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Lは大きく天井を仰いだ。
ジェシーは両手で顔を覆い、ワタリは深く眉を潜めた。
こうなる気がしていた。彼女のすぐ隣から女性の悲鳴が聞こえてきた時に。
恐らく初めに声を掛けられたのは彼女のクラスメイトだったに違いない。身代わりになるのは彼女ならありえる事態だった。
だが。まさか。
本当に…自ら身代わりになるとは。
揺れる心をなんとか沈める。呼吸すら上手く出来ている自信がなかった。
私がまだ冷静だったのは、彼女も私と同じように「人質のうちの一人」だったからだ。
まさかこんな危険と隣り合わせになるなど。度胸と思い切りのあるところがあの人のいいところだが、今回ばかりは裏目に出た。
彼女に、何かあったら。
強く唇を噛んだ。
「…る、L」
低い声が響いてはっとする。ワタリの声だった。
「落ち着いてください。混乱してる暇はありません」
優しくも厳しい声だった。それを聞いてふうと息をつく。
そしてがばっと正面を向いた。
彼女は恐らくこうも考えたはずだ。私に組織の情報を与えるチャンスでもあると。危険を省みず挑んだのだ。
…無駄にはしない。
必ず、助ける。
今嘆いてる暇も混乱している暇もない。Lはぐっと息を呑んだ。
音声の中で彼女が歩き出すのがわかった。
組織のボスは他の場所に待機しているようだ。なるほど、司令塔は現場にいないパターンはよくある。
ちらりと携帯を見たが未だ交渉は始まっていない。
『オトモダチの身代わりか、馬鹿め』
男の馬鹿にしたような声が聞こえる。Lは爪をこれでもかと言うほど強く噛んだ。彼女は何もこたえなかった。今一体どんな表情をしているのか、音声しかないここからは分からない。
すぐに抱きしめたいと思った。友人の身代わりになり、一人犯罪組織のボスの元へ行く不安など計り知れない。
締め付けられそうな胸をなんとか抑え込み、Lは冷静に言った。
「ジェシー、このホテルのエレベーターはどこの物か調べてください」
「え?は、はい」
「ワタリ、音声を最大に。音割れしても構いません」
「はい」
ジェシーは慌ててパソコンに向かう。Lはじっと鋭い目で耳を澄ます。雑音すらも大きくなった音声が部屋に響いた。
『…何階ですか』
恐らくLに知らせるためだろう。小さな声でゆづきがいう声が響いたが、その返事はなかった。彼女はこの期に及んで意外と冷静だなとLは感嘆した。
エレベーターの扉が閉まる音が微かにした。Lはそれを聞き逃さなかった。
大きな黒目を動かし時計を見つめる。
しばし流れる沈黙。
少しして、エレベーターの扉が開く音がした。
9秒だ。Lは心の中で呟く。
彼は更に耳をすました。男は足元はスニーカーのようだ、あまり響かない。一方ゆづきは珍しくもヒールを履いていた。その足音はそれなりによく響く。
爪を噛みながらLはただひたすら音に耳を傾ける。ジェシーとワタリは何も言わずにその光景を見ていた。
あるところで足音が止まる。扉を叩いてる音が聞こえた。
『ほら、入れ』
男の声がして確信した。部屋についた。
Lは一度そばにあったチョコレートを口にした。推理力のための糖分だ、今日はあの人の手作りでないのが惜しい。
28歩だ、彼女はエレベーターから28歩歩いた。
ジェシーがタイミングを見計らうように声を出した。
「L、エレベーターはシンドラー社の物です」
「構造を調べて、9秒間にどれほど上昇するか見てください」
残念ながら時計の秒針で確認したくらいだ、0.1秒台の事までは分からない。音声のみの判別だし多少の誤差はあるだろう。が、大体でも彼女が何階に降りたかわかればいい。
ジェシーはようやくLの目的に気づいたらしくまたすぐに調べ出した。
「ワタリ、このホテルの本日の宿泊者リストをハッキングできますか。そこまでは破壊されてないはず」
「はいL」
部屋に入れられた彼女は組織のボスと対面しているようであった。
Lは波立つ心をなんとか冷静にさせて集中した。
気丈にも言葉を発して驚かれている。確かに、この状況で言葉を出すなど私でさえ驚く。
