぐっと唇を噛み、立ち上がる。
歩みを進めながら頭で混乱を落ち着けた。
エルはいまどうしてるだろう。警察が要求をのんでものまなくてもここが吹き飛ぶとしたら、エルたちの命だってあぶない。
でもエルならそんなカイドウの意思を読んでいる気がした。彼はどうこの状況を切り開くつもりなのか。
今何してるの。何考えてるの。
いつも彼に守られて彼の隣にいる私は何も気の利いたことができなくてもどかしい。
ここには、守りたいものが沢山ある。
エルだって、ワタリさんだって、ジェシーだって、クラスメイトたちだって。
誰一人
私は失いたくない。