果たしてどんな扱いを受けるのか、と気が気でない精神で聞いているが、今のところ乱暴にされている様子は聞こえない。酒の酌に付き合わされている。
…狂ってしまったほうがいっそ楽だと思った。
「L、このナンバーのエレベーターなら9秒で11階まで進みます」
「誤差を考慮し10.11.12階まで候補に入れておきましょう」
「客室はたくさんありますが…」
Lは先程ジェシーに調べさせたホテルの見取り図を開いた。
じっとそれをLは眺める。
ジェシーは眉を潜めてそれを見ていた。
「28歩」
「え?」
「彼女はエレベーターから28歩進みました。彼女の身長から歩幅の大きさを計算すれば大体の部屋のナンバーが割り出せます」
「…なるほど」
エレベーターが開いてすぐ、左右に道は分かれる。さすがにどちらに進んだまでかは分からない。
「これもまた誤差はあるでしょうがね、彼女はあまり普段履かないヒールでしたし…」
そう言いながらLはすぐに計算を終えて顔を上げた。
音声からはゆづきとボスの会話が聞こえる。
「10階の1007.1008.1031.1032
11階の1107.1108.1131.1132
12階の1207.1208.1231.1232
この辺りでしょう」
「だいぶ絞られましたが…」
ここからどうやって、というジェシーの先の言葉を聞かずにLはワタリに聞いた。
「どうだワタリ」
「こちらはシステム破壊はされおりません。もう少しで割れます」
「宿泊者リストが出たら、私が今言った部屋の客たちの住所や名前が実在するか調べてくれ」
Lの言葉を聞いて、ジェシーははっとした。
Lは紅茶を飲む。
「テロリストが本名や本当の住所でホテルを予約するはずがない。よって架空の住所で予約されている部屋がボスの部屋です」
ジェシーがほっとしたように眉を下げた。
「…さすがです、L…」
「こんなのまだ入り口です。ボスとゆづきの居場所が分かったからと言って…これからどう動くか」
強引な手筈は取れない。それに、爆発物は。
ジェシーが腕を組んで考え込む。
「なぜ人質を一人連れ込んだのでしょう?今のところは乱暴してる様子もないし…」
「……」
あえて大勢の前で選び人質を一人近くに置いた。
これは考えられる事は一つなのだが…
「…交渉内容によっては犯人の思惑が分かるかもしれません」
「えっ?」
そう言った時、電話口から夜神総一郎の声が聞こえた。
『竜崎…パソコンからコンタクトがあった』
「こちらにも聞こえるように。ジェシー録音を。ゆづきの方は少し小さくしてください」
やっと始まったか。Lはふうと息をつく。
これだけの人質をとって、何を交渉する。
電話越しに声が聞こえる。その声はゆづきがつけているマイクからも同じものが流れてくる。
警察の交渉班であろう男性の声が響いた。
『こちら伊藤というものです、まず名前をお聞きしても』
『ソマディアのカイドウだ。馴れ合うつもりはない。単刀直入に言う』
『要求ですか』
『ホテルを制圧した。出入り口を見て分かっているだろうが爆弾を所持している。要求を飲まないならホテルごと飛ばす。銃で撃ち殺してもいい』
『なぜこんなことを?』
『ドル札300万ドル。それとジェット機を用意しろ。屋上に。』
『要求を飲んで人質を解放するという保証は?』
『くだらん時間稼ぎするな、話は終わってない。
一人の警察に恨みがある。我々をコケにしてくれた。その男に報復したい。』
『…なんですって?』
『その男の手で逮捕された者がこの2年で4人いるはずだ。同志を増やす。その4人を解放しろ』
『そ、それは君たちの仲間なのか』
『今から仲間にするんだよ。自分を逮捕した警察は恨んでるだろ?』
金と逃走手段。
そこまではまだよくある内容だった、が…
Lは眉を潜める。
…怨恨、だと?警察相手に?
ジェシーも不思議そうに首を傾げた。茶色の髪が揺れる。
『2時間以内に実行しろ。できなければまず会場にいる人質を撃ち殺す』
『短時間ではとても難しい内容なのだが』
『言い訳も何もいらん』
男は冷たく言い放った。
『松田桃太がとらえた犯罪者を解放しろ』
「ま…」
声が出かけて慌てて引っ込めた。
私は椅子に座ったまま、目の前のウイスキーのボトルをじっと眺める。
松田さん…??
予想にしてなかった名前に手が震える。
落ち着かねば。私が警察の松田さんと知り合いであるなんて、絶対に感づかれてはいけない。
気づかれたらその場でどうされるか分からない。
私はカイドウという男に気づかれないように深呼吸をした。
少し前に会った松田さんの顔を思い出す。
いつだって明るくて私を気遣ってくれる優しい人だ。初めて会った時から変わらない。
そんな彼に、一体なんの恨みがあるというのか。
…いや。警察なんて、犯罪者から恨まれて当然の役割か。Lだってそう。
でもだからって、なんでこんな…
混乱しながら俯いていると、カイドウが適当にノートパソコンをベッドに放り投げたのが分かった。交渉は終わったらしい。
布に覆われてるなかで垣間見える口元は口角が上がっていた。
出入り口に立つ見張りの男が声を上げた。
「のむでしょうか」
「のまなきゃドカンだ」
面白そうに笑いながら言う。ここに来てやはりとんでもない奴らの前にいるのだと自覚し、私は小さくなった。
どうしよう。エルに何かいい情報をと思ったけど、何も出来ない。
カイドウに怪しまれずうまく誘導する自信もなかった。元々あまりコミュニケーション能力が高い方ではないのだ。
カイドウはまた椅子に座り直した。足を広げて背もたれにもたれる。
「酒入れろ」
「…何を」
「ワインにする」
そう言われて彼の手元を見れば、さきほど使ったビールのグラスしかない。その上そのグラスには1センチほどだがまだビールが入っている。
私は特に深く考えもないまま、出入り口に立つ男に言った。
「新しいグラスはありますか」
「あ?」
突然話しかけられ、不機嫌そうに男は聞き返した。
「新しいグラスです。ないなら洗いますが」
「冷蔵庫に冷やしてあるよ勝手に取れ。カイドウさんを待たせるなよ」
当たり前だろ、みたいな言い方をされた。そんなの知らないよ、人の冷蔵庫勝手に開けるほど常識を無くしてはいない。
私は立ち上がろうとした時、背後から小さな笑い声が聞こえた。
振り向けば、カイドウが腕を組んだまま笑っている。
「本当に変わった女だな。普通の人間がとれる言動じゃない」
「え、いや…」
カイドウは私の返答も聞かずに立ち上がった。
そして突然強引に私の首を片手で掴むと、もの凄い力で握りそして床に投げつけた。
私はされるがまま派手に倒れこむ。一瞬だが首に食い込んだ指が苦しくてむせこんだ。
驚いてそのままカイドウを見上げる。もしかして本当に乱暴されるのかと思った。
が、そこには予想外にも、ただ仁王立ちしてる男がいた。しかも、目を丸くして。
酷くむせて咳を出す私を見下しながら、カイドウは言う。
「まさか。本当に一般人か?」
「なっ…に…」
「これだけ度胸があって冷静な女、警察かなんかかと思ったんだが」
「は…?」
「力もないし受け身も取らん。鍛えてる様子は何もないな。」
どうやら、乱暴なやり方で私の素性を確かめたかったみたいだ。
少し落ち着いた息をゆっくり吐いて、カイドウを見上げた。乱暴な。暴力振るわれ損だ。
「違うって、言いました」
「口ではなんとでも言えるだろ。まあ警察だとしてもこの状況何もできんとは思うが、厄介な芽は潰しておくのに限るからな」
カイドウはそう言うとまた椅子に腰掛けた。私が一般人と知って満足そうだった。
「ワイン」
平然とそう言いのけてみせる男を少し睨みながら、私は言われた通り冷蔵庫からグラスを取り出した。
冷えてるそれをカイドウの前に置き、赤ワインを注ぐ。
「藍川といったか」
「はい」
「怖くないのか」
「怖いに決まっています」
ボトルを置いてまだ違和感のある喉元を触った。カイドウは鼻で笑う。
「そうは見えん。面白い女だ」
褒められてるのだろうか。
私は職業は確かにただの一般人だ。だが一時期世界を騒がせたキラ事件をLと共に追い、さらには半年前誘拐されて殺されかけたこともある。
そこいらの女性と一緒にされては困る。
「お前も飲め」
「あ、私アルコールは」
「俺の勧めた酒が飲めないのか」
「少し飲んだらすぐリバースしますよ。部屋汚れますけど」
私が適当な嘘を言うと、カイドウはついに大きな声で笑った。
「立場を分かってるのか。あと2時間で消し飛ぶかもしれないんだぞ」
「……警察が要求をのめば、助かるのでは」
「そんな親切に見えるか、俺が」
ニヤリと笑う口から見えた歯は真っ白でどこか違和感を覚えた。
私は目を見開く。
「…爆発させるんですか…?自分たちが逃げたあと」
カイドウは笑ったまま答えなかった。また私の反応を見ているのだろうか。
手が小さく震えるのがわかる。強く握り締めて必死にそれを抑えた。
「…その、警察への恨みのせい…なんですか」
「勿論それだけではないがな。」
「何を…したと…?」
「お前に言う義理はない。」
ああ、と目を瞑る。
私にエルみたいな頭脳があれば。今ここで有益な情報をそれとなく聞き出す手段も持っていたかもしれないのに。
私は今何をどうすればいいのかわからない。この男の言うこともどこから嘘でどこから本当なのか。
こんな会話をエルに聞かせて、果たして意味があるのだろうか。
エル、私どうすればいいの。
エル、今何を思ってるの。
時計に触りたい衝動を、必死にこらえた。
